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18話 かくて錬金術師は1つ進む

 

「ここ、意外に本格的な迷路系ダンジョンですね」


「ですね〜」


 ダンジョン泉に入るために、迷宮探索を行うユナとリリー。


「あ、ゴブリン」


「ですね〜」


 ユナが暗殺術を使ってゴブリンを倒す。


「これどっち進みますか?」


「ですね〜」


「あのー、リリーさん?」


「ですね〜」


「リリーってゴキ◯リ大好きですよね」


「ですね〜」


「はぁ………」


 ずっと生返事を続けるリリー。

 ユナはため息をつく。

 たしかにユナも気になるは気になるが、さすがにリリーは気にし過ぎである。

 さすがにダンジョンで気を抜くのはどうかとユナは思う。

 まあ今回は危険はないと分かっているから別に構わないのだが。



「はぁ……アルマさんは、うまくやってるのでしょうか?」



 ……………



 この世界のダンジョンの種類はいくつかある。

 最も危険とされるのはノーマルダンジョンと呼ばれるもので、罠あり迷路ありエネミーありボスあり、のいわゆる普通のダンジョンだ。

 他にはボスのみ出てくる闘技場ダンジョン、罠しか出てこないが凶悪な罠が出てくる罠ダンジョン、宝箱とミミックしか出てこない箱ダンジョン、一方通行で引き返せず正しいゴールにたどり着けばクリアボーナスがもらえる迷路ダンジョン、一度攻略すると消えてしまうが大量の素材やアイテムが手に入るボーナスダンジョンというのもある。


「うーん……この道どっちに進めばいいと思う?」


 今回のダンジョンは迷宮探索という言葉の通り、迷路ダンジョンとなっている。

 ロビンはマッパーという職業柄、罠がある道や敵が多い道を察知することには()けているが、逆に全ての道を試せばいいという考えであるため、こういったダンジョンには弱かった。


「そ、そうだなー。右の道のほうがいいんじゃないか?」


「お、おう。そうか……」


 かつ、今回は非常に困惑しており、余計ロビンの判断は鈍っていた。


「な、なあ、アルマ?」


「んー、なんだい?」


「ちょっと近くないか?」


 アルマの距離がやけに近いのだ。

 これだけ近いと何をされるかわからない。

 正直なところ、ダンジョンに注意を払うというようりかは、アルマに裂く注意のほうが大きかった。


「い、いやー? そ、そんなことないぞー」


「いやいやいやいや、明らかにおかしいだろう!? だってお前、ずっと俺に引っ付いてるじゃないか! 何を企んでるんだ?」


(あ、あれーーーーー?)


 おかしい、こうすればよかったんじゃないのか、とアルマは思う。

 なぜ警戒されているのだ。

 自分は昨日ユナとリリーに言われたことを実行しているだけなのに。



 ……………



「いいですか、アルマ。まず私がロビンさんに振り向いてもらうために買った、この『MON-MO』に書いてあることによると、男性を落とすにはいくつか方法があるらしいです」


「ユナ、そんなの買ってたんですか〜?」


「ま、まあそりゃ私の最終兵器ですから? 隠してましたけども!」


「MON-MO」とはミヤハラという女性が女性向けに作った雑誌である。雑誌が流通して、いろんな雑誌社が出てくるように、とファッションから料理、恋愛や生活術など様々な知識が書いてある雑誌である。

 なお、今月号の表紙モデルは聖女、リリアナ・テスカトルである。


「それによると、どうやら男の人を落とすにはまず『話すときの距離を縮める』と、いいそうです」


「な、なるほどー……他にはー?」


「『男性の目をじっと見つめる』とか、『自然な流れでスキンシップ』とか」


「す、スキンシップ!」


 思わずアルマは声を上げる。

 スキンシップなど生まれてこのかた親と実験生物としかしたことがない。

 まして男性とスキンシップをするなんて、見知らぬ冒険者を実験に使うとき以外アルマは考えたこともなかった。


「大丈夫ですよ〜、アルマにとっては未知のことでしょうけどそんな大したことないです〜」


「そ、そうなのかー」


 リリーがアルマを励ます。

 アルマも少し落ち着いたようだ。


「あとは『女性らしい上品な振る舞いをする』」


「難しいのきましたね〜」


「ぼ、僕だってそれくらいできるからなぁ!」


 からかうリリーに反抗するアルマ。

 だがしかし、実際のところ女性らしい上品な振る舞いって何? というのがアルマの現状である。

 それを察したのかユナがフォローを入れる。


「笑うときに口に手を当てる、とかそんな感じです」


「な、なるほどー」


「まあ、他にもいくつかありますね。たとえば……」



 ……………



 それからダンジョン探索のあいだ、ユナに言われたことを何個もアルマは試してみた。


「な、なあアルマ。なんでそんなに目を合わせようとするんだ? 魔眼の実験台になる気はないぞ」


「違うんだけどなー………」


「男性の目をじっと見つめる」は魔眼の研究と勘違いされる。


「なあロビン。ロビンはさ、ロビンはなんでロビンは探索者にロビンはなろうとロビンは思ったんだ?」


「なあアルマ。呪言の研究を俺の名前でしようとしないでくれないか?」


「あ、あれー?」


「男性の名前を頻繁に呼ぶ」は加減がわからず、呪言の研究と勘違いされる。


「なあ、そんなに俺の体に何かを仕込みたいのか?」


「え、なんでそうなるー?」


 スキンシップを取ろうとしたら華麗に避けられた。


 なるほど、たしかにリリーの言った通りだった、とアルマは思う。

 意識されてはないだろうと思ったが、いざアピールしてみたらわかる。

 自分はロビンに恐怖の対象にされている。


 どうしてこうなったかは分からないが、おそらく冒険者時代にロビンの体であれこれ実験したことを今でも覚えているのだろう。

 今更になって考えなしにやけに耐久値の高かったロビンの体を実験に使ったことを後悔した。



 …………(アルマ視点に転換)



 ロビンの顔をチラッと見る。


 なんて事のない顔。

 研究所の女どもが姦しく騒ぎ立てるような顔ではない。

 まあ、あいつらが騒ぎ立てる男の顔もたいしていいとは思わないのだが。

 でも、好きだ。

 なんでなのかはよくわからない。


 昔、助けてくれたからだろうか。

 それとも何度も何度も実験に使っても、僕の前から消えなかったからだろうか。

 それとも周りから疎まれる僕をちゃんと見てくれたからなのだろうか。


 考えても考えても答えは出ない。


 このままでいいのかと、リリーは言った。

 ロビンに好きだと言って欲しいと、ユナは言った。

 ロビンに愛して欲しいと、僕は言った。


「なあ、ロビン」


「ん? なんだ?」


 今はまだ、この想いは伝えられない。

 だが、少しだけ。

 少しだけ、先に進みたいのだ。


「もうロビンを使って実験をするつもりはないぞ?」


「そ、そうなのか?」


「ああ。僕はロビンの体でひどい実験をたくさんしたが、嘘をついたことはなかっただろう?」


「………まあ、たしかに?」


 ロビンに嘘をついたことはない。

 それはたしかだ。


「………じゃあなんで今日はあんな不思議なことをしてきたんだ?」


 ロビンが不思議そうな顔で僕を見る。

 あの頬、柔らかそうだ。

 ちょっとつついてみたいな。


 ああ、そうか。


『話すときの距離を縮める』


 僕はロビンに一歩近づいて、


『男性の目をじっと見つめる』


 ロビンの目をじっと見つめて、


『自然な流れでスキンシップ』


 ロビンの頬をツン、とつついた。


『男性の名前を頻繁に呼ぶ』


「秘密だよ、ロビン?」


 ロビンが赤くなってますます困ったような、不思議そうな顔をする。


「な、なんなんだ? 今日お前変だぞ?」


「ふふっ」


 僕は口に手を当てて笑った。

 ロビンは驚いたような顔をする。


「ど、どうした? なんかおかしかったか?」


「いや……お前、そんな女性っぽい仕草できたんだな」


 僕の心臓が跳ねる。


「っ! おいおい、僕をなんだと思ってるんだー?」


「マッドアルケミスト?」


「ははっ! 違いないなー! ………ん? あれは温泉じゃないか?」


「お、本当だ! どうやら正解っぽいな!」


 ロビンが駆け出した。

 あんな子どもらしいところも僕は好きなんだけど、無邪気にすぎないか?


 しかも僕を放って駆け出すなんて。


「おーい! アルマも早く来いよ!」


 まあいい。

 とりあえず今日はこれでよしとしよう。


 僕も早く温泉に入りたいしな。



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