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第1話

月曜日だけど、今日も生きよう。



皆さん、本日はお忙しい中、集まって頂き申し訳ない。


まぁ、俺が呼んだわけでもないし、暇だから来てる人もいるのかな。


とは言え、間違いなく、仕事だから来てる人、忙しいのに来てる人もいるだろう。


面倒だと思われてるのかな。


いや、実際問題、他に優先すべきことがある人は、そっちに注力してよ。


俺はそれで問題ないから。


どうやら、来て欲しかった人たちは、ちゃんと来てるみたいだしね。


そんな話はどうでもいいか。


今日はね、言いたいことがあって、ここに立っている。


うん、自殺する前に、ね。


どうせ死ぬんだったら、言いたくても言えなかったこと、誰に言ったらいいのかわからなかったこと、やり場のなかった怒りとか、感情みたいなものを、吐いておこうと思ってる。


残念ながら、面白い話にはならないと思うよ。


俺にはそういうユーモアがないみたいだから。


言いたいことを言いきって、ここから飛び降りる。


それだけの話さ。


あっと、頼むからそれ以上近づかないでくれ。


それと、黙ってくれ。


悔いは残したくないんだ。


自分で飛び降りるのと、飛び降りさせられるのじゃ、意味がまったく違う。


あんたらだって、嫌だろ?


自分たちのせいにされるのは。


それ以上、近づくなら、飛び降りる前に、ハッキリと宣言するよ。


マスコミのせいで飛び降りることになった!ってね。


はぁ?


警察のせいにするわけないじゃん。


この方々は、俺が飛び降りないように説得に来てくれてるんだよ。


自分たちのことを棚に上げてバカなことを言うな。


あんたらも仕事なんだろうけど、一緒にするなって。


何様だよ、まったく。


言っておくけど、あんたらに対しても言いたいことはあるんだ。


焦んなくても、ちゃんと時間は作るから、ちょっと待ってろ。


まず、最初だ。


最初に言いたいこと。


最初に言っておきたいのは、死にたいだとか、生きるのが辛いと感じている連中、つまりこれから自殺するかもしれない、っていう奴に対して、だ。


とりあえず、お前、死ぬなよ。


自殺しても、良いことなんか何もないぞ。


何で死のうと思ったかは俺にはわからないけど、もうちょっと生きてみろよ。


お前だって、本当に死にたいわけじゃないだろ?


心の底から死にたいなんて、思ってないだろ?


生きるのがしんどいから、死にたいって思ってるんじゃないのか?


本当は生きたくてしょうがないんじゃないのか?


死ぬしかない、って思うくらいに追い込まれてるんじゃないのか?


だとしたら、辛いよな。


きっと、誰もお前を助けてくれないんだろ。


そうとう、しんどいよ。


苦しいよな、きっと。


死にたいくらい辛いなんて、そりゃないよな。


俺には想像することしかできない。


いや、想像を絶するよ。


お前の辛さを理解することなんてできやしない。


お前の辛さを理解できるのは、お前だけなんだよな。


でも、できることなら、生き抜いて欲しい。


頑張れなんて軽はずみに言えないけど、お前には、生き続けて欲しい。


けど、まぁ、そうだな・・・。


いいや、何でもない。


ふー。


・・・。


そりゃ、死んだら終わりさ。


何もかも、終わるよ。


辛いことも、嫌なことも、不愉快なことも、何もかもが消えてなくなる。


お前の人生の真ん中にいる、お前が死ぬんだからな。


お前の人生が終われば、お前の世界は終わる。


残る人間なんか、関係ない。


お前が終われば、それで終わりだ。


だけど、本当にそれでいいのか?


人間は、いつか必ず死ぬんだぞ?


お前だって例外じゃないし、俺だってそうさ。


っていうか、これから自殺しようっていう俺にこんなことを言われたかないか。


まぁ、そう言うな。


俺の死にたいは、興味本位なんだ。


誰だって、一度くらいは死んだらどうなるんだろう、って考えるだろ?


俺は昔から、一回でいいから死んでみたいって考えていたんだ。


だけど、当たり前だけど、死んだら終わりなんだよ。


一回死んで、また生きてみようなんてのは都合のいい話で、あり得ないことだ。


人間は、死んだら終わりだ。


これは絶対だ。


そして、人間は、いつか必ず死ぬ。


これも絶対だ。


だから、俺も今日まで生きてきたわけだけど、なんでかな。


生きたいって気持ちより、死にたいって気持ちの方が、大きくなっちゃったんだよ。


だから今、ここに立っている。


後、一歩、外に踏み出せば、下に落ちる。


この高さだ。


まず、助からない。


ほぼほぼ、死ぬな。


今、まさに、俺は生死の境目に立っている。


でも、考えたら、誰だって、常に生死の境目にいるようなもんなんだよ。


気付いてないのか、考えないようにしているだけなのかはわからないけどさ。


だってそうだろ?


フェンスの向こう側にいる連中だって似たようなもんだ。


俺と同じようにフェンスを越えてこっちに来れば、いつだって飛び降りることができる。


日常生活において、高速で走る自動車や電車とすれ違う機会はどれくらいある?


ほんの1メートルでも横にずれたら、生命に係わる事故になり得る状況はいくらでもあるだろ?


100円均一ショップで鋭利なナイフや包丁が購入できるのは知っているよな?


誰がどう見てもわかる凶器さ。


あの凶器があれば、小学校に入る前の子供だとしても、現役バリバリの格闘家の人生を終わらせることだって可能だ。


もちろん寝込みを襲うようなスキをついたり、首とか急所とか狙う必要はあるけどな。


だけど、事実として、俺たちはいつだって死ぬ可能性があるんだ。


みんな、事故らないように注意したり、子供に刃物を持たせないようにしたり、高層ビル屋上のフェンスを越えたりしないから、忘れがちだけど、実は、死ぬことは、思ってるよりも、近くにある。


それほど、特別なことじゃない。


俺たちは、その気になれば、いつだって死ねるんだ。


その気にならなくたって、ひょんなことで死んじまうんだ。


そう思うと、安心するよ。


だから、死にたいとか、生きるのが辛いとか、自殺してやろうと考えてるなら、ちょっと待ってくれ。


俺も、お前も、いつだって、死ねるんだ。


だけど、死んだら終わりなんだ。


俺は今、死ぬ前に、こうして話をしている。


どうだ、凄いだろう?


ただの高校生が、これだけの人間の前で、好き勝手に喋ってるんだ。


カメラを持ったマスコミがかなりいる。


スマホで撮影してる連中もたくさんいるな。


きっとお前も、テレビや動画の配信で、俺の喋りを聞いてくれてるんだろ?


いったい、どれくらいの人間が、俺の話を聞いているんだろう。


なぁ、俺の声は、お前に届いているか?


痛快だよ。


ざまぁみろ、だ。


死んだら終わりだ。


だけど、死んでなければ、こんなこともできる。


生きているからこそ、こんなことができるんだ。


凄くないか?


あぁ、それから、言っておくけど、真似するのはやめてくれよ。


それは、面白くない。


まったく面白くない。


二番煎じ、ってやつだ。


退屈だよ。


貧困な発想だ。


誰にだってできる。


面白くない退屈な人間に真似されるのは非常に不愉快だ。


人間性を疑う。


どうかしてるよ。


やめてくれ。


とは言え、真似されることは止めようがない、とも思っている。


実のところ、俺だって誰かを真似してこうしてるのかもしれない。


意識してないだけでな。


だから、真似すんなって言っても、言うだけ無駄だとも思っている。


ただ、どうせ真似するなら、オリジナリティを入れて、俺を笑わせて欲しい。


死んじまったら、笑うこともできないがな。


とりあえず、自殺だけはガチでやめとけ。


俺は、まだ自殺したわけじゃないからな。


言う権利はあるだろ?


俺の場合、さっき少し言ったけど、興味本位だからさ。


生きるのが嫌で自殺するわけじゃないんだ。


死んでみたいんだよ。


ガキの頃から、ずっと考えてたんだ。


どうやって死のうかって。


今もガキだけどな。


でも、10年くらいは思い続けてる。


小学校に入る頃には、死に対する好奇心があったんだ。


死んだら、どうなるんだろうって。


みんなそうなのかと思ってたんだけど、そうじゃないみたいだな。


なんでそんなに強く死ぬことに惹かれたのかという話は、言わないでおく。


言いたくないことだから。


ただ、事実として、どうやって死のうとか、死ぬときに何か面白いことをしたいとか、そんなことばかり考えて生きてきた。


俺はさ、本当は、どうせ自殺するなら、どうせ死ぬんだったら、この世に生きる、人間全員を笑わせるような死に方をしたいって考えてたんだ。


ただまぁ、残念ながら、そういう死に方はできそうにない。


どうしたらいいか、わからなかったからな。


短い人生の中で考えたけど、結論に辿り着けなかったんだ。


俺がよっぽど嫌われてる人間だったら、自殺したら笑ってもらえる。


なんて考えたりもしたよ。


別に、他人から嫌われるのなんて苦でもなんでもねーんだけどさ。


笑われるのと、笑わせるのじゃ、意味が違いすぎるんだ。


そういうことじゃないんだよ。


それに、死んじまったら確認しようがない。


ちゃんと、全員が、笑ったかどうかなんて、死んだらわからないだろ。


どうせなら、生きて、見てみたいじゃないか。


世界中の人間が笑うところを。


世界に生きる人間全員を笑わせられるなら、俺が死ぬことなんて屁ぇみたいなもんさ。


とんでもない経験だ。


少なくとも、命を懸ける価値はあると思うよ。


だって、長い人類の歴史の中で、誰一人として成し得ていない、偉業中の偉業だぜ?


世界中の人間が同時に笑ったら、それは間違いなく、今この瞬間こそ世界平和だ!って、言えるんじゃないか?


本当の意味で、世界が平和になったことが、これまで一度でもあるか?


たぶん、ないんだよ。


俺たちが知る歴史の中じゃあな。


それって、とんでもないことだぜ。


歴史上の有名人でも、できなかったことさ。


歴史に名前を残したいと思わないけど、誰もできなかったことを、自分が達成したら、てなことを想像すると、テンションが上がらないか?


ちょっと話は逸れるけど。


俺はさ、世界、というか人類は、平和であったり、繁栄を目指すべきだと思うんだ。


誰一人、例外なく。


俺は別に、化学の何もかも信じているわけじゃないけど、知識として知ってる限りじゃ、俺たちが生命として誕生する前に、父親のヘソの下から、母親のヘソの下に、自分とその他の数億の可能性と共に移動して、どういうわけかその中から生命として誕生した命が、自分なんだって認識している。


どういう理屈なのかは覚えてないけど、少なくとも、俺たちはその数億の可能性の中でもっとも「生きたい」と強く願った存在だからこそ、産まれて、今こうして生きているんだと思うんだ。


まぁ、その可能性という存在だった頃に、何かを願えるような意思や精神が宿ってたかどうかはわからないけどな。


とは言えだ。


この世に生きる人間は全員、そんな数億の可能性の中から誕生したわけでさ、死にたいって思いながら産まれてくる奴なんかいないはずなんだよ。


だったら全員、生きりゃいいわけだろ?


死にたいって思わせるような世界じゃなくて、生きることが辛いって感じるような世界じゃなくて、平和で、誰しもが笑って、ストレスなく生きられるような世界を人類は目指すべきなんじゃないか?


俺は、何か変なことを言っているか?


ふー。


だが実際の世界はどうだ!?


ろくでなしのクソ野郎ばっかりじゃねーかッ!


今がよけりゃそれでいい、自分がよけりゃ他人なんて知ったこっちゃねぇ、そんな連中だらけだッ!!


ふざけんじゃねーよバカ野郎ッッ!!!


いや・・・まぁ、今がよければいいっていう考え方が、間違ってるとも思わない。


それはそれで、大事なことだとも思うんだ。


たださぁ、それだけじゃないだろって。


ほかにすることはないのですか?って言いたいんだよ、俺は。


ここまで俺が言ったことを聞いて、俺のことを、頭がおかしいって思ってる奴は、きっといるだろう。


そういう奴に言ってやりたいよ。


お互い様だってな。


いいか?


俺は命懸けだ。


命を懸けて、言いたいことを言う。


人によっては、一切、何も響かないかもしれない。


何を言っても理解しようとすらしない連中には、言うだけ無駄かもしれない。


だけど、今、俺がこうして喋ってるのを、聞いてくれてる人たちがいる。


耳を傾けてくれる人たちがいる。


それなら、言う価値はある。


そう思ってるよ。


デカい声を出してすまない。


冷静になる。


・・・。


あー、だから、最初に戻るけど、これから自殺するかもしれない奴。


なるべく手短に済ますから、ちょっと俺の話を聞いてくれないか。


慌てなくても、俺も、お前も、クソみたいな連中も、いつか必ず死ぬから。


安心しろ。


慌てないでくれ。


焦らないでくれ。


落ち着いてくれ。


とりあえず、今は、生き続けてくれ。


頼むよ。


俺はこれから、俺が言いたいことを言い切ったら、面白いことが起きると想像している。


過度な期待は禁物だけどな。


ここまで話を聞いてくれたんだ。


せっかくだから、最後まで付き合って欲しい。


無責任と言われたくないから言っておくが、判断するのは、お前自身だ。


まぁ、任せた。


で、だ。


次は、おたくらに対して言いたいことを言おうと思う。


待たせたね。


マスコミの皆さん。


そして。


アホ面ぶら下げて、この映像を見ている、視聴者の皆さん。



俺が死ぬのを、そんなに見たいんですか?



この物語はフィクションです。

自殺は絶対にやめましょう。

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