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77話「二人の意味」

今回説明回になりました。殆ど話は進まないので、読み飛ばしても問題……ないとは言い切れない。


「これは酷いな……何があったか話せるかい?」

「その前に、何故わたくし達が此処に居るか話すべきでしょう」

「おっと忘れるところだった。実はね……」



 怪我の処置も終わり、これから柳瀬さんを連れて帰るという時に部屋に現れたのは、以前ダンジョンに潜った時に知り合たエドさんとエーゼさんだった。

 なぜこんな場所に?助けに来たって?と思った俺の疑問を、エーゼさんに促されたエドさんがペラペラと話してくれた。






 何でも、ギルドでメリーさんが色んんな冒険者に声をかけまくっていたらしい。

 もしかしたらダンジョンで何か起こっているのかも知れない。俺や柳瀬さんが戻って来なかったらどうしよう!!?

 メリーさんの謎の危機察知センサーが反応したそうだ。そこで、依頼でも何でも無しに、酒場で飲んだくれている冒険者たちに声をかけまくっていたらしい。「ダンジョンに潜って俺と柳瀬さんを探してほしい」と。


 大抵の冒険者たちは話も聞かなったらしい。それはそうだと俺でも思う。

 何せ、冒険者は実力主義の世界だ。実力に見合った依頼を受け、それを達成することで生活するだけのお金を稼ぐ。失敗したら死ぬだけの世界だ。

 それを覚悟して冒険者活動をしているのに、ただの知り合い受付嬢が「仲良くなった冒険者が戻って来ないから」と言う理由だけで騒ぎたてる。受付嬢と冒険者の範囲を超えている。

 それがもし、正式に依頼として発注されて冒険者に話しているんだったら、冒険者たちも少しは反応しただろう。

 しかし、実際にはメリーさんの暴走。受付嬢が冒険者に頼みごとをしているだけ。それも、報酬が確定していないもの。こんな事、誰が受けるだろうか?


 受ける者が二人ここに居た。エドさんとエーゼさんだ。

 実際にはエドさんと言うべきだろうか。

 メリーさんが酒場で騒いでいて、半ば強引にギルドの受付嬢たちに取り押さえられそうになった時、エドさんがギルドに偶々足を運んでみたらしい。

 俺が見立てた通り正義感溢れる彼は、メリーさんに事情を聞くと一言で答えた。

 困っている人がいるなら助けないと。

 どこぞの主人公かとツッコミを入れたくなるような性格である。自分の命、生活が第一優先であるこの世界では、見返りもなしに自分を犠牲にしてまでも他人を助けようとする人など、他にもいないだろう。

 エーゼさんはエドさんが行くなら……と引っ付いてきた様なものだと。「無詠唱のコツも教えてもらいましたし、そのお礼でもありますわ」と本人は言っていた。






 ということがあって、エドさんとエーゼさんは俺たちを助けに来たらしい。

 この二人が異世界と言う苛酷な状況下に暮らしている者たちの中でもお人好しで、前にダンジョンに潜った時に交友を結んでおいたのが功を奏した。

 まぁ、柳瀬さんの救出は俺一人で終わったんだけどね。それを言ってしまえば、せっかく来てくれた二人に失礼なので言わないけど。

 柳瀬さんが「やっぱり交友を深めて置いて正解だったね!!」と言う目で見てきているのも知らない。



「でも、どうしてこの場所が分かったんですか?」

「それは、わたくしのお陰ですわ。この階層に降り立った瞬間、尋常ではない魔量量を察知したしまして、もしかしたらと思いましたの。 それと、ホノカさんは動いてはなりません。体がまだ弱っているでしょう」

「あ、はい……」


 回復魔法で体力の回復や『飢餓』状態が解除された柳瀬さんだけど、数分前までは衰弱死しそうな状態だったのは間違いない。

 空元気でふらふらとしながらも、しっかりを地面を立っている柳瀬さんを制止しながらエーゼさんが答えてくれた。

 小説でもよくある様に、優秀な魔法使い程の周囲の魔力に敏感だ。エーゼさんは俺がぶちかました『ホーリーブレス』を感知して駆けつけてくれたそうだ。

 俺も周囲の魔力に敏感になりたいものだ。こう、「……魔力が違う?」見たいなセリフを言ってみたい。

 マップ機能だけでは見抜けない事まで感じられる様にならないと。


「その後だね。遠く離れていたにも拘らず、轟音が聞こえてきたのは」

「えぇ。近づいて索敵魔法を使って見たところ、大量のモンスターの反応がわんさかとありましたの」

「チラッと君の姿が見えたから、エーゼに頼んで魅了魔法を使ったんだ。だから到着が遅れたって訳だよ」


 「遅れて申し訳ない」と謝ってくるエドさんに「大丈夫でしたから」と答えながら、俺はやっと疑問の一つ解消したことを喜んだ。

 『ホーリーブレス』で多くのスケルトンを蹴散らして、柳瀬さんと、人攫いと対峙した俺だが、いつの間にか倒していないはずのスケルトンが消えていた。

 後になってから気がついて、どこへ行ったんだろうか?と思っていたけど、エドさんとエーゼさんが残りのスケルトンを引き離してくれたようだ。

 あの数のモンスターを難なく引き寄せて、倒してしまうような二人はかなりの力を持った冒険者なのだろうな。

 状況を素早く判断して、最善の方法を考えられるその対応力。異世界に転生し、チート能力な魔法を貰って脳筋プレイの様にここまで来た俺とは違い過ぎる。経験が圧倒的に足りてないな。


 ……今回の救出だってうまくいったからよかったものの、もっとよく考えて周りをよく見てから行動するべきだった。

 でも、それだと間に合わなかった可能性もあって………。あぁ~~~~っと、悩んでも仕方ない。終わった事は終わった事で処理。反省して次に生かせればいんだ。

 ………それが出来ないから、元の世界では何の取り柄もない無能だったんだけどな。


 昔の事を思い出して一人で嘆いていると、エドさんがニッコリと笑って俺の隣に座ってきた。

 なにこのイケメンスマイル。エーゼさんという彼女もいるところだし……このリア充爆発すればいいいのに。

 本気でイメージを膨らませると、無意識のうちに魔法を構築してしまい発動しそう怖い。


「さて、俺たちの話はここで終わり。今度は君たちの話を聞かせてくれるかい?」

「エド。それはマナー違反なのでは?」

「大丈夫だよ。これは俺の単なる好奇心に過ぎない。ツカサ君とホノカさんは言いたくないことや、言えない事があったら話さなくてもいいからね」

「ツカサ君……どうしよう?」


 ここで俺に振られても知らない。柳瀬さんは何でおれにばかり決定権を譲るのだろう?

 元々は俺が原因で起こった事件だ。俺が原因だけど、被害者は柳瀬さん。細かいことの話をしても良いのかは柳瀬さんが決めることだろう。

 俺?俺は話しても話さなくてもどちらでもいいけど……。


「柳瀬さんがいいと思うならすればいいよ」

「あぅ~。どうしよう。経緯的には話した方がいいのかもしれないけど、なんていうか恥ずかしい話でもあるし……」


 柳瀬さんが悩み始めた。小声で呟いている。

 聞こえてますよ~。といったところで聞こえない可能性が高い。

 何で俺もわかるかって?自分にも同じような経験があるからね。

 妹から言われて始めて気が付いたからなぁ。


 柳瀬さんの葛藤を生暖かい目で見ていると、エーゼさんが残酷な現実を突きつけてきた。


「あの~。ホノカさん?」

「あのシーンは私だけの物にしたいから……ひゃい!!?エーゼさん?どうかしたんですか?」

「悩んでいるのが何か分かりませんがわたくしとエドは、ツカサさんがホノカさんをふったから起こった事件だと知っていますわよ?」

「「へ?」」


 俺と柳瀬さんの声が重なった。いや、今はそれどころじゃない。

 エーゼさんは何を言っているのだろうか?俺が柳瀬さんとのコンビを解消したことを知っている?

 ほわぁい?


「実は受付嬢のメリーさん。彼女がペラペラと話してくれたんだ。「助けに行くのならこの話は知っておくべきですぅ!!」と言いながらね」

「勿論ですが、わたくしとエドは辞退しましたわよ?人のプライバシーに関わることです。こう言ったことは本人の口からきくべきだと思っていましたわ……ですが」

「ですが?」

「だけど止まらなかったんだ。俺たちの言葉が聞こえていないんじゃないか?ってくらい無視されたよ。その間ずっとメリーさんは話っぱなし」

「まさか耳を塞いで聞かないという選択肢は、メリーさんの好意を裏切る事になりますし……泣く泣く内容を聞きましたわ」

「メリーちゃん何やってくれたの!!??」


 流石にメリーさん。人のプライバシーも知ったことではないと、話すその姿勢に痺れる憧れるぜ!!

 というのは噓だ。というか、メリーさんって本当に優秀だったりバカだったりとおかしな受付嬢だな。

 アレか。冒険者ギルドがある系の物語特有の『名物受付嬢』って役割なのか?

 そんな人、現実には要らない。……居てもいいけど俺たちには関わらないで欲しかった。

 これも異世界召喚された勇者である宿命なのか?そんなものいらない!!!



 と言う感じでメリーさんがやらかしてくれたお陰で、エドさんとエーゼさんのお二人には俺と瀬さんがコンビを解消したと言う経緯を知っている見たい。


 話す内容が減ったと喜ぶべきか、それとも人のプライバシーを勝手に暴露されて落ち込むべきか……柳瀬さんが嫌がっていたから、後でメリーさんにはキチンとお話しておこう。

 それで懲りるメリーさんではないと思うけど…スタンスは大事。一度言ったと言う事実があれば、二度目三度目にやらかした時に、適切な処置が施せる。

 ………二度目三度目がある事を前提に進めているのは、メリーさんへの信用がないせいだなぁ。でも、こう言ったさじ加減は出来る人だと思うから大丈夫だろう。



「はぁ~。メリーちゃんも大概にして欲しいかも……」

「ホントにごめん」

「いえ、エドさんとエーゼさんは何も悪くないですから。………私とツカサ君、どっちから話そうか?」

「えっと……柳瀬さんの負担を減らす為にも俺からしようか」

「分かった。あ、エーゼさんありがとうございます」

「ホノカさんの救助が目的ですから気にしないでくださいな」


 柳瀬さんはエーゼさんから回復魔法を受ける。俺は魔力不足だから、少ししか回復魔法をかけてあげられなかった。

 エーゼさんが柳瀬さんの回復に努めている間、説明を開始した。



 内容は少しだけ難航する。

 視界に映る柳瀬さんのHPゲージが減少していた事で、柳瀬さんの現状を掴んでダンジョンに潜ったとか、マップ機能を頼りに進んで行ったとか、絶対に話せない。

 元の世界なら誤魔化しも大変だろがここは異世界。魔法が存在しているので、何とか魔法を使って……と誤魔化して強引に進めた。

 エドさんとエーゼさんが、特にエーゼさんが俺をじーっと見ていたがそんなことは知らない。

 柳瀬さんがエーゼさんの視線を受けて俺に、ジト目を送って来るけど、それも知らない。人の視線を無視することには慣れているからね!!

 と、こんな感じで難航極めたが、何とか俺の説明は終了。



 次に行った柳瀬さんの説明は、小説で見ても胸糞悪い内容だった。

 俺のパートナーに戻る為にダンジョンの深い階層まで潜った事。ここまで潜ったのはいいものの、適度な休憩を挟差まずに潜った為に、モンスターの攻撃を受けそうになった事。その時に現れた冒険者を名乗る人攫いに助けられた事。あれよあれよでこの場所に連れてこられて、意識を失ったとこと。


 話に出なかったからスルーしていたけど、この場所は各階層に一つ存在する休憩所ではないらしい。

 スケルトンの大群で壊れてしまったが、透明な壁があって通常では見つからないようになっていたとのこと。人攫いはそこに目を付けてアジトにしていたらしい。

 俺のマップ機能ではその部屋もバッチリ写っているから見つけられたんだがな。俺のマップ機能が優秀するぎるのか、それともこの部屋が完全に隠された部屋ではなかったのか……どっちでもいっか。

 それももう一つ。一番重要なことだ。

 何とこの部屋、モンスターが湧かないらしい。だから人攫いが何か月もアジトにしていたのだと分かる。

 原理とか言われても俺は知らない。マップには度々ランダムで赤点が表示されるが、ここだけには今の所モンスターが沸いた事はない。

 と、知っているのか知らないのか、エドさんとエーゼさんはここに座り込んでいる。なぜだろうか?行き止まりだから安全だと思ったのだろうか?でも、優秀な冒険者であるお二人はそんなミスをするとは思えないし………。まぁいいや。赤点が出現したら直ぐに分かるし、話している最中に魔力もある程度溜まった。

 無詠唱で一気に方を付ければ、柳瀬さんの負担になることはない。


 柳瀬さんの話は続く。

 起きたら知らない部屋にいた。この隣の部屋だ。

 形状や置いてある物から推測すると、この部屋が主に人攫いが暮らしていた部屋で、隣の部屋が攫ってきた人を閉じ込めておく場所だろう。

 透明な壁から入る小部屋と聞くと、ゲームなどでよくある隠し部屋を思い出すが、ここも元々そうだったのだろうか?俺に聞くな。そこまでの情報は仕入れることは不可能だ。


 目が覚めると、人攫いの仲間が柳瀬さんを売る前に味見すると言ってきたらしい。味見……つまりそういうことだろうな。異世界物の小説でよくある展開だ。

 貞操の危機!!部屋で助けを求めて泣いていたら、隣の部屋(つまりこの部屋)で騒ぎが聞こえて来たらしい。

 後から分かった事らしいが、この騒ぎは柳瀬さんの前に捕まっていた女冒険者が、せめてもの抵抗にと持っていた『魅惑の香水』を使ったらしい。

 俺の視界に映った効果は、そのために発生した人工的なものだったのか。


 その香水の効果でモンスターにこの場所がばれてしまい、ひっきりなしにスケルトンが押し寄せて来たのだ。

 女冒険者の復讐は果たされた。だが、そのせいで柳瀬さんが更に危機的な状況に陥ることに。

 あろうことか、人攫いはHPゲージが減っていて危ない状態の柳瀬さんに、剣を持たせてスケルトンとの戦闘を強制させたのだ。

 後は俺が話した通りなので、柳瀬さんには終わってもらう。


「……酷いな」

「えぇ、許せませんわ」


 第一声がそれだった。

 エドさんも怒っているがエーゼさんの怒りは相当なものだった。

 拳を握り締め、怒りで震えている。もしこの場に生きている人攫いがいたのなら、上級の魔法を数発ぶち込んでそうな勢いだ。

 同性なだけあって、柳瀬さんが受けた扱いが身近に感じられるのだろう。

 エーゼさんは柳瀬さんに近寄って抱きしめた。


「もう大丈夫ですわ。わたくしが着いていて上げますわ」

「……ッ!!エーゼさん……うぅ。ひっぐ」


 俺と再開した時に一通り泣いているはずなのに、エーゼさんに抱きつかれた事で恐怖が再発したのだろうか?

 エーゼさんの豊満な胸に顔を埋めて、泣き散らす柳瀬さん。

 俺は目を逸らした。決して、涙を流している柳瀬さんを見るのが辛かっただとか、ちょとばかり場の空気を考慮しないで百合百合っぽいなぁと思ったかからではない。


「……?何かあったのか?」

「い、いや…別に何もないですが……」


 エドさん?なぜ俺を見てにっこりと微笑むのですか?

 その笑みが数々の男を死地へと送り込むことになるのですよ。

 結論!!!エーゼさんがいるのだから、顔を隠せばいいのに。



 何をするわけでもなく、時間が流れる。

 暇だったので俺が、アイテムボックスから本を取り出して読んでいると、柳瀬さんが急に声を上げた。


「あぁ!!!どうしようツカサ君!!!?」

「ほ、ホノカさん?急にどうしたので!?」


 本の世界に入り込む寸前だったので、少しだけビクッとしてしまったのは俺だけの秘密だ。

 ……何でエドさんは俺を観察していたのかな!?まさか男が好物とかやめてくれよな。

 とそんなことはどうでもいい。柳瀬さんが俺を呼んでいるのだった。

 俺は開いているページに栞を挟みながら、柳瀬さんに何があったのか聞く。


「何かあったの?」

「何かあったもなにも!!私、毒を受けてたんだった!!!どうしよう!!!どしたらいいのかな??人攫いしか解毒薬持ってないって言ってたし……。私は死んじゃうの??せっかく助かったと思ったのに!!!?」

「ほ、ホノカさん落ち着いてください!!」

「ツカサ君~~どうしよう!!!?」


 柳瀬さんの言葉を聞いて、そんなこともあったなぁって思った。

 焦る柳瀬さんには悪いけど、俺には焦る原因がない。

 なぜなら……


「柳瀬さん落ち着いて」

「お、おお落ち着ける訳がないよ~!!だってせっかく助かったと思ったのに、人攫いをやっつけちゃったから解毒が……」

「いや、そもそも毒って言うのが嘘だから」

「へ?……どういう事なの!!?」


 俺が毒は無かったと言うと、余計に近づいてくる柳瀬さん。

 ガシっと首元を掴まれ、顔をグッと寄せてくる。

 まるでキスしそうな距離だ。

 俺は柳瀬さんを引き離すと説明する。


 先ず、柳瀬さんが受けた異常状態は『麻痺』『飢餓』『衰弱』の三つ。

 麻痺は飲み物に混合させられて摂取された。時間とともに段々と抜けていくタイプみたいで、俺が柳瀬さんと合流した時には無くなっていた。

 飢餓は、食事を暫く取らない事によって起こった症状。体力を徐々に低下させる効果を持つ。まだ発動しているが、俺がドライフルーツをあげたりしたことで元に戻るだろう。

 最後に衰弱。飢餓から更に時間が経つと現れる症状で、文字の通り衰弱してしまう。この状態は動くことも殆ど不可能で戦闘などもってのほか。柳瀬さんが剣を取り落としたのも、これが発動したからだ。現在は俺の回復魔法で治療済み。


 ここまでは説明など不要。俺が脳内で整理しただけだ。他の人には絶対に言えない。

 状態異常のアイコンは俺にしか見えず、柳瀬さんには話しても問題ないけど、俺のゲームの様な視界を知らないエドさんとエーゼさんがこの場にいるからだ。


 そのことを踏まえて、俺は簡単に説明を行った。

 柳瀬さんがスケルトンを倒す戦力にされた時、柳瀬さんに剣を渡した人攫いが殺されるのを防ぐ為に言ったそうだ。「お前の体には毒を仕込んである。解毒薬は俺たちしか持っていない」と。

 その言葉があったから、柳瀬さんは人攫いに逆らえず、手足が自由になっても戦い続けたそうだ。

 だけど、俺の視界にはそんな毒を示す異常状態は見当たらない。もちろん、俺のゲームの様な視界が万能ではないって線も考えられるが、今の所そんな話は有り得ない。

 さらに、毒などないように柳瀬さんのHPゲージは回復している。もし毒があるのなら、回復魔法をレジストしたり、HPゲージが徐々に低下していくはず。柳瀬さんの表情も段々と良くなっている事から、毒の線は嘘と言う事になる。


 と言う話を簡潔にまとめて話した。

 エーゼさんが疑わしい目でこちらを見ているが、無視だ無視。

 やはり、同じ魔法使い職としては、ゲームの様な視界をそう言う魔法で誤魔化すのは無理がありますか。そうですか。

 だが、それを話す訳にはいかないのだよ!!


 で、俺からの説明を聞いた柳瀬さんだけど……俯いてプルプルと震え出した。

 な、何があったんだ……。もしかして毒が治って無かったとか?それとも嘘だったことの安心感から?


「……もう!!!そういうことは早く言ってよね!!!心配して損だったじゃん!!」

「あ、はい」


 どうやら、俺が早く言わなかったせいで怒っていたらしい。

 いや、だって……柳瀬さんが毒を受けているって話を聞いたのは、ついさっきだからね。

 話すタイミングも無かったよ……。


「でも、良かったよ。この話は地上に帰ってからだね」

「ホノカさん歩けるまで回復しましたか?歩けないようでしたら肩を貸しますが……」

「ううん。大丈夫だよ。心配してくれてありがとう」

「それじゃあ行こうか」


 話さないといけな事は全部終わった。

 後は地上に帰ってから。最近冒険者が行方不明になっていた原因や、その死体の後始末なんかも報告しないといけない。

 まぁ、全部帰ってからだ。根彫り深掘り聞いてくるメリーさんに話せば、そういった業務は全部行ってくれるだろう。何気に優秀だからな。


 エドさんを先頭に次いで俺が、最後尾に柳瀬さんとエーゼさんの順番で帰り道を進む。

 エドさんが戦闘を引き受けて、俺が援護。エーゼさんは万全ではない柳瀬さんの護衛と言う形だ。

 マップ機能を索敵魔法と嘘を付き、エドさんにモンスターの位置を教える。

 帰り道だが、柳瀬さんを救出した階層は十九階層。このまま上るよりも、敵が強くなるけど下って二十階層の転移魔法陣を使った方が速いと言われ、階段を下る。

 主にコウモリみたいなモンスターと、スケルトン。

 出くわしたモンスターはエドさんがスケルトンの相手をし、俺が宙を飛んでいるコウモリ型のモンスターをやる。始めてエドさんと共闘したが、中々うまくいったのではないかと思っている。柳瀬さんと違ったスタイルの戦い方で新鮮だった。


 そして、難なく十九階層をクリアし、二十階層に到達。

 転移魔法陣の下まで一気に進み、地上に転移した。


 久しぶりの地上。俺としてはそれ程経っていないが、柳瀬さんにとっては一日以上ふりの地上だろう。

 付け加えると、人攫いに捕まっている間はこうして戻って来れるとも思っていなかったはずだ。

 太陽の光を浴びた時、柳瀬さんはうっすらと涙を流していたようにも見えた。




 こうして柳瀬さんは無事に保護された。

 俺としても色々と刺激的な出来事だったとも思う。

 柳瀬さんの異世界召喚の謎が解け、この先どうするかが課題になった。

 解決策には薄々見えている。後は俺の決意と柳瀬さんへの説明だが、なんとかなりそうな気がしてたまらない。

 俺が主人公だからか、柳瀬さんが主人公だからか………。


 とにかく、柳瀬さんの大切さが分かった出来事だったな。




これにて第一章が完結しました。始まりの章。この物語の一番重要な章、根本的な原因の章。

次回から二章へと続きます。ようやくタイトルの意味を持ってくれる……。


いままでお付き合いいただきありがとうございました。更新速度は非情にゆったりとですが、今後ともよろしくお願いいたします。

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