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15話 かくておっさんは盗み聞きする

 

「今回のポーションA+ですが、今回もいい具合に不味く出来ております」


「そうかそうか、それは重畳」


「「「!!??」」」


 聞こえてきたのはおそらく、ポーション作成組合の誰かの声だった。

 そういえばアルマがリトレイアにもポーション作成組合の支部があると言っていたことをロビンは思い出した。


「なんでこんなところから声が聞こえてくるんですか〜?」


 リリーが首を傾げるが、それは誰もが同じ思いだった。


「ところで支部長。噂ではフェーレンの冒険者ギルドで『ポーションが不味すぎる!』と言って冒険者をやめたものがあると聞きました」


「ふはははっ! 面白いやつもあるものだのぉ………少しばかり不味くしすぎたか?」


 ユナとリリーは一斉にロビンの方を向く。

 まさかリトレイアにまで噂が広がっているとは、ロビンも思っていなかった。

 ロビンの想像以上に「ポーションが不味くて冒険者をやめる」というのはおかしいことだったようだ。


「いえ、昔から『ポーションは不味ければ不味いほどよし』と言われております。これに従っている我らが間違っていることなどあり得ません」


 ロビンの中でいくつもの疑問が浮かび上がるが、一言一句聞き逃すまいと、ロビンは耳を澄ませた。


「そうじゃのぉ。ま、上が何を考えとるのかは知らんが、これが語り継がれてきたポーションの作り方じゃ。我らはこれを守ってゆけば良いのよ!」


「その通りです支部長。我々一同、こうしてポーションの製法を語り継ぐのが役目。さらなるポーションの成長に向け、誠心誠意努めていきたいと思っております!」


 そこで会話は終わった。


「………とりあえず、一旦帰るぞ」


「はい」


「そうですね〜」


 こうして、ロビンの久しぶりのダンジョンは、新たな問題を生み出して終わったのだった。



 ……………



「やあやあ、どうだったー? リトレイアのポーション作成組合は?」


 アルマがニヤニヤとしながら成果を聞いてくる。

 ロビンはその質問に驚きつつも、冷静に答えを返した。


「知ってたのか、アルマ」


「そりゃー、あのダンジョンを最初にクリアしたのは僕だからねー」


「なんで底意地の悪い人ですか〜……」


 リリーの文句に対し、アルマは心外だ、というような顔をする。


「僕が君たちにそれを教えなきゃいけない義務なんてないだろうー? それをわざわざ気付かせてあげたんだから、それだけでも僕って優しくないー?」


「うっ……まあそれはそうですけど〜」


 そもそもポーション作成組合自体に問題がある、と知らなかったのはロビンたちである。

 また、リリーのぶっ飛び案に乗っていたらまだしも、このままアルマがダンジョンに潜ることを勧めなければ、ロビンたちは組合の闇に一生気付くことがなかっただろう。


 それを考えるとアルマは割とまともに相手をしてくれているのだが、普通に教えてくれてもよかったのではと、どうも釈然としきれない感情があった。


「まあ、久々のマッピング楽しかっただろうー? 今回のはロビンのためなんだからねー?」


 アルマがニコッと笑う。


 その笑顔に何故か勝手に恐怖を感じてしまうのは、昔の付き合いがあったからなのか、とロビンは思う。


「「ハッ………!」」


 そして、その笑顔の真の意味に気付いたのはリリーとユナの2人だった。


 もしかしたら、もしかすると。

 アルマは女なのでは………?

 そして、私たちと同じなのでは………?


 思い当たる節はいくつかある。


 まずもって出会いがしらの一言が、


「やあやあ、どうしたんだい?僕の()()()ロビンじゃないかー」


 である。


 このあとロビンは被験体扱いするなと言うが、もしこれが被験体の意味でなく、真にロビンのことを大切に思ってるのだとしたら……!


 ユナとリリーは思う。

 彼女らは一言も言葉を交わしていないが、その心は強くシンクロしていた。


(なんて不憫なんだろう………!!)


 ユナとリリーは意識されていない、というレベルに収まっている。

 これはこれでなかなか辛いものなのだが、それでもまだ望みはあるのだ。


 しかしアルマはどうだろうか。

 意識されないどころか、警戒されてしまっている。


 2人にロビンの心を(うかが)い知ることはできやしないが、アルマが笑み(アピール)を浮かべたとき、ロビンは恐怖しているように見える。


 ユナとリリーは視線を交わし、お互いの意思を汲み取る。

 彼女らは一時休戦することとなった。



 ……………



「アルマ、さん?」


「入っていいですか〜」


 と、言いながら許可が出る前に扉を開けて部屋の中に入るリリー。


「ちょ……もう!」


「ん、なんだいー?」


 回転式の椅子をクルリと回し振り返るアルマ。

 机には膨大な資料と、数本のビーカー。

 そして、名状し難い物質Xが泡を立てていた。


 話はロビンが考え事をして上の空なため、一時解散ということになった。

 ユナとリリーはその後2人で話し合い、アルマを戦いの舞台に上げるまで協力することにした。


「アルマさんって、女の方ですか〜?」


「なんだか急に不躾な質問だなー。ま、いいけどー。そうだよー? それがどうしたのー?」


 まずは確認である。

 舞台に上げるとか言いながら、アルマが結局男だったり、ロビンのことを好きじゃなければ、ただ2人がバカ騒ぎしてるだけなのと変わらない。


「それで……その、非常に聞きづらいんですが……」


「んー?」


「ええと、その……あ、アルマさんって……」


「んー?」


「そ、その……きゅ、急に、こ、こんなこと聞くのもなんなんですけど……」


「まどろっこしいですね〜! アルマさんはロビンさんのことが好きなんですか〜?」


 なかなか言い出せないユナにリリーがキレる。

 ユナも一度打ち解けて仕舞えば、こんなモゴモゴとしたことにはならないのだが、いかんせんアルマと会ってから話す時間が少な過ぎた。


 ユナとリリーがアルマの反応をうかがう。


「………っ! ……好きー? なんのことかなー?」


 アルマは一瞬、目を見開く。

 しかしすぐに無表情になると、そう返事をした。

 そしてクルリと椅子を返すと、ビーカーをいじり始めた。


「用が無いなら帰ってくれたまえー。私は君たちみたいに暇じゃ無いんだー」


「えっ、でも! その……っ!」


「ユナ〜、相手が知らないって言うんですから、大人しく引き上げますよ〜」


 誤魔化すアルマに、ユナが問いかけようとする。

 それをリリーは制すと、ユナに目で「私に合わせるように」と伝えた。


 部屋を出る直前、リリーがユナに話しかける。


「今日はどちらがロビンさんの夜伽をしますか〜?」


「!?」


 アルマの肩がピクリッ、と震える。

 驚くユナに、リリーが「合わせなさい!」と再び伝えた。


「そ、そうですねー、き、昨日はリリーでしたし、今日は私が………」


「うーん、最近毎晩で飽きてきたでしょうし、2人同時っていうのもアリかもしれませんね」


 ガラガラガシャーーーン!


「「!?」」


 驚いて2人は振り返る。


「な、な、な、何を言ってるんだ君たちっ! ぼ、僕の部屋でそんな不埒なことを………っ! だ、だいたいあの鈍感ロビンが、君たちみたいなのに引っかかるわけないだろう!」


 見るとアルマが椅子から転げおち、たくさんの資料が宙を舞い、物体Xがうごうごと蠢き、舞い散る資料にボウッと火を吹いていた。


「て、テキトウなことを言うなーーーーー!!」


 燃え盛る資料の中でアルマが叫ぶ。

 その叫びを聞いて2人も叫ぶ。


「「まず消火しようか!!」」




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