歪んだ愛の連鎖
裸だよ。僕、裸だよ。
「うーん。起きたの?」
「氷雨君、まさかないよね?」
「ないわけないよ。あんなに求め合ったのに」
「えっと、覚えてない。ごめんなさい。」
「覚えてなくていいよ。」氷雨君は、立ち上がって水をとってきた。
「だって、星はずっと兄さんの名前を呼んでいたから」
悲しそうに目を伏せる。
「ごめんね。」
「謝らないでよ。望んだ事だから」
そう言って、水を渡された。
「ありがとう。」渡された水を飲む。
「でも、結婚するんでしょ?」
「うん。親が決めた相手」
「お見合い?」
「そう。氷雨を誰かにとられたくないからって決めてきた。」
「好きなの?その人の事」
「好きじゃないし、嫌いでもない。」そう言って氷雨君は、ビールをもってきた。
「飲む?」
「うん。」頭が痛いからビールをもらってしまった。
「そんなんでいいの?一生の事だよ。」
「いいの、いいの」そう言って笑う。
この子も歪んだ愛の犠牲になったんだ。
歪んだ愛の連鎖を止められなくて、ずっと生きてきたんだ。
「本当は、男の人が好きなんでしょ?」
僕は、頭をくしゃくしゃって撫でた。
「そうだよ。男の人が好き。気づいたのは、中学三年の夏休み。ある人を見かけて、胸が締め付けられた。初めての感情だった。あれが、僕の初恋だった。」
「そうなんだね。」
「うん。でも、開けてはいけない気がしたから…。だから、女の子と付き合った。何の感情も湧かないつまらない日々。」
そう言って氷雨君は、煙草に火をつける。
吸っていいって仕草をしたから、頷いた。
裸で、何話してんだろ?
「退屈で、つまらなかった。抱いたって気持ちよくもならない。身体と感情が重ならない矛盾を抱えて生きてた。今の人もそう最後までする為には、想像するんだ。芸能人やモデルで、そして最後まで終える。慣れれば楽だよ」
そう言って笑う。
「悲しいね。そんな体の関係」
そう言った僕の顎を掴んだ。
なに?
「だったら、これからあんたが相手してくれんのか?」
僕は、目を伏せた。
「その気もないのに、そんな言い方するなよ。」
そう言って灰皿に置いてた煙草を押し付けて消してる。
時雨と重なって、ドキドキしてる。
なんて、人間なんだ。僕は…。
「兄さんのかわりでいいから、目が覚めるまで僕を愛してよ。」
そう言って潤んだ瞳を僕に向けた。
「氷雨君、ダメだよ。僕は」
「氷雨って呼んで。ダメじゃないよ、星」
そう言って顔を近づけてくる。
ドキドキしてる。月みたいに優しい目で、時雨みたいな優しい声。
頭の奥が、ジーンってする。
「ひ、ひさめ」呼んでしまった。
チュッって頬にキスをされた。
頬が熱を帯びて熱い。
「ダメだよ」
「そんな姿なのに?」
「恥ずかしいから」
「無理矢理はしないから」
パサッてタオルを投げてくれた。
氷雨は、煙草に火をつけた。
「兄さんが、羨ましいよ。あんなに両親に嫌われて、自由だから」
愛される方も、大変なんだと知った。
「僕には、あの人達の愛が凄く重かった。兄さんがいなくなってからは、とくにね。毎日逃げたくて」そう言って、腕を見せる。
「これ、痛くなかったの?」
腕にあるたくさんの傷痕
「逃げたくて、逃げたくて必死だった。あと一回したら逃げれる。って何度も何度もしたよ。やめたのは、病院のベッドの上で目覚めた時」
煙草にまた火をつけた。
「悲しそうなあの人達の顔と、逃れられない運命だって気づいた。ああ、僕は兄さんには慣れないんだって気づいた。」
「苦しかったんだね。」
僕は、氷雨の手の傷を撫でる。
涙を流してる。
「僕だけを愛して欲しくなんてなかった。兄さんと平等に愛されたかっただけ。」
氷雨は、子供みたいに泣き出した。
僕は、氷雨の頭を撫でてあげる。
氷雨は、ソファーに横になって目を閉じた。
僕も、ソファーにもたれながら目を閉じた。




