13話 かくておっさん一同はダンジョンにもぐる
リトレイアという町は、リトレイア大迷宮という巨大なダンジョンの上にできている都市である。
迷宮は生きている。
そう言われることの裏付けとして、リトレイアの町では地下を掘るとダンジョンが出てくる。
これはリトレイア大迷宮に繋がっているのではなく、リトレイア大迷宮の魔力によって新たなダンジョンが出来ているのである。
まるで子を作るかのように。
そのことを利用して、難易度の低いダンジョンを量産し、ダンジョンから出る鉱物や素材を売って大都市に成り上がったのがリトレイアという町である。
「久しぶりの本業だなー……」
そして依頼されたのは地下道に出来たダンジョンの調査とマッピング。
ロビンが感慨深くなるのも頷けるのだった。
「〈フレイム〉!」
「〈アサシンアーツ〉」
「パーティ組むと楽だなあ……」
目の前の敵がバッタバッタと倒される様を見ながら、ロビンはマッピングしてゆく。
ちなみにマッピングにスキルはない。
ロイク王国でも流行っている創作ものに、「マッピングスキルで最強!」みたいなものがあるが、少なくともこの世界ではマッピングは人力であった。
それ故にマッパーは人気がない。
作業は地味で目立たないし、スキルがないから楽ではない。
しかもダンジョンに潜らなければならないが、いちいちマッピングのために寄り道をするマッパーを入れるパーティは少なく、ソロでやろうと思ったら攻略組でもトップクラスの冒険者と並ぶほどの力をつけねばならない。
そんな理不尽できつい作業が終わってみて、もしマップにおかしいところがあろうものなら、冒険者たちから散々に叩かれる。
その上いいマップを作ってもそれを評価されることはないのだ。
なお、実在する公式マッパーは15人である。
否、ロビンがやめたので14人であった。
「ユナ、そこ罠あるぞ」
「えっ、うわっ……! ありがとうございます……」
〈罠探知〉に反応があり、ロビンの声でユナは間一髪、罠を避けた。
「ちょっと待ってね」
「どうしたんですか〜?」
と、リリーが聞く。
ユナも不思議そうに首を傾げている。
「ああ、2人ともマッピングを見るのは初めてか。今から〈ネズミ式〉って方法で罠の種類を調べるんだ」
「この罠は……」と、ロビンは罠の上にネズミを放り投げる。
罠が光り、魔法が発動した。
「〈ステータスオープン〉」
ネズミのステータスが開き、毒状態になったことを確認し、解毒した。
「ま、地味だけどこれが〈ネズミ式〉だよ」
見栄えしないのはマッパーの性である。
この見栄えのしなさを耐えなければ、続けることはできないのだ。
ネズミ式、というのは「マップなら罠の種類も把握できないとマップじゃねえだろ」とかいうふざけた冒険者たちの要望によって、マッパーたちが罠の種類も調べることになり、作られた方法である。
最初期の頃は〈漢式〉という方法がとられていた。
まあ言わなくても想像はつくであろうが、マッパー自身が体を張って罠に突っ込む、という方法だ。
この方法はマッパーの死亡率を5倍にしたため、ギルドから「〈漢式〉禁止法」が出されたので、まもなく使われなくなったが。
そして次に〈漢式〉に対する皮肉も込めて使われたのが、〈チキン式〉という方法である。
内容としては、そこらへんに落ちている石やら木やらを罠がある位置に放り込む、というものだ。
これはこれで成果を出したのだが、状態異常系の罠に対しては全く無効であったため、改善が求められた。
その後〈外道の技〉という、奴隷を突っ込むやり方が一時期現れたりしたが、現在最年長マッパーのカイン・トートネスが作った〈ネズミ式〉というのが、良心と実利の最もバランスが取れた方法として有名になった。
奴隷契約をネズミと行い、そのネズミを罠に放り込む、という方法だった。
これでも動物虐待と物議をかもしたのだが、それならマップに罠は書けないと言われると、外野は黙り込んだ。
そうして今に至る。
「マッパーにも歴史があるんですね……」
「私も初めて聞きました〜」
「まあ、これでも人の営みだからな……」
リリーは年代的に〈ネズミ式〉が定着した後に冒険者ギルドの職員になったため、この辺りの話は初耳だったようだ。
なお、この2人も流石に弁えているのか、ダンジョンの中ではロビンの取り合いはしていない。
お互い、ダンジョンの危険性というものをちゃんと理解しているからだ。
「あ、グレイプラットです〜〈サンダー〉」
「ラットは〈ネズミ式〉に使えないんですか?」
リリーが笑顔でネズミを消し飛ばし、ユナはラットを見て先程の方法を思い出したのかロビンに質問する。
ちなみに、グレイプ、というのは上位種につけられるものであり、グレイプ〇〇で〇〇の上位種、という意味になる。
「ああ、それを試した奴がいるんだが、ダンジョン内の魔物に関しては罠が作動しないんだ。本当にうまくできてるよな」
マッパーの中には奴隷化したネズミに愛着が湧いてしまう者もおり、そういった者たちは今でも〈ネズミ式〉の改良に全霊を尽くしているらしい。
「あ、分かれ道ですよ」
「どっちに行きますか〜?」
「まあどっちも行くから、危険度の高い方から行っとくか」
マッピングのいいところがあるとすれば、判断を迷う必要がない、というところか。
最初から正解を引き当てずとも、最終的には全ての道を通るので、分かれ道等は即決である。
悩むだけ無駄なのだ。
「よっ、と! 〈投石〉」
ビュォォォォォン!ズバーーーーン!
流石に全部ユナたちに任せるのも、何となく気がひけるので投石で敵を間引くロビン。
普通の人間じゃありえない速度で飛んでいく石に驚く2人だった。
「ユナ〜……投石ってあんなのでしたっけ〜……」
「いや、なんか威力もスピードもおかしいです……」
ロビンが石を投げると、魔物を貫通して、そのままさらに先の魔物まで倒されてしまっている。
これでもロビンは適度に手を抜いている、と自分で思っていた。
ロビン本人は自分のランクを知らないどころか、自分の攻撃力という意味での強さ自体もそれほど把握していないのだ。
マッピングにそんな強さはいらないからな。
ロビンにマッパーの夢を見せた男の言葉を胸に、ロビンはダンジョンを進むのだった。
……………
「アルマの話じゃ、確か13階層あるんだっけ?」
セーフポイントを発見し、一息つく一同。
「たぶんそうです。今12階層ですから、この下がボス部屋ですね」
サクサクと進んだ、とはいえマッピングしながらである。
ダンジョンに入っておよそ6時間は経過していた。
「とりあえず飯でも食うか」
「そうですね〜」
ロビンが食事を提案し、リリーが賛同する。
ユナも異論はない、と首を縦に振り、ロビンはカバンから調理器具を取り出した。
「「!!??」」
ダンジョンで引き締まっていた2人の心は、セーフポイントと調理器具を見て崩壊する。
「「私がつくります!」」
「お、おう……」
好きにしてくれ、とロビンは選択を放棄し、マッピングしたものを綺麗に清書し始めた。
「「ジャン、ケン、ポン!」」
「……………」
「ふっふっふ〜、今回は私の勝ちです〜」
ダンジョンの狭い天井に、乙女の笑いが反響したとか、してないとか。
本作は日常系ヒューマンドラマです。
ダンジョンなんて……アレ?(デジャブ感)