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リーシュside.
どうしてこうなったのよ。ちょっとあの成金地味女を脅して言う事聞かせてやろうとしただけじゃない!
なのにあんな事になるなんて……。おかげでドレスや宝石も手に入れられないじゃないのよ。
これも全て……
私は近くで俯いている雇った糞女を睨む。
こいつはアルバンに隠れて男と遊んでる時に知り会った平民女。私がちょっと成金地味女の話をしたら自分なら脅して金を手に入れられるって言ってきたから雇ってやったのだ。
なのに……なのに……
あの日、私は怒りくるって滅茶苦茶にこいつを殴ってやったことを思いだす。更には女騎士に思いきり蹴り飛ばされたことも。
クソっ! だって悪いのはこの糞女でしょ!
なのになんで私が蹴られなきゃならないのよ!
まあ、すぐにニヤついてしまったが。何せ送られた先は修道院。どうせ体調が悪いとか逃げ回れば弱気な修道女なんて何も押し付けてこないでしょうから。
いいえ、それどころか脅して服従させてやれば自由に行動ができると。
なのに……
アリス修道院に着いたら重い鉄球が付いた足枷をはめられてしまったのだ。しかも毎日のように祈りに服作りに農作業。
もちろん我慢できるわけない。
だから今日は文句を言ってやったのだ。あの成金地味女と同じ感じの監督官の修道女に。
「ちょっと、いつまでこんな事やらせるのよ! こんなんじゃ私は体が弱いからいつか倒れちゃうわよ!」
すると近くにいたお母さんが顔を真っ青にして顔をぶんぶん横に振ってきたのだ。それ以上は何も言うなという表情で。
もちろん私はそんなの無視する。
だってこんな弱っちい奴を怖がる理由なんてないからだ。
全くね。
そう思って肩をすくめていたらいきなり左頬に強い衝撃がきて気づいたら殺風景な狭い自分の部屋の床に寝転がっていたのだ。
しかも左頬は腫れ上がり歯が一本抜けて。
もちろん痛みで私は飛び跳ねたのは言うまでもない。
「痛ああああいっ! 痛いよおおっ!」
すると同室のマニーが叫んできた。
「うるさいわよ! 寝れないじゃない!」
「ああっ⁉︎ あんた、私が痛がってるんだから少しは労りなさいよ!」
「誰がするか! あんたの分まで私達は仕事させられたのよ! もう、ふざけた事しないでよ!」
「何よそれ? 酷いことさせるじゃない。訴えてやりましょうよ!」
「だからふざけた事するなと言ってるのよ!」
マニーは私の胸ぐらを掴み叩いてきたのでカチンときて叩き返す。すぐにそれは発展して殴り合いになった。
「あんたのせいで!」
「私は何も悪くない!」
「はっ、何言ってんのよ!」
顔中腫らしたマニーが私の首を絞めてくる。
すると部屋の扉が突然開き沢山の修道女が入ってきて私達を無言で袋叩きにしてきたのだ。
おかげで私もマニーもあっという間に痛みで気を失ってしまう。
しかも朝はいつものように叩き起こされ体中痣だらけの状態のまま仕事をさせられたのだ。
正直、心が折れそうだった。
でも私みたいな良い女がこんなところで腐るなんて間違っている。だからまた言ってやったのだ。
「私のこの体を使えばかなり稼げるわよ」
しかし修道女は一瞥するだけ。
なので思わずイラッとして胸ぐらを掴み怒鳴ってやったのだ。
「他の女だって外に行ってるじゃない! 私の方が良い体してるわよ!」
すると修道女はやっと私を値踏みしてきたのだ。
しかも何回か頷き。
もちろん私は他の女のようにいつまでも男の相手をするつもりはない。金を沢山稼いだらそのまま逃げてやるつもりである。
ただし金持ちが多い国にね。
私は笑みを向けながらしなを作っていると修道女がゆっくりと離れる。
「あなたは一番簡単な仕事しかやってないみたいだけど綺麗な刺繍とか人に何かを教えるとかできるの?」
「そんなのできるわけないじゃない」
「じゃあ、無理ね。だって外に出てるのは能力があってここで品行方正に努めている者だけですから」
「そんなの出来なくても、私はこの体を使って稼いでやろうって言ってるのよ! 絶対、大金稼げるわよ!」
私は更にしなを作ってやる。
しかし、すぐに右頬に強烈な痛みが襲い私の意識は飛んでしまったのだ。
目を覚ますと自分の部屋の床の上だった。
しかも……
今度は右頬が腫れ上がり今度は二本も歯が抜けていたのである。
「いだああああいいいぃっーーー! 痛いよお!」
私は床をのたうち回る。すぐに同室のマニーが叫んできた。
「本当にうるさい! てか、また迷惑かけて! おかげでダナトフ夫人がついに心労で倒れたわよ!」
「別に良いじゃない! あんなババアどうなろうが!」
「だから、連帯で動いてるから私とママとよくわかんない女に重しが来んのよ! なんでその頭は考える力がないのよ!」
「ちゃんと考えてるわよ! ほら、私って良い女じゃない? だから外に出て良い男捕まえて金蔓にして稼いだら、さっさとこんなとこからおさらばするのよ」
「はあっ? そんな下品なことを修道院がさせるわけないでしょ! それにあまり馬鹿な事したりしてると医学の発展の為に研究室に送られて生きたまま解剖されるって最初に言われたでしょう! だから、真面目にやろうよ! 私達はママ達と違って外に出るチャンスがあるんだから!」
「嫌よ! 私はすぐに出たいのよ!」
「なっ⁉︎ こ、この、わからずやのアバズレ女!」
「うるさい! ガキ女!」
私達はお互いに罵倒し合い殴りあいを始めると、すぐに扉が開いて沢山の修道女が入ってくる。
そして私達を無言で袋叩きにしてきたのだ。
もちろん私達はまた朝まで気を失ってしまった。
ただし今回は目を覚ますと私だけ修道長の元に連れてかれたが。
「あなたは真面目に働く気はないのかしら?」
修道長が睨んでくるが私は肩をすくめる。
「なんでそんな事しなきゃいけないのよ?」
「……あなたはホイット子爵家のお金を勝手に使って遊び歩いたりドレスや宝石を買ったのよ」
「そんなの勝手にお金を持ち出したアルバンが悪いんじゃない!」
「あなたは知っていて使ったのでしょう? なら同罪よ。それに莫大な慰謝料もあるのよ。このままじゃ、あなたここで一生過ごす事になるわよ」
「はっ⁉︎ そんなの嫌に決まってるでしょ! あなたがどうにかしなさいよ!」
「……どうにかとは?」
「そんなの私が外に出て自由になる事に決まってるでしょ! そんな事もわからないなんて馬鹿じゃないの!」
私は理不尽修道長を睨むとなぜか溜め息を吐かれた。
「はあっ……。仕方ないわね」
そしてそう呟くと修道長は呼び鈴を鳴らしたのだ。
すると沢山の修道女が入ってくるなり私を羽交い締めにし何かを嗅がせてきたのである。
「アリス修道院を出て文字通り自由にさせてあげるわ」
意識が途端にボーっとするなか修道長がそう言ってきた。直後、私は笑みを浮かべながら意識を失うのだった。
◇
目が覚めるとなぜか裸のまま真っ白い部屋に寝かされていた。しかも体はベルトで拘束され。
「な、なんなのよこれは⁉︎」
思わず叫ぶと白いローブを着た医師らしき人物が私に近づいてくる。
「ここは解剖室だよ。これから生きたまま体を捌いていく。なに、痛みはない様に麻酔はかけておくから安心しなさい」
「えっ、何言ってんのよ?」
しかし、医師の淡々と器具を弄る姿勢に次第にやばいと感じた私は自然と叫んでしまったのだ。
「いやああああっ! 誰が助けてえーーー!」
「はっはっは、最初はみんなそう言うんだよ。けどね、私の話を聞いているうちに医学の為に貢献したいって言ってくれるようになるんだよ」
「ち、ちょっと話を聞いてよ! ほら、私って良い女じゃない⁉︎ だから、楽しませてあげるわ!」
「ああ、これから楽しませてもらうよ。良い女の体を解剖できる。こんなに楽しい事はないね」
「違う違う違ーーーーう! 私の話をしっかり聞いてよ!」
「解剖しながらちゃんと聞いてあげるよ。ほら、麻酔いくよ」
「ひーーー! 体に感覚がなくなるううぅ!」
意識が飛びそうになっていると何やらガリガリと音がし始め医師が血まみれの手で何かを掴み見せてきた。
「これ内臓の一つで肝臓ね。だから、君のお腹の中には肝臓はもうないぞうって。はははっ」
「ぐぎゃあああああ! 戻して戻してよ!」
私は叫びまくるが医師は気にする様子もなく体に手を持っていきぶつぶつ呟く。
「次はこれかな……」
「ち、ちょっと聞いてるの⁉︎」
「聞いてるよ。早く次のが見たいんだろ? ほら、これ大腸って言って体の中にこんな長いのが入ってるんだよ。いやあ、凄くない?」
「ぎゃあああっ! 凄くない! 戻してええ!」
「大丈夫、中に戻しといたよ。次は……」
もう限界だった。話が通じない相手がこんなにやばいなんて思わなかった。
しかも、この医師は自分がやってる事を全く悪いと感じてないのだ。
そう思った直後、私が今までしてきた事と重なってしまったのである。
思わず涙が出てしまった。何せこんなに酷いことを色々な人にしていたのだから。
特に彼女に……
私は後悔の念に晒されながら唇を噛み締める。
すると医師が何かをぶらぶらさせ尋ねてきたのだ。
「これ、何かわかる?」
「……わかりません」
「心臓だよ。見てよ。こうやって手で鷲掴みして君のハートを鷲掴みって……ああ、もう聞いてないかな?」
私は沈みゆく意識の中で聞こえてますと答え、そのまま暗闇の中に落ちていくのだった。
◇
目を開けると自分の部屋だった。私は起き上がり自分の体を触りほっとする。
「な、なんともない……」
「今回はなんともなかっただけよ」
「えっ……」
声が聞こえた方向を見る。修道長が椅子に座ってこちらを見つめていた。
「次は本当に自由にさせてあげる。ただしその体からもね」
そう淡々と言うと修道長は部屋を出て行てしまった。
その後、リーシュは人が変わった様に修道院の仕事を積極的にやるようになったのだった。
リーシュside.終




