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17話 かくて一同は温泉へ向かう

 


 リトレイアといえば迷宮。

 そんなイメージが強いが、実を言うともう一つ、リトレイアには名物がある。リトレイアを浪漫と安らぎの地たらしめるもの。それは、温泉である。


 温泉というのであれば地下に水源と熱源があるわけだが、迷宮とさらに地下で枝分かれした小ダンジョンも合わせて、リトレイアの地下というのはものすごく複雑になっている。

 もちろんそれらが交わらないわけもなく「ダンジョン泉」なるものがあるのはロイク王国でもリトレイアだけだ。


「温泉、ねぇ……」


「せっかくリトレイアに来たんですし、行ってみない手はないと思うんです」


 これは全くユナの本心である。

 リトレイアの温泉といえば、美肌、健康、滋養強壮、魔力上昇に効果があると言われている。

 魔力上昇は流石にデマであろうが、美肌、健康、滋養強壮についてはあながち間違ってはいない。

 温泉の湯には微弱な魔力が混じり、それが人間の血流やらリンパの流れを活性化し、そう言った効果を及ぼすのだ。


「ロビンさんは最近、根を詰め過ぎです〜。少し息抜きしないといけません〜」


「まあ、言われてみれば……」


 ユナとリリーの願いを述べたあとに、ロビンのメリットについても述べる。

 リリーの接待術と会話術スキルも使い、ロビンの許可が下りる確率を上げるという、お出かけのお誘いにあるまじきガチさであった。


「そうだな! よし、温泉行くか!」


 そうロビンが言った直後である。

 ズバーーーーン、という音を立てて扉が開かれる。


「き、聞いたぞ、ろ、ロビン! お、温泉に行くというのであれば、僕も連れていきゅ、行くといい!」


(噛みましたね〜)


(ええ、見事に)


 アイコンタクトで会話する2人。

 そのうち2人に、念話スキルが発現してもおかしくないほどの精度である。


 しかしロビンにはアルマが噛んだことよりずっと大変な事態を目の前にしていた。


「ど、どうしたんだお前……? お前が着てるその服、白衣じゃないぞ!?」


「し、失敬なー! 僕をなんだと思ってるんだ!? 僕も白衣じゃない服くらい着るんだぞー!」


 核心をついたロビンのツッコミに、思わずぎくりとするアルマ。

 実を言わなくても、アルマは白衣以外の服を持っていない。


「そ、そうなのか……いやそうとは知らず、すまん」


「いや、いいのだよー。そ、それで………ど、どうなんだ?」


「どうなんだって、何が?」


 あまりの普段のアルマとかけ離れ過ぎて、思考力を失うロビン。

 まさかあのアルマが服の感想を求めているとは思わず、首をひねる。


「ふ、服の感想だ! に、似合ってない……のか?」


 アルマの格好は、ブラウンのロング丈チュールスカートに白Tシャツという、今夏の最新の流行を取り入れていた。


 なお、服についてはマエジマという男が「ヨウフク」というジャンルの新しい服を開発した。

 今では、「ちょっと特別な日には『ヨウフク』で」というのが一般的になっている。


 今のアルマはどこからどう見ても「清楚できれいめなお姉さん」という感じになっている。

 似合わないどころか、もともといい素材を持ってある上に普段の白衣というギャップ。

 控えめに言って美人である。


「い、いや………その、似合ってる、ぞ? その、まあ、可愛いんじゃないか?」


「そ、そうか………! ま、まあ、ぼ、僕が本気を出せばこんなものだよー!」


 ロビンも普段ならサラッと「お、見ない服だな。可愛いじゃないか、よく似合ってるぞ」と下心なく言って女をクラリとさせるのだが、相手が相手なせいでなんだかおかしなことになっている。

 しかも自分が褒めて、変に嬉しそうなアルマの姿になんだか恥ずかしい気持ちになっていた。


 ちなみに目の前で繰り広げられる甘めの展開に悶々とする向上委員の2人だが、今回はアルマのサポートに徹すると決めたせいで手が出せない。

 リリーに至っては、手をギュッと握りしめて、ギリギリと歯を食いしばっていた。

 それを見て逆に心が落ち着くユナ。

 リリーの肩をトントンと叩くと、リリーの雰囲気が緩む。

 なんだかんだでいい組み合わせだった。


「そ、それでだな。ロビンがきたらいずれ一度は連れて行ってみたいと思っていたんだが、せっかくだしダンジョン泉に行かないかー?」


「お、おう。………ダンジョン泉か。いいかもな」


 徐々に普段のペースを取り戻していく2人。

 そろそろいいかと、ユナとリリーも会話に入った。


「そ、そうですね〜! 行きましょう〜、ダンジョン泉! ユナもいいですよね〜?」


「は、はい! 行きましょう!」


 こうしてロビンたちは、ダンジョン泉に行くことになった。



 ……………



 ダンジョン泉にも難易度というものがある。

 ダンジョンを名乗る以上は魔物が出てくるわけで、その強さによって難易度は変動する。

 ちなみに難易度が上がるほど、温泉の効能は高い。


「ではせっかくですし、Aランクの温泉に行きませんか?」


「俺はいいけど……いいのか? せっかくアルマはお洒落してるのに」


 ロビンのこの発言は想定済みである。

 長年ロビンを見てきたユナの完璧な脳内シュミレーションによるものだった。


「じゃあ、魔物が出ないAランクダンジョン泉に行ってみないかー?」


「魔物が出ない? そんなところがあるのか?」


「はい〜、確か『迷宮泉』と呼ばれるダンジョン泉があります〜」


「じゃあそこにするか!」


 一行は「迷宮泉」のある場所へと向かって行った。



 ……………



【2人1組に分かれて迷宮探索! 正しく進めば高級泉、間違えたなら低級泉! ドキドキッの迷宮泉!】


「やけに古めのキャッチコピーだな。ここ数年、ドキドキッなんて聞いてなかったぞ」


「あはははは………」


 呆れるロビンに苦笑いで返すユナ。

 リトレイアのダンジョン泉の持ち主は高齢の人物が多いため、自然にキャッチコピーも古くなる。

 とはいえ、これはあまりに古い。


 なお、入口からすでに2つに分かれており、どちらも正解にたどり着けば同じ温泉に入れるようだが、ここで完全に2人きりになるようだ。


「ま、まあ、ダンジョン泉の効能に変わりはありませんし、とりあえず2人1組に分かれましょう!」


「そうだな。じゃあユナとリリーで一緒に行くといい」


「じゃあ私とユナで………って、え!?」


「なっ………!?」


「な、何を言ってるんだロビン!?」


 もともと考えていたプランとしては、リリーが自分がユナと行くと言ってアルマとロビンを2人にするつもりであった。

 ところが、先手を打たれたと言うべきか、ロビンがアルマと行くと言ったため、不意をつかれ全員が固まった。


 まさかイメチェンのギャップだけで落ちてしまうほどチョロい男だったのかと思う女たち。

 しかしロビンの思惑は全く違うところにあった。


「いや最近ユナとリリーが仲良くなってるじゃないか、師匠としてもそれって嬉しいわけよ。だからここは裸の付き合いでもっと仲良くなって欲しいなー……と、って。………え? どうしたんだ?」


「そ、そうだよな! ユナとリリーが仲良くなるためだよな! そうだよな………」


「「はぁ………」」


 若干落ち込んでるようにも見えるアルマと、後ろの方で呆れと安堵のため息をつく2人。

 それを見て戸惑うロビン。


「そうですよね〜、では私たちは右の道から行きますので、ロビンさんたちは左から行ってください〜。温泉で会えるといいですね〜」


 こうして、ロビンたちのドキドキッの迷宮探索は始まったのだった。



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