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竜のお世話係

「リズ、もうすぐお父さんが来るわよ」

青空が広がる空を指さしてリズの母ハンナが言った。

リズも空を見上げてワクワクする気持ちを抑えられず体を揺らす。

「今年はすごい誕生日プレゼントね。お母さん」

「そうよ、リズが10歳になるから特別よ。そして内緒だからね。本当はダメなのよ」

父も母も同じことを昨日からずっと言っているためリズは耳にタコだと思いながらもうなずいた。

「わかってる、誰にも言わないわよ。お父さんの竜に乗せてもらうなんてことは」


リズの父親は城で務める竜騎士の一員だ。

竜に乗って戦闘をする騎士であり、竜は少数でありまた自分の背に乗せるものも自ら選ぶためただ能力があるだけではなれないものである。

総勢40名ほどの竜騎士の一員である父親をもってリズは大変誇りだった。

小さい時から父が竜に乗る姿はみたことはあったが乗ってみたいと何度言っても規則だからと乗せてくれたことはなかった。

今日はリズの10歳の誕生日。特別にプレゼントとして父親の竜にのせてくれることになったのだ。

誰にも言わないという約束をさせられたのは昨日。

リズはわくわくしすぎて眠れなかったが、夕方に父親が乗せてくれることになった。

まだ青空が広がる空だが夕刻まであと2時間ぐらい。

町はずれの広い野原で母と二人で空を見上げて父親を待つ。


「あっ、お父さんと竜だ!!」

リズが指さす空の向こう側に黒い点、母親も目を凝らしてみるがまだ見えないようだ。

「あんた相変わらず目が良いわねぇ。あっ、本当だ来たわ」

竜はスピードが速い。

あっという間に竜に乗った父の姿を確認して親子ではしゃぐ。

リズたちの上空で旋回すると静かに地上に降りた。


「おとうさーーん!」

走って近づいてきたリズに父であるカジミールは笑みを浮かべて竜から降りた。

「おう、待たせたな」

竜騎士である黒い隊服に金色で竜の刺繍が胸元に施してある。

腰には銀色の剣を帯刀しておりいつもと違いすこしだけかっこいい父親にリズは抱き着いた。

「お父さん、かっこいいー!」

「ありがとうなぁ~」

娘にかっこいいと言われ微笑みながらリズを抱き上げた。


「今日は特別な誕生日プレゼントだ。本当は誰も乗せちゃいけなんだが、今日は特別だぞ」

「わかってる、誰にも言わないわ」


真剣に言うリズにカジミールはうなずいた。


「よろしく頼むよ姫様。よし、まずは竜に挨拶だな」


カジミールはリズを抱いたまま、相棒である竜のジャルンの前に回り込む。

自分よりはるかに大きい竜の頭にリズは父に抱かれたまま鼻先をそっと撫でた。

「ジャルン今日はよろしくね! 竜騎士の規則でたとえ家族でも乗せられないっていうのは知っているの。でもね、今日は私の10歳の誕生日で特別だからって。誰にも言わないって約束はできるわ」


リズの言うことをじっと聞いていた竜のジャルンは分かったというようにフンと鼻を鳴らした。


「ありがとう。乗せてくれるのね」


その様子を見ていたカジミールは感心したように娘の頭を撫でた。


「竜との相性はいいようだな。リズが男の子で運動神経が良ければ竜騎士になれるんだがなぁ」

そう言って、娘を抱えたまま竜の背に乗る。

心配そうに見ているハンナに手を振った。


「大丈夫だ、リズは竜との相性がいい。このまま飛んでくる」

「気を付けてね。リズ、はしゃぐと落ちるからね、お父さんにしっかり掴まっているのよ」

「わかってるー。お父さん早く飛んで、飛んで!」


竜の背に乗せてある鞍にしっかりと捕まらせると、カジミールは後ろからリズを抱くように竜の手綱を握った。

「じゃ、ちょっと行ってくる、リズしっかり掴まってろよ」


カジミールは手綱を引っ張ると竜は軽く吠えて翼を羽ばたかせた。

巻きあがる風に髪の毛を抑えながらハンナは空へと上がっていく娘と夫を手を振って見送った。


「わー、お母さんがもうあんなに小さく見える」

感動したようにリズはどんどん小さくなる母親を見下ろす。

「しっかり掴まって」

父親の注意にリズは慌てて両手で鞍を掴んだ。


「お父さん、すごいすごい。もう町があんなに小さく見えるわ」


おもちゃのように小さく見える自分の住んでいる町を見下ろす。


「ほら、あれが俺がいつも働いている城だよ。立派だろう」


小高い丘に建っている白い城を指さして言う父親にリズはうなずいた。


「本当、立派ね。竜たちがいっぱい暮らしているんでしょ。いいなぁ、私竜が大好き」


かたい緑色のうろこに包まれて10メートル以上もある大きな竜を怖がる人も少なくはない。

竜は頭がいいので、人を襲うことはそうそうないが、気に入らない人間には決して懐くことはない。

竜のジャルンはリズの言葉がうれしかったのかワゥと少し鳴いてちらりとリズを見た。


「いいなぁーお父さんずっと竜と一緒で。私より一緒にいるものね」


騎士である父は忙しく家にいないことが多い。少し拗ねている娘が可愛くてカジミールは頭を撫でる。


「そんなに竜が好きなら相性も悪くないし竜の世話係なんて仕事はどうだ?」

「なにそれ」


初めて聞く言葉にすぐ後ろの父を振り返ると、にやりと笑っている。


「竜の世話をする仕事だよ。まぁ、その仕事は新しい騎士と竜が決まらないと募集がかからねぇからなぁ。竜騎士も毎年出るわけじゃないし、倍率もすごいんだぞ」

「ふーん。私、竜のお世話ができるなら頑張って応募してみる」

「まぁ、募集があってお前がちょうどいい年齢ならな」


竜とかかわる仕事ができるかもしれないという希望にリズはうれしさのあまり声をあげて喜んだ。


「ねぇ、お父さん!」

「ん?」

「空はとても素敵ね!」


風を感じながらリズはどんどん離れていく街を見送り、森を見下ろす。

木々の間から、流れる川が太陽にあたってキラキラと輝いている。

こんな光景は初めて見る。

父親は毎日ように見ているのかと思うと羨ましくて仕方ない。


「そうだろ。気持ちいいだろう。ほら、リズ前を見てみな」


父が指さす先に青い海が広がっているのを見てリズは目を輝かせた。


「わぁ、海だ!」


キラキラ輝く海にリズは目を輝かせた。

空気を思いっきり吸って吐く。

いつもよりも空気がおいしく感じるような気がしてリズは笑みを浮かべた。


「海を見るのは2回目よ。こんな遠くまであっという間に来ちゃうのね。すごいわー」

家族旅行で2回ほど海に来たことはあるが行くまでに2泊ぐらいした記憶がある。

父と母と馬車に乗りっぱなしでお尻が痛くなったことを思い出して竜ってなんてすごいのだろうと感動する。

海の上をものすごいスピードで走り抜ける。

海の匂いを胸いっぱいに吸っていると気づけば、太陽が水平線に沈もうとしていた。

竜は海の上で旋回するとその場で留まった。

竜の羽音と海の波の音が聞こえる。

後ろを見るとはるか遠くに陸が見えた。


「ここから見る夕日は格別なんだ」


そう言って父親がにっこりと笑った。

「海がキラキラしているわ。とってもきれい」

「そうだろ」

オレンジ色の空に青かった海も同じ色に染まりキラキラと輝いている。

「これを見せたかったんだ。お誕生日おめでとう、リズ」

「ありがとうお父さん」

リズは微笑んで父親を見上げた。


「最高の誕生日プレゼントだわ」


リズは10歳の誕生日を思う存分味わった。

「暗くなる前に帰るぞ。早く帰らないと団長に怒られるからな」


夕日を目に焼き付けてリズは将来ぜったいに竜のお世話係になると誓った。






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