時雨の気持ち
俺は、時雨さんの言葉を聞きながら考えていた。
なぜ、氷雨君の前でこんな言い方をするのだろうか?
時雨さんは、自分の中の化け物に食べられてしまうのを望んでいるのではないだろうか?
生きていては、いけないと思っているのではないだろうか?
それは、もう一人の彼の為なのではないだろうか?
気づいたら、星から手を離し時雨さんを抱き締めていた。
ワァンワァンと子供のように泣く時雨さんを抱き締めていた。
落ち着いたのを感じて、時雨さんから離れた。
「あの日の事、ごめんなさい。」
星が、頭を下げる。
「俺、後悔してないよ。星と月さんの為にやった事」
そう言って、時雨さんは涙を拭ってる。
「僕は、時雨のお陰で今、月と一緒に暮らしてる。だけど…」
そう言った星に、時雨さんが
「わかってるよ。二つの愛情が星の中にあるって」と言った。
星の目から、ポタポタと涙が流れてくる。
「俺も感じたからわかる。あの日、氷河に感じた。穏やかで優しい愛情。星に感じるメラメラと燃えるような愛情じゃなかった。ただ、幸せだと思えた。」
そう言って、泣きだした。
「いきなり全部話さなくていいんだよ。」
星の言葉に時雨さんは、首を横にふる。
「もう、警察が目覚めてすぐからきてるから…。俺の覚えてる話しは、何度もしているから」
そう言って、涙がどんどん溢れてくる。
「長いから、そこに座って」
そう言われて星と俺は、椅子に腰かけた。
「あの日、明日香に話をする為に会いに行ったんだ。最初、明日香は普通に話を聞いてくれていた。でも、俺が月さんには関わらないで欲しいと言った瞬間。鞄から突然包丁を取り出してきた。」
そう言って、時雨さんの手が震える。
「危ないから、おろすように頼んでも聞いてくれなかった。もう、何の話しも聞いてくれなかった。氷河と一緒に宥めてもダメだった。」
そう言って、ギュッと握った手が震えている。
「氷河に俺は言った。明日香をどうにかするから、氷河は逃げろって。そしたら、明日香が包丁をもってこっちに突進してきた。
俺は、もう刺される覚悟を決めたんだ。ドサッて音がして刺されたって思ったら知らない女の人がいた。」
亡くなった女の人だ。
「女の人が、叫ぶんだ。氷河さんにやめてって…。俺は、何が起きてるかわからなかった。明日香は、その声に苛立ち彼女を何度も刺した。氷河は、それを必死で助けようとしていた。」
そう言って、泣いてる。
「明日香は、刺しながらずっと氷河を渡さないって言った。彼女を見て、明日香は、蹴飛ばした。そして、俺に、時雨を愛してるのよって笑った。だから、氷河に時雨を渡さない。氷河の事も誰にも渡さないってニタニタ笑うんだよ。」
そう言った手は、震えて涙はどんどん流れてる。
「氷河は、彼女を庇って腕から血を流していた。でも、まだ喋れて動けてた。明日香は、愛してるって言って俺に向かってやってくる。いくつ持っていたのかは知らないけど、新しい包丁を持っていた。」
時雨さんの体が震え始めた。
「俺は、明日香を受け入れようと思って氷河達から少し離れたとこに立った。明日香は、笑いながら走ってきた。目をつぶった。ドサッて音がして、刺されたんだって思ったら、氷河が俺の前に立ってた。」
時雨さんの目から、涙が、どんどん溢れてくる。
「明日香は、狂ったように氷河を刺す。俺は、氷河を守ろうとするけど氷河は起き上がって俺を抱き締めたんだよ。時雨聞いてって刺されながら耳元で言うんだ。時雨を愛してる。俺は時雨と生きていたかったし時雨に愛されてみたかった。だけど、無理かも知れないから、最後に時雨を守れてよかった。」
そう言って泣いてる時雨さんを、俺と星は見ている事しかできなかった。




