14話 かくて弟子と受付嬢はボス戦に挑む
「うまいな……」
「くっ……私だって、私だってこのくらい………!」
リリーが作ったご飯を食べて、それぞれのやり方で感嘆するロビンとユナ。
料理Sは伊達ではない。
「ユナ、認めたらどうです〜?」
「リリーはジャンケンに勝っただけですよっ!」
ユナもちゃんと料理Sを取得しているので、負け惜しみでも何でもなく、ただ事実を言っているだけなのだが、どうにも負け惜しみに聞こえてしまう。
その姿がどうにもおかしくて、ロビンは笑ってしまう。
「ふふっ……」
「笑わないでくださいーーーーーー!」
次はユナが作る、ということでこのあと話は纏まったようだ。
……………
「ボス部屋だな」
「そうですね」
「頑張りましょう〜」
階層は1つ上がり、ボス部屋前。
ロビンたちは各々ボス戦に向けて準備をしていた。
今回の編成は、メインアタッカーがユナで、後方でサポートをするのがリリー。
………ロビンは端っこでボスの能力を観察である。
何とも情けない。
しかしこれがマッパーであり、これでもSランクであった。
「よし、行くぞ!」
ロビンは扉を開ける。
そして、部屋の中央には鎧の騎士がいた。
「デスナイト、か?」
「たぶんそうですね、あの感じは」
「まあこれならやれそうです〜」
デスナイトの討伐の適正ランクはA。
現在のメンバーなら余裕で倒せる相手である。
「オオオオオオオオオオオオオオオ!」
デスナイトが雄叫びを上げて突進してくる。
「はあっ!」
ユナはそれを華麗にかわし、すれ違いざまに一撃を叩き込んだ。
暗殺術(対魔物)のメインウェポンはナイフと素手である。
ちなみにロビンは素手、ユナは両方を使いこなす。
さらにユナは格闘技も取得しており、暗殺術と格闘技を混ぜた攻撃は、正面からの1対1を得意としない暗殺者でも充分戦えるものになっている。
ガィンッ!とデスナイトが後方に吹っ飛び、ユナはさらに追撃を加える。
「オオオオオオオオオガアアアア!」
しかし、ただやられているデスナイトでもなかった。
着地の衝撃の反作用を使って、一気に加速してユナに急接近する。
振り下ろされる一撃をユナは、すんでのところでナイフで受け流す。
しかしその瞬間にできた隙をデスナイトは見逃さず、ユナを思い切り蹴り飛ばした。
「かはっ………!」
「ユナ!〈クレイドルウィンド〉!」
リリーがユナが蹴り飛ばされるのを見て、瞬時にユナを風で包み体勢を立て直す手助けをする。
「〈サンダーアロー〉!」
さらに追撃を加えようとするデスナイトに対し、牽制の魔法を放った。
「アアアアアアア!?」
「まずいです〜!!」
「させない!〈アサシンアーツ〉!」
デスナイトの注目がユナからリリーに向くこうとする。
その瞬間に体勢を立て直したユナがデスナイトの背後から一撃を放とうとする。
それを感じとったデスナイトは一度距離を取った。
「リリー、ナイスアシストです」
「ユナも、助かりました〜」
やっぱり結構仲良くなっている2人。
足を引っ張り合うような真似はしないのはどちらもプロだったからである。
今はフリーだが。
「オオオオオオオ!」
「はぁぁぁぁあっ!」
ユナの気合とデスナイトの雄叫びが混ざり合い、場の緊迫感を高める。
そして2人は刃を交えた。
「はっ!」
ユナがナイフを突き出すが、デスナイトはそれを剣で弾き、反動と遠心力を駆使して、ユナに返しの一撃を放った。
ユナもその剣を最小の動作で避ける。
そのままデスナイトの空いた胸に〈アサシンアーツ〉と〈掌底〉を組み合わせた一撃を叩き込んだ。
「ガアアアアアアアアアアアア!」
「くっ……!!」
デスナイトは胸をそらし、自らの鎧でユナのナイフを受け流す。
ユナのナイフはデスナイトの鎧の表面を撫で、宙空を刺した。
「〈フレイムウォール〉!」
大きな隙ができたユナにデスナイトが一撃を入れようとするのを、リリーはデスナイトとユナの間に炎の壁を作ることで止める。
「からの〈フレイムピアス〉です〜!」
さらに炎の壁からトゲを出し、デスナイトに向けて飛ばす。
「ゴオオオオオアアアアアアア!?」
ほぼゼロ距離からの炎のトゲは、デスナイトに直撃した。
「やりました〜!」
「よしっ!」
魔法の直撃で隙ができたデスナイトの腹に蹴りを入れるユナ。
威力こそ低いが、この瞬間は手数がものをいう。
ユナの掌底と蹴りがデスナイトを襲った。
「はあああああああああああっ!」
ズダダダダダダダ!と音を立てて鎧に撃ち込まれる一撃一撃にデスナイトは後退しようとする。
「〈アイスグラウンド〉」
しかし、リリーがデスナイトの足を氷で地面に固定し、デスナイトの後退を封じ込めた。
デスナイトは逃げることも出来ず、ひたすらユナの攻撃を受ける。
しかしデスナイトはこれでは終わらなかった。
「ガァッ!」
「ぐぁっ!」
ユナの攻撃を受けながらも、力を込めて一撃をユナに当て吹き飛ばす。
そしてユナに追撃をする………と見せかけて、ユナへの追撃を防ぐため、準備をしていたリリーに向けて剣を投げた。
「なっ……!」
しかし、デスナイトの剣はリリーに当たる前に軌道がそれ、リリーの真横を通り抜けるとダンジョンの壁に突き刺さった。
「………あ、危なかったじゃないですか〜!〈グランドピアス〉!!!」
リリーは命の危険に完全にビビったようで、だいぶ威力の強い魔法を放つ。
デスナイトは地面から突き上げられる土の槍に固定された。
「おわりです!〈アサシンアーツ〉!」
ユナがデスナイトの背後から一撃を放つ。
「オオオオォォォォォォォォ…………」
デスナイトは沈黙し、粒子になって消えた。
「勝ったぁぁぁ!勝ちましたよリリー!」
「やりました〜!ありがとうユナ!」
2人は抱き合う。
そうして勝利の余韻に浸るのだった。
「完全に外野だよな、俺………」
おっさんを1人残して。
……………
「んで、これがダンジョンクリアの報酬部屋なわけだ………」
ロビンが混ざっていい感じの雰囲気になったところで2人の女性に声をかけ、とりあえず次の部屋に進む一同。
「何にもないですね……」
「ちょっと調べてみます〜」
部屋は空っぽだった。
「もうちょっとこう、なんかあると思ったんだがな」
これにはロビンもがっかりである。
まあボスを倒したのはロビンではないのだが。
「帰るか……」
ロビンが諦めてそう言おうとしたときである。
「ロビンさん!なんか声が聞こえます!」
ユナがロビンを呼ぶ。
ユナのいるところの壁に耳を当てると、確かに声が聞こえてきた。
「今回のポーションA+ですが、今回もいい具合に不味く出来ております」
「そうかそうか、それは重畳」
「「「「…………!?」」」
本作は日常系ヒューマ(ry
主人公は空気。
彼の本領は戦いにはありませんからね。