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92話「第二ラウンド開始」

 クソッ、遅かったみたいだな。と、俺は内心で悪態を吐いた。

 ドラゴンが前線で暴れている様子を知った俺と柳瀬さんは急いで前線に向かった。のだが、既に時遅し。大分やられていた。

 マップに映っている冒険者の反応は、柳瀬さんがギリギリの所で助けたイリを除いても数名。恐らくドラゴンから離れていたお陰で巻き込まれなかったのか、単純に運が良くて即死しなかったのだろう。


 このまま戦闘に移ると、せっかく助かっていた命まで消えかねない。

 戦闘に巻き込まれないように注意して後方に下がれって言おうにも、怪我人でそれも一人では移動すら難しい人にそんなことは言えない。

 なので、柳瀬さんがドラゴンを抑えているうちに俺が救援に急ぐとする。

 先ずは一番危ないイリの元に向かう。柳瀬さんが抑えてる今がチャンス!!


「……」

「怪我はないか?」

「………」ふるふる

「じゃあ走ろうか」


 気不味過ぎる。ドラゴンを最大限注意しながらイリを促して走っているが、イリは生気が抜けていると表現していいような表情を纏っている。

 俺の言葉にも言葉を使って反応しない。精々頷く程度だ。

 完全に精神をやられている。オングが死んだのが余程ショックだったのだろう…。

 俺にはかける言葉も見つからない。それはそうだろうさ。俺が他人の気持ちを理解出来る訳ないし、例え理解して慰めの言葉を言ったとしても、本人には何の慰めにもなりはしない。むしろ爆薬になる可能性の方が高い。

 だから俺は黙ってイリを促して走る。俺に出来るのはイリを護衛して安全な場所まで退避させることだけだ。


 途中でドラゴンのブレスが何度か襲ってきたが、もう慣れたことなので魔法障壁で簡単に防御してやり過ごす。それだけの隙が出来れば、別側面から柳瀬さんが斬り込んでドラゴンのヘイトを集める。

 初めの内は俺にも攻撃を狙っていたドラゴンだったが、そんな事をしていると柳瀬さんが攻撃してくるので、俺は放って置いて柳瀬さんに集中した方が良いと判断したらしく、放置されてします。

 これはこれで哀しいな。いや、運搬クエストでは狙われないことが一番重要なんだけどさ。これだけ余裕あるとつい調子に乗りたくなるというか……。



 後衛、第三陣の魔法使いたちがいた場所まで下がった。

 ここまで来れば直接的な戦闘には巻き込まれないだろう。しかし、ブレスや火球と言った遠距離攻撃のレンジには入っている。

 ここに据え置きの魔法障壁『結界』を小さなドーム状に展開すると、俺は結界で使った魔力を回復するべく魔法薬を飲みながら、イリにこれらのことを言った。


「ここまで来たら安心できるはず。一応結界も展開したから、攻撃が飛んできてもなんとか防げるはず……」

「…………」

「俺は別の人を運んでくるために戻るけど、イリはここで待機しててくれ。後衛にも話が行ってるはずだから、人が来るはずだから」


 ここを中継地点として活用するのだ。俺が展開した結果なので、俺が魔力供給を切るか魔力を上回る威力の攻撃で壊されない限り存在する要塞になる。

 結界と魔法障壁の違いは、設置型が携帯型か?……とゲーム機風に例えても分からないよなぁ。俺が良く使っている魔法障壁の方は自分に近くないと発動できない。(それでも発動範囲は広いけど)対して結界は遠くても発動できる。こう言った場面では大いに役立つ魔法だ。

 街何個もの挟むほどの距離を離れる訳ではないし、一つの戦場と考えたら魔法の効果範囲が時切れないのも納得いく。俺が魔力残量にさえ気を付けていれば絶対に壊れないだろう。上級魔法をぶっ放しまくって魔力枯渇に陥る事にならないようにしなければ……。


 結界に魔力を注ぎ込んで、そろそろ他の人の救援にも行かなければ時間的にきついだろう。

 そう思ってマップ機能で次の救援者の場所を確認していると、イリがマントの裾を振っぱってきた。

 なんだ?俺とイリってそこまで話す仲じゃないんだけどな。オングじゃあるまいし。


「……怖くないの?」


 怖くない?そんなの怖いに決まっていだろ?

 だってドラゴンだぞ?ゲームや小説でも最強格に分類される化け物だぞ!!?

 俺は真っ先に逃げ出したいけど、柳瀬さんが戦うって決めたのなら俺もそれに付き合うしかないだろうさ。

 それに「魔王を倒すなら、このくらい倒せないとね」と言われたら、やるしかないだろ?ゲームのボスキャラが中盤にも満たないレベルでやってくるドラゴンよりも弱いはずがない。

 それにチート持ちとしてはちょっとばかり全力の戦闘が行えるのは楽しみでもある。その辺のモンスターだともう力を測れないレベルだからさ。


 とは言え、これをそのまま言うにはイリが俺たちについて深く知っている訳でないし、俺も深く説明するつもりは毛頭ない。

 一番の理由はそこまで俺の口が回らないって言った方が正しいんだけど……。


「正直怖い……。でも柳瀬さんが戦うって言った。それだけで理由は十分」

「それだけの理由で……」

「じゃあ俺は行くから」


 結局何が聞きたかったのかは分からない。でも、イリは満足そうな表情をしてマントを放してくれた。

 たったあれだけでの会話で何が分かったんですかね!!俺にも是非ともその理解能力が欲しいところですよ!!




 と、この状況下にあるまじき楽観的な思考をしながら俺は走る。レベルが上がったようにステータスが強化された。と目視出来る訳ではないが、毎日依頼で街の外に出てモンスターと戦っているおかげか、走るスピードが速くなり、体力も着いた。

 中学高校と最低レベルだったのが嘘みたいだ。……まぁ、同職の方からすれば俺なんてもやしっ子の様に思われているんだろうけど。


 非常に申し訳ないが、柳瀬さんにドラゴンの相手を任せて俺は戦場を駆け抜ける。チラッと見た感じだと、柳瀬さん一人でもドラゴンに渡り合えているようにも思う。

 あれ?このまま俺必要無しに勝っちゃったりしませんか?いや、それはそれで俺に注目が集まらないから問題ないんだけどさ……。

 柳瀬さん、初めの時よりも張り切ってません?ドラゴンの攻撃を全部回避している上に攻撃を全部当てている。本人曰く「本気で力一杯斬った」と中々連発が難しい攻撃方法をだ。

 あれだといつか絶対に体力切れで倒れてしまう。俺のマップには生命力の体力ゲージは写っていても、スタミナを表すゲージは表記されてない。

 ならば、柳瀬さんの限界が訪れる前にやること全部終わらせて、柳瀬さんに合流しないとな……。

 俺は走るスピードを早めた。……やば、調子乗ったから足が…。



 と、(何回目だこれ?)いつになく急いで柳瀬さんから頼まれた事を俺は行った。

 マップ機能で生きている冒険者を発見し、歩ける様なら無理のない範囲で急いでもらいながらそれを護衛。歩けないなら、先に俺が魔力に物を言わせた回復魔法をかけてある程度まで治癒してから肩を貸して移動する。

 初めのうちは慣れなくて説明などに困ったが、途中から段々と慣れてきだしてペースも上がってきた。

 それに、中継地点で死んだ目をしていたイリが段々と手伝ってくれるようになった。どう心の心境が変わったのか分からないが、手伝ってくれるなら助かる。

 イリは自分が持っている魔法具やアイテムを使って出来る限りの治療を行ってくれた。後方からの救援がなかなか来ないので、時間稼ぎには持って来いだった。俺もずっと様子を見れるわけではないので、助っ人本当に助かった。

 これで、柳瀬さんのお願い「助けられる人を先に助けて上げて」は滞りなく完遂出来た。助けられる人ので、既にこと切れている人や間に合わなかった人には何もしてあげられない。そこは運が悪かった…と諦めて貰うしかない。

 だってさ、俺がやっているのも柳瀬さんに頼まれたからであって、それですら善意からくるが完全なる奉仕行動だ。無償でやっていることなんだから、文句を言うなっていうことだ。俺が動かなかれば、戦闘に巻き込まれてか傷の放置で死んでいた命だぞ。


 ということが分かっているのか、最後の人を運び終えた時に全員に(意識ある者のみ)お礼を言われた。

 説明をしている暇が無かったために有無を言わせずに助けてここで待つように伝えたからか、助けられた人からは俺が救世主に思えたとか……。

 イリが説明したからか知らないが、俺と柳瀬さんがたった二人でドラゴンと戦っている状況なのも知っており、最後に持っていた回復薬やら魔石やらを分け与えてくれた。

 まぁ有難く頂くけどさ、このアイテムあったら一人でも脱出出来たんじゃないのか?と思ったが、直ぐにそんな精神状況ではないことを思い出した。

 いくらアイテムを思っていようと、それを使うタイミングで使えるわけでないのだ。回復薬があったら延命できたかもしれない?延命ってレベルの怪我を負っているなら、痛みでその回復薬の存在を覚えていられるか?例え覚えていても痛みで身体が動かない状態なら使うことすらできない。

 それに、そもそもドラゴンと言う強大なモンスターに精神的にやられて生きることすら諦めていたら?

 ほら、アイテムを持っていても意味がない。だったら、ドラゴンと戦っている二人にアイテムを譲るべきだ。少なくとも、今助けてくれたお礼としてでも!!

 と言った感じかな?うん。有難く頂きますよ。




 人からお礼を言われることなんか、バイトを除いたら全くの皆無だったので少しだけ気恥ずかしい気持ちがある。

 このまま留まっていると、わけわからなく混乱するのではないか?と危惧した俺はダッシュでその場を離れた。

 そ、その話はまた後で!!そしてこのままお流れになってくれると一番助かるぞ!!

 お礼言われるのは嬉しいけど、時間取られるのが一番嫌いなんだよなぁ。誰が好き好んで自分の時間を他人の為に使わないといけないんだよ。そんな暇あったら本読んでおきたい……。(柳瀬さんに付き合っている時点で自分の時間を他人の為に使っているとは、この時の俺は気づいていなかった)


 それはそうと置いておいて、早めに戦線に戻らないといけない理由はある。

 俺が一人で怪我人を一か所に移動できたのも、全部柳瀬さんが一人でドラゴンを押さえつけてくれていたからだ。三陣が到着する前は二人でも難しかった事を、彼女はたった一人でやってのけている。

 俺は柳瀬さんを死なせずに元の世界に戻すと決めた。だったら、ここでちんたらしている暇はない。もう持たないであろう柳瀬さんの元に急いで戻るのが正解だ。

 魔法薬を飲んで、回復魔法に使った分の魔力を回復する。気休め程度しか直さなかったせいか、魔法薬での魔力回復と自然回復の速度もあって、直ぐに全快になった。

 それと同時にドラゴンの攻撃圏内に入った。




 ドラゴンと柳瀬さん。どちらも目の前の敵に集中していて俺には全く気づかない。

 攻撃に巻き込まれないように注意する必要があるが、ドラゴンの注意が向いていない今がチャンスだ。

 俺は魔法のイメージを構築を開始した。


 俺に全然気づいていないということは、不意打ちの一撃が当たりやすいということだ。

 大技ほど溜めが長く当たりにくいのは魔法や剣の攻撃に限らず同じこと。構築さえ出来れば一瞬にして効果を発揮する魔法も存在するが、今の俺にはそこまでの余裕は無かった。

 これまでの攻撃方法から見て、ドラゴンの主な属性は炎。ということは単純に考えて水属性魔法が弱点だと推測できる。

 だから俺は水を思い浮かべる。何もない場所から水を生成してそれに回転を加える。渦潮ともちょっと違う魔法だ。

 水の量はそこまで多くはない。精々学校の25メートルプールの半分位の体積の水だろう。それでも多いと思うかもしれないが、ドラゴンからみれば腕ぐらいの大きさだし、〇ケモンに出てくる波乗りに比べたら少ない量だろうさ。と言うか、あの量の海を再現するポ〇モンとは……。

 ともかく、その生み出した水に回転を加える。加えて、加えて、加えて……うん、これくらいでいいかな?と思った頃には水飛沫だけで小さな石が斬れそうな具合だ。

 風魔法と水魔法で形を崩さないように慎重に操作して、槍状になったこれを…………ドラゴンの腹にぶっ刺す。


 柳瀬さんの攻撃を回避していたドラゴンに、この死界からの攻撃を避けられるはずもなく突き刺さる。

 ただの槍状ではなく、回転を加えているお陰でいともたやすく鱗貫いて肉まで到達して更に抉った。

 ドラゴンは不意打ちの一撃を受けて行動が遅れてしまう。それを逃す柳瀬さんではなく、また一つドラゴンにダメージを与えた。

 うわっ、ドラゴンのHPゲージが半分まで削れてるよ。どんだけ頑張ったのやら。


「柳瀬さん!!終わったから一度下がって休憩して」

「うんっ!分かった。直ぐに戻ってくるからね!」

「あ、待って。コレ、渡しとく」

「あ、回復薬………ありがと」


 俺は絶叫を上げるドラゴンの隙をついて柳瀬さんと交代する。

 柳瀬さんの息は完全に上がっており、頬が朱く染まっていて全身から汗が絶え間なく流れ出ている。

 その姿が少しだけ色っぽく見えた。これは絶対に秘密にしないと、柳瀬さんに申し訳ない。

 柳瀬さんは自分がとても疲れているのにも関わらず、直ぐに戻ってくるからね!!と意気込んでいた。もう今日は戦わなくてもいいくらい疲れているはずなのに…………根本的な体力の差が違いすぎるのか。

 最後に先ほど貰った回復薬一式を全部柳瀬さんに渡して俺はドラゴンに注意を向けた。視界の隅にあるマップには柳瀬さんが離れていく様子が写っている。


「さてと、今度は俺が頑張る番ですか。……HPゲージ半分切っているんだから、そろそろ帰ってくれたりしない?」


 柳瀬さんが離れている事もあり、面倒そうにドラゴンに問いかける俺。家で独り言を喋るテンションだ。これが一番やりやすい。

 ドラゴンともなると、頭が良いので人間の言葉が理解出来る設定が多い。俺もそれに預かって問いかけてみたのだが、返答は咆哮で返された。

 ありゃ、ますます怒っていらっしゃる。ボスモンスターの一定上HPゲージを削ったら行動パターンが変わる奴なのか?

 はぁ…。ホントに何で俺たちが狙われるんだろうなぁ!!


「『ファイヤーバレット』乱射だぁッ!!」


 イメージを即座に構築して魔法を放つ。炎の弾丸だ。ん?弱点属性の水じゃないのか?って?

 単に思いついたから炎のだけだよ。考えるな、感じろ……みたいな感じで思いついた端から魔法をは発動しなければ、逆に考えて過ぎて油断に繋がるだけだ。

 普通のモンスター相手ならそれでも余裕あるし柳瀬さんが前線をキープしてくれているが、今は柳瀬さんは回復の為に下がっているし相手は生物最強と言われているドラゴンだ。

 魔法のイメージに思考を割いていると、即座に攻撃を叩きこまれる。ほら、前脚の蹴りが俺を襲ってきた。

 俺はそれを見た瞬間、即座に身体能力強化に魔力を使って避ける。HPゲージが半分切ったせいなのか知らないが、柳瀬さんと2人で戦っていた時に比べて、更にギリギリの行動だった。

 これ、絶対にステータス上昇してますね。心なしか、上級魔法並みの魔力を使った攻撃でもダメージが思ったよりも入らなくてなってきている。これは俺が敵のHPゲージ見えるから言えることなので、普通の人から見たら分かんないだろうな……。

 と、俺はドラゴンとの戦闘を一人で続ける為に意識を切り替えた。


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