81話「他人だと何も思わないのに」
少しばかり予定外の事が起き、今話題の料理店で最高級の料理をタダで食べられる事になった俺たち。
既に帰りたくなっている俺だが、単純に料理を食べるだけで帰れるわけがなかった。それがこの世界の引力であり、メリーさんの個性的なキャラクター性でもある。
「久々のお酒はうめぇ~~!!」
「め、メリーちゃん。もう少し静かにして……」
「タダメシ程美味しい物は存在しないですね~!!ホノカさんとツカサさんも食べてくださいよ~!」
レストランと言う訳で、食べ物を食べているのは当然。しかし、誤算が一つだけあった。
それは……
「メリーちゃん……お酒が入ると物凄いテンションになるね……」
「そうなだ。いつもの倍以上はテンションが高いぞ」
お酒が入った事によるテンションの変化だ。
酒場ではないがレストランということもあり、当然お酒も頼める。
全てタダということに調子に乗ったメリーさんは、久々らしいお酒を飲むや飲む。ガツガツとご飯を平らげ、ごくごくとエールを飲み干す。俺たちと同じ年の女の子とは思えない態度に、俺も柳瀬さんも若干引き気味。
まるでブラックホールの如く消えてい料理の数々。果たして、ホントにタダで良いのだろうか?と今になって心配する俺だった。
「ホントにタダで良いの?」
「う、うん。どれだけ食べても良いって言ってくれたから……。さ、最悪私が出すから大丈夫!!」
「それならいいけ………」
メリーさんほどではないが、ガツガツと料理を平けて行く柳瀬。運動部だったせいか、剣士と言うかなり動く適正のせいか、俺よりも数センチ低い身長の何処に入っていくんだ?と思わず疑問を抱かずにはいられない程の量を食べている。
多分、運動エネルギーに全部回っているのだろう。でないと、この育っていない感じはない……。
「っ!!?ツカサ君今失礼な事考えたでしょ?」
「いや、別に?」
エスパーかよ。身体のコンプレックスに関しては、驚くほど敏感な生き物。それが女性だ。
表情を変えずに平気で噓を吐く。優しい噓だから、嘘じゃない。決して自分が助かりたいからとか思ってない!!
俺と柳瀬さんが会話していて、一人だけ参加しないのは寂しいのか、メリーさんが自然に入って来る。先ほどのテンションはどうしたのだ?と思った程の普通な口調だ。
「そう言えば、ホノカさんもよく食べますよね?」
「そ、そうかな?でも、運動した後とかは結構食べちゃうんだよね~」
「やはり冒険者として働いているからですか?その羨ましい体系は……」
「え?私も結構気になってるんだけど!!それよりも、私としてはメリーちゃんの方が羨ましい………」
女の子同士の会話で、体系のことになると空気になるに徹するよね!!
男の俺が聞く話ではないので、少しだけ気恥ずかしい気分になる。
早く終わってくれないのかな?と思いつつ、柳瀬さんもやっぱり胸は欲しいんだなぁと思っている俺だった。
柳瀬さんの体系を言うならば、運動に適した女性の体。陸上部でエースをしていたので、当たり前と言えば当たり前なのだが……。小柄で若干筋肉が付いている。
スラっとした手足やお腹周りのクビレは、同じ女性であるメリーさんには羨ましいと感じる程のものらしい。
逆に考えれば、女性としての特徴が欠けているのは、慎ましい胸だろう。運動をするから大きなサイズよりは小さい方が適しているらしいが、それでも柳瀬さんはもう少し大きい方がいいらしい。貧乳が巨乳を羨む。そこは誰であっても共通認識だと言う事だろう。
って何を考えているんだ。また柳瀬さんに気付かれるぞ!!
…………どうやら、メリーさんの胸を睨むのに精一杯だった。
柳瀬さんもないわけじゃないから、そこまでしなくてもいいと思うけど。俺も柳瀬さん位の方が………。
辞めだ辞め。
俺だって男だから気になるものの、あれは現実の話。二次元に勝るものは存在しない!!
と、頭の中から煩悩を弾き飛ばし、目の目の料理に集中する。
人気レストランと言うだけあって、どれも美味しい。繊細な舌を持っている訳ではないから、感想など美味しいか美味しくないか、位しか分からない。それでも美味しい!!(小並感)
比べたら悪い気もするが、何時も食べている宿の食事よりも美味しい。なんだろう……下準備が違う?それとも食材自体の差?
語彙力の乏しい感想を述べてみたが、大体こんな感じで良いだろう!
黙って料理を食べていると、柳瀬さんとメリーさんの話している話題も路線変更していた。
無視しても良かったのだが、自分の話題となると無視も出来ない。
「食べる量と言えば、ツカサ君もちゃんと食べる様になったんだよ」
「ちゃんと食べる…ですか?それではまるで、昔は余り食べてなかったと言いたそうな感じですけど……」
「そうなの!!昔なんて早く読書をしたいからって理由だけで、昼ご飯をご飯数口しか食べなかったり、最近でも偶に朝とお昼を食べてくれなかったり……」
「夜はしっかり食べてるから……」
黒歴史と言うか、昔の話を掘り返してきた柳瀬さんに、つい口を挟んでしまう。
ご飯を余り食べなかったというのも、ちゃんとした理由があるのよ?ほら、本読みたいから出来るだけ早くご飯を食べ終わりたい。しかし、普通の量のご飯を食べるには少々時間がかかる。なので、ご飯を数口、よく噛んで食べてたわけだ。噛めば噛むほど甘くなって行くのは美味しいぞ?
それに、人前で食べる姿を見せたくなかった、という今考えれば変な気持ちがあったので……。厨二病の鱗片かな?
だがそれは昼だけの話!!家ではちゃんと食べてるから、と反撃を入れる。
こうしてフォローをしておかないと、変な噂が立ってしまうからな。慎重なのだ。
「しっかりって言っても、一般的な人よりは食べてないでしょ?」
「………おっしゃる通りです」
フォローしたのはいいが、負けましたとさ。
そりゃあそうだろ。俺の食事量は少ない。多分、一般的な男子高校生の半分程度ではないだろうか?
女子並みである。いや、家ではお菓子が禁止な事を考えると、女子よりも食べていない気がする。
この世界に転生召喚されてから、その縛りから逃れたものの、産まれてからの縛りは簡単に抜けない。
柳瀬さんに連れられ、朝と昼を食べるようになったが、それでも一般的な人よりは少ないだろう。
以上!!異常な俺の食事事情でした!!
どっかで聞いた事ある?知らない!!俺の回想なので何度でも述べよう。
「そういえば、聞きましたか?ダンジョンの攻略が進んだみたいですよ?」
「ダンジョンってあの?」
「あぁ、この話はまずかったですか?」
メリーさんが次に切り出してきた話題は、何とダンジョンのこと。
数週間経ったと言えど、柳瀬さんはそこでひどい目に合ったのだ。この話はやめましょうか?と柳瀬さんに確認を取るメリーさんに、俺は少しだけ驚く。
そこは常識持ってるんだな。普段の態度からみると、そういうこっちの気持ちを知らずにペラペラと喋りそうだったんだけど……。
「ううん。確かに死にそうだったのは怖かったけど、ツカサ君が守ってくれるから大丈夫だよ」
「ほほぅ!!守ってくれるから……ですか。なるほどなるほど」
「何がなるほどなんだよ。ただ、柳瀬さんはコンビを組んでる相手だから、守るのは当然ですよ」
こういう考えは、転生召喚直後なら抱けなかっただろう。しかし、今なら柳瀬さんを守りたり、死なせたくない。そう確かに思っている。
それが、俺のせいで死んでしまった償いとかコンビだからと………上っ面な理由を固めて根源考えないようにしている。
俺は自分の気持ちに素直ではない。ある意味素直だが、こうでなくてはいけない。こう思ってはいけない。などと、気持ちを抑える。だって、そうしたほうが、自分の思い通りに行かなかった時にダメージが少なくて済むから。身体でも精神でも傷つくのは嫌だ。だた、自己防衛を張っているのは間違いじゃないはずだ。
話が逸れてしまった。確か、ダンジョンがどうとかの話だったな。
「それはそうと、攻略が進んだって?」
「はい!!Aランク冒険者パーティー『ダンジョンレイダーズ』が三か月もの攻略の末に、六十九階層をクリア。十階層ごとに存在するボスモンスター攻略に向けて、一旦地上に帰ってきたのがつい昨日です!!」
「へ~。最深部ってそんなに時間が掛かるんだ!!」
「一応、転移魔法陣でショートカットが出来ると言えど、地図の制作やモンスターとの戦い方。調べることは色々ありますからね」
「その、地図の販売やダンジョン内の情報全てをそのパーティーが行っているんですか?」
まさか、元の世界にある、ゲームの攻略サイトみたい事をしてる奴らが居るとはな。しかし、それって一パーティーで出来るような物なのだろうか?
「一応、冒険者ギルドも支援してますが、基本的にはそのクランが全部行ってます」
「クランって?」
初めての単語に柳瀬さんがメリーさんに質問した。クラン……確かパーティーが集まった大規模パーティー?だったか?別の意味もあったらしいが、そこまでは覚えてないな。
「はい。複数の冒険者パーティーやその他支援者が集まって一つの目的を求める集団のことですね。『ダンジョンレイダーズ』の場合は、ダンジョン攻略を目的としたクランに所属している冒険者パーティーの一つと言う事になります」
「へ~。そんなのがあるんだ。ツカサ君は知ってた?」
「概要だけは。実際に存在するとは思わなかった。ところで、その人達ってどの位強いんですか?」
「あ、概要だけは知ってたんですね。彼らは誰もがダンジョン攻略に命をかけている人たちです。新しく七十階層を攻略しようとしている彼らは、ハッキリ言って物過ごく強い。どの位強いかというと……」
また始まった。メリーさんの大好きなマシンガントーク。こうなったら、満足いただけるか、外的要因が無い限りストップしない。
柳瀬さんもメリーさんの話を熱心に聞いているところだし、今の内にご飯を食べ進めましょうかね。
ご飯を食べながら聞いたが、メリーさんの話を要約するとこうだ。(数回目)
クラン名は『ダンジョン攻略』そのままだ。何でも国内最大級のクランだそうで、ダンジョンがある街や近くに支部を設ける程の人数が加入しているらしい。
ダンジョン攻略に向けて全力を注げるなら誰でも入会可能で、厳しい条件やお金面なども存在しない。基本的に好きに行動してもいいらしが、情報の共有だけは絶対条件。
クランに所属すると、ダンジョンの地図、階層別モンスターとドロップアイテム一覧、フロアマスターやボスモンスターの詳しい攻略方法。と言ったダンジョンに関する全ての情報を無料で手に入る事が出来るらしい。
普通の冒険者がこれらの情報を手に入れようとすれば、情報の内容に応じた金額が必要になるとのこと。
元の世界でもゲームの攻略班とか合ったけど、あれの有料版みたいな感じか。でも、この世界はネットというか、情報共有手段が恐ろしく限られているから、こうやって団結するのが一番いいいやり方なんだろう。
各地に支部があると初めに言ったが、アルケーミには本部がある。国内で見つかっているダンジョンでは、ここが最大級で攻略難易度が最も難しいからだそうだ。
複数ある実際に攻略する冒険者パーティーの中でも天辺と称されるのが先ほど出て来た『ダンジョンレイダーズ』。Sランク冒険者が二名。Aランク冒険者三名と、冒険者パーティーだけを見てもかなりの優秀な部類に入るとのこと。
王宮から、優秀な彼らを魔王軍との戦いに投入したい、と愚痴めいたように言われており、王都のギルドマスターは対応が困っているらしい。冒険者ギルドは国から依頼を受けたり弁図をはかったりするが、強制的な指示は受けないそうだ。ギルドとしても国からの依頼を受けて掲示板に貼るが、それを受けるか受けないかは冒険者各自が決めること。国からの小言を言われようが、ギルドとしては冒険者に言葉を伝える事しかできない。
あのダンジョン攻略が命って人達の集まりが、ダンジョン攻略を中段して魔王軍との戦いに参加する訳がない。
という事だそうだ。要約とか言いながら全然要約出来てないな。
まぁ、ダンジョン攻略クランの概要が知れたので良いとしようか。
ただ、「どうして王宮云々の話をメリーさんが知っているか?」という疑問が出てくるが、聞かなかった事にしよう。
メリーさんが何者なのか?多分聞いたら答えてくれそうだけど、聞かない方が良いと本能がストップをかけている。聞かないでおこう。聞いたら後悔するはず。
「で、ですね。私的には……」
「………」
俺はご飯に集中しながら流し聞きしていたのだが、真面目な柳瀬さんはシッカリと聞いていた。まるで学校の授業の様に。
俺が要約しただけでもあれだけの内容量があったのだ。必要ない蛇足を付けまくって話すメリーさんの話を全て聞くとなると、物凄い時間がかかる。
俺は既にご飯を食べ終わり、デザートでも食べようか?それとも辞めておこうかな?なんて選択肢を考えていたところである。
「……ねぇ、疲れちゃった。ご飯食べても良いかな?」
「メリーさんノリノリだから、食べても気にしないんじゃない?ここは食事の場所だからマナー違反じゃないし…」
「そうだよね…、頭使っちゃったからお腹空いてきたや」
まだ話足りないらしく、ペラペラとよくも話題が出て来るよなぁ、と思うほどマシンガントークは収まらない。
普段の話し相手が居ないから此処で発散してるのかな?まぁ、放って置いても問題ないだろう。
そんなメリーさんを放って置いてご飯を食べてもいいか?と柳瀬さんが俺に耳打ちしてきた。実際には耳打ちでは無いのかもしれないけど、細かい話だ。
食べるのは構わないけど、もうお腹空いてきたのかよ!!?さっきあれだけ食べてたのに、もう消化したのか………。俺はもうお腹一杯だけどなぁ。
柳瀬さんが店員さんを呼んで再び注文するのと同時に、俺は締めのデザートを一緒に頼んだ。
これで終わりにしよう。まだ食べられる気持ちだけど、これくらいが丁度いい。腹八分目って言うしね。
まだまだ食べ足りなそうにしている柳瀬さんとメリーさんがおかしいだけ。うん。俺が極端に少ない訳ではない。一人前は食べてるし……。
しかし柳瀬さんには、俺がもう締めに入る事に驚いていた。
「もうデザートに入るんだ………。それだけで足りるの?」
「それだけって……一人前は食べたよ」
「そ、そう?………ところで、沢山食べる人って嫌いだったりする?」
急に柳瀬さんに質問された。明らかに自分がよく食べる人だと自覚しているだろうに、なぜ今になって俺に聞いてくるのだろうか?
で、質問の回答だが。それはもちろん――
「どっちでも?そりゃあ、沢山食べる一人やちょくちょく軽食を買ったりする人を見て、お金が勿体無い…っていもうけど、飽くまでも俺の感想」
俺の感想なだけだ。持ったないとは思うけど、その人の人間性を否定する訳ではない。
極論で言うならば、自分の事じゃないので、どうとも思わないっていうのが正解なんだけど、柳瀬さんには伝えないでおく。
「お金が勿体無い。…………ツカサ君はもう少し食べてもいいと思うんだけどなぁ~」
「本が最優先。これでもかなり融通通したつもりだからな」
柳瀬さんが俺にまだ食べさせようとして来るが、俺は断固とした拒否権を発動させて貰おうか。
この世界に転生召喚される目の三倍は食べてる気はするぞ。………それでも一般的な量っていうのが悲しい現実なんだろうけど、俺には関係ないですね。
お金の使い道は本が最優先。その次に生活必需品、回復薬や魔法薬、武器や防具の新調用の貯金、そこまできてやっと普段の食事とくるのだ。
ごはんなんて、飢えない程度に食べておけば良いと考えて実行していた初めから、柳瀬さんの有無を言わない無言の圧力でここまで妥協した。
これ以上妥協してたまるか……ッ!!
むぅ~と、現実世界ながら可愛らしい声を上げながら俺を睨んでくる柳瀬さんを無視する。視線を逸らして水を一口。うん。以外と美味しいから水は好きだ。
と、視線を逸らした先に合ったメリーさんと目が合った。………ガツガツからモグモグと変わって擬音が聞こえてきそうだ。大して変わってないけど……。
ウインクしてきても、食べ物を食べながらだと全然ときめきませんよ?
メリーさんが食べ物を頬張る音だけが部屋に響き渡る。俺はともかく、おしゃべり好きなメリーさんとスクールカースト上位者柳瀬さんが黙るのは珍しい。
喋り疲れたのだろうか?だったら、俺もデザートが来るまで読書でも……。
と思っていると、ドアがノックされて、柳瀬さんが頼んだ料理が運ばれて来た。おつまみというか、サイドメニュー的な物が二皿。
早くないか?いや、この部屋のオーダーを最優先に準備したら……それでも早いよね!!
俺のデザートはもう少し時間が必要とのことで、運んできた店員さんが部屋から退出すると、アイテムボックスから本を取り出して読み始めた。柳瀬さんが睨んできている様な気もするが、呼ばれたら返事するのでご勘弁ください。
一方でメリーさん。何か話題を思いついたのか、柳瀬さんには嬉々として話しかけている。内容は興味が湧かなかったので覚えていない。
本を読みながら、俺は無意識のうちに考えていた。
沢山食べる人は好きか嫌いか………。どっちでも?興味ないって風に答えたけど、
チラッと視線を上げる。
すると、柳瀬さんが出来立ての料理を頬張ている姿が映った。
何故か、柳瀬さんが料理を頬張っている姿は嫌いじゃないと感じた。




