竜のお世話係5
「これからよろしくお願いします。竜の名前はなんていうのかしら」
初日ということでリズはセドリスに案内されながら竜の飼育小屋へと向かっていった。
今日は初めてなのでセドリスに一日の流れを教わることになっている。
「ルーメロス」
短く答えるセドリスに愛想がない人だなとリズは隣で歩く男を見上げる。
空のように青い瞳をしたセドリスは心も同じように冷たい青なのかしら。
きっと、普通の女の子だったら綺麗な顔をした竜騎士と相棒となれたのだから期待をしたり喜んだりするだろうがリズは竜と仲良くなれるかの不安と竜のお世話ができることが幸せなのでセドリスの不愛想などは興味がない。
「ルーメロス。素敵な名前ね。雄?」
リズの言葉にセドリスは頷く。
それから二人は無言で竜の飼育小屋へとたどり着いた。
大きな木製の建物が何棟も並んでおり、一匹ずつ飼われている竜の鳴き声が聞こえてきてリズの胸が高まった。
セドリスが飼育小屋の扉を開け、彼に続いてリズも中へと入る。
中にいた竜がセドリスとリズを見ると嬉しそうに尻尾を振って近づいてくる。
「こんにちわ、ルーメロス」
リズがあいさつをすると、ルーメロスは口を大きく開けてリズの頭にかぶりついた。
突然視界が真っ暗にになり獣臭い匂いとねっとりとした唾液が顔にかかる。
一瞬何が起こったのか理解できなかったが、慌てて頭を抜こうとするがなかなか抜けない。
両手を使って引き抜こうとするがピクリともせずバタバタしていると、ルーメロスの口が開かれた。
慌てて頭を引き抜くと、不思議そうな顔をしたセドリスが竜の口をこじ開けてくれていたのだ。
「あーびっくりした。竜の歓迎ですかね」
ベドベドの竜の唾液をハンカチで拭きながらリズがいうと首をかしげるセドリス。
「聞いたことないし見たこともない」
愛想もなくそういって、唾液でべトベトのリズを冷たい目で見る。
「そうですか。これからよろしくね。ルーメロス」
リズが微笑みながらルーメロスの鼻のあたりを撫でると竜は歯を出してフンと息を吐いた。
それを見て、セドリスが少し驚いて目を見開く。
「ふーん。竜と相性がいいのは本当なんだな」
「そうかしら」
バカにされているとしか思えない、ルーメロスの態度に疑問を感じているリズだがセドリスは頷く。
「ルーメロスの機嫌がいい。なかなか無いから珍しいことだ」
「そうなの」
そういわれると悪い気はしない。
リズはもう一度ルーメロスを撫でた
「よろしくね。仲良くしましょうね」
ルーメロスはキュイと鳴いた後口を大きく開けてまたリズの頭を咥える。
「ねぇ、本当にこれ機嫌がいいのかしら?」
真っ暗になった視界のなかでリズが大きな声を出すと、セドリスが静かにうなずく気配がした。
「機嫌いいからこうしているんだと思うけど。僕、用事があるからあとよろしく」
遠ざかっていく足音を聞きながらリズは声を上げた。
「ちょっとーー!助けてよぉぉ」
「これから一人で世話するんだからがんばってみたら」
セドリスの声がかなり遠くから聞こえる。
助けてもくれないのかとリズはむっとしつつなんとか頭を抜こうともがいた。
セドリスともルーメロスとも仲良くできるかしら。
不安に思いながら頭を引き抜くとあたりには誰もいない。
本当に、セドリスは帰ってしまったのだ。
「はぁ、私たち上手くやっていけるかしら」
ため息がちにいうと、ルーメロスが馬鹿にしたように歯を出してフンと息を吐いた。
「明日から、竜の勉強と、あなたのお世話がはじまるのよ。がんばるからよろしくね」
何度目かのリズの挨拶に今度はルーメロスはペロリと大きな舌でリズの顔を舐めた。
きっと頑張れって言ってくれているんだと解釈してリズは微笑んだ。
「ありがとうルーメロス」
ルーメロスとは何とかやっていけるような気がしてリズは少しだけ安心した。