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竜のお世話係8

「結構な重労働だったわね」


竜が休めるように餌の用意と汚れを落とすデッキブラシ一式などを準備し、大きなテントの中でマーシャルとリズはぐったりと座り込んでいた。

昼に準備を始めたが、すべて終わったのはつい先ほどだ。

やっと少し休めると配られたお茶を飲みながら女子テントで一休みする二人。

開けたままになっている入口からエレノアが忙しそうに動いているのが見えた。


「エレノアさんあんなに細いのに疲れないのかしらね」


これからが竜のお世話係として本番なのにぐったりとしているリズにマーシャルもうなずく。


「本当。さすがよね。私たち体力付けないとだめね。見てよ、マロンさんもちょっと小太りのくせにまだ働いているわよ」

「本当だ」


遠くで野菜を切っているマロンとその夫のジョンは焚火に鍋をかけているのが見えた。

休んでいるのはリズ達だけだ。

二人でため息をついていると、エレノアが大きな声で周りに告げる。


「竜たちが帰ってきたわよ~」


リズとマーシャルもテントから慌てて出て空を見上げた。

はるか遠くに黒い点だったものがどんどん大きくなり、竜たちが上空で旋回する。


「わぁーかっこいいわ」


リズは何度でも竜が飛ぶ姿を見るとドキドキする。

竜に乗って空を飛びたいという夢は叶わないがこうしてお世話ができてそばにいられるだけで幸せだと何度も思い込むがやっぱり竜に乗りたい。

叶わぬ夢にリズはそっとため息を吐いた。

何度か旋回した竜がゆっくりと森の中に降りてくる。

すべての竜が降りてきたのを確認をして、それぞれお世話係が担当の竜の様子を見に行く。

リズもセドリスが降りた場所へ向かうと遠くからでもリズのことがわかるのかルーメロスと目が合う。

何て可愛いのかしら。



「ギュー」

リズが近づくとルーメロスは可愛く鳴いてくれる。

リズをバカにしたような態度をするルーメロスだがこういう仕草は他の竜より可愛いと思える。


「お疲れ様です」


リズが声をかけるとルーメロスを撫でていたセドリスが軽く頷いた。


「ルーメロスもお疲れ。なにか変化はないですか?」

「ない。少しルーメロスが疲労しているような気がするからよろしく」

「わかりました。あとはお任せください」


丁寧に礼をするとセドリスは軽く頷いて騎士たちが集まっているテントへと向かっていく。

その後ろ姿を寂しそうに鳴くルーメロスにリズはほほを膨らませた。


「私より、そんなにあの人がいいの?」

「フン!」


当たり前だというように頷く竜にリズはがっくりと肩を落とす。


「こんなにお世話してあげているのにそれはないわよ」


いつかルーメロスの一番になってやると決意を胸にリズはルーメロスに餌と水をたっぷりと与えはじめた。


太陽が後数分で落ちようとするころ、野営地には団長と焚火を囲んでミーティングが開かれた。


「さて、皆の者お疲れ様です」


団長がその辺のおじさんと変わらない調子で挨拶をすると、竜騎士とお世話係が一斉にお疲れ様ですと元気よく返す。


「今日は野営訓練なので本当に戦闘があるわけではありません。キャンプだと思って気楽に夜をお過ごしください。本番の戦闘があったときの段取りだけは体に叩き込んでおいてください。

あとは飯食って寝るだけですが、お世話係と竜騎士と交流をしつつ夜をお過ごしくださいね」


かしこまって言う団長がなぜか面白くて噴出したリズにほかの騎士たちもつられて笑いだす。


「結婚式の挨拶みたいな話し方止めてくださいよ団長ー」

「うるせぇな。なんかリズちゃん達がいると緊張しちゃって・・・・おじさん・・・」


そういうとまた一斉に笑いが起きる。


「親戚のおじさんじゃないんだからいい所見せようとしないでくださいよ」


騎士の誰かが呆れたように言うと団長は咳払いをする。


「とりあえず怪我をしないように。あ、城から出ると警備も薄くなる。

竜が他国に盗まれるかもしれねぇから気を付けるように。以上!さぁ飯だ!」


団長の挨拶が終わると一斉に用意されていた炊き出しのごはんが配られる。


リズとマーシャルもトレイを持って焚火より少し離れたところに腰を下ろすと、同じようにトレイを持ったウォルフがセドリスを連れてやってきた。


「おつかれぇー、色男を連れてきたわよ。一緒に食べましょ」


にっこりと首をかしげてかわいらしく言うウォルフと無表情のセドリス。


「お疲れ様です。その言葉遣い大丈夫なの?」


仕事の時は女みたいな言葉はしないと言っていたが今は仕事中ではないのだろうか。

団長に聞かれたら殴られそうな気がしてひやひやしているリズにウォルフはかわいらしく笑う。


「大丈夫よー、今休憩中だし。仕事中はちゃんとしているから」

「ちゃんと女言葉出ているけどな」


ぼそりというセドリスの腹にウォフルが素早くパンチを入れる。


「ウッ」


苦しそうに顔を歪ませたセドリスにウォルフがオホホッと笑った。


「ご飯が冷めちゃうわ。食べましょ」

「そ、そうね」


これ以上ウォフルの女言葉について話すのは危険だと察知しリズとマーシャルはトレイに載ったごはんを食べ始めた。

野営ということもあり鍋で肉を焼いたものがごはんに載っている簡単なものだったが、スパイスを利かせた肉からはおいしそうな匂いがしている。


「訓練って何してたの?」


初日ではウォルフの女言葉にショックを受けて倒れたマーシャルだが今ではすっかり気の置けない仲間になっているようだ。

マーシャルの問にウォルフはかわいらしく顔をしかめた。


「ここから少し離れたところで戦闘が起こったっていうことで城から飛び立ってからまず上空で模擬の戦闘訓練を3班で別れてやってからの、地上で待っている班と地上対上空訓練よ~もうクタクタ」


「そりゃ、お疲れね」


ウォフルとマーシャルが仲良さそうに話しているのを見てリズもセドリスと少しでも仲良くなるチャンスではないかと話しかけてみようと口を開く。


「セドリスさんもお疲れさまでした。ルーメロスは問題なくご飯食べてました。セドリスさんをものすごく恋しがってました」


自分よりセドリスに懐いているのが気に食わないが、平静を装って言うがセドリスは軽く頷くだけだ。

ウォルフやほかの人には話しているのは見るが、リズには全くと言っていいほど話さないセドリス。

いい加減リズもイライラするがそれを表に出すほど幼くはない。

グッとこらえて、イライラするときほど笑え。父親の言葉を思い出してリズは微笑んだ。

微笑むリズを見てセドリスは少しばつの悪い表情を浮かべている。

はて?なぜ?

首をかしげるリズに後ろから大きな手が伸びて頭を撫でられた。


「リズーー。頑張ってんなぁ~」

「お父さん」


今にも抱きついてきそうなカジミールにリズは嫌そうに少し離れた。


「お疲れ様です。カジミール隊長」


敬礼をするセドリスとウォルフにカジミールは軽く手を挙げる。


「はいはい、今は休憩中だからそういうのいいのよ。だから俺も娘を可愛がるから」


そう言ってまたリズに抱きつこうとする。


「やめてよー。職場では上司と部下。お世話係と騎士だ。節度は守れとか言ってたのお父さんでしょ」


嫌そうに言うリズに父カジミールは悲しそうな顔をする。


「いやいや、無理。かわいい小さい娘が一生懸命頑張っているし。こんな野郎ばかりのところにおいておけるかい。それにテントだけど外で寝るとか大丈夫か?」

「私どこでも寝れるから平気」

「まぁそういうと思ったけど、夜は寒いからちゃんとお腹出さないで寝るんだよ」

「わかっているってばー!もうーあっちに行って」


娘に追い返されたカジミールを見ていた仲間たちが笑っている。


「隊長ーいい加減娘離れしないと」

「うるせぇ、てめぇら早く寝ろ。あとセドリス、お前うちの娘に手出すなよ」


ぎろりと睨まれたセドリスは形のいい眉をひそめた。


「出しませんよ。興味ないし」


きっぱりというセドリスにカジミールは顔を引きつらせる。


「それはそれでムカつくな、俺の娘は可愛くないか?」

「もう、お父さんってばーいいからあっちに行って!」


いい加減やめてほしいとリズは父親を遠くに行かせた。

名残惜しそうにチラチラとこちらを見ながら去っていく父親の背にあっちへ行けとジェスチャーをするリズにまた隊士たちの笑いが起きる。

注目を集めたくないのになぁと思いつつ、マーシャル達に頭を下げた。


「ごめんね。みんな」

「娘バカねぇ」


呟くウォルフにマーシャルもうなずいた。


「本当。でもあんなお父さん憧れちゃうなぁ。うちのお父さん、ただの花屋よ」

「いいじゃないー花屋素敵ねぇ」


うっとりと言うウォルフにリズもうなずいた。

セドリスはどういう家族がいるのかと聞こうかとリズが視線を向けるとすでにそこにセドリスの姿はない。

「あれ?もういない」

「まぁー早食いね~」

ウォルフもすでにいなくなったセドリスに驚きながらも私たちはゆっくり食べましょと上品にスプーンでご飯を食べ始めている。

なかなか仲良くなれないとため息を吐いてリズもご飯を食べ始めた。






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