93話「想定外の……」
お待たせいたしました。先週は東京へ旅行していた為執筆作業が出来ませんでした。
柳瀬さんは直ぐに帰って来来てくれた。それに関しては何も言うことはない。柳瀬さんが行けると思ったから戻って来たんだから、俺がどうこう言う筋合いは無い。
「戻ったよ!!どんな感じ?」
「見たら分かると思うけど、物凄く怒ってる。これ、撃退は絶対に有り得ないよ」
そう、あれからドラゴンと戦闘してHPゲージを全体の三分の一まで削ると、ドラゴンは死ぬのを恐れて帰るどころか暴走し始めた。
あれだ、最後の抵抗……そんな言葉が似合う。…というか、知性を持ってるんだろ!!?攻撃を当てたらものの一撃か二撃喰らったら俺と柳瀬さんも死ぬんだけど、それでもどうにか防御や回避を行い続けている。それなら、最後の抵抗とか、一撃でも当てられたら!!と意気込む事なく逃げるのが正解だと思うんだけど……。
それでも、まるで何かに追われているかのように俺と柳瀬さんを睨み付けるドラゴン。何が気に食わないのか…。それが分かった苦労しないんだけどなぁ…。
相手が帰ってくれないのなら、俺と柳瀬さんは戦うしかない。
どこか途中でSランク冒険者が救援に来てくれてお役御免になるか、ドラゴンが途中で尻尾撒いて逃げていくだろうと考えていたけど、全くそんな気配が感じられない。
あれですか、物語の進行状況倒すしか方法が無いとかそういうの?そういえばあの女神様、俺には勇者をやらせようとしていたくらいだから、こんな風に成長出来るポイントや魔王を討伐する勇者になる英雄譚の一部として考えてそうだな…。
実際に俺の意見を無視してこの世界と魔王を討伐してくれと一歩的に説明してから、放り出された経緯から、有り得なそうな事ではないと俺は結論づける。
しかし、俺ばっかり一人で考えても仕方ない。
かなり戦ったんだから、柳瀬さんの気持ちも変わったりしないのかな?と聞いてみる。
「柳瀬さん、一応聞くけど、もう戦いたくないとか思わない?」
「思う訳ないよ!!あれだけ被害を出したんだから、私たちがしっかりと討伐しないと!!」
「ですよね~。……まぁ柳瀬さんがそういうなら最後まで付き合うけど………命優先。これは約束しよう」
「…ッ!!わ、分かってるよ。ツカサ君だって引き際を間違えないでね。……………来たッ!!!」
柳瀬さんの号令で展開する俺と柳瀬さん。固まって行動しても意味が無いでの、少しでもドラゴンの目を錯乱される基本戦法。何度も行っている行動だ。
先まで俺が戦っていたこともあり、柳瀬さんよりもヘイトが集まっていたのだろう、ドラゴンは俺に向かって腕を振り上げきた。
俺はそれを身体能力強化を使って回避、からの攻撃魔法をぶちかます。何度も使ううちにタイムラグがほぼゼロで発動出来るようになったウォーターバレットの上位互換、差し詰め『ウォーターキャノン』
カノン砲如く勢いで銃弾よりも大きな水の塊がドラゴンに向かって発射される。
しかし、体力が減った事で動きが初期とは段違いなドラゴンは、初見でその弾速を見切って避けた。
空中ならともかく、地上でその速度とは恐れ入ったぞ。接近戦はかなりヤバいかもしれないな…。
「でも、俺の攻撃を避けられる事は想定内なんだよなぁ…」
「やあぁぁぁぁぁ!!!」
俺の攻撃は避けられてしまった。でも、そんなことは想定内。
俺が作った隙を柳瀬さんが狙い撃つ。
すれ違いざまに一撃、体制が崩れた所に透かさず二撃目を与える柳瀬さん。三撃目を……というところで立て直したドラゴンの尻尾による薙ぎ払いが柳瀬さんを襲う。
柳瀬さんは即座にジャンプして薙ぎ払いを回避した。
しかし、空中と言うのは人間にとって不利な場所この上ない。身動きが取れないのだ。
それを知ってか狙ってかは知らないが、空中で身動きが取れない柳瀬さんに向かって腕が振るわれる。………前にウォーターキャノンがドラゴンの頭にぶち当たって行動を止める。
「………ッ!!流石ツカサ君。……ありがとう!!!」
「何言ってるか全然聞こえないけど、味方のピンチだからな。助けるのは当然」
俺が柳瀬さんに当たりそうな攻撃を易々見過ごすほど周りを見ていない訳がない。柳瀬さんに攻撃が集中するという事は俺に注意が向いていないことになる。
その隙をついて死角から頭に攻撃を与えて混乱させる。急な攻撃にパニックになったドラゴンは行動を止めてしまい、柳瀬さんは無事に地面に帰る事が出来たと言うわけだ。
これを機に空中に飛び出すのは止めてもらいたいところだ。まぁ、その弱点を補うのが俺の役割なんだけど。
柳瀬さんはまたドラゴンに突っ込んでいく。体育会系の女の子に相応しい突進ぶりだ。
その後先考えずに直感で行動している柳瀬さんをフォローするのが魔法使い職である俺の役割。
柳瀬さんが接近戦でドラゴンを相手取ってその隙に俺が魔法をぶちかます。そうやっていると俺にヘイトが集まって来るので、今度は柳瀬さんが死角から斬撃を浴びせる。
小さな戦闘でも大きな戦闘でもこの基本は変わらない。基本だからこそ変えない方がいいのだ。
俺と柳瀬さんはそうやってドラゴン相手に戦った。相手が相手なだけあって全力を尽くす。
戦闘中なのでしっかりと確認をしたわけでないが、アイテムボックスに入れてある魔石は殆どすっからかん状態。回復薬ですら残り数個しか残っていない。
俺がこの状態なのだから、柳瀬さんはもっと酷いだろう。いや、俺よりも優れている柳瀬さんはまだまだ回復アイテムなんか有り余っている可能性もあるが……。
魔法使いな俺があまり使う事のない回復薬。それがどうしてここまで枯渇しているかと言うと、全部ドラゴンのせいだ。
仮にも最強生物と言われているのは伊達じゃない力を、ドラゴンは俺と柳瀬さんに見せつけてくれた。
半分までは「これ勝てるかも?」と思わせる。残り三分一で「かなり厳しいがこのまま押し切れる」そう思わせた。だがしかし、残り四分の一をきってからは「まるで話が違う」だ。
鱗は柳瀬さんの攻撃や俺の上級魔法ですらダメージを受けない程頑丈になり、例え攻撃を通せたとしてもドラゴンが持つ高度の魔力が即座に傷を塞ぐ。身体の動きはより一層早く、強く、そして激しくなって俺は言わずとも柳瀬さんですら回避が間に合わないほど。魔法障壁も全力で支えなければ直ぐに砕け散る結末。
しかし、幸いと言うべきか情けをかけられていると言うべきか、高い魔力量を持っているドラゴンですら回復には時間が必要ならしく、ブレイクポイントの四分の一を超える回復を行わない。
四分の一までは即座に回復するが、それ以上になると活動停止に近い制約でもあるのではなか?俺はそう考える。
ここに来て何かが作用していると思うしかないほどの効果っぷりだ。難易度は最終局面一歩手前の、普通にプレイしているだけでは絶対に勝てない難易度みたいだな。ソジャゲでもガチ勢が挑むようなレベル。俺にはどう足掻いてもコンテニューしか方法がない。
しかし、この世界はいくら異世界でゲームじみている世界だとしても、現実に他ならない。
傷を負えば当然痛いし、空腹眠気欲情と言った人間の三大欲も持ち合わせている。排泄行為だって損座している。こんなのがゲームな訳がない。
当然、死んだらそのまますべて終わる。紛れもない『死』が俺と柳瀬さんを待っている。
だから、俺はこの劣勢をどうにかする方法がないかと頭を回す。
柳瀬さんだけに戦闘を任せて置ける状況ではないので、俺もギリギリの戦闘を行いながらだ。
一瞬の隙をついてアイテムボックス内の魔石から魔力を吸い取る。なんとか全快まで回復したが、これで魔石から魔力補充………もっと言えばアイテムに頼った魔力回復が行えなくなった。
最上級魔法を何度も撃っても枯渇しない魔法量を持っている俺だが、無駄撃ちをし続けていると絶対に枯渇してしまう。
俺は攻撃に注ぐ魔力をいったん落とした。
ドラゴンは俺と柳瀬さんを完全に狙いを定めている。逃げる方法は俺が考える限り存在していない。
そもそも、柳瀬さんが逃げる気がないから、俺も逃げられないんだけどな。
逃げる選択肢は無し。あの怒り様ならば撃退と言う討伐一歩手前の方法も取れないだろう。
ならば、俺と柳瀬さんがしなくちゃならないのは、ドラゴンのHPゲージを全て削り切って息の根を止めることだろう。
はぁ…。やはりこうなる。まるで英雄譚。俺の器ではないのに。
いや、柳瀬さんの器ではないのか?この場合は、柳瀬さんが英雄で俺がその仲間ってスタンスを取れば……。
俺は魔法使いだしな!!剣を使う物が一番手、魔法使いは二番手とテンプレで決まている。この持論なら完璧だ。
ならば、出来るだけ魔力を溜めて超強力な魔法を放った後、回復までのタイムラグ中に柳瀬さんがトドメを刺す。
うん。これで行こう。むしろ、これ以外の方法は考えられない。
トドメを柳瀬さんに任せる所が特に冴えている。ラストアタックは特別な意味合いを持つから、傍から見ている人には柳瀬さんに注目が集まるはず。
よし、そうと決まれば早速柳瀬さんに合図を送る。
こう言った時に心の声を届けるアイテムがあれば便利なのだが、残念ながら持っていないどころか聞いた事すらない。
無い物ねだりはしない精神で諦めて堅実な方法を取る。
「柳瀬さん時間稼ぎお願い!!」
声をあげた。
ドラゴンにも聞かれるかもしれないが、一番確実に柳瀬さんに俺がして欲しい事を伝える方法だ。
俺の声が聞こえたらしく、返事の代わりに柳瀬さんはドラゴンへ接近戦を仕掛け、そのまま引かずに粘ってくれた。
その間に俺がイメージを構築していく。
素早く、しかして正確に。
ドラゴンのHPゲージをほぼ全て消し飛ばせる威力を、絶対に当たる範囲で。
この際魔力残量は気にしないことにする。どっちみちドラゴンさえ討伐出来れば後は、他の冒険者が全部片付けてくれるだろう。
その間、休む位の権利は俺と柳瀬さんにはあるはずだ。
しかし、現実はそう何度も上手くいくものではない。
そのことを、この世界に来てから大きな失敗をしていない俺はつい忘れていた。
俺は何をしても一番手にはなれなくて、二番手どころか最下位に近い存在であると言う事を、女神様から貰った力を過信していたと言う事を。
一番忘れてはいけないことを忘れていたのだ、
それは…………
「っは、あぁぁぁぁ!!!」
「……ッ!!!柳瀬さん!!!」
限界は柳瀬さんも近かったということだ。
柳瀬さんの悲鳴で集中力が途切れる。魔法の構築が中断されるが、そんなことはどうでもいい。
視線を急いで柳瀬さんに向けると、脇腹から血が流れていた。
頭に血が上るのを感じ取った。身体強化魔法に魔力を注いで柳瀬さんの元に走る。視界の隅に移る魔力残量が大きく減った。
その間もドラゴンは柳瀬さんにトドメを刺そうと尻尾を振り降ろして………。
ヤバッ、間に合わないっ!!!
魔力消費が持つかわかんないけど、魔法障壁を展開して……。
「『飛刀……一閃』ッ!!!」
淡々とした声が響いた。それは男の声で、何処かで聞いたことがあった声だ。
瞬間、柳瀬さんに狙いを定めていた尻尾が、スパッと斬り落とされた。
何が起こっているのか分からない。混乱する中、更に上級魔法がドラゴンを襲う。
状況把握できない。しかし、柳瀬さんが死んでいない事だけは分かる。
「このセリフも二度目だね。さぁ、急いでホノカさんの下に……急いでツカサ君!!」
「エドのせいでまた厄介な事に巻き込まれたと思いましたけれど、貴方を助けられたのならわたくしも鼻が高いですわ」
声のする方向を向くと、いつかの救出劇の時と同じ様にエドさんとエーゼさんが立っていた。
何故だか分からないがこの二人を見た瞬間、俺はドラゴンの尻尾を切り落としてくれたのが彼だと理解すると同時に、安堵の気持ちが広がった。
この二人ならば大丈夫。俺と柳瀬さん抜きでもドラゴンの攻撃に耐えられるだろうし、硬すぎる鱗を貫けられる攻撃方法を持っているだろう。
理屈を聞かれても俺には説明不能だ。本当にそう思ったのだから、そうとしか説明が付かない。
それくらい俺の中にストンと落ちてきた感情だ。
「どうして……」
どうしてここに…。そう問いかけようとして俺の言葉を塞いだのはエドさんだった。
彼は眩しいほどの笑顔で、誰もが言えそうで言えないことを言い張る。
「誰かが助けを求めているのなら、俺は迷わずそこに飛び出す。俺はそんな奴なのさ」
「要するに、エドはお節介が過ぎるのですわ。っと、そろそろ限界みたいですので、やるべきことを終わらせて欲しいですわね」
「俺とエーゼが時間を稼ぐから、ホノカさんを救出してくれ」
二人はそれだけ言うと、時間稼ぎを行うべくドラゴンに向かって特攻し始めた。
俺は感謝の気持ちを込めて二人に頷くと、身体能力強化魔法に魔力を注いで身体を強化。普通なら有り得ない速度を用意て柳瀬さんの下に駆け寄る。
エドさんがヘイトを稼いでドラゴンの狙いを受け、エーゼさんが拘束魔法を使ってドラゴンの動きを止める。そこにエドさんが剣で斬り込む。
二人が稼いでくれた時間を使って、俺はようやく柳瀬さんの元に辿り着いた。
「柳瀬さん…… 怪我は」
「ご、ごめんなさい……時間稼ぎが、出来なかっ」
「喋らないで…今回復魔法をかけるから」
うわめきながら謝ってくる柳瀬さんを黙るように指示を出して、俺は回復魔法をかけて傷を治療する。
柳瀬さんの受けた傷は致命傷とまではいけないが、放置していればそれこそ出血多量で瀕死に陥るレベルだ。
現に俺が回復魔法をかけるまでの数秒間でかなりのダメージを受けていた筈だ。俺がホッとしてHPゲージを見た時には半分を切っていた。
間に合って良かった…とほっとする俺に、落ち着いたらしい柳瀬さんが一つの疑問を呟いた。
「……ドラゴンはどうなったの?」
「それは……エドさんとエーゼさんが援護に飛んできたってことくらいしか…。でも、援護が来たなら――」
俺が知っているのは柳瀬さんを襲うはずだった尻尾が切り離され、上位魔法がドラゴンの身動きを取らせないでいる。
だからこそ俺がこの場で柳瀬さんの治療に専念出来ているのだ。
俺はここまで来たら撤退を選んでも良いんじゃないのか?柳瀬さんにそう提案しようとして、柳瀬さんに止められた。
「援護に来たのはいいけど……またあの悲劇は繰り返したくないの!!」
「柳瀬さん………」
真剣な表情で俺を見つ返してくる柳瀬さんに、俺は目を逸らせないでいた。
これはあれですね。助けがホントに要らないなら柳瀬さんも安心して撤退を選択できるけど、あのドラゴンが初見さんには遊びで相手をしているなら、今戦っているエドさんとエーゼさんはこの戦いで亡くなった幾人もの冒険者と同じ様に葬られるだろう。
柳瀬さんは自分が怪我をしてなお、他人が死ぬのを見過ごせないのだ。それは、一般人とは少しだけ突出した才能を持っていてもいなくても。
柳瀬さんは結局のところ、出来た人間なのだ。自分の不利益を顧みず他人を助けられる英雄。それが彼女なのだ。
一方で俺は魔法がチート能力レベルである事を除いたら、どこにだっているような心情を持っているようで持っていないただの一般人だ。
俺の気持ちは逃げたい。これが最上位に位置するはずだった。
誰だってドラゴンと言う生物に逃げたいと思うし、もしも勝てたなら……と夢を見ることもあっただろう。俺だってチート能力があるからそう思っていた。
しかし、それでもこんな面倒な事は辞めて逃げたい。街を守るとかどうでもいいし、自分の命が助かったのなら後はどうとでもなる。
でも、何故だか柳瀬さんの言葉は優先して叶えたいと思ってしまう。柳瀬さんが言うのなら、俺だって頑張ってみようかな?そんな気持ちを抱いてしまう。
その気持ちが何なのか、自分でも薄々気が付いている。でも、それをここで述べるのは死亡フラグな気もするし、それが本当に正しい気持ちなのかも分からない。俺の勘違いという可能性も有り得なくはないんだ。自爆する確率は低いほどいいので、完全にそうだと思うまでは言わないけどな!!
逃げたい、逃げたい行ってる俺だけど、柳瀬さんの気持ちが前を向いているなら、俺だって戦わないとダメだと思う。
そもそも、俺だけ逃げて柳瀬さんが死んだのなら、それこそ本末転倒だし。俺は柳瀬さんに生きてもらいたいと思っている。生きて……そして元の世界に帰したいと、そう願っている。
だから俺は嫌いな努力を続けて魔王討伐なんて、女神様の手の平を転がるような真似をしているのだ。ホントに何故俺が勇者なんかに選ばれるんだろうなぁ。
そう言った気持ちを全部飲み込んで俺は柳瀬さんに答えた。
「柳瀬さんが言うなら、俺は何処までも手伝うよ………死ぬのは御免だけど」
「ツカサ君………ありがとうッ!!!」
「っちょ!!!抱きついたら……」
俺の言葉が嬉しかったのか、感謝感激!!と言う風に抱きついてくる柳瀬さん。
柳瀬さんからしたら普通のスキンシップなのだろうけど、俺からすれば過剰なスキンシップだ。そもそもスキンシップ事態になれていなくて嫌悪感を示す俺なのだから、同年代の女の子のに抱きつかれてたりすると……。
や、柔らかい…、それにいい匂いが……何を考えているんだ俺は。
良いか、柳瀬さんに俺に対する異性への好意はない。ただ、感情が高ぶっているだけ。そう、それだけだ。
別に嬉しいとか思わないわけじゃないけど、俺には嬉しいよりも先に戸惑いが来てしまう。
「あの~~!!お二人さん!!いちゃつくのは後にしてもらえますの~~!!!」
「い、いちゃつくなんてっ!!ち、違います!!!」
俺を救ってくれたのは後方からの魔法を発動させるため、ドラゴンから離れていたエーゼさんだった。
エーゼさんの言葉に柳瀬さんは照れたのか、突き飛ばすようにして俺から離れた。思いの外勢いが強く、俺は地面に尻餅をついてしまう。
柳瀬さんが離れてくれて嬉しい様な、エーゼさんに誤解された上に尻餅を着いて嬉しくない思いをした様な……。
慌てた柳瀬さんの手を貸してもらって立ち上がる俺の下に、エーゼさんが駆け寄って来た。
「ゴホン。今はエドがドラゴンを足止めしていますが、正直言って厳しいでしょう。ホノカさんとツカサさん、戦意は消えてません?」
「もちろんです!!まだ戦えます!!」
「その心意気はありがたいお言葉ですわ。では、ツカサさんもまだやれるということでよろしいですか?」
「まぁ付き合うよ。ここまでやっておいて最後は誰かに任せるのも後味悪いし……」
「では、この四人でどうにかしませんといけませんわね。とりあえず、ツカサさんにこれを渡しておきますわ」
「あ、ありがとうございます」
「いえいえ、困った時はお互い様ですわ」
エーゼさんが渡してくれたのは高価な魔法薬。これ一本で全快出来るほどの効果を持つ優れ物だ。当然高い代物で、俺は2本用意するのが限界だったほど。
高価な回復アイテムを俺にポンと渡せるれべるのお金持ち。まぁ、この状況が為せる技なのかもしれないけど……。
とりあえず、渡された魔法薬で魔力を全快にして、追加で頂いた魔法薬である程度の補充が可能な状態に持ってこれた。
………後で使用した分を請求されたりしないよね?
まぁともかく、これで俺の前線復帰は可能となった。
柳瀬さんの怪我が全快出来ていないが、彼女の現状を観察するに気合いで何とかなると信じよう。俺の回復魔法で既に傷は癒えているんだし、後は意識次第でどうとでもなるレベルだろうから。
かくして、俺と柳瀬さんに加えてエドさんとエーゼさんの四人でドラゴン討伐の最終ラウンドのゴングが鳴った。
もう直ぐドラゴン戦も終わり…。




