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86話「動き出す悪意」

 ダンジョン攻略クランにスカウトされて数日後。俺達はBランク依頼を受けてそれを達成して街に帰ってきたところだ。

 いつも通り、ギルドに戻ってメリーさんに報告する。経験も大分積んできて、Bランク依頼のモンスターなら難無く討伐出来ると実感出来るまで成長していた。

 メリーさんにも毎回の様に褒められる。悪い気はしないのだが、周りの目線が集中しているからやめてほしい。


「お疲れ様です!!今回も無事に帰ってくれて良かったです~」

「ありがとう。メリーちゃんもお仕事お疲れ様」

「はい!!この調子でガンガンランク上げの功績を積んでくださいね!」

「うん」


 依頼完了報告後、何時ものお喋りタイム!!と言っても、メリーさんも俺と柳瀬さんが疲れていると分かっているので、二言三言言葉を交わし合うだけだ。………偶に長くなるけど、その時はひっそりと逃げている。

 今日も何だか長くなりそうな予感がしてきた。そろそろ引き上げようかな?と思っていると、俺を引き留める話題がメリーさんの口から飛び出して来た。


「あっ!そういえば、今日のお昼に『ダンジョンスレイヤーズ』を含むダンジョン攻略クランのパーティーで隊列を組んでダンジョンに潜っていきましたよ」

「あの人が所属しているパーティーか~」

「はい!!ホノカさんとツカサさんが勧誘を断ったところです」


 黙って聞いていると、数日前に俺と柳瀬さんの勧誘に来た、ダンジョン攻略クランが七十階層のフロアマスター戦に向けて、ダンジョンの中に入って行ったらしい。

 Aランク冒険者パーティーにBランク冒険者パーティーが複数。これだけでもすごい数になるのに、補給艦部隊も合わせて大行列だったらしい。この街の名物行事になっているとのこと。メリーさんも大はしゃぎで見守ったらしい。

 十階層毎の転移魔法陣起動には大掛かりなボス戦が必要だ。この辺はゲームでも同じようなもので、かなりの苦戦が予想されるとのこと。死者もでるらしいが、ダンジョン攻略に命を捧げている奴らばかりなので、誇らしげに死ぬらしい。

 ギルドとしては優秀な冒険者が無くなるのは惜しい…でも、ダンジョンの攻略が進むのは、ダンジョンが暴走した時の脅威を排除を考えると嬉しい……と、ダンジョンを中心に栄えてきた街らしい矛盾な悩みを言っていた。


「で、そんな場所の勧誘を蹴ったホノカさんとツカサさんはどんな気持ちなんですか!!?」

「え、前も言ったよね?」

「そうでしたっけ?いいえ!!ホノカさんからは「ツカサ君が入らないから…」と聞きましたが、肝心なツカサさんからは聞いてません!!」


 逃げろっ!!

 火の粉がこちらに舞って来た。急いで逃げようとするが、メリーさんからの熱い目線!!(そんなの要らない)俺たちに注目していた少ない数の冒険者共からの目線。

 極めつけは、マントの裾を掴む柳瀬さん。如何やら積んだらしい。


「教えてくださいっ!!」

「教えて上げてもいと思うけど…?」


 さて、こんな時に状況を脱出することが可能な魔法の言葉を教えて差し上げます。


「今日は疲れたからまた今度、時間がある時に……」


 問題の先送りこそが最強。これを永遠とループさせると、話したくない事を……。


「ツカサ君、今話しても良いと思うの。疲れたって言っても、一言二言話だけで済むんだよ?」

「………」


 俺の性格をよく理解し始めて来た柳瀬さんに、俺の目論みは暴かれる。見事に敗北した俺だった。

 観念した俺はメリーさんだけに聞こえる様に小声で話す。


「目的があるから断ったんですよ……」

「目的とは……その辺を詳しく」

「い、今は言えないです」

「………」

「………」

「まぁ、いいでしょう。今日の所は引き上げるとしましょう」


 メリーさんは悪役が言いそうな事を吐いてから俺を話してくれた。

 あんな言葉、何処で学んできているのだろか?どう見ても元の世界の知識だよな?それともこの世界の悪党も、そんな捨て台詞を吐いてから逃げるのが鉄則なのだろうか?




 とまぁ、終わった事に居るまでも思考を使っても勿体ない。ようやく解放された俺と柳瀬さんは帰路に着く。


 見慣れた街並み。夕方に近づて来た事で仕事終わりの人が大勢行き来している。その間を縫うようにして歩いて進む。


 この世界も四季が存在しているらしく、季節によって太陽の沈む時間が変わるのも元の世界と変わりない。南半球だから季節が逆になってるとか、緯度の高い場所にあるから不夜が発生するとかの噂や情報も全く聞かないことから、至って普通普通のヨーロッパ、もしくは日本の四季などを基本としているのだろう。

 現在の暦も転生召喚した時の元の世界を基準としているらしく、段々と春に近づいて行っている季節だ。つまり、日が沈むのが遅くなっている。

 だからか、段々と人々の行動が活発になっている。何が言いたいかというと、夜遅くまで飲んでバカ騒ぎをする冒険者や街民が増えているというわけだ。


 非常に鬱陶しい。用もないのに街をフラフラ散策したり、買い物をするのは理解不能。家の外に出るならキチンと目的を持って動かないと、時間が勿体ないと思わないのだろうか?

 せっかく中世ヨーロッパ風の世界だと言うのに、古代文明の遺産だか知らないが印刷機械が発展しており、本が大量生産していて庶民でも手の届く価格で買えるというのに……。本を読め本を。そこ(二次元)には最高の夢が詰まっている!!



 別れて好きな事をしたらいいものの、健気に俺の隣を歩く柳瀬さん。チラッと彼女を見ると、鼻歌を歌っていた。

 たしか、ドラゴンのクエストのテーマソングだったと思う。サブカルチャーに疎い柳瀬さんでも知っているレベルの有名ゲームだ。


「ふふ~ん~♪ふ~ん♪」

「……」

「あ、…迷惑だった?」

「…いや、思い出していただけ。というか、良く知ってたな」

「テレビのコマーシャルで見ただけだから、サビだけだけどね。そういうツカサ君はやった事あるの?」

「…一作品だけやったことあるけど、全部クリア出来なかったな」

「へ~意外」

「どうして?」

「ツカサ君ならそのくらいパパッと出来そうなイメージあったから……」

「ゲームは好きだけど、攻略は苦手な方だったんだよ。弟の方がガチ」


 ゲームは好きなだけで、全くやり込んだことはない。そりゃあバトルに勝つと楽しいけど、どうしても積んで辞めてしまう時があった。

 他の事と同じだ。努力せずに出来る事だけやる。努力しないと出来ないような事は、やりたくない。

 ゲームが好きだったのも、そのストーリーを読むのが好きだったから…という理由もある。ゲームが下手なのも間違いじゃない。クリアしたことあるゲームは全部攻略本読んでたし……。その攻略本も全ページ全文字読んでたな……。細かい設定なんか知ったときは特に面白かった。


 と、俺が数年間しなくなったゲームに着いて思い浸っていると、柳瀬さんは別方向について興味を持っていた。


「弟居るんだ……。妹も居るって聞いたし………もしかしてお兄ちゃん?」

「まぁ、そうなるな…」


 「お兄ちゃん」という柳瀬さんの声にドキッとしてしまった。これだから声だけは人間の良いところだ。

 地味にシスコン気味な俺からすれば、女の子の声で「お兄ちゃん」なんてこう…来るものがある。妹は名前でしか呼ばないからなぁ。いや、それはそれで可愛いんだけど。


「私は一人っ子だったから、少しだけ羨ましいよ」

「そうか?妹は可愛いけど、弟はうるさいだけだぞ」

「それでも、親以外に喋れる人が家に居るのはいいなぁ」


 柳瀬さんは一人っ子だったらしい。子育てにもお金がかかるご世代なので、珍しくもなんともない。

 ただ、柳瀬さんの家族構成を知れて嬉しかったりする自分がいた。




 そんな風にたわいのない話をしながら帰路を歩いていた。裏道に入ってそろそろ宿に辿り着くという頃…


「…ッ!!?」

「柳瀬さん?」


 楽しそうに頬を緩めていた柳瀬さんが急に立ち止まった。それだけではない、振り返って何処かを見ている。

 俺は慌てずに柳瀬さんに近寄った。


「何かあったの?」

「……ううん。何でもない。きっと気のせいだから」


 俺が聞いてみても、柳瀬さんは首を振るだけだった。「気にしないで」と柳瀬さんは立ち止まった俺を抜かして先に進む。

 俺はただ背中を見るだけで、何も返答しなかった。というのも、ちょっと考え事があったからだ。


 おいおい、辞めてくれよな。ホントに何も無かったんだろうな。こう言う幻聴や幻影は異世界の基本だからな……勇者が主人公の物語では。

 女神様に召喚された俺なんかよりも、柳瀬さんの方が勇者らしい。容姿端麗で成績も優秀、それでいて陸上部で全国レベルの実力を持っている。誰がどう比べたって柳瀬さんの方が勇者らしい経歴を持っているはずだ。

 話がずれてしまった。もし、俺でなく柳瀬さんが勇者ならば、という話だったな。

 柳瀬さんが勇者なら、さっきの謎の反応察知も納得がいく。俺のゲームみたいな機能には何も反応はない。マップを確認しても、赤点などどこにも存在していない。

 柳瀬さんの気のせいだったら良いんだけどな………。


 思考を停止させ、俺は柳瀬さんの後に続いた。

 元々考えるのは苦手なタイプだ。柳瀬さんが気にしなくても良いと言うのなら、俺は気にしないでおこう。

 何かあったらその時に対処すればいいのだから。備えあれば患いなしと言う言葉があるが、備えすぎて今を疎かにしてしまったら、それでこそ勿体ない。

 だから俺は気にするのを辞めた。辞めて、今読んでいる本の続きでも予想して楽しもう。






 夜の事だ。

 宿に帰ってお風呂に入り仕事の疲れと汚れを落とし、俺が一日で最も栄養を補給する夕食を食べ終わった後。

 日が沈むのが遅くなってきているが、いずれ夜は訪れる。時間帯もそんな夜の事。

 電機などなく、ロウソクかランプに頼って灯りを灯しているこの宿……一般的な家庭や建物も灯りがなくなった夜の街。

 人々は寝静まり、シンッとしていて生活音が全く聞こえない俺の一番好きな時間帯。俺は聖属性魔法の一種であるライトを使って本を読んでいた。


 静かな部屋での読書とは非常にいい物だ。元の世界では一日中電気は走って、何時もどこかで人は起きている。余程の田舎でない限り、車だって偶に通って雑音を生み出す。

 しかし、この世界の夜にあるのは風のせせらぎ、小さな虫の鳴く音のみ。

 読書に快適な空間には、そんな自然の音と、自分が本の頁をめくる音だけでいい。


 時刻は深夜を周ろうとしていた。時計があったなら天辺に針が重なり、日付も変更された時間帯。

 測った訳ではないが、そろそろ眠くなってきた俺は読書を辞めて寝ようかと思っていた。大体眠くなったら寝るので、同じ様な時間になるのは何時ものことだ。

 本に栞を挟んでアイテムボックスにしまうと思い込む。すると、本は一瞬に消えてアイテムボックス内に収納された。同時にライトに使っていた微弱な魔力も供給をやめる。すると、明かりも消えていき、次第に真っ暗に変わっていく。窓から照らされる月明りだけが唯一の光源となった。はずだが、


「今日はお月様も曇ってるのか……」


 ポツリと呟いた声は、部屋に響いた。誰も起きていない夜だからこその行動だ。

 仰向けに転がって天井を見る。月明りが出ていないせいか、いつもは見える木目柄が見えない。いや、目が慣れたら分かるようになるはず……。


「頑張ってる……頑張ってる……よな」


 自分に言い聞かせるではなく、誰か見えない人に聞いて貰いたいから出た言葉。




 夜はいつもこうだ。


 何事にも動じないように感情を出来るだけ調節して、淡々と生活を送る。しかしそれはポーズに過ぎない。

 俺が本音を言うのは、いつだって誰も見ていない夜だけ。一人だけが起きている状態で一人で自分を攻めて救いを求める。

 どれがホントの自分なのはわからなくなっていく………。


 あぁ、今日も睡眠時間がどれだけ取れるだろうか……。


 寝れない夜は早く過ぎ去ってくれ。しかして、この時間が過ぎなければいい。

 明日になったら、柳瀬さんを元の世界に戻るために『魔王討伐』への一歩を踏み出さなければならない。それが嫌だとは言わないが、起きて本を読んで寝るだけの生活に比べたら、とても代わり映えのある毎日。

 ばらば、元の世界の様なしがらみが薄いこの世界を楽しく生きればいいとおもうが、それを行って柳瀬さんを見捨てる選択肢も簡単には行いえない。


 あぁ、ホントに矛盾だらけな感情だ。


 グルグルと考えてしまう。

 柳瀬さんを助けたいと思う心の底から漏れてくる感情。

 面倒なことを全部放り出して逃げてしまいたいと言う感情。

 でも、誰かの役に立って、自分が生きた印を何処かに刻み付けたいと言う誰もが持っている感情。

 考えを別の矛盾した考えが塗りつぶす。


 どれもが本心。考える生き物が人間だけど、考えすぎるものいい事ではない。

 考えて、考えて、考え、考え、考え、考えた結果が矛盾過ぎる思考を持ったツカサだ。

 そんな自分に自己嫌悪を抱いて、それでも愛そうとする。ほら、矛盾がまた一つ出来上がった。

 繰り返し、永久機関、生き地獄。


 それが嫌で嫌で仕方ない。でも、行動を起こすのは……起こさなければ……。矛盾だ。


 だからこそ俺は祈る。この矛盾だらけな考えを消してくれ……と。


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