87話「襲い来る恐怖」
意識に限界が訪れ、意識が朦朧として眠りに落ちる寸前、俺は言葉に出来ない感覚を無意識のうちに感じ取った。
だが、それに反応するこちはない。なぜなら、意識はもう落ちていたからだ…。
夢を見ていた。なんてことのない夢だ。起きて数分もすれば大体の内容を忘れてしまうような物だ。
意識がぼんやりと覚醒し、このまま目を瞑って二度寝にしゃれ込みたい誘惑に抗っていると、ドアが強くノックされた。
「ツカサ君!!起きてる!!?」
柳瀬さんの声だった。とても焦っている声をしている。
俺は覚醒しきっていない頭で返事を返す。
「…ん?」
「起きてるの!!?う~んっと、緊急事態だから入るね!!」
ガチャ!!と音を立てて部屋に侵入してくる柳瀬さん。
俺が着替え中だったらどうするんだ?と言う疑問は頭の中にない。
柳瀬さんは既に服を着替えていた。いや、残念がっている訳ではない。単に珍しいと思っただけだ。
窓から差し込む日差しの角度から、まだ早朝だろう。こんな時間に何の用だ?
「ツカサ君急いで起きて!!今、街が大変なことになっているの!!」
「は?」
そこからは慌ただしかったと記憶している。
とりあえず、ベッドから起き上がり服を着替える。(柳瀬さんには一旦退室してもらった)
その間に説明を受けた。
柳瀬さんも詳しく聞いたわけでないのらしいが、現在街には特別緊急体制が敷かれているらしい。
なんでも朝方、ドラゴンがこの街に向かってきていると言う情報が入った。そこで緊急体制が敷かれた。
街に居る冒険者は直ちに戦闘態勢を整えて街の東門前に集まる様に。
これが柳瀬さんが朝起きてから宿に泊まっている人に聞いた話だった。自分達も急いで街の危機に急がないと!!と俺を起こしたのがついさっきの事。
一番に思ったのが、なんでこんな大きな街にドラゴンが攻めてこないと行けないんだ!!?だった。
まぁ、誰だってそう思うだろう。なにせ、ドラゴンだ。モンスター中でも最も有名で強力な生物。
そんなドラゴンが何故今になって人間の街を襲うのだろうか?いや、襲うって決まったわけじゃない。ただ通り過ぎるだけかもしれない。
それで緊急体制に入るのだから、それだけドラゴンが特別視されている訳でもある。
宿を出ると、街の入り組んだ路地裏に存在しているはずの場所からでも慌ただしい喧騒が聞こえてきた。
怯え、怒り、不安、色々な感情を持った声が響く。街は大混雑ならしい。早速宿に引き籠りたくなった。
そんな俺の気持ちを知らずに、ずんずんと前を進んでいく柳瀬さん。彼女の中では「この街を助けないと!!」なんて思っているのだろう。俺とは大違いで、まさしく勇者に相応しい。
まぁそもそも、俺が部屋に引きこもっていても倒せる相手ではないのだ。最悪の場合、街は壊滅状態。辺り一面炎の海になるだろう。
俺が出るしかないのだ。そもそも、生物最強と言っても過言ではないドラゴンだが、このくらい倒さなければ魔王討伐を成し遂げる事は不可能だ。今の実力を測ってみるいい機会だろう。………死にそうになったら全力で撤退するけどな!!コンテはないのだ。命大事に。
柳瀬さんはどんどん進む。混乱している道を進んでいるため、俺がマップ機能を持っていなければ、ものの数分もせずに逸れているだろう。マップ機能様様だ。
混乱する街を進むこと数分後、街全体を震わせる程の咆哮がアルケーミ全域を襲った。耳が痛み、
恐怖を味合わせる。人々は耳をふさぎながらしゃがみ込み、咆哮が終わった後でも立ち上がらない。
命のやり取りを毎日している冒険者ですら、低ランクならば今の咆哮だけで戦意喪失するだろう。一般人である街民なら、失神しても可笑しくはない。それだけドラゴンと言う種族は生物最強なのだ。
「ツカサ君!!!急ごう!!」
耳は抑えていたが、ドラゴンの咆哮をその身に受けてなお、折れないどころかますます気合が入っている柳瀬さん。この状態を見て、余計に何とかしなくては!!と言う意志が強くなったのだろう。
俺は諦めて柳瀬さんに頷く。
「ハァ……目立ちたくないし、こんな強敵と事前準備無しに戦いたくないんだけどなぁ…」
「…………」
「でも、やってやる。勝っていちだんかいレベルアップだ」
「うん!!行こうッ!!」
柳瀬さんは笑顔で頷いて走り出す。俺も柳瀬さんに続く。
行先は東門前前広場。そこに対策本部が設置されているらしい。
俺と柳瀬さんでかてたらいいのだが……。不安しかないが、今は立ち向かうしかない。
まだ見ぬ強敵に、俺は怯えつつも何処か楽観視しながら走る。見てないからそう思える。未だに負けたことがないから………。
そんな俺と前を行く柳瀬さんを見て、恐怖に支配されていた街民は驚きと、希望の眼差しを向けていたと言う。
だが、マップ機能で位置の確認が可能な俺だが後ろに目があるわけではない。だから、街民の目に気づかない俺だった。
柳瀬さんと走りながら俺は出来る限りの準備を行った。具体的に述べるなら、アイテムボックスの中から魔法薬と回復薬を数個取り出し、使いやすい位置に装備しておく。
アイテムボックスから取り出した方が早いかもしれないが、他人の目線もあるので容易には行えない。ポーズは大事。
広場に着くと、対策本部が設置されているであろうテントが見えてきた。
付近は慌ただしく、冒険者及び街を守る衛兵でごったごたに混雑状態。既に戦闘が始まっているのか、負傷者の姿も見える。
「とりあえず来てみたけど、どうすればいいんだろう?」
「さぁ?指示に従うべきか、勝手に突っ込むべきか……」
「指示は仰いだ方がいいんじゃないかな?」
「でも、急いだほうがよさそうな状況だけど……」
広場に辿り着いたものの、どう動くか迷う俺と柳瀬さん。こういった緊急事態のマニュアルなど知らない。
勝手に突っ込むのもいいが、お上様が何を考えているか分からない状況で勝手に行動すると、終わった後に何やかんや言われる場合もある。それに、ドラゴンの情報を知りたい。
指示を受けるのを待つのもいいが、それはそれで時間がかかる。時間がかかると言う事は、それだけ街の危険が伸びるということだ。指示系統が崩壊している可能性もあるし……。
俺と柳瀬さんで悩んでいて「とりあえず誰かに聞いてみよう!!」と柳瀬さんが行きかけたその時、いつものあの人の声が聞こえてきた。
「良かったです~~!!ホノカさ~ん!!ツカサさ~ん!!」
「あ、メリーちゃん!!」
そう。困った時の解説キャラ。ギルドの受付嬢「メリー」さんだ。
今回の緊急事態にギルドも噛んでいるのか、メリーさんがこの場に居た。ならば、説明は彼女に任せれば問題ないだろう。仕事はキッチリとこなすタイプだし。
大手を振って近づいて来るメリーさん。柳瀬さんもそれに応える。
「来て下さったんですね!!」
「緊急事態だから当然だよ!!それで、何をしたらいいの?」
「はい!!現在総戦力を持ってドラゴンを足止め中、真っ先に集まってくれた冒険者と街の衛兵さんを第一陣として食い止めています」
「メリーさん質問。ドラゴンはホントにこの街を標的にしているのか?」
俺が真っ先に気になった事を確認する。
ドラゴンはこの街を通り過ぎようとしていただけの可能性もあるからだ。その場合は、単にちょっかいを掛けただけで、無駄な犠牲と労力を費やしただけの非常に不味い結果になる。
その可能性もかけてメリーさんに確認をしてみたのだが……。
「残念ながら、ドラゴンは完全にこの街を標的にしているみたいで……。わざわざ、陣形の前に降り立って攻撃を仕掛けてきています」
「そ、そんな……」
「なので、大きな傷を付けて撃退、若しくは討伐を最終目標に動いています」
やはり勘違いでは無かったらしい。しかし、空から一方的に街を攻撃すれば良いものの、どうしてわざわざ地上に降り立つんだ……?
そこからもメリーさんの説明は続く。時間的余裕が余り無いとのことで、早歩きで移動しながらだ。
第一陣がドラゴンを食い止めているが、状況は芳しくなく急いで第二陣をかき集めているらしい。
ギルドの備品もありったけかき集め、足りないアイテムは領主負担で使える。ドラゴンと直接的な戦闘が難しい冒険者にはクロスボウの貸出、バリスタの使用などで遠距離からの攻撃方法も可能。魔法使いには高位の魔法使いに魔力を渡し、上級魔法で対抗。
上記の事も出来ない様な者にも、一般人の避難誘導と言う役割が与えられるらしい。
街を守る衛兵は敵前逃亡は重罪だが、冒険者にはそれが認められる。しかしギルドの評価は下がる。この緊急事態に、一人でも多くの人の協力者が必要だ。
と、メリーさんから説明された。
「正直言って、ホノカさんとツカサさんが来てくださって良かったです!!」
「当たり前だよ!!街の危機なんだからっ!!」
「いや~ホントに。現在街に残っているはずの冒険者の中で、一番ランクが高く強いとされているのがお二方ですもの」
「……え?」
「………は?」
おい待て。メリーさん、それはどういう意味なので?俺たちよりも強い冒険者なんか、幾らでも存在しているだろ?
「実はですね。街で一番強いパーティーは現在、ダンジョンの最新下層でフロアマスターと戦っているはずなのです」
「あ……ダンジョンクラン……」
「そうです。厄介な時期と重なりました。クランに協力する形で他のAランク冒険者もダンジョンに籠ったり、別の依頼で遠くに出かけていたり……というわけで現在最も評価の高いのがお二方になります」
なんてこった……。まるで狙ったかのようなタイミングだな。
これも魔族の仕業か?それとも、勇者足る試練か何かですか女神様?
「うん……私たちが一番強いって事は分かった。それで、私たちはどう動いたらいいの?」
「…ホノカさんっ!!えぇっと、殆ど自由に動いてくれたら構わないです。第二陣としてサポート役の人たちも動かします」
俺たちが一番強いそのことを聞いても柳瀬さんは直ぐに立ち上がって、やるべき事をなそうとする。
俺は面倒だなぁとか、代わりに誰かいないのか、評価とかどうでもいいから逃げたい。と、逃げの姿勢を取っていたい。
だが、魔王討伐を行う上ではこの機会は願っても居ない実力を図る機会だ。やるしかないよなぁ……。でも、俺たちが中心となるとは聞いていない。好きに動いても良いって言うけど、一番強いなら何かしらの指揮を執らねきゃだけだろ……。
というか、
「メリーさん…俺達でも勝てないと思うけど、他に対策はしてあるの?」
「一応……ダンジョンに潜って攻略クランを呼び戻しています。でも、フロアマスターとの戦闘中なら直ぐに帰ってもらえるかどうか分からなくて……。
「要するに時間を稼げば良いのな?」
「そうなります……。お二人に任せてしまって申し訳ないのですが、どうかよろしくお願いします!!」
何時もはおふざけが過ぎているメリーさんであったが、今だけは真剣そのものだ。職務を全うしようと、この街を守ろうと思って俺と柳瀬さんに頭を下げている。
柳瀬さんは真面目な態度のメリーさんを見て驚く。驚くが、俺に視線を向けてきた。
何を思ってアイコンタクトを取ってきたのか完全に理解することは難しいが、言いたいことはなんとなく分かる。どうせ、この話に乗ってもいいかな?街を助けようよ!!そんなところだろ。
俺は柳瀬さんに頷いて気持ちを示す。
「顔を上げて、メリーちゃん。そんなにも必死にならなくてもちゃんと手伝うよ」
「ホノカさん……」
「この街に住んでるんだから当然だよ!!それに……ツカサ君がいるからね」
「……そうですね!!ツカサさんならこの状況も何とかしてくれるはずです!!」
何その自信。結局のところ俺に押し付けてない?まぁ良いけど……。
そう、良いだろう。やってやるよ『竜殺し』目立つのは嫌いだが、運命になされるままに死ぬのはもっと嫌だ。
俺なら出来るはずだ。自信を持て。イメージするのはドラゴンを貫く魔法。……簡単だ。
ドラゴンくらい倒せないと、魔王討伐なんて夢のまた夢。ここで実力の測定と行こうか!!
時間も惜しいとのことで、早速門の前にやってきた。第二陣に投入される冒険者や衛兵が集まっている。
俺と柳瀬さんが一番強いとメリーさんは言っていったが、他の人には教えてないのか、それとも教える時間すらないのか、はたまた個人情報だから教えなかったのか分からないが、第二陣の中に俺と柳瀬さんが入って行っても誰も気にしないでいた。
せいぜい、俺と柳瀬さんの事を知ってる冒険者が手を上げて挨拶をして来るくらいだろう。
「なんか、思った以上に緊迫してないね」
「…そうだな」
「ツカサ君は緊張してるの?」
「そりゃあまぁ……。何時でも緊張しっぱなしだよ」
「噓……。全然見えない」
「見えないように隠してるからな……」
柳瀬さんはこの状況でも緊張していないというのだろか?あ……元の世界で全国大会とかに出場してる経験か……。
そろそろ慣れろって思うかもしれないけど、こればかりは無理だ。この生活が後何年続いたら慣れてくるのだろうか?自分でも分からない。
それに、ここに居る奴らが緊迫してない理由も何となく分かる。分かるというか、小説に似たようなシーンがあった。戦闘前に楽しくい状況を作り、ドラゴンと言う恐怖を和らげている。もしかしたら自分がドラゴンを討伐出来るのでないか?自分が主体にならなくても、功労者の一人くらいには……と希望を持って目の前の絶望から目を背けているのだ。
そうでもしないとやっていけない。そもそも冒険者とは、受ける依頼は自己責任。だからこそ、基本的に勝てる試合しか行わない。命あっての人生だからだ。
まぁ、中には強者との戦いを好んで行う者、自分の実力を測れずに無謀に挑む者もいるが、それは例外に過ぎない。大半はこの状況に恐怖を抱いているはずだ。
さて、俺と柳瀬さんが到着したからだろうか?それとも第一陣が壊滅してしまったからかは知らないが、第二陣の出撃の時間がやってきた。
「レイド戦だけど、いつも通りやっていこう」
「レイド戦!!?よく分かんないけど、分かった。私がツカサ君を守って…」
「俺が柳瀬さんが切り込む隙を作る。これで、勝てるはずだ」
「うん!!」
さあ、行こうか。
魔王討伐の一歩を踏みだそう。
俺と柳瀬さんなら何でも出来るはず。だって……これが運命なのだから。
今年最後の更新です。一年間お観覧ありがとうございました。来年も完結目指して定期的に更新して行きたいと思っています。




