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「ああ」

「そ、その何が狙いなのですか?」


 つい口に出してしまうと第三王子はすぐに答えてくれた。


「半分はこちらの問題、残り半分は先ほど言ったように少しだけ見る目がないお前の目を覚ましてやろうと思っただけだ。あるもの……いや、ある光景を見せてな」

「ある光景ですか?」


 私が首を傾げると第三王子は懐中時計を取り出し時間を確認する。


「ちょうど頃合いだ。ついて来い」


 そして二階のテラス席に私とユリを連れいき眉間に皺を寄せながらある方向を指差したのだ。


「もうすぐ来る。あそこを見ていろ」


 私達は頷き視線を向ける。

 しばらくするとアルバン様とダーマル男爵令嬢が恋人の様に腕を組み、いわゆる休憩所という所に入っていくのが見えた。


「あいつ……」


 ユリの怒りの籠った言葉に第三王子の言葉が続く。


「あの二人には注意をしていたんだ。それこそ何百回もな。なのにあいつら俺の逆鱗に触れる事をしやがって……」


 ユリと私がポカンとしていると第三王子はハッと我に返り咳払いする。


「まあ、とにかくあの二人がどういう状況かはわかったな?」

「不貞行為中とだけは。ちなみに第三王子はいつからあの二人に気づいていたのですか?」

「そうだな。それも説明したかった」


 第三王子は頷くと私達を席に誘導し紅茶を再び出してくれた。ユリの分もだ。要は長くなるということだろう。しかも第三王子の表情からするとあまり良くない。

 そして、それは当たっていた。


「アルバンとダーマル男爵令嬢は幼馴染で昔から常にあんな感じだったらしい。しかも残念なことに悪い方向に依存しあってな」

「依存ですか……」

「ああ、二人は学ぶことが苦手ですぐに放りだしては、お互いに慰め合って終わらせてしまうから全く成長しなかったそうだ。それが学院に入るまでな」

「要は問題児だったと……」


 私の呟きに第三王子は頷く。


「だから将来ウルフイット王国の一部、ダナトフ子爵領を二人が継ぐとなると問題となるだろう? なので当時、生徒会長だった第二王子、つまり兄貴とその婚約者の二人で勉強を教えていたんだ。まあ、もちろん全く効果はなかったが」

「すぐに二人は逃げ出し慰めあっていたと……」

「皆優しく接していたからな」


 第三王子は肩をすくめる。その姿に私は手を打つ。


「あっ、だから今度は生徒会長になられた第三王子が対応されたのですね」

「そういうことだ。まあ、対応というかこのままだと廃嫡されて平民か修道院行きになって終わるぞって言ってやっただけなんだがな」

「ああ、アルバン様には弟がいますからね」

「ダーマル男爵令には妹もな」

「じゃあ、効果はあったのではないでしょうか?」

「ああ、二人は焦って勉強しだしたよ。もちろん定期的に逃げだしたけどな」

「でも、それでも段々勉強はできるようになったと」

「少しな。だが、これであいつらが結婚してもたまに目を光らせておけば領地経営は大丈夫だと思っていたんだ」

「一年後に私と婚約するまでは……まあ、結局はお金目当てでしたけれどね」

「ダナトフ子爵の入れ知恵だ」

「経営難なのですよね」

「知っていたんだな」

「はい。でも、いったいなぜ次男でなく長男であるアルバン様をホイット子爵家の婿養子に……あっ」


 私が思わず第三王子を見ると口角を上げ頷いてきた。


「そうだ。ダナトフ子爵はあの女を家に入れたくなかったのだろう」

「……大変そうですからね。でも、そうなるとお金だけじゃなく問題ある人達までうちに押し付けてきていたのですね……」

「ああ、そこは申し訳ないと思っている。俺がしっかり見張っていたらホイット子爵家に迷惑をかけることはなかったからな」


 第三王子は悔しそうな表情を浮かべる。私はそんな姿を見てある考えが思いつく。


「もしかして、生徒会室の話はわざと私に聞かせたのですか?」

「ああ、扉を開けて王家の影を使ってお前が来るタイミングを測った。アルバンの本心を伝えるのはあれしか方法が思いつかなかったからな」

「なるほど……」


 私が納得して頷いていると第三王子が少し俯きながら仰ってきた。


「今回の件は俺の失態だ。罵ってくれても構わない」

「へっ? い、いや、そんなこと私がする理由は……」

「あるさ。お前を沢山傷つけてしまっただろう」

「あっ……」


 私は第三王子の言葉を聞き思わず口元を押さえた。確かに傷ついたからだ。

 そして誰にも相談することも。

 頬に一粒の涙が伝っていくと第三王子が頭を深々と下げてきた。


「さっきの態度でわかったが王族である俺が関わってるからホイット子爵にも相談できなかったのだろう。そこまで頭が回らなかった。すまない」

「い、いいえ、私を傷つけたのはアルバン様とダナトフ子爵ですから」

「だがな……」


 第三王子は納得していない表情を向けてくる。

 するとユリが突然、第三王子の側に行き睨んだのだ。

 

「そうですよ。王家に逆らったら子爵家なんてあっという間に潰されてしまいますからね。お嬢様は誰にも相談できずにとても苦しんだ挙句に寝込んだのですよ」

「そうだったのか……。本当にすまなかった」

「い、いいえ、もういいのですよ。それに謝るなら私もですから」

「……どういうことだ?」

「私も第三王子の噂を鵜呑みにして勝手に怖がっていたのです」

「噂? ああ、そういうことだったのか……。いや、あれはあながち間違いではないぞ」

「えっ?」


 私が驚いていると第三王子は頬を掻き仰ってきた。


「どう注意しても直さない素行不良な生徒達を何人か退学にしていたんだ。それに尾ひれが付いたって感じだ」

「そうだったのですか……。あの、じゃあ爵位を取り上げたという噂は?」

「俺個人でそんな事は流石にできない。ただ、退学させた生徒の素行調査を提出した際、その親が犯罪関係で捕まって爵位を取り上げられてな……」

「ああ、要は生徒の素行調査をしたついでに親の犯罪までわかったので王家が動いたという事なのですね」

「まあ、そういうことだ」

「なるほど。つまり第三王子は言葉使いは悪いが真面目な生徒会長であり国民が望む理想的な王族だったと」


 ユリがそう呟くと第三王子は肩を苦笑する。


「俺はそんな立派じゃない。まあ、だが……今はその真面目な生徒会長と理想的な王族になってみるか」


 そして私に向き直ると貴賓あふれる表情で仰ってきたのだ。


「質問だ。お前はアルバンとどうなりたい?」


 もちろん私の答えは決まっていた。だからはっきりと答えたのだ。


「婚約解消一択です」


 第三王子は満足そうに頷く。


「わかった。では俺も手を貸そう。必ずお前達を婚約解消させる」

「ありがとうございます」


 私は安堵して胸を撫で下ろすとユリが休憩所の方に顔を向けた。


「このまま乗り込みますか?」

「いや、俺達だけで行くと下手な嘘を作らせてしまう。それに証拠は沢山ある。沢山な」


 第三王子は笑みを浮かべる。その笑顔の裏には怒りのようなものが見え隠れしていた。

 でも、私はもう第三王子のことは怖くないので心からの笑顔で返すのだった。


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