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78話「復帰」

「いや~ホントに良かったですね~」

「うん。メリーちゃんも色々してくれてありがとね」


 メリーさんと柳瀬さんが手を取り合って再会を喜んでいる。百合でもするの君たち?

 感動の再会。その場面が俺の目の前で繰り広げられているのだが、次の一言で台無しになった。


「えぇ。お友達であるホノカさんが元気に戻って来てくれて、私は嬉しいです。…私には一銭もお金は手に入らなかったですけどね……」

「ボソッと本音言ったぞ、この受付嬢」

「別にいいじゃないですか~~。それに、被害者であるホノカさんはともかく、ツカサさんは私に人攫いにの報奨金を分けてくれてもいいんですよ?」


 俺から金をせびろうとしてくるメリーさん。その理論はどうやって出てくるのだろうか?


「いや、何でだよ?」

「私の情報のお陰でホノカさんを助けられたも同然だからです!!!ほら、ダンジョンの入場を優先的に回してあげましたし?助っ人として知り合いの冒険者さんを向かわせましたし?後処理も頑張ったんですからね!!」


 余程ただ働きが嫌だったらしい。

 俺が鬱陶しそうにメリーさんが語る「如何にして上の許可を取り付けたか!!?辛かったやり取り10選!!」を聞き流していると、横から柳瀬さんが失礼してきた。


「そ、そうだね!メリーちゃんのお陰で助かったんだから、何かお礼をしないとっ!!」

「柳瀬さん……確かにそうかもしれないけど、メリーさんはお金を取ろうと思って俺やエドさんとエーゼさんに情報を流した訳じゃないからな」

「え?そうなの!!?」

「い、いいいえいええ??別にツカサさんが最近被害が多い人攫いを討伐してきてくれるなんて思ってませんでしたから、後から一部くらい………とか思ってませんよ?」

「全て白状した通りだそうです」

「全部給金を上げてくれないギルマスが悪いんです。せめてボーナスくらいくれてもいいのに」

「「…………」」


 全ての原因をギルドマスターのせいにし始めたぞ、この受付嬢。

 普通の(全く普通には見えないが)受付嬢とギルドマスターでは天と地までとはいかないが、それなりの差があるはず。

 それなのに、どうしてメリーさんはギルドの極秘情報を知っていたり、俺と柳瀬さんが拠点を移動したタイミングで転勤できるのか?謎は深まる。




 現在、俺と柳瀬さんがいるのは言わずと知れた冒険者ギルド。そのメリーさんが担当している受付カウンターだ。

 柳瀬さんが人攫いに捕まったのを助けだしてから、既に四日経っていた。


 地上に帰ってから、柳瀬さんはギルドの治療室に、俺とエドさん、エーゼさんは報告も兼ねてメリーさんの下に……と思ったら、何故かギルドマスターの下に案内されて説明を求められる始末。

 何故お偉いさんがこんな一般の冒険者の話を聞きたがるのか!!?と思ったらんだが、よ~く考えてみると、俺が倒したのは最近にギルドを悩ませていた人攫い。そりゃ、ギルドマスターが直に話を聞きたがるに決まっている。

 エドさんとエーゼさんに話し内容を、柳瀬さんの話と結合しながら説明。その後、ギルドマスターからお礼言われて、Bランク依頼と同等の報奨金をもらった。

 全部が終わった時には、太陽はすっかり沈み、街中は酒場か家の灯りしか点いていなかった。重労働。社畜の気持ちを味わった。


 一方で柳瀬さんの方はというと、非公式だがSランクを超える魔力を持つ俺の治療が良かったのか……多分、魔力に物を言わせた治療……三日間の安静を伝えられて宿に戻った。

 柳瀬さんを連れて宿に戻ると、これまた大変だった。柳瀬さんだけでなく、俺の中々戻ってこないことを心配していたオーナーさんに喜ばれ、柳瀬さんが仲良くなったと言う常連客にも色々心配されていたしまつ。

 オーナーさんが大奮発し、柳瀬さんの生還パーティーを行った。安静とはいったいなんだろうか?

 夜遅くまで続いたパーティーだったが、主役の柳瀬さんは早めに退出し、部屋に戻って休んだ。俺もそれに習って部屋に戻ろうとした。そう、しただ。

 肉体的にも精神的にも疲れているであろう柳瀬さんを引き留められるわけもなく、酒の肴を失った酔っ払い共。その目が俺を部屋に戻してはくれなかった。

 ………恨むぞオングよ。貴様のせいで慣れない事を沢山させられたではないか。


 と言う事あった翌日、休憩も兼ねて部屋で読書をして過ごす。柳瀬さんも疲れて殆ど眠っていた。

 二日目、普段なら依頼を受けにギルドに行くのだが、柳瀬さんは安静にと言われている。俺一人で依頼をこなすのも気分が乗らなかったので、部屋でダラダラと過ごす。ちょうど考えたいこともあったので、良い休日になったのではないだろうか?

 三日目は、すっかり元気になった柳瀬さんと一緒に出かけた。今後も同じ事を繰り返さないようにレクチャーしたり、耐異常状態を付属するアクセサリーなんかを物色。そんな簡単にいいものは見つからなかったとだけ記載しておこう。





 で、四日目。柳瀬さんの復帰も兼ねて、簡単な依頼を受けにギルドに足を運んだわけだ。

 ギルドに入った俺たちを見つけた途端、暇そうにカウンターにうつぶせ寝していたメリーさんは手招きを開始。

 そうやって俺と柳瀬さんを呼んで今に至る訳だ。


 ギルドマスターの愚痴を垂れ流しているメリーさんに、ジト目を送る俺と柳瀬さん。なんだろう、そろそろ掲示板に依頼を物色しに行きたくなったんだが?


「じゃ、俺は依頼を見てくるから柳瀬さんはメリーさんの相手でも…」

「あ、待って!私も一緒に行くから」

「直球で捨てられた!!?えぇ~ホノカさんもっと一緒にお話しましょうよ~」


 後ろを向いてこの場を離れようとする俺に着いて来ようとする柳瀬さん。その柳瀬さんの腕を掴んで引っ張るメリーさん。

 咄嗟に柳瀬さんが俺のマントの裾を掴んだ。歩き出していた俺はグイッと後ろに引っ張られる。

 転びそうになるが、転んだらラブコメ展開になってしまうと一瞬の内に悟った俺は足に力を入れてこらえる。

 依頼中でもないのに、何でこんなにも疲れているんだろう……?きっとメリーさんのせいだと思う。いや、メリーさんのせいである。


「あの……離してくれない?」

「いやっ!」

「嫌です!!」


 オイこら。柳瀬さんの「いやっ!」はちょとばかりドキッとしたが、メリーさんの「嫌です!!」は違うだろ。

 貴女は受付嬢ですよね?仕事中、分かる?で、俺も仕事に入りたいの。好きで仕事をしている訳じゃないし、お金が枯渇している訳でもないけど、せっかくやる気になっている所を引き留められるのは癪に触る。


 柳瀬さんのステータスでは力が強く、そろそろマントが破れないか心配になってきたぞ。流石に、破れないよな?

 でだ。そんな俺よりも筋力ステータスが大きいはずの柳瀬さんが振りほどけないメリーさんは一体何者なんですかね?

 柳瀬さんが本気で振りほどこうとしない可能性もあるが、一般の女性と冒険者の女性は比べるまでもない程に力の差があるはず。なのに何で振りほどけないの?メリーさんマジで何者?元凄腕冒険者なら納得できるが、歳は俺たちを同じくらいなはず。そんな噂も聞いたことがないし………。


「ホ~ノ~カさんと話し足りないです~」

「は、離してメリーちゃん」

「ほら、私頑張ったんですよ~」

「うん。それには感謝してるから、ね?」

「私たち、お友達ですよね!!?」


 ここまで来れば、ただのウザイ人扱いになるぞ。いいか、読者からしたらちょとした差で、面白いユーモア溢れるキャラからただの話を長引かせるウザイアンチキャラに変わるんだからな!!

 いや待て、ここまでくれば「この受付嬢がめんどくさい」みたいな感じで小説が書けるのではないだろうか?


 ………とりあえず、自由過ぎるこの受付嬢をどうにかしないと、依頼を受けるどころではない。

 同じこと思ったのか、柳瀬さんがメリーさんの攻略に挑む。


「でも……メリーさんが私の為に色々してくれたのは、間違いじゃないよね?」

「そうなるな。……こんなのでも、俺に逸早く情報を提供してくれたのは何物でもないメリーさんだ」

「そっか。……そうだよね。うん」


 俺に質問して来たと思えば、勝手に納得し始めた柳瀬さん。

 何が分かったので?


「こんなのって酷くないですか??ねぇねぇ、来てますかツカサさ~ん?」

「メリーちゃん!!」

「私だってやる時はやる女ですよって、ハイハイ!!メリーちゃんですよ?」

「色々弁図を図ってくれてありがとね!」

「ま、まぁ?メリーちゃんですし?このくらいちょちょいのちょいですよ」

「それでなんだけど。お礼も兼ねてお食事とかどうかな?あ、迷惑だったら断ってくれてもいいし、何らな……「お食事!!?これは、ちょっとお高いレストランなんかも期待してもいいんですか!!?」あ~うん。私で払える範囲だったら……」

「ホントですか~~!!!やった~~~~!!!メリーちゃん頑張った甲斐がありましたよ!!」


 柳瀬さん、メリーさん攻略完了。見事な手際でした。

 お食事を奢るって話をしたとたんに、メリーさんは柳瀬さんに食いついた。それはもう、飢餓状態だった柳瀬さんよりも素早いスピードで。

 お礼でお食事を奢るという話は、メリーさんにはピッタリだった見たいだな。まぁこの人なら、食いついてもおかしくない話だけどね。だって連日「給金が低く生活費ががが~助けてくださ~い」と柳瀬さんに愚痴ってたからな。


 それに、この世界でのお食事を奢るとは、結構お礼としては最適だろうな。ここは異世界。元の世界程、流通や科学技術が発展しておらず、一般市民や農民に取って外食とは月に一回すらない。裕福な商人や地位の高い者が月に一回行ける程度だろう。

 あ、ここで言っているのは、あくまでもレストランレベルの話だ。手軽に食べられる物を提供している食堂や居酒屋とはまた違う。

 こちらで言うレストランとは元の世界で言うと、会食料理やお高いレストランが合っているのではないだろうか?そんな感じのテンプレ設定だ。


 メリーさんと柳瀬さんが約束を取り付けているのを横目に、俺はほっと一安心。

 これでメリーさんは邪魔することはないだろう。

 俺は柳瀬さんだけでこの場を抜けられた事に対して、心の中でガッツポーズを、


「じゃあ、三人でお食事だね!」


 出来なかった。はい?

 三人とは誰と誰と誰のことでしょうか?

 一人目、メリーさん。二人目、柳瀬さん。二人の聞き間違いだよね?


「そうですね。楽しみです!!」

「な、なぁ。今三人でって聞こえたんだけど、聞き間違いだよな?」

「え?何でツカサ君を除け者にしなきゃいけないの?」


 俺が聞き間違いだよね?と二人に聞き返すと、柳瀬さんが純粋な顔で首を傾げた。

 柳瀬さんは多分、優しい心で俺も普通に参加すると思っているらしい。というか、絶対条件?


「除け者というか、俺が何故参加しないとダメなの?」

「え?だってツカサ君と私はコンビを組んでいるんだよ!!当たり前だよ!!」

「私もホノカさんと二人っきりだとは思ってませんよ?というか、ホノカさん一人に食事代を出させるつもりだったんですか?サイテーですね」

「最低とか知らない。俺のお金なんだから、使い道くらい自分で決め「ツカサ君も参加で決定!!三人でお食事会に行こうね!!」られないいんですか」


 そうですか。そうですか。

 柳瀬さんが強引に決めてしまった事で、俺は口を挟めなかった。

 考えても見ろよな。俺はスクールカースト底辺のコミュ障。一方で柳瀬さんはスクールカースト最上位のJKだぜ?勝てる要素がない。

 この世界のレストランって高いんだよなぁ。払えない額ではないけど、そのお金があったら本が何冊買えることやら……。

 逃げたい。逃げたいけど、柳瀬さんの顔を見たら分かる。あれは俺の意見なんか聞いていない顔だ。




 ため息を着いてトボトボと掲示板に向かう。

 あそこで強く否定しなかったのは俺だ。行きます、行きますよ。行けばいいんでしょ!?

 多分、ちょとした知り合い程度の人だったら強く拒絶を言い出しただろう。でも、柳瀬さんの言葉なら逆らえない。

 逆らおうという気持ちが湧いてこずに、仕方ないなぁと言う諦めの気持ちしか湧いてこない。

 何故だろう?いや、何となく分かっている。

 ただ、言葉にしたくないだけ。だって言葉にしたら、それを認めているのだから。



「ツカサ君何かいい依頼があった?」


 柳瀬さんがメリーさんとの会話を終わらせて、こちらにやってきたようだ。

 俺の隣に立って、掲示板を何となく眺めている柳瀬さんに首を振る。


「いいや。やっぱり、簡単で報酬の良い依頼は軒並み無くなってる」

「そっか~。でも、私たちなら問題ないよね!!」

「大丈夫だと思うけど、過信は良くない」

「そう……だよね。過信は良くない」


 俺の言葉で少し前の事を思い出したのか、柳瀬さんの表情は見るからに落ち込む。

 ネガティブになり過ぎていた。もう少しポジティブに行こう。


「……過信は良くないけど、自分が出来る範囲は自信を思って出来ると思ってもいいんじゃないかな?」

「………というと?」

「通常とは違うフロアマスターの討伐。ワイバーンの群れに襲われて生き残れる。どれも誇れる強さだと思うよ」


 俺がいつもと違う感じで、今までの功績を誇る様に言うと、柳瀬さんの表情は見るからに晴れた。

 シュン……からパァア!!だ。見てても微笑ましいのはなぜだろうか?


「そうだよね!!私たちは強いんだ!!………でも、どうして急に自信が持てたの?」

「いやほら。今まで異世界転生したら、堅実にコツコツとスローライフで生きていこうと思っていたけど、強いモンスターを倒して俺TUEEEEするのもいいかな~って思い始めた」

「……うん。何言ってるか全然分かんないけど、考え方を変えてちょっとワイルドな思考になったって感じだけは分かった!」


 ワイルド……ワイルドって。ただの異世界召喚物の主人公よりの考えに寄っただけなんですがね!!

 俺だって、強さがあるならやってみたいよ。俺TUEEEEテンプレ物語り。

 ま、考え方が変わったというのも嘘でもない。必要に応じて、対応していくのは生きていく上では絶対条件なのだから。


「出来そうな依頼を受けて、俺たちで出来る範囲で進めて行こうかな」

「そうだね!私に任せて!!何でも斬っちゃうから!!」

「何でもて……柳瀬さんならできそうだから怖いけど……俺も今度は絶対に守るから」

「ま、守る!!?つ、ツツツ、ツカサ君それって!!?」


 二度と柳瀬さんをあんな事に巻き込ませやしない。

 そんな感じで言った言葉で、柳瀬さんの顔は真っ赤になってしまう。

 俺も少し恥ずかしい。あんなセリフを言う事になるとは、元の世界に居たことには考えもしなかった。

 柳瀬さんの疑問には答えない。答えてしまうわけにはいかない。未練を残すわけにはいかない。


 だって俺は、柳瀬さんを元の世界に返す為に行動すると決めたのだから。



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