83話「帰りたい気持ち」
柳瀬さんが帰りたいと願うなら、俺はその方法を提示しなければならない。
というか、俺が提示するよりも先に柳瀬さんが聞いてきた。
「でも、私が帰りたいと願っても、元の世界に帰れるの?」
「勿論、願うだけだったら帰れない。元の世界の俺達は死んだ事になっている。それを捻じ曲げるんだから、相応の対価が必要になります」
「た、対価……大金とか?」
ゴクリと喉を鳴らした。
対価と聞いて、真っ先にお金を思い浮かべるとは……お金で解決できるなら、誰だってやってるだろうよ。王侯貴族とか。
ま、この辺は小説などの異世界転生を良く知らない柳瀬さんが簡単に思いつくわけがない。俺だって予備知識無しで考え吐くはずがない。
「その前に、この世界が置かれている状況は知ってるよね?」
「確か、魔族?とか言いう人たちと戦争中だったんだよね?魔物がその影響で出現しているとか……」
安心した。最前線から遠い都市な為、そう言った情報は探そうとしない限り入って来ないだろう。元の世界のように情報伝達が発展している訳ではないので、情報の伝達はかなり遅くなる。一般市民である俺たちが知ろうとしても、伝わってくる情報はほんの一部で、正確かどうかも分からない。
魔族と人族の戦争。知っていても、最前線から遠く離れたこの街の住民は、別世界の話な気分だろう。
流石に冒険者ギルドでは情報が開示されており、常に前線で戦ってくれる者を募集していたが……。
話が逸れてしまった。重要なのは魔族と戦争中だと言う事だ。
「魔物云々は置いておいていいよ。肝心なのは魔族」
「魔族がどうかしたの?私たちには関係無いことなんじゃ……」
「それが関係ないどころか大有りなんだよ」
「関係あるって?……もしかして、私たちのせいで魔族が産まれたとか!?」
「あ~…それはないから安心して。ただ、帰る方法って言うのが魔族――強いて言えば魔族の王を討伐して進行を止める事にあるんだ」
「魔族の王様?を討伐して進行を止める?それが、どうして帰る方法と繋がるの?」
「それは、まだ話して無かった事があってだな……」
俺は、この世界に来て初めて柳瀬さんに、女神空間で女神様と言う存在と話した(一方的に通達された)事を話した。
そう。帰る可能性があるとすれば、魔王討伐をすることだ。
女神様は言った。俺が選ばれた勇者だと。押され始めている人族を魔族から救うために召喚された魂が俺だった。
当時の俺は異世界に転生出来るだけで満足していて、魔王討伐の事など面倒でしかなかったから忘れていた。
が、柳瀬さんを元の世界に戻す方法を考えている時に思い出した。もっと具体的に考えを述べるならこうだ。
元の世界に戻す方法。俺は望まないが、こう言った女神に召喚されてましった人間が元の世界に戻るためにはどうすればいい?今まで読んできた本から答えを導き出すとズバリ、女神様が出した条件を満たすこと。俺は魔王討伐を目的として呼び出された。テンプレ風に考えると、魔王討伐を行えば、元の世界に戻ることが可能だ。今思いだせば、女神様も「魔王討伐の暁には願いを叶えましょう」とか言っていた様な気もする。ならば、魔王討伐するしかないでしょ!
と、こんな感じの脳内思考があって、それを柳瀬さんに分かりやすく伝える今に至っている。というわけだ。
などなどと、俺が柳瀬さんに伝わる様に話した。
その結果、柳瀬さんは理解してくれた。
「ツカサ君って勇者としてこの世界に来たんだ……」
そこじゃない。抑えるべき点はそこじゃない。
俺が勇者云々はどうでもいい。これがリア充と非リア充との着目点の違いなのか……。
「柳瀬さんそこじゃない」
「へ!?あ、うん。ツカサ君が勇者なのは当然として……魔王討伐だよね」
そこで何故俺が勇者なのは当然と言われるのか?
俺なんかただ選ばれただけの人間だ。イメージ魔法と言うチート能力を貰っているが、貰っただけ俺の努力で手に入れた力だし、俺は初めはそれから逃げようとしていた。
勇者何て言葉。本当の意味は勇気ある者の事だ。
俺には勇気などありもしない。勇気どころか何時も逃げている。この世界に転生召喚されたのだって元の世界から逃げたかったからだ。転生召喚されて今までだって魔王討伐なんて如何にも苦労しそうな事から逃げていた。
だから、柳瀬さんに勇者と言われる筋合いは無い。
「ツカサ君。考えるのは大事だと思うけど、人との会話の最中にそれはどうかと思うよ?」
「え?あ……ごめん」
「否定はしてないよ!?ツカサ君が色々と考えてくれているのは分かってるから、落ち込まないで」
柳瀬さんが思考の海に溺れていた俺を助け出し、普通に返事を返しただけなのにどうして俺が落ち込んでいると思ったのだろうか?
っと、またこう言った事を考えていると注意されてしまう。
「えーっと話の途中だったな。確か……」
「ツカサ君が勇者って話まで」
「あ~そっか。柳瀬さん先に言っておくけど、俺は勇者なんかじゃない。ただの逃げてる人間だよ」
「え?でも……」
「過信は良くない。だから勇者云々は置いておく。柳瀬さんが元の世界に帰る手段には関係ない」
「わ、分かった!……でも、魔王討伐をしなくちゃ帰れないんでしょ?だったどの道……」
「……後から考えたらいい」
柳瀬さんにきっぱりと現実を見せられて、俺は引き攣った顔で返した。
後の事は後に考えたらいいんだ!!
現状、柳瀬さんは魔王討伐に乗り気な様子だ。
今まで失敗と言う失敗に出会ってないから、楽観視している節もある。(特大なブーメランな気もする)
その辺の覚悟を問い質さなければ、実行には移せれない。
「柳瀬さんは魔王討伐がどんな意味を持つか分かってる?幾ら俺に魔法チートがあるからといって、今までモンスターとの戦闘に負けた事がないからといって、それが通用するかどうかも分からない。もしかしたら、途中で死ぬかもしれない。酷い大怪我を負って断念せさる負えないかもしれない。それも分かってる?」
「それは…………分からないよ」
俺の問いに柳瀬さんははっきりと答えた。分からないと。
分からないならこの話は……と俺は柳瀬が大切だから引き返す様に伝えようとして、
「だって私は、ツカサ君の様に沢山本を読んでいないから、それがどんな旅になるかも想像が付かない。でも、帰りたいと思う気持ちはあるのッ!!ツカサ君が私を大切に思ってくれている事はなんとなく分かってる。それでも帰りたい。帰って、学校の皆に、友達に、部活の皆に、お父さんとお母さんに会いたいッ!!」
「………柳瀬さん」
泣いてる。
元の世界に帰りたいと弱音を吐かなかった柳瀬さんが泣いてる。
涙を流し俺に懇願する柳瀬さんは、俺の心に響いた。
そうだ。これは通常の反応なんだ。
帰りたいと願うどころか、この世界を望んでいた俺の方が異常なのだろう。
誰だって急にこんな世界に連れてこられて、このまま生き続けたいと思う訳がない。
現代社会になれた人間が、インターネットもないどころか、情報伝達、電気、ましてや上下水道の整備されていない世界を遅れる訳がない。
一部オーバーテクノロジーとして、失われた古代技術失われた古代技術というのがあるらしいが、ホントに一部だけの生活を豊かにしているだけだ。
さらにモンスターと言う人族の敵が街の外を闊歩している世界だ。何とか戦闘技術を持っていてやっていけているが、普通なら馴染めない。馴染めないどころか、下手に騒いで終わるだけだ。
そんな世界を、小説のように憧れていたから、元の世界よりも理想的だったからと言って馴染んでいる俺が異常。分かっている。分かり切っていることなんだけど、どこか寂しい気持ちは何だ?
柳瀬さんは少しだけ落ちついたのか、俺から離れると頬を赤らめて離れる。
残念……じゃない。冷静になって何よりだ。
「……柳瀬さんはどんな辛い道に面しても元の世界に帰りたいと?」
「うん」
赤く腫れた目元をこちらに向けながら、コクと頷く柳瀬さんは俺の理性を刺激する。
おかしい。相手は三次元だぞ。
考えてはダメだ。今はシリアスな展開なんだ。俺の感情は間違っている。吊り橋効果だ。
そうやって自分の感情を押し込める。
「例え辛い道に至ったとしても……ツカサ君も行くんでしょ?魔王討伐」
「そりゃあ勿論」
だって、巻き込んで原因が俺だもの。
どっちにしろ、俺は魔王討伐に行く運命だったのかもしれないな。
女神様はこれを見越して、柳瀬さんをこの世界に連れて来たのだろうか?いや、考えるのはやめよう。
どうせ、魔王討伐した後に話す時間があるのはテンプレ展開だからな。その時にでも問い質せばいい。
「じゃあ、明日から魔王討伐に向けて準備するという事で。今日はもう休もうか」
「そうだね……。あ~急にお腹空いて来ちゃった」
「あ、ご飯を食べるなら早くしてくださいって言われてた」
「え!!?話し込んじゃったけど、まだ間に合うかな?」
「さぁ?行ってみれば分かると思うけど」
「そうだね!!お休み、ツカサ君!!」
柳瀬さんは嵐の様に過ぎ去って行ってしまった。騒がしい人だ。
でも、元気があって表情豊かでこんな俺にも優しい。だからか、見ていて飽きない………。
柳瀬さんと一緒に居るのが楽しいと思い始めている俺だった。




