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 屋敷に戻ると執事に両親を呼んでもらうよう声をかけた。

 もちろん二人に第三王子と話したことを伝えるため。

 なのにユリと共に応接間で二人が来るのを待っていると突然、寒気を感じてしまったのだ。しかも絡みつくような気持ち悪い不快感も。

 まあ、原因はわかっている。

 だから心配そうな表情を向けてくるユリに私は首を横に振り微笑んだのだ。


「きっとアルバン様辺りが私のことを何か仰ってるのよ。それより、ユリにはお礼を言わないと」

「もしかして、ウルフイット第三王子に文句を言ったことですか?」

「ええ、王族にあんな事を言ったのだもの。勇気がいったでしょうに……」


 私は尊敬の眼差しを向けるとユリは苦笑してきた。


「ふふふ、全然勇気なんて出してませんよ。だって、全然怖くなかったですから」

「えっ……。怖くなかった?」


 私は驚く。今では第三王子の事は怖いと思わないが、ユリがああ言う前は心底怖いイメージがあったから。


 なのに全然怖くなかったと……


 思わず理解できないでいるとユリは笑いながら言ってきた。


「はい、だって……ぷぷ、お嬢様に声をかける時、あの方って……ぷぷぷっ、も、もの凄い緊張してましたからね」

「緊張⁉︎ う、嘘よね?」

「嘘じゃないですよ。きっとお嬢様の良さがわかってる人なのでしょうね」

「えっ、ど、どういうこと?」


 しかしユリは肩をすくめて笑顔を向けてくるだけだった。

 しかも両親が部屋に入ってくるなり私の後ろに移動してしまったのだ。


「フィーネ、用事とは何かな?」


 私は仕方なく父に向き直る。


「……それはアルバン・ダナトフ子爵令息の件です」


 すると父は顔を強張らせながら尋ねてきた。


「ダナトフ子爵令息が何かしたのか?」

「はい。リーシュ・ダーマル男爵令嬢と不貞行為をしています。私とユリ以外に証人もいますよ」

「二人以外に証人も……」

「そんな……」


 母は口元を押さえ驚く。その隣では父の垂れ目が一気に吊り上がっていった。

 きっと今まで目をかけていたことへの裏切りに腑が煮え繰り返っているのだろう。

 ただ、父は商人としての顔もあるのですぐに表情を戻すと作り笑顔を向けてきた。


「では、相手方の問題で婚約破棄ということでいいかな?」


 私は即座に頷く。


「はい、お願いします」

「なら後は話をつけてくるだけだな。ちなみに二人以外の証人にも協力してもらいたいんだが」

「もちろん話はつけています」

「いったい誰だい?」

「第三王子です。あの方が証言してくれますし証拠もすぐに用意してくれます」

「はっ? ウ、ウルフイット第三王子が証言だって⁉︎ しかも証拠も⁉︎ ま、まさか、ダナトフ子爵は何かやらかしたのか?」

「そのことなのですが……」


 私は第三王子がしてくれた話と生徒会で聞いた話をすると二人はみるみる顔を真っ赤にして怒りだしだ。


「ぐぬう、心優しいフィーネを利用するとは……ダナトフ子爵家は絶対許さん……」

「ダーマル男爵家もね。一生表に出られないようにしてあげるわ……」

「お、お父様もお母様も落ち着いて下さい」


 しかし二人は先ほどと違ってもう表情を隠さず今にも人を殺めそうな勢いだった。

 でもユリが気をかせてカモミールティーを前に置くと二人はなんとか落ち着いたらしく紅茶に口をつけながら仰ってきたのだ。


「とりあえず第三王子とは一度お会いして話をしないといけないね」

「そうね。でも、私達が突然、お手紙をお出してもすぐには読んでもらえないわよね……」

「それなら明日、第三王子が生徒会にいる時に私が直接お手紙を渡しておきます」

「そうか、ならお願いしよう」


 お父様は頷くと、すぐに手紙を書くために部屋に行ってしまった。

 そこで残された私とお母様はユリを交えてしばらく雑談する事にしたのだ。


「そういえば第三王子ってまだ婚約者がいないらしいわね」

「そうなのですか?」

「中々、きつい性格をしてるって噂なのよ。そうなの?」

「口は悪いですが、人の気持ちや痛みを理解できる素敵な方だと思いますよ」

「あら、まあ……」


 お母様は目を丸くして私を見た後、微笑んでくる。そして少し真顔になりながら尋ねてきたのだ。


「もう、ダナトフ子爵令息の事は気にしてない?」

「……それがもう全然気になってないのです。これは私が冷たい人間だからなのでしょうか?」

「そんな事はないわよ。もしかしたらフィーネちゃんは本当の恋をしてなかったのかもしれないわね」

「えっ……。本当の恋じゃない?」

「フィーネちゃんとダナトフ子爵令息を見ていて感じたのは憧れや兄に甘える妹みたいな感じに見えたのよね。まあ、多少は何かあったかもしれないだろうけど……」


 私は母に言われて確かにそんな感じだったと手を打つ。


「じ、じゃあ、私は思い違いをしていたのですか?」

「まあ、フィーネちゃんの中でその思いが残ってないなら確かめようがないわ。でも、次に相手に触れたいとか、本人を前にするとドキドキしちゃうとか、離れてると常に相手を思ってしまう様になったらそれは間違いなく恋よ」

「な、なるほど……」


 残念ながら私は今言われた事はアルバン様に感じなかった。

 むしろ母に言われた憧れや兄に甘える妹の方に納得してしまったのである。


 ただし、もう今は嫌悪感しかないのだけれど。


 休憩所に入っていくアルバン様を思い出し眉間に皺が寄っていく。

 まあ、すぐに頬が緩んでしまったが。

 何せこれで未練なくアルバン様と婚約破棄をできるから。


 しかも気兼ねなくね。


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