97話「後処理と称号」
あれから俺達は歓迎を受けた。
Sランク冒険者の到着まで持ち答えたら良かったのに、Bランク冒険者パーティーがドラゴンを討伐してしまったからだ。
興奮状態で胴上げやらもみくちゃにされそうになった俺は魔力不足を理由に避難。
代わりにエドさんとエーゼさん、最後の一撃を持って行った柳瀬さんに全部任せた。
支給品である魔石や魔法薬を使って魔力を回復させる。
自然回復があるから最低限動けるだけでも良かったのだが、ドラゴン討伐の活躍者の一人と言う事で全部タダだそうだ。
これは使わない手はない。
普通なら全快まで大量の量を使うから自分では絶対に回復しない場所まで回復させた。
ぶっちゃけると全部だ。
Sランクを優に超える魔力量を持つ俺だったが、街の危機を守るためにと集められた大量の魔法薬、魔石で事足りる。
実に身の入りが良い。タダなら全快させてもらっても構わないだろう。
自由に使ってくれてもかまわないと言われたのだから。
程なくして柳瀬さんがやっていた。
かなり疲れているらしく、防具や見える範囲の肌も薄汚れている。
それを理由に逃げて来たらしい。
「疲れぁ~~。やっと休めるね」
「お疲れ、柳瀬さんがいなかったらマジでやばかった」
「そんな……みんなが頑張った結果だよ。それを言うなら、ツカサ君がなかったらあそこまで追いつけられなかったし……」
「まぁ、それでもだよ。ツカサ君は頑張った!!お疲れ様」
今まで面と向かって言われたことは何回もある。
が、やはり何度言われようが慣れない。
俺は照れるのを誤魔化すようにそっぽを向いた。
疲れているからか、柳瀬さんも今に限っては口数が少ない。
黙って近くの椅子に座ると、ぐでぇ~と怠ける。緊張の糸が切れてリラックスしているようだ。
と、テントの外からバタバタと足音が聞こえて来た。
誰だろう?と思いながらマップを確認すると緑の点。
これは面識のある人の表示方法………少なくてもあったことが一回や二回では済まされない人。
俺がそこまで頻繁に合っている人と言えば……
「お疲れ様で~~す~~!!ドラゴンの討伐!!!これでついにドラゴンスレイヤーの称号を名乗れるんですね~!!」
「め、メリーちゃん……」
「はい!!早くツカサさんとホノカさんに会いたくて仕事を押し付けて……もとい、片付けて来ました!!」
ギルド受付嬢のメリーさんしかいない。
メリーさんはテントに入って来るなり、椅子を引っ張り出してドガッと座って笑顔で仕事をサボっている事を宣言した。
メリーさんって、ただの下っ端職員じゃない気がするんだよななぁ。
普通なら仕事を押し付けるって出来ないはずだし……。
柳瀬さんが疲れた表情のまま、メリーさんにここに来た理由を問いただす。
俺よりも疲れているはずなのに、有り難いことこの上ない。
「えっと、メリーちゃんサボってても良いの?」
「はい!!お二人に聞き出し調査も兼ねていますから!!」
「聞き出し調査……当然あるよね」
「まぁだろうな。せめてもの救いがメリーが担当するってことだけど」
「何ぉ!!?私じゃご不満って感じですか!!?私要らない子!!?」
俺はメリーさんで良かったと言いたかったんだが、メリーさんには逆意味で伝わったらしい。
よよよ、と涙を流す仕草をしてくる。
そこへ、柳瀬さんが補足を入れてくれた。
「ツカサ君はメリーさんで気が楽って言いたいんだよ。だから大丈夫。私たちがメリーさんを邪気に扱う訳ないよ」
「ホノカさん……っですよね~~!!まるで親の様にお二人の成長を見守って来た私です!!今更ないですよね~!!」
(邪気に扱わない訳)ないじゃないですか~。
好意を抱いている訳ではないが、嫌いな人でもない。
面倒だと思ったら容赦なく邪気に扱う。
柳瀬さんもそこまでは思っていないだろうが、「あ、あはは」と乾いた笑いを漏らしている。
メリーさん、ポジティブ過ぎ!!
メリーさんは一人で落ち込んで立ち直って、ようやく本題に入った。
俺たちに聞き取り調査だと言う事で、職員らしく真剣な表情に変わった。この人、真面目にする時はするんだよなぁ。
「先ずはホノカさんとツカサさん、ドラゴンの討伐おめでとうございます。正式な報告や発表は少し先になると思いますが、ドラゴンスレイヤーの称号とAランク冒険者への昇格はほぼ確定と思います」
「おぉ!!やったね!!」
「まぁこれくらい当然の報酬だと思うけど……」
「でも、嬉しいでしょ?」
「そうだな。嬉しいことに変わりはない」
このドラゴン討伐で俺と柳瀬さんはAランクへの昇格が決定した。
これで普通の人間が到達できる最高ランクの冒険者だ。
普通なら経験や礼儀、知識が必要らしいが、ドラゴンを討伐できる者ともなれば扱いも変わってくる。
後日ギルドマスターからの呼び出しで正式に昇格するとのこと。
厄介な連中に絡まれたり、上からの重圧とか無ければいいけどな……。
それともう一つ。
称号についてだ。
意味はない。完全に持ってるだけのコレクション要素。
ゲームだとそんな感じだろうか?
この世界でも似たような感じだ。
凶暴なモンスターと討伐した際にギルドマスターから送られる付属ステータス。
この場合のステータスは能力値とかの事ではなく、元の世界でも通じる社会的なステータスと言う意味だ。
規則てして決まっている称号もあれば、ギルドマスターが独自に決め発行する称号もあるそうだ。
しかし、誰でもかれでも貰えるものではなく、例外なく冒険者ギルド本部で行われるマスター会議にて不可を審議されるらしい。
と言っても、経歴をギルドカードを通して調べてホントにふさわしいかどうかを調べて、多数決による決議を取るだけ。
基本的に支部のギルドマスターが推薦するので不可になる可能性は極めて低い。
俺と柳瀬さんが貰う『ドラゴンスレイヤー』の称号は決まっているものだ。
ドラゴンに分類されるモンスターと単独、又は一パーティーで討伐した時のみ与えられる称号。
ギルドカードを見れば分かるので、申請さえすれば本部での会議無しで決定出来る珍しくも貴重な称号。
俺と柳瀬さんだけでなく、エドさんとエーゼさん、その他死んでいった冒険者達の力があって討伐出来たようなものだと思うかもしれないが、今回の場合は俺と柳瀬さん、エドさんとエーゼさんだけが当てはまるらしい。
死んだ者には称号は与えられないし、スレイヤーには力不足だからだ。
ならば、俺と柳瀬さんはともかく、エドさんとエーゼさんは違うパーティーではないか?と思うだろう。
一パーティーは普段は違うパーティーが即席で組んでも、人数が一パーティー以下ならば問題ないらしい。
ということをメリーさんの口から説目を受けた。
称号はともかく、Aランクに上がれたことは嬉しい。
受けられる依頼の難易度が上がれるし、身分証明にもピッタリだ。
これから魔王軍について調べていく上で、提供される情報もすんなりと手に入るかもしれない。
それでこそ、あまり広めたくないような情報まで。
あと、緊急依頼以外の赤い紙の依頼、つまりSランクの冒険者程でなければ受けられない依頼まで受けられるかもしらない。
このランクになるとドラゴン討伐と何ら変わらない危険度になる。
だからこそ、数は少ないが身の入りはいいし、実力を上げるにはもってこいの依頼。
もっとも、危険なことに変わりはないから、無理そうなら撤退を視野に入れる。
と、ランクが上がった事で出来る範囲が大幅に増えたのだ。
その分厄介事も増えると考えられるが、それよりも有用な場面が多いはず。
「最少年って訳ではありませんけど、それでも類を見ない昇進っぷりですよ!!」
「そ、そうなの?」
「はい!!最少年は幼い事からひたすら鍛え続けていた、どこぞの馬鹿冒険者一家が持っていますが、冒険者に所属してからの期間で言えば、お二人が最短です!!」
「う、嬉しいような、嬉しくないような……」
説明が終わった後のメリーさんは何時も通りのメリーさんに戻った。
それにしても、最短での昇格って…。
別に狙っていた訳じゃないんだけどな。
柳瀬さんもこれに関しては素直に喜べないらしい。
あぁ、また目立つよ……。
俺のスローライフを返せ!!
「専属受付嬢として私も鼻が高いです!!これで給料アップ間違いないです!!」
「生々しい!!?」
「良いんですよ!!公言出来るって言うのは素晴らしいことですからね。他の人の前ではこんなこと言わないですよ」
それが逆に、俺と柳瀬さんの前では喋るってことですよね?
後、専属受付嬢にしたつもりはない。
単に慣れているから他の受付嬢よりは話しやすいってだけだ。
街を離れたら別の受付嬢で依頼の受注や報告をする。
が、この人の事だから別の街にも普通に出没しそうなんだよなぁ。
給金低いって言ってる割には絶対に裏があるよ……。
「あ、後もう一個忘れてました。任意ですから話さなくてもいいですけど、規則ですから一応お伺いしておきますね?」
「伺うって何を……。あんまり難しい内容だと話せないよ?……その、出身地とか」
「あ、そう身構えないでください。プライベートな内容ではないですから。単に、報告書を纏める上でお二人から戦闘で何があったか?を聞きたいだけです」
メリーさんは持て来ていた紙とペンを用意すると、話を聞いてメモを取る体制に入った。
珍しい。これなら出来るキャリアウーマンって感じが伝わって来るっ!!?
と、構えているメリーさんに柳瀬さんが詳しく戦場の様子を説明していった。
柳瀬さんが大まかに述べて、俺が所々補足する形だ。
初めは上手く拮抗していたこと、突然ドラゴンが本気を出して全滅したこと、俺と柳瀬さんが粘ったこと、第三陣が応援に来てくれても直ぐに全滅したこと、もうダメだと思った俺たちをエドさんとエーゼさんが助けてくれたこと。
以上の事を何となく説明した。
俺のイメージ魔法や柳瀬さんの最後の飛ぶ斬撃などは伏せる。
どこまでがこの世界の常識なのか判断しにくいからだ。
飛ぶ斬撃くらいはSランク冒険者ならホイホイと習得して居そうだけど、流石にイメージ魔法はやり過ぎてる感が否めない。
俺の呼んだ魔法に関する書籍には全く載ってないし、無詠唱の時点で規格外ならしい。
俺たちが話せないことがあっても、メリーさんは全く気にしなかった。
個人的には興味ありげなのは変わりないけど、ギルド職員としては聞き出そうとしない。
冒険者にとって個人の技術は商売道具と変わりないから、と元の世界でそう書いてあった記憶があるので、似たような感じだろう。
これまでも誰も詳しく聞いて来なかったし……。
マナーとも言っていたっけ?
とまぁ、こんな感じで説明をしたのだ。
今思えば、こんなやり取りをするのも何度目なんだろうか?
カードック、フロアマスター、ワイバーンの群れと多々ある。
うん。明らかに普通の冒険者が体験する経験を超えてるぞ……。
体力ゲージや魔力も全快した頃、メリーさんへの説明が終わった。
紙にまとめているメリーさんを横目に、俺は読書をしている。
既にここに留まる理由は無くなったが、まだ開放してくれないからだ。
早く帰りたい気持ちを醸し出しながら読書に浸っているんだが、メリーさんは全く気付いてくれない。
そんなメリーさんの邪魔をしない程度に柳瀬さんが質問をした。
「メリーちゃん、ギルド職員も防壁の付近に待機していたんだよね?戦場は見えてたはずじゃ?」
「まぁ見えてましたけど、戦闘の飛び火が散って来ないように警戒しながら、大量の負傷者の手当も行っていましたから…」
「それでも監視役は居るんじゃないないの?ほら、報告書を纏めてたり、もしも全滅した時に街を放棄できる様に備えて……」
たまらず俺も会話に加わる。
自分から話に加わるまで変化するとか、俺も変わったものだ。
………柳瀬さんとメリーさんの前限定だけどな。
「確かにこちらでも職員や衛兵が監視してました。そちらからでも報告書が上がるはずです」
「だったらなんで?」
「ズバリ!!!本人から聞いた方がより正確だからです!!」
あ~ね。なるほど。
そりゃあ、戦闘した本人が生き残っているならそっちから聞いた方がより正確だ。
それでも分からない事とかもありし、真偽の確認もあるから監視役からも報告も上がるわな……。
常に多数の意見は必要だ。
そうした方が視野を広げられるからな。
メリーさんが報告書を纏めた後、書かれては不味い事が入ってないか確認を取った後、解散になった。
解散と言っても、メリーさんはそのままギルドマスターの下に向かい、俺と柳瀬さんは宿に帰るだけだ。
街はドラゴン襲撃の余韻が残っていて、まだどこも騒がしくしている。
流石にもうパニックにはなっていないが、街中人だらけで会話を絶えず行っていた。
そんな中、俺と柳瀬さんはへとへとの足をどうにか動かしながら宿へ向かって歩いていた。
「皆、噂してるね」
「そりゃするだろ。街の一大事件だ。住民にとって命や人生に関わることだからな、普段より活発になるんだろうさ」
「そうだね。私も当事者じゃなかったら、ギルドとかで聞き込みしてたかも」
如何にも柳瀬さんらしい対処の仕方だ。
俺なら放っておくか、実害が出そうなら真っ先に逃げる。
本さえ読めたら後はどうでも良いからな。
今回は力があったのと、柳瀬さんに懇願されたから戦ったまで。
名声とか報酬とかどうでもいい。
そんなものよりも読書する時間をくれって言いたい。
時は金なり。
元の世界では自由な時間を出して労働して給料を貰うシステムだったからな。
金があっても自由に使える時間がなければ意味がない。
だぁら俺は自分の気分で仕事時間を決めて、本人の力がものを言う、失敗すれば死ぬ可能性のある冒険者を選んだんだ。
と、これは何回も言ってることだったな。
俺と柳瀬さんは、ドラゴンの討伐が完了しましたと言う話をしている住民の声を横に流しながら歩く。
しかし、顔がわれて居なくて良かったと思う。
元の世界では写真などで即拡散される時代だったけど、この世界に写真はない。
もしかしたら『失われた古代技術道具』とかで似たようなものがあるかもしれないが、少なくても俺は見たり聞いたり、本でも書いてあった事はない。
普及はしていない、一般的に使われていることは無いだろうと思う。
しかし、それでも俺と柳瀬さんがドラゴンの討伐成し遂げたことくらいは噂になってもおかしくはないい。
領民を安心させるためにも、ドラゴンが冒険者の手によって倒されたと公表するのは、領主にとって当たり前のことだ。
むしろ、発表しないで混乱させたままでいいはずがない。
元の世界で領地経営系の小説も少しばかり嗜んでいたが、それがこの世界でも当てはまるのかは知らない。
でも、これまでの傾向から言って殆ど当てはまる。
ならば、領民を混乱ばかりさせていると、無能扱いされて領地を取り上げられてしまうのではないか?
この国が封建制度を行っているのは知っているし、そもそもこんな大都市を経営しているのだからその辺は大丈夫だろう。
既に混乱は収まっている。
興奮は収まってい無いが、そこまで口出しをする必要はないのだろう。
聞こえはいいけど事実だから言うが、この街を守れて良かったと思う。
新しい町を求めて移動しなくても良いからな。
とか思いながら街中を歩く。
目的地が路地裏だからわざわざ大通りを歩く必要が無いんだけど、柳瀬さんが隣にいるし街の様子を見たかったからいいだろう。
それにしても……
「人多すぎ……」
「あ、あはは。そうだね。元の世界の首都圏とかと比べたら少ないけど、何時もよりも多いね」
「情報集めは大切だから分かるけど、ここまで外で話す必要ある?」
「もう…みんながみんなツカサ君みたいな感じじゃないんだから」
人が多い。
戦場に一番近かった東門付近は冒険者やギルド職員、衛兵が忙しそうにしていたが、ちょっと離れれば人通りは少なかった。
しかし、それも街の中心に近づくに連れて増えてくる。
人口密度というか、脅威が去っと知ったから皆で騒いでいるのだろう。
俺には理解できないと言うと、柳瀬さんが困った顔をしてくる。
確かにそうだ。
この世の人間が全部俺と同じ思考回路を持っている訳ではない。
むしろ、そんな世界だったら怖い。
何も発展せず、停滞を望む世界。
………誰が何の仕事をするか揉めそうだ。
そもそも、揉めること事態をめんどくさがって喧嘩すら起こらないかもしれないな。
…………人間は一人一人が違った考え方を持つから繁栄出来た。
でなければ、今の楽な生活すら送れない。
他力本願で生きていたい……。
「わかってるよ。俺がそう思うだけで、逆に普通の人からすれば俺の考えは理解できないだろうさ」
「そこまで自虐する必要はないんじゃないかな!!?……もうちょっと自信を持ってよね」
あ、やはり自虐しまくる人は嫌いですか。
ボッチは常に独りだからな。
普通の人と違い過ぎて自虐ネタに困ることはない。
だが、柳瀬さんが言うならば声に出すのは止めておこう。
なんか嫌いそうだし?
関係が変わって今までの努力が消えるのも嫌だし……。
俺がそこまで考えるのは珍しい。
いつだって自分さえ良ければいいと言う勝手な考えを貫いてきたのに、柳瀬さんが思うなら…と考えを変え始めている。
それに気付いていながらも気づいていないふりをした。
その考えはおかしい、自分には有り得ない、そうやって振り払う。
自分でも良く分からない考えを抱きながら歩ていると、前方から見知った二人組が歩いて来た。
「「「「あ」」」」




