月を幸せに出来ないなら…
僕は、時雨と楽しくお酒を飲んでいた。
ブーブー
「電話なら、出たら?」
「うん。」
見ると、月だった。
「はい、もしもし」
「月の幼馴染みの栞と言います」
「初めまして」
「初めまして、星さんでしょうか?」
「はい、そうです。」
「金田明日香さんは、ご存知ですか?」
その言葉に僕の胸が、ドキンと波打つ。
「知ってます。」
「今日、家に来ました。」
「えっ?」
「多分、月はあなたに言わないと思います。でも、私はあなたに言わないと気がすまないのです。」
そう言って栞さんは、泣いているようだ。
「話して下さい。」
「彼女は、月を殺そうとしました。」
僕の目から涙がスッーと流れる。
「月は、殺される覚悟をしていました。私は、扉の前で入る瞬間を伺っていました。」
「はい。」
「月は、自分を殺すかわりに星さんを解放する事を条件に出しました。」
「はい。」
「彼女は、のめないと言ったけど。自分にかけられた保険金をあげると話しました。」
「はい。」
「私は、紙を渡すタイミングで扉を開けました。」
「はい。」
「その瞬間、彼女は月の頬を包丁で切りつけました。切りつけるというよりも切り上げたって表現が正しいかもしれません。ボタボタと血が流れても、月は彼女に殺られる事を望んだ。」
栞さんの声は、さっきより泣いているようだ。
「私は、月を殺られたくなくて彼女にお金を渡す話をしました。たまたま、私の彼女が警察を呼び、その話は終わりました。ですが、また一週間後に来ると言っていました。」
「はい。」
「何故、私が電話したかわかりますか?」
「わかりません。」
「もうこれ以上、月の人生を誰かに奪われたくないからです。星さんに出会い月はとても幸せそうでした。でも、月を幸せに出来ないのなら関わらないであげて欲しいのです。月は、愛する人の為なら自分の何もかもを犠牲にしてしまう人間だと思っています。
それが、命でさえも…。」
僕は、涙が止まらなくて何も話せなかった。
「月の命が奪われたら、私は生きていけない。月が生きているから、私は生きていける。小さな頃から、私は人として月が大好きです。だから、月を幸せに出来ないのなら月から離れて欲しい。私から月を奪わないで欲しい。あなたの為なら、月は命さえ犠牲にする。それが、怖くて怖くて堪らないのです。こんな事を言ってすみません。失礼します。」
そう言って電話が切れた。
溢れてくる涙を止められなくて…。
気づくと僕は、時雨に全部話していた。
「そんな…。」
時雨はそう言って固まっていた。
「どうしたらいい?僕は、月に死んで欲しくないよ。関わらなかったら、よかった。」
「でも、彼も星といるのを望んでただろう?大丈夫、俺と氷河で何とか話をするから…。」
「一週間後、明日香が行って月を…月を…」
「行かせないようにするから、ちゃんと話をするから、星は安心して待っとくんだ。わかった?」
「うん。」
「泣かないで、星」
そう言って涙を時雨は拭ってくれる。
不安で押し潰されそうだ。
時雨が、僕を抱き締めてくれた。
「大丈夫。心配してる事は何も起こらないから」
「時雨…。僕は、結局皆を不幸にするね」
「そんな事ないよ。」
そう言って時雨が、背中を擦ってくれる。
「時雨、怖くて怖くて堪らないよ。」
そう言った僕の唇に時雨が、優しくキスをしてくれる。
「ごめん。まだ、終わってないよな。」
そう言った時雨に、僕は唇を重ねた。
誰かに触れていないとおかしくなりそうで…
誰かに抱き締めてもらわないとおかしくなりそうで…
「ごめんね。怖くて堪らなくて、誰かに触れていたい」
そう言った僕を時雨は、受け入れてくれた。
僕は、時雨の優しさに甘えてしまった。
月の為に、僕は離れないといけないと思う程…
胸の痛みが、押し寄せてきて。
僕は、時雨に愛してもらう事を望んでいた。




