8話「ギルドの説明」
名前の知らない恩人が部屋を去ってから、俺は改めて倒れた後の事を聞いた。
俺が倒れたのは冒険者登録が完了した瞬間だったらしい。
顔色が悪く、直ぐにでも回復魔法をかけなければヤバい状況だったと、メリーさんがホっとしながら話してくれた。
しかし俺は、柳瀬さんとメリーさんが説明しているところ悪いと思うが、回復魔法と聞いたところで話を半分聞き流し、妄想に浸ってしまう。
やっぱり魔法があるのか!
だとしたら回復魔法は絶対覚えたいよなぁ。
出来れば無詠唱を覚えれば、クエストがグッと楽になる。
やっぱりイメージが大切なのだろうか?
回復系はイメージが難しく、無詠唱で扱いづらいのがテンプレだから苦労するのか気になるところだ。
俺が回復魔法について考えている間、メリーさんは説明を続けた。
俺はぼんやりとその話を頭に入れておく。
ギルド常勤の魔法使いに回復魔法を頼んだが、効果は芳しくなかったそうだ。
そこで、あの名前の知らない恩人が登場。
俺をこの部屋――特別な依頼の説明や話をする時に使う部屋だそうだ――に運び込むと、自身の膝に俺の頭を載せメリーさんが知らない魔法を使うと、俺の容態は落ち着いたらしい。
そして、メリーさんがお茶の準備をする為に部屋を出ていると俺が目覚めていたとさ。
「易波君、ホントに大丈夫?」
「ん?特に問題はないけど?」
柳瀬さんが心配そうに俺に大丈夫か?と訪ねてくるが、俺は何事もなかったかのように大丈夫だと伝える。
柳瀬さんには悪いけど、ここで問題があると言えばややこしいことになるのは、これまでの柳瀬さんの態度からよく分かったので、俺は噓をついた。
噓です、全く問題がないわけではありません。
変なカーソルとゲージやらなんやらが視界に移っています。
一応、柳瀬さんとメリーさんにもそれと無く確認してみよう。
「突然だけど柳瀬さんは冒険者登録をしてから、何か変わったこでも起こった?」
「えっ!ん~?…特に変わったことなんてないよ」
「ありがと。次にメリーさんに質問があるんですが」
「はい!!何でもお聞き下さい。あっ!でも、ギルドの秘密とか、古代文明についてとか、私のスリーサイズとかは答えれませんよ!?」
そんな質問するか!?
っていうか最後のなんだ、一番興味ないわ!?
「そんなのじゃないです。冒険者登録したら体が変化したりしませんか?例えば、何か見える様になったりとか?」
「…私のスリーサイズがそんなの……私―――――――なのに……。えぇ!冒険者登録はギルドで誰が加入しているか、誰がどんな依頼を受けているかを魔法的に管理する為だけの物ですから!!体に変化なんて起りませんよ!逆に体の情報を読み取っているものだと教わりました!」
メリーさんはやけくそ気味に説明してくれた。
何か気に触ったのか分からないが、後で謝っておこうと思う。
取り敢えず、俺の目に見えるカーソルは俺だけの症状らしいことが分かった。
まだ慣れないけど、ゲームの画面だと思えば違和感を消せる。
俺の異世界生活はますますゲームらしくなり、気分はうなぎ登りだ。
「ねぇ、結局何の為だったの?」
「ん、気が向いたら説明するかも」
「えぇ!?気になるよぉ」
柳瀬さんに俺の見える物について説明するか迷ったが、気が向いたらにする事にした。
なんでもかんでも教える必要がないと判断したからだ。
「では、改めまして冒険者ギルドについて説明いたしますね!」
俺が倒れると言うハプニングがあったが、冒険者登録が完了した俺と柳瀬さんはメリーさんから冒険者ギルドの説明を受ける事にした。
場所はそのまま、応接室みたいな部屋だ。
俺が起きた直後に持ってきた紅茶とクッキーを片手に、説明を開始。
「あんたはさっきも食べてただろうが」と思うところもあるが、気にしないでおいて、俺と柳瀬さんもありがたく頂いた。
実を言うと、転生前のバイト終わりの夜以降何も食べていなかったから、そろそろ食事を採りたかったところだった。
クッキー数枚と紅茶を一杯で夜までは持つと思う。
「冒険者ギルドに登録されると出来る様になる事は、大まかに一つです。冒険者ギルドに依頼された仕事を受けれる様になる。ということです。ここまでで質問はありますか?」
「大丈夫です」
やけに丁寧な説明に俺は首を振って、柳瀬さんは声に出して質問はないことを伝える。
多分だが、俺と柳瀬さんがかなりの辺境から出て来たと言う事と、俺が謎の原因で倒れてしまった事の謝罪も兼ねて、念を押して当たり前な所から説明をしているのだろう。
もしかしたらメリーさんが単にこんな説明なだけかもしれないが、どっちにしろ柳瀬さんと言うサブカルチャーの初心者が居るので助かる。
それに、俺が持ってる知識は全て妄想の範囲を超えない。
どんな些細な情報でも確認を取るのは大切だと思う。
聞かなくて間違った知識が正しいと思い込むのはこの世界では致命傷になりかねないからだ。
ともあれ、説明の続きを聞こう。
「依頼は全ギルド共通で掲示板に貼ってありますので、そちらから受けたい依頼の貼り紙を剝がして受付に持って来てください!多いんですが、依頼の貼り紙は丁寧に扱って下さいね!破ったり、汚したりすると弁償もありますので!」
「公共の持ち物と一緒だね。分かった!」
依頼の受注の仕方は俺の知ってる知識で問題はなさそうだな。
後者の忠告は気を付けないと。
普通にしてればそんなことは起こらないと思うが、覚えておこう。
「次に冒険者ランクについてです!これは上位ランクから順に、Sランク、Aランク、Bランク、Cランク、Dランク、Eランク、Fランク、と七段階に分かれています!大まかには下から二つごとに、下位冒険者、中位冒険者、上位冒険者となってます!」
「あの、Sランクは?」
「Sランクは最上級冒険者と言われていますが、ほとんど事例がないんですよ!私も一人しか会ったことがないですし!」
ランク分けも特に変哲の無い分け方だ。
それを知らなかったらしい柳瀬さんはSランクについて質問していた。
Sランクについても特別な冒険者と言う位置付けで間違っていないみたいで助かる。
しかし、メリーさんはほとんど事例がないとか言ってる癖に一人会ったことがあるらしく、自慢話に発展しそうだから突っ込むのは辞めた。
ギルド職員になる前だと思いたい。
「そうなんですか!?凄い!」
「ふっふっふ、それほどでもですよー!あっ、サインでも貰ってきましょうか?」
俺の意思を無駄に、柳瀬さんが突っ込んだ。
完全に、著名人にあったことのある人との会話になっている。
Sランク冒険者は有名人か何かか!?
実力もあってほとんどいないそうだから、有名人で間違ってない、のか?
まぁ、本人が公表しない限りはランクなんて知るすべもないだろうし。
よっぽどのことを成し遂げないと、一般人まで広まらないだろう。
そう考えている内に柳瀬さんとメリーさんは女子トークを終わらせた。
君たち、今日初めて会ったばかりだよね?
なんで直ぐに仲良くなれるか不思議だ。
「あ、…ゴホン。つい、おしゃべりが過ぎてしまいました。それでは続きを。冒険者にランクがあるように依頼にもランク制限があります。これは実力に合わない依頼を受けさせない為にです!ランク自体は冒険者ランクと変わりはなく、冒険者は自身のランクより一つ上のランク以下の依頼は確実に受けれますよ」
メリーさんはそう言って見本の依頼書を見せてくる。
初めての依頼書だが、特に変わった形式で書かれている訳でもなかった。
「この一番上の部分が依頼ランクで、その下に簡単な説明、報酬と続きます。場合によっては条件もありますのでよく確認して受付に持ってきて下さいね!」
なるほど、ゲームなどでは簡略化してあるクエスト書はこうなっているのか。
やっぱり、少し見にくいのは仕方がないか。
説明の続きにメリーさんは更に二つ依頼書を取り出した。
普通の紙と違って色が赤と緑色をしているが、それ以外は何の変りもない依頼書だ。
「依頼には大まかには三つの種類があります。白い紙の依頼書は通常依頼、一回誰かがクリアすると依頼が破棄されます。次に緑色の依頼書は常時依頼と言って、長期間で依頼されているものになります。例としては薬草の採取や遭遇した魔物の討伐などがあります。受けていなくても後から受付で報酬を受け取ることができるという点からどんな依頼があるかは覚えていたら損はないですよ!最後に赤色の依頼書は緊急依頼といいます。これは本当に急な依頼のことで受ける冒険者のランクは問いません。ただし!どんなことが起こっても自己責任ですが……。報酬は多いですし、働きようによっては冒険者のランクが上がることもあります!例としては魔王軍の襲撃を食い止めるなど一刻を争う内容から貴族の家族を病から助ける為に貴重なアイテムを見つけてくるなど王貴族からの依頼も入りますよ!」
依頼の種類について一気に言い切ったメリーさん。
よく噛まずに言えたな。
内容は大体思った通り、緊急依頼の幅が広いくらいか?
「こくこく、ぷはぁ!何か質問はありますか?」
「大まかに三つって事はまだあるんですか?」
長い説明に疲れたのかメリーさんはお茶を一杯飲み干す。
柳瀬さんが飲み終わったメリーさんに気付いた疑問を質問をした。
俺が気づかなかった所だ。
よく聞いてるなぁ。
俺一人だと見逃してたから、柳瀬さんに向かって「ナイス」と心の中で褒めおいた。
口に出さないのは、どんな反応が返ってくるか不安だったから。
所詮ヘタレ野郎な俺だ。