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84話「Bランクに昇格」


 さてと、そんなこんなで魔王討伐に乗り出す事になったわけだが、何もこのまま一直線に魔王の場所に向かうわけにはいかない。

 魔王、それはラスボス。どんな物語でも初っ端かたラスボスを倒すだけのゲームなど存在しない。(最近の異世界物で魔王と言うラスボスを倒した後の物語が中心な物もあるが、それはそれでこの世界とはジャンルが違う)

 物語には過程が必要だ。それは現実でも同じこと。思いついたからと言って、何も準備などせずにその日のうちに世界大会などにはでないだろう?それと同じだ。

 魔王討伐の過程とは即ち、南に向かいながら己を鍛える事だ。詳しく言えば、多分いるであろう幹部を倒して実力アップ!!と言ったところだろ。


 なので、俺もその様式美に乗っ取ろうと思う。ようは慎重なのだ。

 幾ら魔法チートを持っているからと言って、今のまま魔王に突っ込むほどバカではない。そんなことしても経験の差で対処されてしまう。

 俺の能力だって経験次第では色々と開発?使い方を発見?出来るからな。


 その経験を積む一環として、Bランクの依頼を好んで受けるようになった。

 俺と柳瀬さんの冒険者ランクはCランクだ。依頼は一つ上まで受けられるので、Bランク依頼を沢山受けて実戦経験を積むわけだ。

 これには柳瀬さんにも相談している。いや、相談というか説明だな。柳瀬さんは俺が聞いても「ツカサ君の方が詳しいから全部決めてもいいよ」というのだから。それだけでは周りの冒険者に「あいつは可愛くて強い冒険者に寄生している」とか言われないように、目立つまではいかないけど、近寄ったら普通に聞こえる範囲の声で相談して風に見せかけてる。

 こう言った事には口出しを一切しない柳瀬さんだけど、私生活には普通に口出しをするんだよな……。明らかに前よりも小言を言ってくる頻度が上がった気がする。

 そんな感じで一か月間、休みは週に一回と言う普通の冒険者の様に働いだ。成長する必要があるので、一回は働いたら一日休むなんて甘えはしない。

 お陰で体はボロボロになっていくぜ……。柳瀬さんはケロッとしているのは、現役で部活動をしていた影響だろう。全国レベルなんだから、練習量も相当なはず。妹が似たようなものなので理解できる。






「おめでとうございます!!!遂にやりましたね!!」


 メリーさんがいつも以上に大声で嬉しそうにしている。その声の大きさのせいもあり、ギルドにいる冒険者の少なくない人数がこちらに注目している。

 柳瀬さんも達成したかのように満足げな表情だ。反対に俺の表情はきっと引き攣っているだろう。


 この世界に転生召喚されてから約半年が経った。

 半年とは長いようで短い時間だ。それだけ内容が濃かったから納得しろと言われれば、納得できる半年だった。

 柳瀬さんが元の世界に帰りたと願ってから着実に経験を積んでいき、数日前にランクアップの試験を受けたのだ。


 試験内容はBランク依頼でも中頃にあたるレベルの依頼。ここから三日ほど離れた森に巣を作ったらしいコボルトの軍団の殲滅。強いては、その軍団を率いているコボルトキングの討伐だ。

 コボルトは犬型の魔物である。俊敏性に優れており、それが集団として形成されているとなると早急な討伐が望まれるランク。このまま放っておくと、アルケーミ程の大都市ならともかく、クレーミヤ程の町ならあっという間に飲み込まれてしまう。

 そんなモンスターの討伐が試験だったわけだ。人数差でやられてしまうことも危惧されたが、Bランクの依頼でも普通に完遂可能な俺と柳瀬さんだ。そもそも、Aランク依頼にも匹敵するワイバーンの群れから逃げ切った俺と柳瀬さんが今更コボルトに手間取るはずがない。


 とは言ったものの実際には油断は全くせず、常にマップ機能で敵の位置を把握、向こうが気づいていない内に中級魔法を使って殲滅。気づかれて近づかれても、柳瀬さんが鬼のような猛攻で俺を守ってくれる。

 百匹に到達するコボルトやその上位種のアジャイル・コボルトを倒すと、大量の軍勢を殺されて怒り狂ったコボルトキングとその取り巻きであるジェネラル・コボルト複数体が現れた。

 柳瀬さんがジェネラル・コボルトを引き付けている間に、俺が上級魔法をイメージする。確実に成長していると実感出来る位に早くなった発動時間。ほんの数秒だけの溜めで発動した上級炎魔法『嘆きの火炎』はコボルトキングを一撃で吹き飛ばす。

 俺だけが成長している訳ではない。僅か数秒の間に柳瀬さんは三体ものジェネラル・コボルトの攻撃を捌ききり、五体のジェネラル・コボルトの首を狩った。凄まじい運動能力と反射神経、剣撃のオンパレード。ぶっちゃけ言って、イメージずるだけで発動する俺よりも働いている感がある。

 と言った感じで依頼は無事に完了。残ったコボルトたちも視界内に入る物は全て討伐。逃げ切ったコボルトも数十匹単位で確認しているが、すでに統率していた固体はいない。被害が出たり、見つけた冒険者が狩るだけでも十分対処が可能だろう。


 と言った所で、俺と柳瀬さんは三日かけて来た道を移動して帰ってきたのが昨日だ。その時は報告しただけで終了。早くベットに入って身体を休めたかった俺と柳瀬さんは直ぐにギルドを後にする。

 依頼を受けるかどうかはその場で判断するとして、一先ずギルドにやって来た俺たちをメリーさんが笑顔で出迎えてくれたのが数秒前。




 説明がつい長々となってしまった事をお詫びする。誰に対してしているか分からんけど。

 ニコニコ笑顔でいる様子のメリーさんを見ると、言いたい事は大体分かった。隣りの柳瀬さんも嬉しそうにしている。

 うん、はしゃぐの良いけど、もう少し場を弁えて欲しいね!!ついでに密着しそうになるのも勘弁願いたい。女の子慣れしてないから、心臓がドキドキしっぱなしなだ。


「メリーちゃん!!それって!!」

「はい!!Bランクへの昇格おめでとうございます!!!」

「やった~~!!やっとBランクだよ!!」

「柳瀬さん嬉しいのは分かるけど落ち着いて……」

「あ、ごめん。でも、ツカサ君ももう少し嬉しそうにしたらいのに」

「そうですよ!!Bランクですよ、Bランク!!この街でも数えるほどしかない冒険者の上位に食い込んだのですか!!」


 メリーさんの報告はやはり俺たちのBランク昇格だった。やはりと言うか、これ以外に話は無い。

 やっとBランク……俺としても喜んでいるのだが、柳瀬さんとメリーさんの喜びようはかなりのもの。彼女たちには俺が喜んでい無い様に見えたらしい。

 ポーカーフェイスと言うか、表情筋が死んでるだけ。柳瀬さん曰く「読書をしている時は楽しそうにしている」らしいが、俺としてはどう違うのか分からない。


「嬉しくないわけじゃないから……。でも、今更Bランクって言われても、Bランク依頼ばかり受けていた事を考えると……」

「確かにそうだけどさ……それとこれは別だからね!!お祝い事の時や嬉しくなった時は素直に嬉しいと言う。これは基本!!」

「基本って追われても……」

「口応えしないの!!」

「ホノカさん、ツカサさんにグイグイ行きますね~。心境の変化でもあったのでしょうか?物凄く気になります!!」


 こんな風、最近の柳瀬さんは俺の事をより一層に気にするようになった。

 俺の事を気にしなくても良いと言っているのにだ。否定すればより一層烈しくなってくる気がする。

 魔王討伐をするにあたっての行動なのだろうか?魔王討伐上で行動すると当然目立つ。目立つとなると、パートナーとなっている俺にも気を遣うってことか?

 自分さえ良ければ、他人の容姿や態度、服装など、まったく気にしない俺からすれば、理解し難い思考回路だ。

 でも、俺は柳瀬さんが言うからと忠告を聞き入れているのだろうか?元の世界では、自分の意見や考えは全く曲げない人間だったのにな……。


「メ、メリーちゃん茶化さないで!!……うぅ、とにかく、ツカサ君はここでは嬉しそうにするの!!」

「分かった分かった。出来るだけ努力する」


 努力する。

 聞き入れるが、基本的感情が一般とはかけ離れている事で定評な(自社調べ)俺だ。聞き入れたからと言って直ぐすぐ治る訳でもない。もしかしたら全く治らない可能性もあるので、努力するで柳瀬さんを満足させる。

 確実に出来ると思うこと以外は、言質を取られないようにするのは会話の基本だと俺は思う。こう言った積み重ねが大事なのだ。一体何に役立つか分からないけど……。



 メリーさんから正式にBランク昇格の話を聞き終わると、晴れて俺と柳瀬さんはBランク冒険者になった。

 なったからと言って変わる事はあまりない。精々、周囲の下級冒険者から憧れの目で見られるとか、Bランクの依頼だけでなくAランクの依頼も受けられるようになるとかだ。

 ゲームや小説であるような、高級宿舎をサービス価格で利用できたり、ギルドの資料室が解禁されたり、行けるマップが増えたりとか、そんな風の昇格特典はない。


 高級宿舎をサービス価格で利用出来るようになるのはAランクから、とあるにはある。しかし、Aランクは殆ど冒険者の頂点に位置しているので、その街で快適に暮らして貰う為に当然と言えば当然の処置。そう言った措置は冒険者ギルドが作ったので、経費は全て冒険者持ち。その代わり、昇格するには冒険者の経歴、犯罪歴、教養などに加えて、一定上の身分を持っている者の推薦が必要になる。

 ギルドの資料室はあるにはあるが、基本的には立ち入り禁止。職員での上の者でしか入られないらしい。メリーさんは何故かその存在を知っていたが、考えないことにする。今までの依頼内容や全冒険者、ギルド職員の名前や経歴を纏めた資料も置いてあるとか………。

 行けるマップは増える訳がない。行こうと思えば何処でも移動出来るこの世界は現実世界だ。ただ、街に入るために税金が掛かるので、あまり移動するのは得策ではない。レベルが低いとモンスターに殺されてしまう世界でもあるからな。



 しかし、Bランクのに上がったからと言って、直ぐすぐ生活が変わる訳ではない。ゲームなら、前のボスより少しだけ簡単な難易度から入って行くのが基本的な形式だろう。

 しかしこの世界は現実世界だ。Bランクの依頼はちょくちょくあっても、Aランクの依頼など滅多に見かけることは無い。Aランクの依頼ということは、推奨レベルがAランクの冒険者ということだ。そもそもAランクの冒険者自体が冒険者の実質的なトップなのだ。そんな者が何百人もいる訳ないし、Aランクの冒険者が相手取る様なモンスターがゴロゴロと発生しているなら、この街は街として機能しないだろう。

 Aランクの依頼なんかよほど発生せず、したとしても魔物が多く強い北側な場合がほとんどだ。その場合でも指名依頼が多そうなんだが……。

 という感じでBランクに昇格したからと言って、ゲームのようにAランクの依頼をホイホイと受けることは無い。Bランクの依頼を受けて街から数日離れた場所に生息するモンスターを狩るか、ダンジョンに潜って深い階層で経験値稼ぎと珍しいアイテムをドロップさせる。この二つのどちらかだろう。


 俺たちはと言うと……。


「柳瀬さんはどっちが良い?ダンジョン潜るか、遠出してBランク依頼をこなすか」

「どっちも時間はかかるよね。どっちにしろお風呂に入れないんだったら、私もどっちでも良いのだけど。

 ……う〜ん…ツカサ君はどっちが良いの?」

「どっちにしろ数日間から2週間くらい宿に帰れないからなー。室内か室外か。あとは狭い空間か広い空間……」


 俺も柳瀬さんも決め手に欠けていた。細かい計画性の無い俺たちだ。

 俺は本気でどっちでも良くて、柳瀬さんは宿に帰って身体の生活さを保てないのが不満ならしい。

 だからか、俺と柳瀬さんは決定権を譲り合う。


「そうじゃなくて、ツカサ君はどっちが良いのか聞いてるの!」

「どっちでも良い。ただ、依頼の方が見入りは良いと思う。ダンジョンは下手すればモンスターに出会えない可能性もあるからな」

「出逢えないって?マップにモンスターの位置が表示されてるんでしょ?」

「マップに写ってても、他の冒険者が狩ってたら俺たちの取り分がなくなるだろ?まぁ、飽和する程冒険者が陣取っている階層よりも低い所まで潜るけど……」

「だったら依頼の方が良いのかな?報酬は確実だし、冒険者に出会す可能性は低いよ?」

「そうだな。とりあえず、良い依頼があったらそっちで。無かったらダンジョンに潜る形でこの先やって行こうか」


 話はいつの間にか決定権の押し付け合いではなく、どちらの方が利益が出るか?とシフトして、ついには依頼を見てダンジョンに潜るか、依頼を受けるかに決まった。

 始めの話し合いは意味が無かったらしい。これなら、初めからこうすればよかったな。分かっていたのに、面倒うがって柳瀬さんに決定権を譲ったのが間違いだった。

 柳瀬さんは生活面でのこと以外では当てにならないからな。当てにならないというか、全部俺に委ねてくる感じ?俺の方がラノベとか読み漁っていたから詳しいのは当然だけどさ。そろそろ自分の意見を言ってほしいというか、何というか……。


 言い出したらキリがないので、この辺で置いておこうとする。

 掲示板に移動してよさげな依頼が無いか確認を開始するが、やはりというかAランクの依頼はなくなった無く、Bランクの依頼がチラホラ見られるだけであった。残りは全部Cランク以下の依頼だ。俺と柳瀬さんには簡単すぎる。

 やっぱりダンジョンに潜るか?と思っていると、ギルド内が騒がしくなった。

 緊急事態……にしては騒ぎ方が違う。聞き耳を立てながら掲示板の依頼を隅から隅まで見ていると、騒ぎの原因が分かった。

 どうやら、有名な冒険者がやって来ているらしい。有名ってことはAランク冒険者か……。俺には関係無い話だな。

 有名人にはこれ言って何も感情が湧かない俺は、適当に無視していた。が、これも受難なのか、分からないが柳瀬さんが不意に俺のマントを引っ張った。


「ねぇツカサ君」

「何かいい依頼でも見つかった?」

「そうじゃなくて……あれ」


 俺を呼ぶとなると、良い依頼が見つかったのか?と思って振り返るも、柳瀬さんは掲示板とは全く違う方向を向いていた。

 指さす方向には、ギルド内のほとんどの視線を集めている好青年がこちらに向かってきている。


 なんだろうか?あれが有名な冒険者なのだろうか?

 注目を集めるのは嫌いだ。だから、あの人がこっちに来て邪魔になる前にさっさと何処かに移動しよう。


 そう思って足を動かそうとした瞬間、好青年が口を開いた。


「ちょっと時間いいかな?」



 物語の運命は俺をイベントから逃さない。

ほぼ説明回でした。

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