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「お嬢様……お嬢様……フィーネお嬢様!」

「ひゃっ⁉︎」


 突然、大きな声で呼ばれ飛び上がるとユリが細い腕で軽々と受け止めながら呆れ顔を向けてきた。


「お嬢様、そろそろ帰って来て下さい」

「か、帰ってきてと言われてもまだ馬車の中……えっ⁉︎ なんでもう屋敷にいるの? 私、馬車に乗ったばかりのはずなのに……」


 おろおろしながら辺りを見回すとユリが私をゆっくりとおろしながら溜め息を吐いた。


「はあっ……。もう、とっくに屋敷に着いてますよ。それで心ここに在らず状態のお嬢様を私が屋敷まで誘導したのです。全く、何を言っても上の空で大変だったんですよ」

「そ、そうだったの?」

「そうですよ。本当に覚えていないのですか?」


 私はそう聞かれて思い出そうとする。すぐに第三王子とのことが頭に浮かびボーッとしているとユリが慌てて手を叩いてきた。


「第三王子と学院であった事を思い出すのはお着替えをした後にして下さい。後、髪に口づけをされた事は特に寝る前までなるべく思い出さないで下さいね」

「えっ、なんでそのことを……はっ、まさかユリ、あなた御伽噺の魔法を使えるようになったの⁉︎」


 私は驚きながら尋ねるとユリは盛大に溜め息を吐いた。


「全く魔法を使ったのはどちらですか。私が御者に呼ばれて馬車の扉を開けた直後、中から花が溢れ出してきたんですよ。まあ、すぐに消えて惚けたお嬢様が現れましたけれど」

「ほ、惚けた私?」

「ええ、そして仰ったのですよ。ユリ……私、第三王子のことを考えると胸がドキドキするの……って頬をピンク色に染めながら焦点の合ってない目で。しかもそれからは聞いてもいないのに学院での……」

「わあわあわあーーーー! いやあ、それ以上は言わないでえっ‼︎」


 話を聞いていて恥ずかしくなってしまい、はしたないとはいえ思わず叫んでしまうと何事かと屋敷中の者達が駆けつけてしまった。

 そして母まで。


「まあ、フィーネちゃん、凄い声だったわね。そんなに第三王子との事は秘密にしたいの?」

「ふえっ? ど、どうしてお母様まで?」


 すると母達の横でユリが呆れ顔を再び向けてくる。


「お嬢様が自ら語ったのですよ。祈るように手を組みながら私は生徒会室で……」

「わあああっーーーー! もういい! もういいからやめてえっ!」


 慌てて口を塞ごうとしたがフットワークの軽いユリはなんなく避ける。そして私の後ろにあっという間に回り込むと羽交い締めにしてきたのだ。

 しかも、なぜか周りの侍女達も。

 だから、私は目を白黒させながら叫んだのである。


「な、何をするの⁉︎」

「もちろんお嬢様を磨き上げるのですよ」

「み、磨き上げる?」

「ふっふっふ、ホイット子爵家が経営している商会の人気美容商品を使ってお嬢様を更に美しくするのですよ」

「べ、別にそんな事しなくても……」


 美容に関しては最低限の事をすれば良いと思ってるのでそう答えると、お母様がなぜか怖い顔で迫ってきた。


「駄目よ。フィーネちゃんは第三王子に綺麗だって思われたくないの?」

「そ、それは……」

「なら、さあ行きましょうよ」


 しかし、私はアルバン様の事を思いだし唇を噛み締めながら首を横に振ったのだ。


「……すみませんが私の婚約者はまだアルバン様なのです。なのでそういう事は全てが終わってからに」


 すると、あんなに騒しかった屋敷の中が一瞬で静まりかえってしまう。しかも、母が申し訳なさそうな顔で私の頬を撫できたきたのだ。


「ご、ごめんなさいね」

「いいえ。全て私がいけないのです。申し訳ありません」

「何を言ってるの! フィーネちゃんが謝ることはないの。謝らないといけないのは別の人達でしょう。だから、いつもみたいに笑顔を見せて」

「……お母様」


 私は顔をあげて微笑む。母はほっとした表情を浮かべた。


「あなたの言う通り、早く終わらせましょう。今、あの人が総力を使って証拠集めをしてるわ」


 母がそう仰ると、丁度、父が帰ってきて私達の方に駆け寄ってきた。


「あいつらまた会っていたぞ……。それに、ダナトフ子爵家に融資していたお金の一部がダーマル男爵家にも流れている事がわかった」

「えっ、どうしてダーマル男爵家に? もしかしてアルバン様がダーマル男爵令嬢にプレゼントを贈っているのですか?」

「それもあるが、もっとでかい金額だよ。それとダーマル男爵家は隣国のモルドール王国と繋がっている可能性もあった」

「……」


 私、そして皆まで息を飲んでしまう。なぜなら、隣国のモルドール王国とウルフイット王国は常に小競り合いが続いているからだ。

 要はもしお父様の調べた事が本当なら我がホイット子爵家は最悪、国同士の争いに巻き込まれる事になってしまうのである。

 その事を想像してしまい真っ青になっていると同じような表情の母が父に詰め寄った。


「私達はいったいどうなるのですか?」

「まずは王家に報告して私達が潔白だということを証明しなければならない。なに、うちの全てを見られても何も出ないから問題はない」


 父はそう仰って笑う。

 しかし私達を安心させるために無理矢理笑っている事は屋敷中の誰もが理解できていた。

 だから少しても皆の気持ちが軽くなればと私が考えた案を言ってみることにしたのだ。


「融資をもう打ち切ってしまうのは駄目なのですか? それに今回の不貞行為の件を伝えれば融資した分も回収できますし向こうの動きも止められると思いますけど」


 しかし父は首を横に振ると仰ったのだ。


「今、融資を止めると繋がりが途切れて王家に説明できる材料が減ってしまう。だからしばらくは融資は続けるつもりだ」

「でも、そうなると……」


 不安顔を向けると父は私の考えがわかったのか肩に手を置き微笑んできた。


「王家に誤解されるのではと考えているのだろう。安心しなさい。今からそのことを王家に説明しに行ってくる。なに、うちの陛下は聡明な判断をしてくださる。すぐに朗報も持ち帰ってこれるさ」


 だから私も安堵し笑顔になったのだ。父が部下を何人か引き連れ屋敷を飛び出して行った後でも。

 だって、父なら言葉通りすぐに朗報を持ち帰ってきてくれるだろうからだ。

 全てが丸く収まりまた平穏な日が来る朗報を。


 きっと……


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