止まらない衝動
僕は、月の部屋を出た。
涙が、幾重にも重なりあっては落ちる。
せっかく、うまくいきそうだったのに…。
あの仕事が、僕を苦しめてる。
部屋に入って、玄関にしゃがみこんだ。
月が、触れた唇をなぞる。
涙が止まらない。
月が、好きで好きでたまらない。
月以外、何もいらない。
なのに、嘘をついた。
友達でもいれないって言ってしまった。
全部、嘘。
一週間もいないの…。
もう、一緒にお酒を飲めないの?
辞めれるかな?
一週間で、あの仕事。
辞めれるかな?
辞めれなかったら、引っ越そう。
辛くて、辛くて、堪らない。
スマホを開く
真矢からメッセージが届いていた。
真矢匠馬【矢吹、時雨と氷河に変な仕事させられてるって本当か?】
何で、知ってるの?
【何の話?】
メッセージを送った。
すぐに返信がきた。
【俺、今明日香の親友だった。津久井美子と付き合ってるんだけど…美子が、明日香が氷河と時雨と変な仕事してるって教えてくれた。従業員リストに矢吹が入ってるって聞いて。心配になったから】
【働いてる。大丈夫だから】
僕は、真矢にも嘘をついた。
【嘘つくの下手くそだな。】
えっ…
【時雨と付き合ってたの隠してたぐらい、嘘つくの下手だな。】
バレてないと思ってた。時雨との事…。
【俺は、矢吹を助けたいんだ。時雨に殴られてるのわかってたのに助けてあげられなかったから】
真矢…無理だよ。辞めれないよ。
【何かあったらいつでも言えよ。後さ、引っ越したなら住所ぐらい言えよ。】
【ごめん。今は自分で何とかするから…。】
僕は、住所を送った。
真矢に迷惑は、かけれないよ。
とにかく、僕で何とかするから。
また、殴られると思うとキスされると思うとメッセージを送れなかった。
たぶん、近いうちにお金を持って時雨は来る。
その時に、もう一度お願いしよう。
無理なら、諦めるしかない。
月と居たいよ。
月の傍にいたいよ。
ただ、それだけなのに…。
布団に寝転がって、泣いた。
泣いて泣いて、気づいたら寝ていた。
薄い壁だから、月が荷物を用意している音で起きた。
もう、行っちゃうんだ。
一週間もいないんだ。
僕は、明日また知らない女を家に呼ぶんだ。
カタカタって音がしてる。
行かないで、行かないで…。
ガチャ…。玄関の扉を開けて外に出た。
月は、玄関の鍵を閉めていた。
キャリーケース持ってる。
「おはよう。」
そう言って月が僕の部屋を通りすぎようとした手を掴んでいた。
「えっ!?」
驚いた月を、玄関にいれてしまった。
「えっと、何だろう。」月は、戸惑ってる。
何してんだろう?僕も僕がとった行動が理解できない。
「ごめん。タクシーくるから」
出て行こうとする腕を引っ張って抱き締めた。
月のつけてる香水の少しだけ甘い香りと昨夜のお酒の匂いが混ざり合ってる。好きな匂いだ。
「えっと、どういう事?」
僕は、僕が止められなかった。靴のままの月を引っ張っていく。
「待って、待って、靴」そんなの聞いてない。
布団に押し倒した。
「靴、脱がないとね」月は、靴を脱ごうとするけどうまくいかないようだ。
「どうしたの?」月が欲しい。
僕の目から涙が、ポタポタこぼれ落ちて月の胸に顔を埋めた。
月は、僕を抱き締めてくれた。
「タクシーくるから、行かなきゃ。」
「嫌だ、今日はここに泊まって月の匂いをつけて」
何言ってんだろう、僕。
「匂いって、香水?欲しいならあげるよ。」
「違う。」そんなの欲しくないよ。
「待って、わかったから…タクシーお金払ってくるから…。待ってね。」
そう言われて、月から離れた。
僕は、月がいない間に昨日の布団をクローゼットに閉まった。
この布団は、いらない。
月は、キャリーケースを置いて行ってる。
とりあえず、箒とちり取りで掃いとこう。
何してんだろう?
お酒、まだ抜けてないのかな?




