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アルバン・ダナトフside.
幼馴染のリーシュと僕は似た者同士。
服や食べ物の好みも。そして失敗して逃げ出すところも。
だから小さい時から何をするにも常に一緒だった。
でも学院に入るとそんな僕達の行動を注意する者が現れたんだ。
しかも勉強や常識を学べだって。
別に僕達は食べるものだって住む場所だって着るものだって将来だって約束されていたのに。
ああ、もちろん最低限の知識は僕だって必要なのは知ってたよ。
でも、そんなのダナトフ子爵家を継いでから学べば良いじゃないか。
だって、だいたいはお金で解決できるんだから。
と、そう思っていたのだ。
あの日までは。
急に親の経営が上手くいかなくなり物を買う事すら大変になったんだ。
もちろんリーシュにお金を強請ることはできなかったよ。何せリーシュの家も経営が傾いているから。
まあ、リーシュは気にしていない様子だったけど。あの人があんなことを言ってくるまでは。
『このまま何も学ばなければ役に立たないお前達は平民か修道院行きだぞ』
しかも、その言葉の意味がはっきり理解できるぐらいその後に両親が弟の方を優遇するようになって。リーシュの家も。
だから、このままだと僕達は本当に平民か修道院行きになってしまうと思ったからおとなしく言われた通りに勉強をする事にしたんだ。
まあ、僕の方は生徒会の手伝いまでさせられるようになってしまったけど。やらなくてもいい仕事を沢山ね。
もちろん嫌だった。最初の頃は。
不思議なことに手伝いをさせられているうちにいつの間にか勉強も生徒会の仕事も楽しくなっていたけど。
しかも友人まで作れて。
まあ、だからといって僕は隠れながらリーシュには会っていたよ。だってリーシュには僕しかいない。それに将来は一緒になるんだから。
ただし、両親は違っていたらしいけど。
だってリーシュじゃなく別の貴族令嬢の所に婿に行けって言ってきたから。
もちろん僕は拒否しようと思っていた。もしくはまた逃げうと。家を追い出すぞという雰囲気さえ感じなければ。
だから嫌々ながら両親の考えた案に従ってあるパーティーに参加しフィーネに会いに行ったんだ。
まあ、結果的に言うとフィーネは可愛くてつい言われた以上頑張って、こちらが想像する以上に早めに婚約することが出来たんだけどね。
なのに……
両親はそれで満足しなかったんだ。今度はフィーネを通して融資をしてもらえって。しかも泣き脅しをしろって。演技なんかしたことない僕に。
でも、追い出すぞという雰囲気を出されたらやらなくちゃいけない。
だから断られるだろうと思ったが駄目元でやってみたのだ。
結果は僕の演技力のおかげで融資は無事に成功。両親からダナトフ子爵領はやっていける。平民に落ちる心配はない。お前は凄いと褒めちぎられてしまったけど。
もちろん良い気分だったよ。
しかも、フィーネと会ううちに彼女の良さがどんどんわかってきて会うのが楽しくなってしまったんだ。ただし肌に触れる行為とかは許されなくてかなりストレスは溜まったけど。
でも顔には出さなかったよ。僕の将来のためだから。
それにダナトフ子爵領が上手くいけばまた色々とものを買ってあげられるし、僕が将来のホイット子爵になればフィーネを追い出して君を妻にできるよと言ってリーシュに沢山触らせてもらっていたから我慢できたしね。
ああ、もちろんフィーネも手放したくないから三人で仲良くやれる案も一応考えてはいた。そんな僕の将来設計ってやつを邪魔しようとする人も出てきたけど。
第三王子ウルフィット。
しかも、ある日あの人に少し厄介な質問をされたんだ。フィーネのことをどう思っているかって。
もちろん狙いはわかっている。僕が言ったことを歪めてリーシュに話して仲違いさせようとするのだろう。いつもそうだから。
だから、今回もそれを見越してはっきり言ってやったんだ。
「地味ですね……。やっぱり女は華やかでないと。なんで僕がフィーネなんかと婚約しなきゃいけなかったんだろう……」
ざまあみろって思ったよ。
これなら、リーシュには悪く言えないだろう。僕達の仲は引き裂けないだろうと。
案の定、第三王子は降参するようなポーズをした。まあ、今度はフィーネのことを金蔓だからだろうと聞いてきたけど。
もちろんこの質問には本当の事を答えるとにしたよ。第三王子はフィーネと接点なんてなかったし彼女は僕の言葉の方を信じるだろうからね。
「ふふ、確かに金蔓ですけど僕のじゃなくてうちの親のですよ。全く、うちの親は借金ばかり作って経営能力がないんですよ」
それにこう答えれば僕は悪くないわけだしね。案の定、第三王子は再び降参するようなポーズをして逃げるように自分の仕事をし始めた。
勝ったと思ったよ。
それに当面の障害もなくなったってね。
だから、僕はそろそろあることを実行しようとしたんだ。リーシュとフィーネの仲を取り持つこと。だって二人とも側にいて欲しかったから。
これからもずっとね。
なのに、いざ実行しようとしたらフィーネが寝込んだって。
しかも面会拒否?
確かにフィーネには結婚するまで肌に触れる事も部屋に入るのも許されていなかったけど少しぐらい会わせてくれたって良いじゃないか!
おかげで僕はリーシュに沢山愚痴ってしまったよ。ただ、必要以上に愚痴りすぎたらしい。いつもは慰めてくれるだけだったのにリーシュはフィーネが学院に来た時、会いにいってわざわざ僕の為に注意してしまったのだ。
おかげで二人は少しだけ険悪な感じになってしまったんだ。
まあ、僕を取り合ってる感じだったから内心は気分良かったけど。
でも僕だけが気分が良くなるのは悪いだろう。
だから、今日は僕のために注意してくれたリーシュにたっぷりと時間を使って上げることにしたんだ。
もちろん、次はフィーネにも使うつもりだ。
この休憩所の近くに紅茶が飲めるお店を見つけたから。
まあ、よくわからない文字が看板に書いてある変な店だったから名前なんてわからないけど。
でも、良いよね。
なんてたって僕が選んだ店なんだから。
「しかもフィーネが愛するね」
僕は眠るリーシュを抱きしめる。そしてフィーネの喜ぶ顔を思い出し頬を緩めるのだった。