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どうやら婚約者が私と婚約したくなかったようなので婚約解消させて頂きます。後、うちを金蔓にしようとした事はゆるしません。  作者: しげむろゆうき


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 あれから私は手を縛られてダーマル男爵夫人の横に座らされていた。

 いや、正直いうと放置されていると言った方がいいのかもしれない。何せ後少しで国境、私と会話する理由もないからだ。

 一言も。


 まあ、私の方はあるのだけれど。


 だってこのままだと娼館行き、もしくは途中で刺されて馬車から放り出されるというろくでもない末路を辿る可能性もあるからだ。

 もちろんそんなのは嫌である。

 だからなるべく平静さを保ちながら二人の方に顔を向け、交渉の余地はないだろうかと話しかけたのである。


「……あの、子爵家の令嬢ではありますが私如きではきっと人質にすらなりません。それに国境では絶対に捕まってしまいますよ。あの老若男女さえ悪人なら斬り殺すウルフイット王国騎士団に」


 するとダーマル男爵が勢いよく振り返る。そして怯えだした夫人を一瞥した後に怒鳴ってきたのだ。


「やめろ! お、お前の話を聞かなくても国境付近の指定した場所にさえ着ければ向こうが手配した者が私達を守ってくれる!」

「向こうが手配した者? 本当に来てくれるのでしょうか? 危ない橋を渡ってまで」


 私はなるべく笑顔を作りそう言うとダーマル男爵は歯軋りしながら黙ってしまった。要は交渉は失敗してしまったのだ。

 まあ、ダーマル男爵の態度で一つだけわかったことはあったが。

 相手とは口約束程度しかできなかったのだろうと。

 だから嫌な考えが浮かんでしまったのである。私共々消されてしまうのでないかと。

 だって、わざわざ逃げてくる者達をリスクをおかしてまで助ける義理はない、情報を聞き出し次第消してしまうのが普通だろうから。


 彼らを誑かした者に。


 私は良いように利用されてしまったダーマル男爵を憐れんだ目で見つめる。

 それから唇を噛み締めてしまったのだ。誰だかわからないがこの国を脅かそうとしているからだ。私の大切な家族がいる国を。

 もちろん許せなかった。

 まあ、だからといって今の無力な私に何かできるとは思えないのだけれど。


「ふうっ……」


 思わず溜め息を吐いていると馬車の速度がゆっくりと落ちていく。

 きっと目的地に着いたのだろう。

 それを証拠に馬車が完全に止まると扉が開きマニー嬢が言ってきたからだ。


「到着したわよ」


 だから私は緊張しながらダーマル男爵家の動向に注目したのだ。

 私のこの先の運命も決まる可能性があるからだ。

 まあ、蓋を開けてみたらダーマル男爵は私のことなんて気にせず夫人と共に外に出ていってしまったが。


「へへへ、だから言ったろ。ちゃんと手の者が迎えに来てるって」

「ふふふ、これで私達も今日からモルドール王国の国民ね。じゃあ、さっさと話をしに行きましょう」


 しかも彼らを誑かした者に会いに。

 だから彼らのおこなったことは許されないが不憫に思ってしまったのだ。

 きっと想像通りのことが起きる確率の方が大きいから。


 最悪の……


 私は想像して震えているとドアが開きレンゲル様が顔を覗かせてきた。


「静かにしていれば悪いようにはしない。向こうに着いたら住む場所も用意する」

「……娼館に入れると言ってましたよ」

「そんな事は絶対させない」


 強い意思を込めてレンゲル様が仰ってこられたので私は驚いでしまう。


「どうしてそこまでしてくれるのですか?」

「あなたには助けられた事がある。その恩は返さないといけないからだ」


 レンゲル様は自分の胸を指差す。それで理解した。

 

「もう、お怪我は良くなったのですか?」

「あなたの手当てが早くて大事にならなかった」

「そう、良かったわ」

「……責めないのか? こんな事をさせるために手当てをしたんじゃないって」

「ご事情があるのでしょう」


 するとレンゲル様は目を見開き泣きそうな顔になる。それから俯きながら仰ってきたのだ。


「……親は経営で失敗して借金だらけ。兄アルバンはあまりにも馬鹿過ぎて話にならない。そして、あの一家は病原菌を持った寄生虫だ。おかげでダナトフ子爵家も国家反逆罪という病気にかかってしまった。もう、俺にはこの道しかない……」

「誰かに相談はできなかったのでしょうか?」

「怖かったんだ。俺の一言で全てが終わるかもと思ったら。だから、まだバレない、まだ大丈夫って言い聞かせた」

「そして気づいたら後戻りできなくなってしまったと……」

「ああ、俺もいつの間にか病気になっていたよ……」


 自嘲気味に笑うレンゲル様に私は何も言えなくなってしまう。アルバン様の弟である彼とは何度も挨拶などをしていたのに気づいてあげられなかったからだ。


「ごめんなさい」


 だから心から謝ったのだ。レンゲル様は驚いた表情で見つめてきた。


「……どうして謝るんだ?」

「気づいてあげられませんでした」

「当たり前だ。必死に隠してたんだ。必死に。だからあなたは気にする必要はない……」


 レンゲル様は悲しげに私をじっと見つめる。


「なんでアルバンだったのだろう。もし俺だったら……」


 しかし途中で頭を振り口を閉じると慌てて駆け寄ってくるマニー嬢の方を向いたのだ。


「どうした?」

「やばいよレンゲル! あいつらパパとママを取り押さえてるのよ!」

「なんだと⁉︎」


 レンゲル様は慌ててモルドール王国の手の者がいる方を見る。それからナイフを取り出すと私を縛る縄を切ったのだ。


「レンゲル様?」

「向こうの扉を開けて全力で逃げろ!」


 私は無言で頷くと反対側の扉を開けて馬車から出る。

 だけどすぐに動けなくなってしまう。ナイフが足元の地面に突き刺さったから。フードで顔を隠し外套を着た男がこちらにやってきたからだ。

 もちろん私達を捕まえにだろう。ただし、騒げば殺すとナイフをちらつかせながら。

 だからここは大人しくすることにしたのだ。チャンスはまだあるから。


「どうすればよろしいのでしょうか?」


 男は顎でダーマル男爵の場所に行けと指示してくる。レンゲル様が慌てて男に駆け寄った。


「その人は何も知らないんだ! 逃がしてやってくれ!」


 すると男はレンゲル様に素早く駆け寄る。


「ふん、既にこの場にいる時点で知ってしまっただろうに。だから、馬鹿は嫌いなんだ。それにろくな情報も手に入れられないお前らもな」


 そしてレンゲル様の顔を勢いよく蹴り上げたのだ。


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