辛い日々と真矢匠馬
目が覚めたら、月は起きてた。
昨日の片付けをしていた。
「今日で食パンの消費期限だったからよかった。起きた?」
「うん、おはよう」
「顔洗ってきな。ご飯できるから」そう言われて顔を洗って戻ってきた。
「これしかないけど」
トーストと目玉焼きをくれた。
「いただきます。」僕は、食べる。
食べ終わったら、月はまた行っちゃう。
「コーヒーどうぞ。」月と向かい合わせに座って食べる。
僕と月は、何も話さなかった。
ご飯を食べ終わって月が、「これ、あげる。」と鍵をくれた。
「なんで?」
「いない間、よかったら使って。自分の家で仕事するんだろ?」そう言った。
「ありがとう、使わないと思うよ」
「使わないなら、それで構わないから」月は、時計をチラチラ見ながら話す。
「もう、行かないといけないよね。」
「ごめん。タクシー呼ぶわ」そう言って電話した。
片付けを手際よくすませた。
「もう、行かないといけないよね?」
「うん。そうだね」月と一緒に部屋を出た。
「行ってくるね」月は、僕を優しく抱き締めてくれた。
「じゃあね。」
「じゃあ」
月がタクシーに乗り込むまでずっと見てた。
部屋にもどって、片付けをする。
お風呂場も片付ける、浴槽の氷はただの水にかわっていた。
ブー 氷河からの連絡
【10件、九時からくるから】とはいってる。すごいな。
僕は、一人目を迎えにいった。
一日は、あっという間に終わり時雨が来る。
「ごめんな。」そう言って僕を抱き締める。
「別にいいよ。」
「痛かっただろう?こんなに腫れて」そう言って頬を撫でられる。
「僕が望んだ事だから、気にしないで」
「星、ごめんな」って何度も言う。
「大丈夫だよ」って笑っても謝ってくる。
時雨は、優しい人だったんだ。
「本当にごめん。」
「だから、いいって」
「明日は、江藤がくるって。」
「そっか…。」仕方ないよね。
稼がなきゃいけないんだから…。
「絶対、辞めさせてやるから」時雨は、僕に頭をさげる。
「ありがとう、無理しなくていいよ」僕は、笑った。
次の日は、江藤がやってきて時雨はまた謝ってきた。
次の日も、次の日も、時雨は謝って抱き締めてくれる。
明日でやっと終わると思った日。
真矢から電話が来た。
「もしもし」
「あのさ、今から会えない?」
「いいよ。」
「星の家にいくよ」
そう言って電話が切れた。
しばらくして、真矢がきた。
「久々だな」
「元気だった?」
「元気だよ。」って笑った。
僕は、真矢を家にあげる。
「何飲む?」
「コーヒーで」
「わかった。」僕は、真矢にコーヒーをいれた。
「今日も仕事?」
「もう終わったけどね。」
「時雨は、元気?」
「うん、元気だよ。」真矢に会うからと言って今日は時雨に早く帰ってもらった。
「そっか。月の山で待ち伏せしてたイケメンと上手くいったんだな!」
えっ? 今、なんて?
「僕、真矢にそんな話したっけ?」
真矢は、真顔で
「してないよ」って言った。
「何の話?ハハハ」ってわざとらしく笑った僕に
「橘月でしょ?」って言った。
「だから、急にどうしたの?」
「俺、明日香の親友と付き合ってるって話したよね?」
こんな真剣な真矢を初めて見た気がする。
「うん。」
「昨日、美子が久しぶりに明日香に会ったんだ。」
「うん」
「会っていきなり、橘月が邪魔だから殺そうかなって話したって!」
「どういう意味?」
「矢吹、今やってる仕事辞めるんだろう?」
「うん。」
「やっぱり。明日香は、お金が自分を救う唯一のものだから、稼いでくれる矢吹を手放すわけにはいかないって話してきたって」
そう言って小さな記事を見せた。
「明日香が、中学の頃、借金を苦に父親が一家心中をした。その時に生き残ったのが、明日香と母親と祖父だった」
そして、もう一枚小さな記事を見せる。
「明日香の母親が、祖父を殺害した。学校では、明日香が犯人だって噂になったって。明日香は、小さな虫や魚は平気で殺すし、美子の家の猫の首を絞めたこともあったって」
僕は、驚いて真矢を見る。
「父親のせいで、明日香は金が全てになった。母親と祖父との生活もすごく貧乏で大嫌いだったって話してたって」
「だから、橘月を殺るって事?」
「ああ、明日香ならやりかねないから矢吹に話してくれって美子に頼まれた。」
真矢は、真剣に僕を見る。
僕は、背中に変な汗をかいていた。
月に何かあったらどうしよう…
不安だけが、胸を支配していた。




