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竜のお世話係4

翌朝、過保護なカジミールが一緒に行くと聞かないのでリズは城まで父と歩いた。


「ねぇ、一人で行きたいんだけど」

「ダメだダメだ。リズはね、まだ子供。お父さん心配だよ」


黒い竜騎士の隊服を着た父はとても誇らしいが、こういうところはとても嫌だ。

リズは唇を尖らせた。


「私が仕事しているときもそういう過保護はやめてね」

「そりゃー俺だってそんなことはしない。仕事は仕事だからな」


そうは言っているが、怪しいものだ。

そう言ってカジミールと城の門を入る。

まずは顔合わせということで竜騎士の執務室へと向かう。

カジミールが娘の背中を押して執務室へと入ると顔に傷のあるザール団長が立っていた。

その前にはマーシャルの姿も。


「マーシャル。あなたも受かったの?」

「リズ!よかったわ」


お互い顔見て手を取り合って喜んでいると団長が咳払いをした。


「はいはい、出勤初日。お互い顔見知りで何よりだ。同じ13歳で竜の世話係としては最年少だ。

女の子同士だし、同期として仲良くするように」

「はい」

「マーシャルちゃんうちの娘をよろしくな」


カジミールがリズの後ろから声をかけるとマーシャルは元気よくうなずいた。


「もうやめてよお父さん」


そんな二人を見ていた団長ががははっと大声で笑った。

「しょーもねぇー親バカだな。さっさと持ち場に戻れカジミール。親バカしすぎると嫌われるぞ」

「わかりましたよ」


カジミールは心配そうながらも敬礼をして執務室から去っていた。

ザール団長はカジミールが出ていくのを確認し、リズとマーシャルに微笑んだ。

熊のような巨体と顔の右側、眉から頬にかけての大きな傷のせいでかなり怖い。

初めて見る熊のような男の笑みにマーシャルが息を呑んだ。


「大丈夫よ見た目は怖いけどとってもいい人よ」


リズがマーシャルに耳打ちするとザール団長が眉をピクリとさせる。


「そういうことは後で言うように。全部丸聞こえだ。さて、君たちは今日から竜騎士団の一員だ。

戦闘に参加することはないが、我々の仲間だ。騎士41名と竜の世話係41名とあとはこの事務のエレノアと俺で総勢84名だ。何か困ったことがあったらすぐに言うように」

奥の机に座っていた巨乳のお姉さんが立ち上がって頭を下げた。

「事務のエレノアよ。よろしくお嬢ちゃんたち」

そう言ってほほ笑む。女性のリズが見ても色っぽく美しい女性に顔が赤くなった。

「よろしくお願いします」


その後、エレノアに案内されて制服を渡される。

一つは黒い騎士と同じようなデザインの制服にスカートの色は青だ。

もう一つはグレーのつなぎの作業着だった。

制服に着替えるように言われて、リズとマーシャルは素早く着替える。


「ねぇ、リズ、知ってる?」


着替えている最中にマーシャルが小声で話しかけてきたためリズも小声で返す。


「何を?」

「竜のお世話係とその竜の騎士って相性がいいんだって。だから結婚する人が多いいって。

きっと今日私、運命の人と会うんだわ。すごい楽しみだわ」

「あぁその話、うちのお母さんが言ってたけど、たぶん期待しないほうがいいわよ」

「なんで?」

「だって、うちのお父さん竜騎士だけど、お母さんはパン屋の娘だし。お父さんが言ってたけど結婚した人なんて一握りらしいわよ」


リスの話にマーシャルはそれでもと笑みを作る。


「私はわかるの、今日、私恋をするのよ。リズはそういうの期待しないの?」


リズは少し考える。


「私そういうのまだ興味ないわ。竜と毎日会えるだけで幸せよ」

「はぁ・・・。まだ子供なのね」


そう言われてリズはほほを膨らませた。


「失礼ねぇ」


そんなこんなんで、エレノアに連れられて廊下に出る。

リズは自分の制服姿を見て笑みが止まらなかった。自分の父と同じところで働けることはとても誇らしくうれしい。

「これから竜の騎士たちにあなたたちを紹介しますわね」

エレノアの妖美な笑みにたじろぎながらも二人はうなずいた。

「はい」


「緊張するわね」

マーシャルが胸を押さえながら言う。

「そうね」

きっとマーシャルは今日運命の人とやらと出会うと思い込んでいるので私の緊張とは違うのだろうと思ったが、リズはうなずいておいた。

竜騎士の詰め所へと向かうと、すでに全員集まっているようで二人が入ると一斉に注目をされた。


「はぁーい。新人をお連れしましたわ」


エレノアが奥に居た団長に告げると団長が大声を出す。


「今日から入ったリズとマーシャルだ。最年少での竜のお世話係だからな、てめぇらきっちりと教えてやれよ」

「了解しました」


一斉に騎士たちが胸に手をおいて敬礼をする。



「わぁすごい」

マーシャルが感動して呟く。

リズもうなずいた。


「ほんとね、騎士がこんだけ集まると感動するわね」


騎士は城にしかおらず、町では憧れの職業でもある。

竜騎士はそのなかでも竜との相性と並外れた武力が必要になるため、特別なのだ。

リズの父も竜騎士だが家ではだらしない姿をしており、騎士らしさを見たことがない。

それでも働く姿はやはりかっこいいと思った。


「いいかあおめぇら、うちの子に手を出したらただじゃ置かねぇからな」


どこからかカジミールが声を上げた。


「お父さんってば恥ずかしい・・・」


うつむいたリズに、騎士たちが一斉に笑った。


「カジミール隊長の娘さんに手を出すバカはいないですよ。ボコボコにされるもんなぁ」


誰かがそう言うとまた一斉に笑う。


「言っておくが、俺の娘みたいなもんでもあるからな」


団長がそう言ってリズとマーシャルの頭に手を置いた。


「リズちゃんは赤ちゃんの時から知っているが、マーシャルちゃんも今日から俺の娘みたいなもんだ。

いいかてめぇら、なんかあったら俺とカジミールがぼこぼこにするからな」


「なおさらだれも手を出そうなんて馬鹿いませんよ」


誰かが言うと一斉に笑いが起こった。


「よし、ではリズちゃんとマーシャルの相棒を紹介しよう。 

セドリスとウォルフ前へ」

団長に言われて前に出てきた。


「黒い髪の毛がセドリス。今年から竜騎士になった15歳だ。リズちゃんの相棒だな」


セドリスと呼ばれた男は黒い髪の毛に青い瞳をしておりかなり整った顔をしていた。

たしかにかなりの美形だ。

父親が言っていたのはこの人のことかとリズは思い頭を下げた。


「よろしくお願いします」

「よろしく」


そっけなく言われて父親が”あいつは性格が悪い”と言っていたのを思い出す。

うまくやっていけるか心配になったが、マーシャルの相棒が気になりセドリスと並んで立っている金髪の青年に目をむけた。

セドリスはリズより頭一つ大きいぐらいだが、金髪の青年ははるかに大きい。

団長ぐらいあるんじゃないだろうか、そして筋肉質だ。

これが、マーシャルのあこがれていた運命の人なのだろうか顔は悪くはないがセドリスがかなり美形なのでそっちに目が行ってしまう。


「ウォルフよ。よろしくね。かわいい子が相棒なんて嬉しいわ」


金髪の青年が野太い声で嬉しそうにマーシャルに握手を求めた。


「・・・・・えっ?」


女言葉が聞こえたが、リズが聞き間違えたかと思いウォルフと団長を交互に見る。

団長は苦虫を嚙み潰したような表情を浮かべている。


「あーーまぁ、個性的な奴だが腕はいい。騎士として・・。男としては言葉以外はちゃんとしているから多分・・・安心してくれ」

「ごめんなさいね。ちゃんとできる時もあるから大目に見てね。

よろしくね。コイバナなんてできたらうれしいわぁ」※誤適用にご注意を※おおめ【大目】〔名〕物の見方がおおざっぱであること。「大目に見る(=寛大に扱う)」おおめ【多め(多目)】〔名・形動〕数量がふつうよりもやや多いこと。多目は多めもありますが、大目は大目のみのようなので、め の方も漢字で大目とご報告させていただきました。


表情をなくしたマーシャルが静かにウォルフの手を握ってかすれた声を出した。


「よろしくお願いします。つかぬことをお伺いしますが・・・コイバナのお相手は女性ですか?」

「いやだぁ、女は興味ないわよ。私、筋肉質な男が好みよ。だからここはすごい天国みたいなところなのよ」


マーシャルはゆっくりとリズのほうを向いて静かに口を開いた。


「ねぇ、リズ。私・・・ダメみたい」


そう言って、すっと気を失った。


「わぁぁぁ。マーシャル!」


リズは慌ててマーシャルの体を掴んだが体が重く一緒に倒れてしまう。

床につく寸前に団長とウォルフが二人を支えた。


「あら、いやだ。どうしたの?緊張したのかしら?」


ウォルフがつぶやくと、リズは首を振った。


「緊張というか・・・たぶんショックだと思います」

「悪いことしちゃったわね・・・」


かわいらしく言うウォルフに団長は長い溜息をついた。


「そりゃーショックだろうよ。13歳の女の子からみたら女言葉を話す騎士。それも筋肉質の・・・」

「・・・・・・」


団長の言葉にリズとウォルフは無言で見つめあう。


「やだ、リズちゃんもそう思っているの?ショック?私の存在」


ウォルフに聞かれてリズは返答に困った。

正直ショックではあるが、言っていいものだろうか。

返答に困っていると後ろからセドリスが冷たい声をだした。


「バカやってないで早く医務室運んであげれば」

「・・・そうですね」

リズが乾いた声でうなずくと、様子を見ていた騎士の誰かがつぶやいた。

「伝説に残る新人顔合わせだな・・・」


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