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アルバン・ダナトフside.
あれから北の鉱山に送られた僕は寒さの中、薄着で毎日のように採掘させられていた。
しかも休みなくだ。
なのにである。
一年程経ったある日、岩盤が崩落してそれに父が巻き込まれ亡くなった所為で本来なら父が稼がなきゃいけないホイット子爵家に返す融資分と慰謝料が僕に上乗せされてしまったのだ。
正直いって最悪だった。
まあ、しばらくすると監督官からダナトフ子爵家の領地を慰謝料の一部と融資の回収分としてホイット子爵家が王家から承ったらしく、慰謝料の一部と融資分はもう良いと言われ胸を撫で下ろしたが。
いや、すぐに撫で下ろした胸はムカムカしてしまったけれど。
だって、ここから出れたらいずれ僕のものになるはずだったダナトフ子爵家の領地にある邪魔な岩山から金鉱が見つかったから。
「いや、違うっけ? 平民になるから僕の領地にはもうならないとか言ってたな……くそっ、よくわからない。とにかく僕とフィーネが結婚していたら今頃、毎日のように遊んでいられたのに!」
怒りのあまりツルハシを岩に叩きつけるとなんの変哲もない小さな石が飛び散った。
まあ、もしかしたら小さな宝石も混ざっているだろうが。
でも、ここではある程度の大きな宝石以外何の価値もないのだ。
それは僕にとっても。
だって融資分と慰謝料の一部はもう払わなくて良くなったのだから。
ただ、しばらくツルハシを岩に叩きつけているうちに疑問が浮かび上がってしまったけれど。
後、どれくらい働けば良いのだと。
何せこっちへ来てからというものすっかり計算ができなくなり今の僕ではいつこの場所から出れるかさっぱりだから。
「まあ、だからってあいつに聞けば問題ないいんだけどな」
僕はツルハシを振るう手を止め、少し離れた場所で小さな石ころを拾っている弟レンゲルの側に行く。
「なあ、融資分と慰謝料の一部は払わなくて良くなったんだが、後、僕達はどれくらいで出られるんだ?」
「俺は来年でアルバン、あんたは二十年ってところだな」
「はっ⁉︎ なんで、お前は来年に出れるんだよ? しかも僕は二十年って……」
するとレンゲルは呆れた表情を向けてくる。
「そんなの当たり前だろう。俺は融資してもらったお金を勝手に親が生活費に充ててただけだからな。それに俺は後、懲役刑ってやつを満了すればいいだけだから残り一年で良いんだよ」
「い、いや、それでもおかしいだろう!」
「俺は一応恩赦があるからな……。だがアルバン、あんたはホイット伯爵令嬢に対しての莫大な慰謝料と金目当てで近づいた詐欺罪に婚約者がいながら不貞行為をした罪があるだろう。本当なら四十年ぐらい入ってなきゃいけなかったんだからホイット伯爵家に感謝するんだな」
「四十年も二十年も一緒だろう! 出る頃は僕は年寄りじゃないか!」
「ふん、それは自分が悪いんだろうが。そんなに早く出たいなら珍しい宝石でも採掘するんだな。そうすれば刑期を減らしてくれるらしいぞ」
「そ、それは本当か⁉︎」
「看守に聞けよ」
そう言ってレンゲルは奥にいる看守を指差したので僕は慌てて看守の元に走っていく。
「看守、珍しい宝石を見つけたら刑期が減るって聞いたが本当か?」
「本当だ。最高で十年ぐらい減るが……十年に一回出るかどうかだ。まあ、期待しないでやった方がいい」
「ぜ、絶対に僕が必ず見つけてやるよ」
「はっ! まあ、頑張れや」
看守は小馬鹿にした表情を浮かべながら去っていく。そんな看守の背中を睨みつけた後、僕は近くの岩場にツルハシを振り下ろした。
「絶対に見つけてやる! それで、刑期を減らして早く出るんだ!」
僕は怒りを糧に何度も振り下ろす。何回も、何十回も、何百回も、何千回も。
その間、レンゲルは刑期を終えて外に出て行った。次はリーシュの父親デルフが病死をした。
そして何万回目にレンゲルが農家の娘と結婚して子供ができたと手紙がきた。
もちろん僕はその時ばかりはツルハシを振るう手を止め鼻で笑ったよ。
だって僕は農家じゃなくお金を持ってる商家の娘と結婚するのだから。
フィーネのような娘とね。
だから絶対に珍しい宝石を掘り当ててやると再びツルハシを握る力を強め振り下ろしたのだ。
するとどうやら願いが叶ったらしい。何十万回を超え数えるのをやめた頃、ついに珍しい宝石を見つけたのだ。
僕はその宝石を掴み飛び上がる。
「や、やったぞ!」
「おお、凄いじゃないか爺さん!」
若い看守がそう言って僕を褒める。
でも、僕は嬉しさよりも看守の言葉に驚いてしまったのだ。
「えっ、爺さん?」
「あれ、間違えたよ。まだ、おっさんだな」
「おっ……おっさん」
慌てて自分の顔を触ると髭面に深い皺ができていた。正直、ショックで呆然としてしまう。でも、そんな僕の肩を看守が空気を読まずに笑顔で叩いてきたのだ。
「刑期は残り一年だから今日中に出れるぞ。良かったな!」
そして呆然とする僕を連れ出所祝いに少しだけお金を渡されると、あっという間に北の鉱山から出されてしまったのだ。
もちろん僕は何をしていいかわからなく呆然と立ち尽くす。しかも手にしたお金の形が見たことないものになり年号が変わっていることに気づくとショックで倒れてしまうのだった。
その後のアルバンはふらふらと彷徨いながら辿り着いた港の小汚い酒場で雑用をしながら日々ぎりぎりを生きているらしい。
アルバン・ダナトフside.終
◇
私はあれからランドール様と結婚し、一年後には子宝にも恵まれ、毎日忙しくも幸せな日々を過ごしている。
ちなみに父は家督をランドール様に譲ったが未だに領地経営を手伝ってくれている。どうやら、孫に格好良いところを見せたいらしい。母はそんな父に呆れながらも、いつも側でお手伝いをしていて私達には良い夫婦の見本になっている。
そんなホイット伯爵家にある日、凄い情報が飛び込んできたのだ。
「モルドール王国の内戦が終わるのですか。ランドール様、そうなるとあの国はどうなるのですか?」
「モルドール共和国になるらしい。まあ、平和と平等を掲げる国になるから心配しなくても大丈夫だ。むしろウルフイット王国も良い刺激を受けてくれるだろう」
「良かったですわ。だってこの子の為にも良くなってもらいたいですからね」
私がお腹を撫でるとランドール様は勢いよく立ち上がる。
そして慎重に私の側に来てお腹に手を置き頬を緩めたのだ。
「……そうか、二人目か」
「はい」
「……フィーネ、俺は幸せ者だな」
ランドール様は私を抱きしめてくる。
だから私も心から思った事を口にするのだった。
私も幸せですよ、ランドール様……と。
fin.
 




