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98話「祝勝会への誘い」


 自分でも良く分からない考えを抱きながら歩ていると、前方から見知った二人組が歩いて来た。


「「「「あ」」」」


 エドさんとエーゼさんだ。

 ドラゴン討伐直後以来だからさっきぶりになるのか?


「やぁ、お疲れ様。ツカサ君は回復して何よりだ」

「あ…はい。あの時助けに来ていただいでありがとうございます」

「そんなに他人行儀にしなくても結構ですわよ」

「うん、そうだよ。これが初対面って訳じゃないんだし。それに助けに来たって言われても、俺たちは殆ど何もしていない」

「わたくし達が行ったのは時間稼ぎだけ。最初から最後まで戦ったのは貴方方の方でしょう?功績は公平に評価しませんと」

「だってさツカサ君」


 開幕早々、二人共俺のお礼を受け取らなかった。

 それどころか、時間稼ぎだけしか出来てないから功績は俺の物だと言ってきた。

 それに便乗して柳瀬さんも俺に自信をつけさせようとして来る。


「あら?ツカサさんだけではなく、ホノカさんも同じですわよ。エドにも劣らない剣裁きに加えて、最後の一撃は感激いたしました」

「そうだね。みんなが油断して中、一人だけ集中していたんだから。あの勝利は君たちのものだよ」

「えっ!?そ、そんな…。偶々ですよ。偶々早めに気づいただけで………」

「柳瀬さん、それだと俺と一緒になるよ」


 俺だけでなく、柳瀬さんにも称賛を送る二人。

 柳瀬さんは謙遜するが、それだと俺と同じだ。

 本当に実力が有って性格も優しく、柳瀬さんに謙遜する必要がない。

 柳瀬さんは何故か頬を赤く染めてから、笑顔でエドさんとエーゼさんの言葉を受け取る。


「一緒……それなら……。ゴホン。ありがとうございます。でも、私とツカサ君が最後まで頑張れたのは二人の手助けあってそこですから」

「そこはわたくしもキチンと受け取りましょう。後、敬語は不要ですわよ。多分年齢だってそこまで離れているのではないでしょうから」

「そうなの?だったら私もホノカで良いよ。えっと、エーゼさんだからえーちゃんだね!!」

「えーちゃん!!?何でそうなるですの!!?」


 交友範囲が広い柳瀬さんだ。

 もうエーゼさんをあだ名呼びするとは……流石にカースト上位者。

 エーゼさんは少し驚いて飛び退く。

 見た感じ、エドさん以外にお友達って言えるような人、居なさそうだもんな。

 あだ名が珍しいんだろう。


 柳瀬さんとエーゼさんが友達になった。

 そこまでは良い。

 俺は全く被害を受けてないからな。

 せいぜい時間を数分から数十分取られるだけだ。

 しかし、伏兵は存在していたのだ!!


「あ、そうだ。俺とエーゼはこれからささやかながら祝勝会でも開こうと思ってったんだ。ツカサ君とホノカさんも一緒にどうかな?」

「それは良いですわね。元々私たちは途中から参加しただけ。祝勝会と言うならば、お二人がメインですもの!!」

「え?良いの?じゃお言葉に甘えて……」


 自然と会話に入っていったエドさんが俺と柳瀬さんを食事に誘った。

 これはあれか?イベントの後の打ち上げって奴なのか?

 と言うか、俺も自然と参加する雰囲気になってない!!?

 しかしならば、言質はまだ取られていない。

 俺は辞退しよう。うん、そっちのほうがいいに決まっている。

 大人数なら喋らない人が一人くらいいても自然だが、たった四人の中に一人居てみろ!?

 気まずいこと変わりないだろ?

 どうせ、他の三人が楽しくやっている中俺は一人で食事に集中して、しまいには途中で抜け出す所まで想像できるから!!

 なので、ここは謹んでお断りをいたします。

 朝っぱらから起こされて命を賭けた戦闘をやらされたんだぞ?

 疲れた、眠い、本読みたい……。


「じゃあ俺はこれで帰るんで……」

「ツカサ君も参加するよね!!?」

「えーっと、帰って……」

「行くよね!!!?」

「読書を…」

「行くね!!」

「……本を」

「来い」

「…読まされてください。……行きます」

「うん、やった!!じゃあこっちも参加するからよろしく!!」


 畜生!!!

 つい負けてしまった。

 柳瀬さん、こんなにも他人の意見を否定する人だっけ?

 まぁいいや、俺が負けたのに変わりはない。

 大人しくついて行こう。

 ……隙をついて本でも開いていればいいだろう。


 俺が柳瀬さんに押し負けて祝勝会に参加をすることになった。

 どこか引き攣った顔をしながら喜んだ二人を先頭にして、祝勝会会場へ急ぐ。

 おい、気の毒だと思ったなら助けてくれよ…。





「祝勝会ってどこでやるの?」

「急な事件でしたから……特に予約などはしていません。どこか適当なレストランにでも入ろうかと思っていましてよ」

「そうなの?だったら私が良いお店知ってるよ!!そこでもいい?」

「へぇ~。俺とエーゼは何処でも構わないよ。ツカサ君は…」

「……俺もそこでいい」

「よし!!じゃあこっちだね!!」


 店が決まっていないと言う事で、柳瀬さんが店選びをするらしい。

 多数決に逆らうほど俺は大きくない。

 入れ替わって戦闘を歩く柳瀬さんの後を、ほぼ隣にエーゼさん、その後ろにエドさん、最後尾に俺が続く。

 街中はいつも以上に人で溢れかえっているが、密着していないと離れ離れになってしまうほどじゃない。

 俺は適度な距離を取って後ろをついて歩く。

 まぁ逸れても、俺の場合はマップ機能があるから合流出来ないこともない。

 あ、そうだ。

 逸れたことにして宿に帰れば……


「……………」

「な、何か?」

「嫌な勘を感じたから…。帰らないでよね」


 振り返った柳瀬さんに釘を刺されてしまった。

 剣士の勘はよく当たるって奴か?

 ここまで言われてしまったなら俺も逃げることはできない。

 そもそも、柳瀬さんは俺のマップ機能の存在を知っているんだから、逸れても合流出来る事を別っているんだよな…。

 逃げる道は既に閉ざされていたのか。


 本当に嫌なら柳瀬さんの気持ちなんか無視して帰ってしまえばいい。

 そう頭の中では分かっているのに俺が行動に移せずにいるのはきっと、俺が柳瀬さんと過ごす時間を楽しいと思っているからなんだと思う。

 冷静に考える中に、妙に制御の効かない部分ができ始めている。

 これは柳瀬さんのせい……いや、おかげと言った方がいいのだろうか?

 そこまでは良く分からない。

 一つだけ言えることは、現状が気持ちいいと思っていて甘んじていることだ。

 この気持ちは…………。





「到着!!ここが私自慢のお店だよ!」

「ここは………『メフォンのレストラン』ですわね」

「へぇ、この街で頭一のレストランじゃないか」

「うんうん」

「でも、こんな時間に突発的に訪れてはいれますの?人気店なだけあって、何時も満員満席だと思いますが……」

「チッちっち、そこは問題ないよえーちゃん。私はこのお店にちょっとした伝手があって何時でも歓迎してくれるの」


 街中を歩くこと十数分。

 俺達は柳瀬さんが案内したレストランの前に居た。

 と言うか此処、前にメリーさんと一緒に食事会をした場所だよな?

 あの時と同じ会場なのか………だったら大丈夫そうだ。

 一度訪れた事がある店なら、俺も余計な気負いもせずに済むからな。

 ほら、初めて訪れる場所って無駄に緊張しない?

 あ、基本的に家とバイト先、学校だけで生活が成り立っている俺だけですか。

 そうですか。

 ………自分の気の休まる場所だけで過ごして何が悪い!!


 自分の一人で脳内会話をしていると、柳瀬さんが店の中に入って行った。

 幾ら優待されるからと言っても、既に満席なら待たなくてはならない。

 待つくらいなら何ともないから待つのだが、俺を一人にしないでください。

 話す内容が思いつきません。

 まぁ、会話しないといけない制約はないから無言で待つんだけどんさ?


「こんなレストランに伝手があるなんて、ホノカさんは凄いね。ツカサ君は知ってた?」

「ん?あ、あぁ。一度だけ来たことがある」

「見かけに寄らずお金持ちなのですね。ここは少々お高いですから、わたくしとエドもまだ入ったことがないのですよ。……あまり財散も出来ませんし」


 無言で待っていると、エドさんとエーゼさんが会話に参加させてくれた。

 話しかけられたら返しはする。

 昔から変わらないことだ。

 これにより、自分から話しかけてこないが会話は出来る奴だと、適当な地位に位置していた。

 ボッチなのは変わらなかったけど……。

 というか、見かけに寄らずってなんだよ。

 装備品はきちんとそれなりの物を使っているぞ。

 殆どタダ同然で作って貰ったものだけど……。


「ホノカさんとツカサ君は同郷なんだって?俺とエーゼと一緒だな」

「それほど珍しくもないでしょう?」

「まぁそうですわね。昔から一緒に行動を共にしている方の方が、連携も取れやすいでしょうし。後は……いえ、これを言うのはわたくしも人の事を言えませんから」

「??どうかしたのか?」

「さぁ?エドさんが分からないなら、俺が分かるわけないじゃないですか」


 エーゼさんが何か言いかけてたけど、俺に聞かれても困る。

 エーゼさんの性格や考えていることを、経った数時間しか共にしていない俺が分かる訳がない。

 特に他人の気持ちに疎い俺なら尚更だ。

 まぁ言わない事を考えていても仕方ない。


「あぁそれと、俺とエーゼの事も呼び捨てで構わないよ。歳も近いだろうし、何より一緒に戦った仲だ」

「…え?じゃ、じゃあ分かったよ。エド」

「うん。俺もツカサって呼ぶことにしよう。エーゼも問題ないね?」

「ありませんが、えーちゃんだけは勘弁してくださいまし」


 だろうね。

 って、サラッと呼び捨てで会話する関係になってしまった件について。

 これぞコミュニケーションが高いリア充。

 ボッチであり、自称コミュ難な俺を呼び捨てで言うとは……。

 学校のクラスメイトでも居なかったぞ。


 こうして、何故か呼び捨てで呼び合う事になってしまった俺とエドさん……エドとエーゼ。

 何かのフラグかな?と思っていると、柳瀬さんが戻って来た。

 会話していると時間が経つのが早いな。


「おまたせ~。空いてるから直ぐに入って来ても良いってさ。…あれ?何か仲良くなってる!!?」

「あら?わたくしがツカサさんと仲良くして何か不都合でも?」

「へ?あ、ううん。そんな事は無いよ。あはあは……」


 何やってんだか。

 俺は仲良くしてはいるが、それは半分社交辞令の意味が強いゾ。

 この先のかかわり方で変わるかもしれないけど、現状では数回一緒に仕事をした同僚。

 その程度の認識と対応しかしていない。

 まぁ?向こうがこんな俺でも仲良くしてくれるって言うのなら、俺も対応を変える事を検討しても良い。

 上からの目線っぽいけど、ほぼ自分優先の性格なんだから仕方ないだろ?


 と、そんなことはどうでもいい。

 店前でいつまでもお喋りに興じるのは店に迷惑だ。

 案内役の店員を先頭に俺達は店内に入る。

 又しても奥の個室まで案内された。

 慣れているように中に入って椅子に座る柳瀬さん、慣れてはいないが二回目なので特に思うことも無く続く俺。

 その後をエドとエーゼが遠慮しながら入ってきた。


「直ぐに通されるだけでも良かったのですけど……」

「まさか個室に通されるとはね。ホノカさんってもしかして凄い人?」

「ドラゴンを討伐出来るような人が只者ではありませんわよ。ねえ?」

「ふ、普通に一般人だよ。ただ、ちょっと世間に疎くてつい最近まで東の方に住んでたから……。このお店だって、偶々助けた人がここのオーナーさんの娘さんだっただけで……」

「なるほど。娘さんの恩人だから雑には扱えないって訳だね。……しかし、人助けとはホノカさんらしいね」

「貴方も人の厄介ごとに突っ込んで行きたがりますわよね?」

「それを言われると痛いな。でも、困っている人を見たら放っておけないだろ?」


 座って待っていると、そんな会話が聞こえてくる。

 はいぃ!!!

 聞きましたか皆さん?

 困ってる人は放っておけない、などと如何にも主人公様が良いそうなセリフを吐きましたよ。

 もうエドが主人公、この世界の勇者で良くない?

 わざわざ俺を異世界から勇者として招き入れなくてもさ?

 いや待て、それだとイメージ魔法と言うチート能力を持ったまま転生出来ないのか………。


「またエドは……ツカサはその辺はどう思いまして?」

「へ?あぁ困ってる人の話?」

「そうですわ。あなたならどうします?」

「俺なら……自分に利益になると確定してるならできる範囲でやるけど、基本的には厄介事は御免だな」

「ですわよね!!分かります、分かりますわ!!わたくしたち、案外気が合う見たいですわね」


 俺の答えに反応して手を掴んでくるエーゼ。

 柔らかい!!!…じゃなくて!!

 急に掴んで来るの辞めてもらえませんか!!?

 俺はぱっと手を引き戻す。


「…ごめん。人に触られるのに慣れて無くて…」

「あ、そうでしたの?でしたら気分を悪くさせて申し訳ございません」

「いや、こっちこそビックリさせた…」


 お互いがお互いに謝辞を述べる。

 急に手を握られたのはビビったし、尊大とした貴族夫人を思わせる言葉使いからして苦手だなって思ってたけど、こうして他人の気持ちを尊重できる所と言い、本人がさっき言ったように案外と気の合うのかもしれない。

 同じ魔法使いって面もあるし……。

 まぁ、それはこれからのことだ。

 どうなるかは今の俺には分かるはずがない。


 っと、何やら強烈な視線を感じた。

 いや、見なくても分かる。


「……………」

「柳瀬さん?」


 感情の籠った目線を向けて来る柳瀬さん。

 その……そんな目線を向けて来ると照れる……はずがない!!

 気まずいだけだよ!!?


 このままにしておくのもエドとエーゼにも悪いので、とりあえず名前を呼んでみる。

 すると差し出される手。

 なんだ?この手は?


「…ん。握って……!!」

「お、おぅ」


 指示に従って柳瀬さんの手を握る。

 他人の肌、それも女の子って事で少し戸惑ったが、これまでも治療とかで触れたことあるのでそれほど気にせずに握ることが出来た。

 手を握ると、何故かドヤ顔でエーゼの方に顔を向ける柳瀬さん。


「もう、そんなことしなくても取りませんわよ…」

「まぁまぁ、エーゼも急に手を握ってはダメだよ。ツカサがビックリするのも頷ける」

「貴方に言われたくありませんわよッ!!」


 エドとエーゼが話している。

 一方でこちらは、


「ツカサ君も無防備にしていちゃダメだよ!!」

「ダメって……まぁ俺が気が緩んでいたのは認めるけど、エーゼに手を握られたくらいで……」

「それがダメなのッ!!………あ、ごめんね」


 そう言って掴んでいた手を離してくれた。

 頬が薄っすらと朱く染まっているのは俺の気のせいだろうか?

 しかし、ここまでくれば俺でも分かる。

 柳瀬さんは嫉妬したのか?

 …………いやいやいやいや。

 それはないでしょ!!?

 確かに嫉妬したのは間違い無いと思うが、それは呼び捨てで呼び合う様な仲になったばかりなのに、戸惑いもなく手を握ったことに嫉妬したんだ。

 うん、そうに違いない。

 柳瀬さんが俺が他の女の子に触れたから嫉妬したって言うはずがないからな……。


 そう、全ては俺の思い違い。

 俺の考えは何時も間違っている。

 そうやって自分の考えが正しいと、柳瀬さんの気持ちを追いやった。




 何となく気まずい空気が流れる中、運ばれて来た料理に感謝するしかない。

 とりあえず、食べよう。



私情で投稿頻度が大幅に落ちますが、投げ出したりはしないので見捨てないでくださると嬉しいです。

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