9話「フェンティーンさん」
依頼書が大まかに三種類ある事についてメリーさんから説明を受けた俺と柳瀬さんだったが、そこで柳瀬さんが「三種類以外にもあるのか?」とメリーさんに早速質問を投げかけた。
柳瀬さんの目は、ちょっとしたことだけど……と物語っているが、俺は気付かずにいたのでナイスな質問である。
メリーさんは空になった自分と柳瀬さんのカップに追加のお茶を入れながら、クッキーを頬張りつつ答えてくれた。
「後は青色の紙を使った指名依頼ですね。大体はギルマス……この支部で一番偉い人や王侯貴族が使う場合が一番多いので掲示板には貼ってありません」
「ふむふむ。指名ってことは絶対に受けなきゃいけないの?」
「そんなことはないですよ。でも、指名されるってことは推薦してきた方が指名者に対して期待している、という事でもあるので断らない方が外聞にも報酬にもお得ですねー。冒険者ランクも上がりやすくなりますし」
指名依頼、これもよくある依頼の種類だな。
まぁ、俺達みたいに始めの方は関係なさそうな依頼か。
出来れば受けたくない依頼だ。
テンプレだと王族からの指名依頼を解決して知名度アップってのがよくある話だけど、俺の異世界生活はそんな知名度求めてないです。
ひっそりとおれTUEEしながら本代を稼ぐ生活が理想的なのですよ。
「…先生からの頼み事を受けると内申がアップする、みたいな感じかな?」
「……まぁそんな解釈で問題ないと思う」
柳瀬さんの呟きに俺は珍しく反応してあげた。
独り言の様に呟いていた柳瀬さんだったが、目線だけは何故か俺の方に向いて反応してほしそうにしていたからだ。
ここで反応しないと面倒なことになりそうだったので、対応は間違っていないはず。
現に嬉しそうに頷いているもの。
柳瀬さんと反対にメリーさんは「ナイシン?なんですかそれは!?」と首を傾げて俺を見ている。
が、無視をして説明の続きを促してやり過ごした。
「後はそうですねー?……まぁ大体はこんな感じです!あ、お二人のランクは登録したてなのでFランクからですよ!間違えないようにして下さいね?」
如何やらこれで説明は終わったらしい。
あっけないと言えばあっけないし、簡単に済ませていると言えば簡単に説明出来ている。
簡略化し過ぎて、ギルド内でのマナーや、設備説明、他の冒険者との揉め事の仲裁方法などが説明されていないが、それでいいのであろうか?
さらに、小説でよくある初回ランク試験などもないと考えられる。
ゲームの様にコツコツと実績を積み上げて来い方針なのだろう。
メリーさんは説明を終わらせると、ソファーから立ち上がり背伸びを一回した後、テーブルの上に置いてあるカップとお皿を片付け始めた。
残っていた紅茶とクッキーを全て平らげると言う少々卑屈な片付けを終えたメリーさんに促され、俺と柳瀬さんは部屋を出る。
メリーさんはカウンターには戻らず、食器の洗浄をするらしい。
「決して食器洗いを口実に休みたいとか、お腹が膨れたので二度寝をしたいとかそんなんじゃないですから、真っ直ぐにあのドアを潜ってくださいねー」
「あっははは。あれって振りじゃないよね?」
「流石に素だと思うけど」
と柳瀬さんの会話に対応してメリーさんの面白い言動について話していると、後ろからメリーさんの焦った声とカウンターが隣だった受付嬢の怒りの声が聞こえてくる。
案の定さぼろうとしたメリーさんをひっ捕らえる為に、待伏せしていたらしい。
「あんた、それ持って何処に逃げるつもりなの?」
「ゲッ!?いや、これはその……ほら!洗いに行こうとしたんですよ!使った食器は直ぐに洗わないといけませんから。あ、あははははは」
「そっちは台所ではないのだけれど?それに、ゲッって聞こえているわよ。貴女が受け持った新人なんだから責任もって案内しなさい。まったく、研修は嫌だ、早く仕事に就かせろってあれだけ騒いでた癖して、サボろうとするなんてどういう神経しているのかしら」
後ろからメリーさんが這いつくばって、俺と柳瀬さんを追ってくる。
耳が赤くなっているのは、先輩らしい先ほど聞こえてきた声の受付嬢に引っ張られたらしい。
俺と柳瀬さんに追いつくと、メリーさんは早速悪口を声に出してきた。
「あ~、耳がジンジンします~。未遂なんですからあんなにも強く引っ張らなくてもいいじゃないですか~。この恨みは一生忘れません」
「普通、『ご恩』だよね!?」
「はぁ~。大丈夫かよこの人」
俺は一人、誰にも聞こえないくらい小さな音量でため息をついて愚痴った。
それくらい許されるはず。
こんな感じで先輩受付嬢にどやされて戻って来たメリーさんと一緒に倒れる前に居たカウンターに戻って来た。
お昼どきなのか、カウンターには人が少なく、逆に酒場らしき場所には人数が増えている。
メリーさんは元のカウンターに着くと俺と柳瀬さんにこれからの予定を訪ねてきた。
ギルド職員としてではなく、単に世間話のようだ。
おい、仕事はどうした。
「お二人はこれからのどうするんですか?依頼でもしますか?それともお昼に?」
「えーっと、易波君?」
「文無しだから依頼を受けて、今日の宿代を稼ぎたいと思っています」
メリーさんの問いに柳瀬さんが俺を見て「どうするの?」と目で見て来たので、俺は考えていた予定を話した。
するとメリーさんがダメです!と俺の予定にダメ出しをしてくる。
「まずは装備をそろえないと危ないですよ!」
「あ!そうか」
忘れていた。
ゲームなんかだと、初期装備は勝手に装備されているものだから、俺は完全に忘れていた。
問題は……初期装備も自腹か……どうする?
「お困りでしたら、ギルド直営の武器屋を紹介しましょか!?」
「えっ!でもお金が……」
「大丈夫です!ギルド直営なので安いですし、一定の質は保っていますよ。新人が死なれるとギルトとしても後味が悪いですし、お金については依頼の報酬から自動引きの後払いもできますよ!…本業の武器屋や鍛冶屋に並んでるような高価な物はありませんけどね…」
俺が悩んでいると、メリーさんが助け舟を出してくれて、ギルド直営の武器屋を紹介してくれた。
本来ならば普通に説明しないといけない事なのだろうが「まぁメリーさんだから仕方がない」と考えられるようになったのは、少なからずともメリーさんについて知ってきたからであろう。
た、助かったぁ。
しかし、新人用に武具の後払い購入か。
この世界のギルドはそんな事までしてるのは驚く。
武器の質が低いのは仕方がない。
初期装備はそこまで強くないのが定番だからな。
強化しまくると中盤まで使えるんだけど、そこはその時しだいか。
っと俺だけで決めるのは柳瀬さんに悪いよな。
一応聞いておこう。
「借金する事になりそうだけど、どう?」
「うん。準備は大切だもんね。メリーさんの好意に甘えようよ」
「分かった。じゃあ、メリーさん。お願いできますか?」
「かしこまりましたぁ!!…それと、ギルド直営の店で思い出したんですが、説明し忘れた事が少々ありました」
やっぱり説明をしなければならないことがまだあったらしい。
メリーさんは俺と柳瀬さんをギルド直営の武器屋に案内しながら追加の説明をしてくれた。
さながらゲームのチュートリアルである。
ある程度大きなギルドには基本的に、食事ができる酒場、装備が整えれる武具屋、依頼に必要な道具が置いてある道具屋があるそうだ。
基本的にというのは、酒場が兼用されてなかったり、大浴場が設備としてあったり、博打場があったり、とギルドによって様々な施設があるらしい
この町にあるのは基本的な施設の三つだけだ。
酒場というのは有名なRPGゲームでもお馴染みな場所で、依頼前や完了後の食事をよく食べる冒険者が多いそうだ。
値段が安くて量が取れることで大人気らしい。
武器屋や道具屋も有名な狩りゲーのものと似ていて、凡庸的な武器や防具、道具が置いてある。
と以上が俺の感想を交えたメリーさんの追加の説明だ。
結構重要なことなのに説明忘れとはいい度胸な受付嬢である。
ギルド内が広く、複雑になっているわけでもない為、当ギルドの武器屋には簡単に着いた。
というか俺のゲームのような視界には、何故か隅の方にマップらしきものが表示されており、ギルド内の簡単な構造が丸わかりになっている。
『受付』とか『武器屋』とか『倉庫』と表示され、『ギルド長の部屋』と言う一介の冒険者が知ってはいけない場所も分かる。
視界の隅にあるマップは不思議と鬱陶しいとは感じない。
これって任意で閉じたり出来ないかな?
そう考えていると、マップが急に消えた。
どうやら俺の思い通りに表示できるらしく、効果音まで聞こえてくる。
マップスキルとか、小説にあるような強大な転生特典ではないがチートじゃないか?
敵とかも表示されるかな?
まぁ、後で検証しようか。
しかし、何故今になって発動したんだろうか?
俺はゲームのような視界で出来ることを後で検証しようと決めると、武器屋のフロアに入った。
フロアと言っても、盗難防止の為かカウンターがあるだけ。
カウンターの向こう側に武器や防具、アイテムが保管されているみたいだ。
「よぉ、ギルドの嬢ちゃん!そいつら新人か?」
「あっ!フェンさん、こんにちは!そうですよー。先程冒険者登録が完了した、ほやほやの新人です!」
カウンターからメリーさんに声を掛けたのは褐色肌をした男性だった。
この人が当ギルドの直営武器屋を切り盛りしているらしい。
俺の視界がカーソルを捉えた瞬間、『フェンティーン』と出る。
どんな時でもゲームのような視点は健在です。
「そうか!俺はフェンティーン、この町のギルド直営の武器屋をしてるもんや。よろしくな!」
「柳瀬穂香です」
「ヤナギセホノカ?変わった名前してるな!そっちの少年は?」
柳瀬さん、フルネームで言う必要はないと思うよ。
異世界だし、名前だけで十分だ。
それに一つ訂正しておこう、俺は十七歳で少年ではない。
責めて青年って言ってほしか言った。
まぁ、この身長の低さで間違われるのは慣れているけど、やっぱりイラッとくる。
イラッとしたものの、慣れと感情を隠すのが常態化している俺は平常心を装って、ツカサと名乗る。
するとフェンティーンさんは、名前を知ればもう友達とでも言いたそうな態度で笑った。
「そうか!よしきた、俺がお前さんらに合う武器と防具を選んでやるわ!」
「お、お願いします」
柳瀬さんがフェンティーンさんに礼儀正しく頭を下げた。
フェンティーンさんが柳瀬さんを微笑ましく見ている間を見繕って、メリーさんが俺に耳打ちしてくる。
「フェンさんは目利きに関しては一流なんですけど、少々やり過ぎちゃうこともあって何時間でもかけて武器と防具を選ぶ場合があるんでよ」
「それで?」
「武器と防具が選び終わると、腕試しだ!と言いながら町の外まで連れ出して、実践訓練まで行うオプション付き!……正直言いまして、ツカサさんとホノカさんはこれから宿代を稼がなくちゃいけないみたいなので、されるがままは危険ですよ!」
「忠告、ありがとう」
俺はメリーさんに礼を言うと、色々と話しかけられている柳瀬さんの元に向かった。
が、大柄の男の話しを中断できるわけもなく、メリーさんがフェンティーンさんを止めてくれることになる。
初めからこの人がフェンティーンさんを止めれば良かったんだ、と俺は気分が落ち込んでしまった。
止めに行った俺が恥ずかしいじゃないか!?
やっぱり背丈に似合わない行動は控えた方が良さそうだな。
異世界だからって俺の本質が変わる訳ではないんだ。
これまで通り、外面は装って脳内で盛り上げていこう。
さて、俺に合う武器はあるかな?
気分を入れ替えた俺は、目の前に意識を持っていった。
フェンティーンさんは俺と柳瀬さんを交互に見比べて、又しても俺のテンションを上げるようなことを聞いてくる。
「悪り悪り。そんじゃっ、お前さんらの装備品を探そうか!その前にっと、魔力はどれくらいもっちょる?」
「…魔力?」
柳瀬さんが首を傾げる。
見事な模範のようなキョトン顔。
逆に俺は『魔力』と言うファンタジー単語にテンションが上がった。
だってさ、武器屋のおっちゃんが「魔力はどれくらいだ?」って聞くんだぜ。
それはもう、魔法が一般的な証拠だろ!
剣だけではなく、剣と魔法のファンタジー世界だったのは確定だな。
そう考えると俺の視界の上の方に、これまで隠れていた機能が解放されるかのように緑色と青色のゲージが現れた。
勿論、効果音付きのサービス。
き、急に表示されるな、とどんどんゲームのような視点っぽくなっていく視界に、俺は若干驚きながらもテンションがグングン上昇する。
今までの話からして恐らく、どっちかがHPとMPなんだろうと予測できた。
脳内で盛り上げっている俺の意識を置いて状況は動く。
質問に対して黙っている俺と柳瀬さんに対して、メリーさんが困り果てている柳瀬さんの前に出た。
「あー、お二人は物凄い田舎から出て来たらしく、その辺も分かっていないみたいですよ。キチンと説明をしてあげて下さいよ、フェンさん!」
「ん?そうなのか。それはすまんかったな!んじゃあ、よく聞いて覚えろよ!」
フェンティーンさんはこの世界の『魔法』の位置付けを話してくれた。
この世界の人はほとんどの人が魔力を持っているそうだ。
しかし、魔力を持っている=魔法が使えるとはならないらしい。
魔法は呪文の詠唱が必要であり、詠唱が出来たからといって必ずしも魔法が使える訳ではない。
本人の素質や血筋、経験、色々と関係するそうだ。
これまた、よくある設定の写しの様な『魔法』の位置付けだった。
「でも、なんで私たちに魔力がどのくらいか聞いたんですか?」
「それはな、魔りょ「魔力が一部の武器を使いこなせるか?という武器の選択肢を見極める為ですね!」ギルドの嬢ちゃん、それ俺のセリフ」
セリフを取られたフェンティーンさんは嘆くような声でメリーさんを見た。
逆にメリーさんはエッヘンとでも言いたそうなドヤ顔で俺と柳瀬さんに決めポーズをとる。
メリーさん、かまってちゃんなのか?
とことん受付嬢に向いていない人のだなこりゃ。
柳瀬さんもひきつった顔で二人を見ているし、何時になったら俺の装備は買えるのですかねぇ!?