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 でも結局はそれで正解だったたらしい。

 翌日に侍女のユリを伴い街に出た際、偶然見つけてしまったからだ。

 第三王子に似合うであろう栞、そしてブックカバーも。


 まあ、ただ本人が気にいるかはわからないのだけれど。


 何せ私が想像する第三王子という人物は父が言う様な人物でなく本は読まずにびりびりにするからだ。


 ちょうどあそこにいる人のように。


 少し離れた場所に立つ人物を見る。

 しばらくして私は大きく後退りした。見ていた人物がまさかの第三王子本人だったから。


「ど、どうしてここに⁉︎」


 すると第三王子がこちらに歩いてくる。そしてあろうことか声をかけてきたのだ。


「なんだ買い物か?」

「あの、その……ええと」


 私は紙袋をそっと隠そうとすると第三王子はなんともいえない表情を浮かべた。


「アルバンへのプレゼントか。全く見る目がないな」

「うっ……」


 私は深く項垂れてしまう。今の自分にその言葉は深く刺さったから。

 だからつい状況を忘れて愚痴ってしまったのである。


「本当に自分が嫌になります」


 まあ、愚痴った後に状況を思い出し口元を慌てて隠したが。第三王子が私の顔を覗きこむまで。


「勘違いするな。見る目がないのはあいつの方だ」

「えっ……」


 思わず驚き顔を上げると第三王子が頭をかく。


「だが、お前も少し見る目がないのは確かだな。よし、ちょっと来い。良いものを見せてやる」


 そして私が何か言う前にさっさと歩きだしてしまったのだ。私はどうして良いかわからないでいるとユリが背中を押してきた。


「お嬢様、付いていきましょう」

「でも……」

「私がついていますので、あらぬ疑いは持たれませんよ」

「そういう事じゃ……」

「はいはい行きますよ」


 ユリは私の言葉なんか聞く気はないらしく背中を強引に押してくる。なので私は強制的に第三王子の後を歩かされてしまったのだ。近くにあるゴシック様式のお洒落なカフェまで。


「あの、ここって?」


 思わず視線を向けると第三王子は頬をかきながら仰ってきた。


「ここの紅茶は王宮で出されるものより香りが良いんだ」

「……そうなのですか?」

「ああ、それで王宮におろせないか交渉したんだが断られてしまった。飲みたきゃ足を運んで来いってな。だから、こうやって通ってるんだ」

「お、王族にそんな態度とは……。ずいぶんと強気なお店なのですね……」

「だろう。ちなみにホイット子爵が経営してる店だぞ」


 第三王子が看板を指差すため目で追う。確かにブランド・ホイット子爵、父の名と家紋が目に映った。

 後、ついでにお店の名前が異国の字でフィーネとも。


「嘘でしょう……ユ、ユリ」

「本当ですよ。ここはお嬢様が生まれたタイミングで旦那様が作られたお店です」

「そ、そんな、じゃあ……」


 血の気が引いていくのを感じフラつくと第三王子が慌てて抱き止めてくれた。


「大丈夫か?」

「え、ええ。でもうちがとんだご無礼を」

「無礼? ああ、別にあれぐらいたいしたことないだろう。気にするな」

「じ、じゃあ……」

「どうこうしようなんて思ってないから安心してくれ。むしろここは一番気にいってる店だからな」

「よ、良かった」


 私はほっと胸を撫で下ろす。そして今の状況を思い出しおずおずと口を開いた。


「あの……」

「なんだ?」

「あ、いえ……」


 度胸のない私はそれ以上言葉を発することはできなかった。

 そこで頼みの綱のユリに目を向けたのだ。助けてと。

 しかし、ユリは勘違いしたのかウインクしながらゆっくりと動いて私の視界から隠れてしまったのだ。

 おかげで私はそのまま第三王子にエスコートされ、店員に婚約者同士と間違われて店内に入店することになってしまったのである。



 どうしてこうなってしまったの……


 私の頭の中は疑問だらけになっている。それはそうだろう。ユリが後ろにいるにしても休みの日に個室で王族と紅茶を一緒に飲んでいるのだから。

 しかも渦中の人物、ウルフイット第三王子……美しき銀狼と。

 まあ、私には冷酷な牙のイメージの方が強いが。何せいくら美しいお顔でも私にとっては例の件もあるので今だに恐怖しかないから。

 先ほどのことがあってもだ。

 それは近くにいて痛いほど理解できた。

 だから必死に震えそうになる手を押さえながら味の全くわからない紅茶を無言で飲んでいたのだ。第三王子が口を開くまで。


「……俺が怖いか?」


 その問いにはもちろん答えられるはずない。本当の事を言ったら終わりだと思っているから。

 すると、そんな私の考えを察してくれたのか第三王子は苦笑する。


「今のは忘れてくれ」


 そして紅茶を一口飲むと今度は目を細めながら仰ってきたのである。


「あのクッキーはこの紅茶を使ってるのだろう。しかも曜日で茶葉を変えている。月曜と水曜はダージリン、火曜と木曜はカモミール、金曜はセージだ」

「えっ……」


 私は驚き第三王子を見つめる。すると第三王子が見つめ返してきた。


「アルバンが食べないからいつも俺がもらっていた」

「……ああ、そういうことでしたか」


 腑に落ちてしまった。

 やっぱり、アルバン様は私のことを金蔓としか思ってないことを。出会ったあの日から。

 ちなみにアルバン様との出会いはお父様の経営する商会のパーティーである。参加者のダナトフ子爵が私の話し相手にと連れてきたのだ。

 もちろん最初はただの話し相手だったのだ。


 それが、いつの間にか……


 過去の自分の単純さに呆れていると第三王子が怪訝な表情を浮かべた。


「落ち込まないのか?」

「なぜ落ち込むのですか?」


 不敬だと思ったが逆に聞き返すと第三王子は腕を組み少し俯いた。


「婚約者じゃないか……」

「まあ、確かに婚約者ですけれど……」

「けれど?」


 私が黙ってしまっていると第三王子は怪訝な表情を浮かべた。


「なあ、お前はアルバンの事をどう思っているんだ?」

「ええと……」


 どう答えていいか迷っていると第三王子は咳払いした後、ゆっくりと顔を上げ仰ってきたのだ。


「もし、お前があいつと婚約関係を解消したいなら手を貸そうと思ってるんだが」

「えっ……」


 耳を疑ってしまった。今、この人は何を口にしたのだろうと。

 すると第三王子はそれを察したのか再び仰ってきた。


「お前がアルバンと婚約関係を解消したいなら手を貸す」


 今度はちゃんと理解でき驚いて立ち上がってしまう。


「私とアルバン様が……」


 おそるおそる視線を向けると第三王子は力強く頷いてきた。


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