死闘
少し覗くだけで様子を見たらすぐに戻るから大丈夫。
そう自分に言い聞かせ不安と好奇心で足を進める
「ガサッ」
草むらが不気味に揺れる
!?
「ガサガサッ」
やっぱり戻ろう、これ以上進むのは、嫌な予感がする。
エルは来た道を戻ろうと後ろを振り向いた。
その瞬間
茂みに隠れていた影がエルに襲いかかる。
どすっ!
背中で鈍い音がなる。
「ぐはっ!!」
何だ!?
エルは振り返る。剣を抜き腰を低く構える。
するとそこには
鋭くとがった耳に、黄色く大きな瞳、片手には棍棒を持った小さな緑の鬼が2体立っていた
『鑑定!』
小鬼 種族:魔獣 Lv.8
小鬼 種族:魔獣 Lv.8
ゴ、ゴブリン!?
やばい、さっきの不意打ちの背中が痛む。
スライムの攻撃より2周りは強いだろう…
それに、不意打ちには「物理軽減」の効果は半減されてしまう。
小鬼がケタケタと笑う
これは、殺らなければ殺られる!!!!
意識を集中させエルは小鬼の喉元を狙い飛びかかる。
エルの剣は喉には当たらず、身を反らしたコブリンの肩をかすめる。
もう1体の小鬼が横から棍棒を振りかぶる
やばい!「加速」
棍棒がかすめ、服を引き裂く。
危なかった、今のは加速が無ければもろに食らっていた。
だか、やはり背中が痛む…
それに、今は2対1だが、仲間のゴブリンが応援に来る可能性は十分に考えられる。
長期戦はこちらが不利になりそうだ。
ならば、速攻で決める!
「加速」
もう一度喉を狙い飛びかかる。
さっきよりも強く速い一撃を放つ
ザシュッ!
今度はしっかりと喉を捉え、ゴブリンの首をはねる
「キーー」
もう1体の小鬼が奇声を上げ、横から棍棒を振り上げる。
「加速」
また、左足を踏み切り避けようとする!が…
間に合わない!!
ドスッ!
脇腹で鈍い音がなる
「がはっ!」
エルは棍棒の一撃を受けた反動で、横に飛ばされる。
エルはその場でうずくまり痛みで動けない。
骨を2本ほど折ったかもしれない
そこにゴブリンが奇声を上げながら迫ってくる。
そのゴブリンを痛みで遠のく意識の中で薄っすらと目に移す
時がゆっくりと動き出す
あ、俺、死んだな...
ー「剣士」がLv.14になりましたー
ー「剛力 Lv.1」を獲得しましたー
ー「死を知る者 Lv.1」を獲得しましたー
ー「痛覚軽減 Lv.1」を獲得しましたー
ー「痛覚軽減」がLv.3になりましたー
少し痛みが和らいだ。動ける!!
小鬼がとどめを刺そうと棍棒を振り下ろす
「剛力!!!」
「うりゃー」「キーー」
無我夢中だった。
ありったけの力を込め、その一振りに全てを委ねた。
ー「剛力」がLv.2になりましたー
ザシュッ!!
エルの剣は棍棒を切り裂きその向こうにある小鬼の首まで断ち切った。
ー「鑑定」がレベル3になりましたー
それからの記憶ははっきりとはしない。
駄々ひたすらに歩き続けた。
頭の中で鳴り続けるアナウンスと最後に聞こえた母の悲鳴を最後に意識は遠のいていった。
『翔、あなたはいったいどこにいるの?』
なつきの声が遥か遠くからぽつりと聞こえる...
目が覚める
そこはいつもの天井。
「エル!!」
「お母さんよ!分かる?」
「お母...さん...」
「お父さん!エルが!!」
「ほ、本当か!」
「お、お、お、お父さんだぞ!分かるな??」
「お父さん...」
「どうしたの二人共そんなに慌てて?」
「よかった...本当に良かった…」
母が目に涙をためて俺の顔を見つめる
「エル!」
父がもの凄い形相で名前を呼ぶ
「お前、一人で森の奥に行ったな?」
そうだった、俺は小鬼に殺されかけて...
どうなったんだっけ?
「ご、ごめんなさい...」
「やっぱりそうなんだな?」
「で、何があった?」
「えっと、スライムをいっぱいやっつけて...そのあとちょっと森の奥の方を覗きに行ったら2体の小鬼に襲われて…」
「小鬼!?それに2体だと!?」
「死んでいてもおかしくなかったぞ!!」
「ごめんなさい...」
「小鬼はEランクだ!普通は子供が一人で2体も相手出来るものじゃない!!」
「今回は運良く助かったようだが...」
「今後は森への立ち入りは当分禁止!稽古も当分は無しだ!!しっかり反省しろ!」
「え!でも...」
「でもじゃない!」
「分かったな!!」
「はい…」
「分かったならよろしい。今日はしっかりと休め」
そう言って父はその場を離れていく。
仕事に戻るのだろうか…
「エル、体は大丈夫なの??」
体を起こしてみる...
「痛っ…」
「どこ?どこが痛いの?」
「そんなに心配しなくていいよ。ちょっと痛いだけだから」
「どこ?」
今までにないほど真剣なまなざしで母が質問する
「背中と右わき腹…」
「ちょっとじっとしててね。」
『目録 選択 治療』
体を青い光が包み込む。
体の痛みが少しづつ引いていく。
「これでとりあえず大丈夫ね」
「エル...もうこんな無茶しないでね...」
母の目から大きな滴ががぽつりと落ちる。
「ごめんなさい...」
「ごはん作ってくるからしっかり休んどくのよ!」
そう言って母は台所へと去っていった。
なんとか生きている。
死を何度も覚悟したが、こうして生きていることは神様に感謝しなければいけないな...
神様に...
『翔、あなたはいったいどこにいるの?』
そういえば意識を失っているときに夢でなつきの声を聴いた気がした。
今なつきは何処で何をしているのだろうか...
また会える日ははたして来るのだろうか...
そんなことを考えながら豆だらけになった手を見つめる。
そうだ!俺はあの戦いでどれほど強くなったのだろうか?
スライムをひたすら倒し、小鬼と文字通り死闘を繰り広げたんだ。
強くなっていないはずはない!
「鑑定」