時雨が目覚めるまで
目を覚ますと、僕はベッドで寝ていた。
「やっと、起きたね。」
氷雨がニコニコ顔で笑ってる。
「そう言えば名前かわってるよね?」
「うん。父さんの名前からとられてるから」
「お父さんなんて名前なの?」
「父さんは、冷雨って名前で、じぃちゃんは翠雨って名前。拝藤家は、男の子には雨の名前をつけるんだよ。」
「変わった名前だね。」
「うん、星もかわってるよね?」
「それは、パパが陽って名前で太陽の陽がついてるから星を使ってひかるってだけ。」
「そうなんだね。一人っ子?」
「だったけど、今はどっちかがいるはずだよ。」
氷雨は、不思議そうな顔をする。
「再婚した時、妊娠してたから産まれてるはずだから」
「会ってないの?」
「高校入学して捨てられたから、そっからは会ってない。」
「星も大変な環境で育ったんだね。」
氷雨は、僕を覗き込む。
ヤバい、可愛いく思えてきた。
月に触れられない今、氷雨は僕の心をほんわか暖めてくれる存在だ。
ダメ、ダメ。
時雨の弟にイケナイ事を考えるなんてダメー。
ベッドから降りようとした僕に氷雨が抱きついてきた。
「ドキドキしてるよ。星」
背中に耳をつけて聞かれてる。
「してない、してない。」
離そうとするのに離してくれない。
「嬉しいよ。嬉しい」
「離して」って言ったら離してくれた。
「嬉しい、嬉しい。」
その笑顔が月に重なって見えた。
ドキン。
ヤバい、バレたくない。
僕は、パンツをはいた。
「兄さんが目覚めるまでの、遊びでいいから」
氷雨は、僕の腕を引っ張ってベッドに座らせた。
「ダメだよ。時雨に怒られるよ」
「怒られたらいいよ。それぐらい、元気になってくれるならいいよ。」
そう言って氷雨は、目を伏せた。
「ごめんね。」
僕は、氷雨の頭を撫でた。
僕の手を握って、自分の頬に持っていく。
「僕を利用してよ。兄さん、時雨が目を覚ますまでの繋ぎでいいから…。それか、星が好きな人と、付き合うまでの繋ぎでいいから…。お願いだから、お願いだから、僕を受け入れて」
人懐っこくて可愛くて、ドキドキが止まらないよ。
愛情をたっぷり与えられた子供は、こんなにも素直なんだね。
僕や時雨とは、違う。
例えそれが歪んでいたとしても、ちゃんと愛情を与えられ育てられ受け取っていた証拠が、その目だよ。
月も、そんな目だった。
優しくて、暖かい目。
氷雨を拒む理由が、思い付かなくなってしまった。
「遊びでいいから、ね、星。僕を受け入れて」
頷いてしまった。
首を横にふろうと思ったのに…。
頷いてしまった。
「嬉しい」ニコニコ笑って、チュッって頬にキスをされた。
頬から広がっていく温もりのせいで、涙が溢れて溢れて止まらない
「泣かないで」そう言って氷雨は僕の頬を撫でる。
「ごめんね、氷雨を傷つけたくないよ。」
「いいの、いいの。僕は、星に傷つけて欲しいの」
そう言って抱き締めて、頭を撫でる。
涙が止まらなくて、氷雨の裸の背中にポツポツ涙があたっていく。
「星が、ずっと欲しかった」
「えっ!!どういう意味?」
「ううん、気にしないで。兄さんが、目覚めるまでだから」
そう言って背中を撫でてくれる。
氷雨の言葉の意味がわからなかった。
「星、大好きだよ。大切にするから」
大切にされたら、氷雨から離れられなくなるよ。
「氷雨、大切にしなくていいから」
「ダメだよ。大切にしなくちゃ」
そう言って背中をずっと撫でてくれる。
月が好きなのに、氷雨にときめく気持ちが止められないのはなぜ?
月と一緒にいたいだけなのに…
なぜ、氷雨を受け入れようとしてるの?
もう、わからない。
わかりたくない。
どうにもならない気持ちを抱えている僕は、氷雨をギュッーと抱き締めていた。




