やめさせて下さい
月を見送った後、家に入った。
まだ、何時かわからないけど片付けをしないと布団もかえて。
あげるときに、フワッと月の匂いが香った。
やっぱり、この匂いが好き。
ブーブー 時雨だった。
「はい」
「今日、二件はいったから」
「あの、話があるんだけど」
「何の話?」
「時雨と二人で話したい。」
「最後の客が終わったら、そっちに行く」
「お願いします。」
やめさせてもらうんだ。
絶対に…。
月と生きて行きたい。
ブーブー 氷河からメッセージがきた。
【一時間後に下に迎えに行く事】
【わかりました。】
月との幸せを感じた後のこれは辛い。
僕は、サッとシャワーを浴びる。
唯一、シャワーだけはNGだと氷河が言ったらしい。
いつもつける香水を、月の香水と重ねてみた。
すごくいい香りがする。
二つが混ざりあって、僕が月に抱き締められてるみたいな気がした。
シャワーを浴びて、お風呂場を片付ける。
洗面所も片付けて、このタオルを置いて完璧。
一回三万円、時雨達はいくらもらってるんだろうか?
10年前は、かなり稼いだ。
一回に、最大10人も相手にした日もあった。
1ヶ月で、300万以上稼げた。
あの日々は、苦痛だったけど…。
そのお陰で、貯金もできた。
だけど、もうしたくない。
迎えに行かないと、家の下に行く。
「ななみです。」
「あっ、星です。よろしく」
ななみさんを家に案内した。
「シャワーそこ。」
どうせやることは、同じだよね。
同じじゃなかった。
「ざけんなよー」バチン…
これ、何?
「愛してるって言えよ、豚」バチン…
だから、何?
「ごめんなさいって泣いてみろよ。」バチン…
女の人なのに、ビンタが痛すぎる。
ヒールで踏むのやめてほしい。
手を踏まれて痛くて涙がでてきた。
「ごめんなさい。」
「泣き顔、綺麗だね。よしよし」って頭を撫でられた。
終わった。
地獄だった。
「ありがとうございました。」何のギャップ?
すごく見た目おとなしい。
「彼氏には、出来なくて…」
「そうなんだね。」
「泣き顔が綺麗な人がいいって頼んだら、拝藤さんが、星さんが一番と言いましたので…。失礼します。」
「お気をつけて」
拝藤って、時雨が言ったんだな。
手の跡残らないかな、この縄の後も…。
しばらく休んでから、迎えに行く。
午後の人は、江藤っていう男でおとなしいタイプの人だと思ってたら…。
ななみさんとタイプが同じで、こっちは首まで絞めてきやがる。
何なんだよ。あいつみたいじゃないかよ。
「また、よろしく頼むわ。」ニタニタ笑いながら帰っていった。
気持ち悪い。
入れ違いに時雨が待ってた。
「ヘビーだったな、今日のハハ」
家にいれた。
「オプションたっぷりだったから、ほら今日の取り分」
「10万もあるのか?」
「ああ、今日は稼げたからよ。手首、大丈夫?」
「これも、オプション?」
「そうだよ。で、話って?」
そう言いながら、時雨は煙草に火をつけた。
「窓、開けな」そう言われて窓を開けた。
「あの、時雨。僕をこの仕事から辞めさせて下さい。お願いします。」
「はっ?無理に決まってんだろ。お前は、稼ぎ頭なんだから」
「それでも、お願いします。」
「それって昨日の男と普通の幸せ手に入れれると思ってんの?灰皿出せよ」
「ごめん。」灰皿持ってこようと立ち上がった瞬間。
「あついよ。」
「ごめん、手が滑ったわ」
足の甲に、煙草を押し付けられた。
「はい、灰皿」
時雨に灰皿を渡す手が震える。
10年前、辞めたいと必死でお願いした時ワインの瓶を割った破片で太ももを刺された。
死ぬかと思った。
氷河が助けてくれなかったら、死んでた。絶対…。
今日に限って、時雨だけにしなければよかった。
僕は、救急箱を取って時雨の前に座った。
怖いけど、ちゃんと話さなくちゃ…。
足の甲を消毒する。
ちゃんと話す。
ちゃんと終わらす。




