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75話「再開と告白」


「柳瀬さん……遅くなってごめん」






 マップ機能を頼りにダンジョンを猛スピードで下って行った俺は、十九階層目でようやく柳瀬さんの位置を特定する事ができた。

 『移動速度上昇』の魔法をずっと発動して、更にその状態から走ったこともあり、肉体的疲労と魔力的疲労がヤバい。

 十九階層に入ると、柳瀬さんの周囲に数え切れない程の赤点が存在していた。

 数時間絶え間なく走り続けた俺は、更に身体に鞭を打って走り続けた。

 視界の隅に映っている柳瀬さんのHPゲージは、既に無くなる寸前。

 無くなる=死では無いと仮説を立てているけど、瀕死なのは違いない。

 俺は更に急いだ。


 赤点が大量に存在する区間までやって来た。

 ここで、一つの疑問が解消される。

 この階にスポーンしているモンスター全てが集まっているのでは?と思える程のモンスターがどうして柳瀬さんに群がっているのか?だ。

 結果から言うと、ある程度近くに移動すると、視界内に現れる異常状態アイコン。

 それに反応があったからだ。


『魅惑の香水』

 モンスターに対して効果がある。

 モンスターをおびき寄せてレベリングにいそしみましょう。

 使い過ぎ注意!!


 これだ。絶対にこれの効果が原因だ。

 どうしてこんな物が使用されているかなどは知らない。

 だが、これのせいでモンスターが集まっていることは分かる。


 俺が近づくと、モンスターが――――スケルトン兵が俺に気づいた。

 香水の効果で寄せられているだけで、使用者を優先的に狙う訳ではないらしい。

 ここまで魔力も体力も使っている。

 だが、体力はともかく魔力に関しては全体で見ると微々たる差。


「ケタケタケタ!!」

「スケルトン系って聖魔法か打撃攻撃が有効だったよな……」


 通常の魔法や攻撃でも効かない事はないが、効きにくかったりするのがスケルトン系モンスターのテンプレ設定だ。

 打撃攻撃は無理なので、聖なる光をイメージして魔力を解き放つ。


「『ホーリー』!!」

「ケタケタぇ……」


 変哲のない聖属性を込めた魔力を放出しただけの攻撃。

 リッチーやら吸血鬼とかだれでも知ってそうなアンデット族には意味が無いと思うが、雑魚であるスケルトンにはそれだけでも致命傷になる。

 試しに放った一撃で、包み込まれたスケルトンは動きを止めてバラバラになって崩れて行く。


「やったよな……」


 フラグっぽいセリフを吐きながら崩れたスケルトンを観察。

 スケルトン系のモンスターは倒したと思っても復活するのが鉄則だ。

 俺は他のスケルトンに気を付けながら、復活するのかを見守る。

 が、崩れたまま消えていく。

 どうやら、倒した判定でダンジョンに吸収されたみたいだ。

 視界に映る敵のHPゲージでもキッチリと無くなっていたから、心配はしていなかったけど力の過信し過ぎはいけないからな。


 ただの聖属性魔法をぶつけるだけで倒れると分かった俺は、防御障壁を前に張ってイメージの構築に入った。

 この数だ。チマチマ倒したって、何時柳瀬さんの下にたどり着けるか分からない。

 それに、柳瀬さんのHPゲージがゼロになっている。

 急がないと不味い状態なのは明確だ。


「ケタケタケタ!!」

「ケタケタケタ!!」

「ケタケタケタ!!」

「ケタケタケタ!!」


 俺を認識したスケルトン共が集まって来る。

 防御障壁張っているから、それ以上近づけない。


 だけど、何十もの骸骨がこちらに向かって来る目の前の光景は軽くホラー。

 アニメや小説ではこれよりももっと酷いシーンを見たりするけど、実際に目にするとなると、これだけでも恐怖映像。

 絶対に倒せると言う安心感がなければ、失神しても可笑しくよな。


 悲鳴を口に出さないのは、ビックリ系のホラーに弱いお陰だろう。

 急に目の前に現れたりするアレ、苦手なんだよなぁ。

 急に虫が目の前に落ちてくるとかさ。


 なんて、全く別の事を考える。

 魔法のイメージも行っている過程で別の事に思考を割ける様になったのは、慣れたからだろうか?

 それとも、隠設定であるレベルアップが作動して、新たなスキルを手に入れたとか?

 そこまで見れたらこのゲームの様な機能を完璧なのだが……。


 と、イメージの構築が完了した。

 初めて使う魔法は時間がかかるのが難点だけど、使えば使う程イメージの構築は早くなっていく。

 めんどくさいが、鍛錬あるのみ。

 脇道にそれ過ぎている気もするが、仕方のないことだと諦めてもらうしかない。

 人間、常に何かしら考えているのだから!!


「悪いが消えてくれ!!『ホーリーブレス』っ!!!」

「ケタケタケタぇぁ………」

「ケタケタケタぇぁ………」

「ケタケタケタぇぁ………」

「ケタケタケタぇぁ………」

「ケタケタケタぇぁ………」


 魔法障壁を解いて、一気に押し寄せて来るスケルトンを、竜種のブレスを真似て聖属性を付属させた魔法で蹴散らす。

 骨が崩崩れ去る過程すらも省いて、スケルトンは消えていく。

 威力が強すぎたみたいだ。

 だけど、急いでいる今にはどうでもいいこと。


 聖属性魔法は基本的に、生きてる人間には効果がない。

 なので、遠慮なくぶっぱなって柳瀬さんの元まで魔法を届かせる。

 マップに映るスケルトンの大半が消えた。


 目の前には柳瀬さんと、知らないおっさんが三人こちらをみている。

 全員がわけがわからないと言った表情だ。

 やがて、俺が見えたらしい柳瀬さんが、涙を流しながら声をあげる。


「ぁ……ぁ君」


 嗚咽が混じってよく聞こえ無かった。だけど、俺の名前を呼んだのだろう。

 こう言った時、どんな言葉をかければ良いのか、俺には全く分からない。

 ギャルゲーを沢山プレイしている経歴を持っていると、自然と正解のセリフを思いつくのだろう。

 が、生憎、俺がやってきた事と言えば、ラノベを読み漁ったことくらい。

 気の利いた言葉を投げかけることなんか、俺にはできっこない。

 だから、


「柳瀬さん………遅くなってごめん」


 とりあえず謝った。

 遅くなったのは事実だから。


 もっと早くダンジョンを降りて来れば。

 昨日の夜、宿屋のオーナーさんに言われて、瀬さんのHPゲージの異変に気が付いた時に動いていれば……。

 いや、その前…………俺がコンビ解消など言い出さなければ……。


 感動の再会。

 なのかは俺には判断が付かない。

 でも、あんな別れ方をした手前、どうやって接すればいいのか分からない。


 それがいけなかった。

 せめて、柳瀬さんに近づいていれば、今後の展開は違っていたのかもしれない。

 だけど、終わった後にあーだ、こーだ言っても仕方ない。




「あの…ツカs――きゃっ!」

「…っ!!?柳瀬さん!!」

「おっと動くなよ。魔法の詠唱もなしだ。少しでも素振りを見せてみろ、この小娘の首元にブスリだぜ」

「先ずは両手を挙げてもらおうか……おい、布持って来い」

「おう!」


 見知らぬおっさん三人が一斉に動いた。

 一人が柳瀬さんを拘束し首元に剣を持ってくる。

 もう一人が俺の後ろに立ち、剣を突きつけられた。

 最後の一人がは指示を受けて奥に向かう。

 いつの間にか、スケルトンは全て消えていて、マップには赤点が三つ表示されているだけ。


 油断していた。

 スケルトンに重なって見えなかったのがあだとなったな。

 柳瀬さんがダンジョンから戻って来なくて、衰弱している理由はコイツらが原因か……。


 いきなりのピンチな状況に、俺は非常に冷静だった。

 俺と柳瀬さん。二人とも剣を突きつけられていて、命が危ない状況なのにな。

 モンスターとの戦闘が、何時も命のやり取りだったからなのか?

 原因は分からない。もしかしたら、ホントに俺の感覚が狂っているだけなのかもな。


 俺は冷静なまま、おっさんの言う通りに、両手を上げた。

 きちんと手のひらを見せて、何も持っていない事をアピールするのも忘れない。

 俺が魔法使いってことがばれているみたいで、猿ぐつわ代わりの布を探しに一人何処かに行ったのか。


 さて、どうするべきか……。

 視界のマップには赤点が三つ。

 俺の魔法の範囲に入っていなかったスケルトンが、いつの間にか消えている。

 何故だ?……まぁいい。居ないなら居ないで注意を払わなくても済む。

 動くなとは言われているが、このまま黙って待つほど俺はバカではない。


「目的は何ですか?」

「目的だぁ?そんなもん見りゃあ分かんだろ!!」

「今、街で噂になっている冒険者失踪事件。犯人はあなたたちですよね」

「はっ!!その通りよ!!」


 やっぱりかよ。

 事件の話を聞いてから直ぐに柳瀬さんの失踪と、HPゲージの減少が続いたまま。

 まるで物語のように話が連続している。

 繋がらないわけがない。


「だったら、この後どうなるか知ってるだろ?」

「殺される……ですよね」

「なら話は早え。だがな、動いたらこの女に剣がブスリだ」

「ヒッヒヒヒ。俺たちの奴隷になるって言うなら、命だけは助けてやってもいいぜ」

「それもいいな。さっきのくそあアマのせいで集まったスケルトン共に、仲間が大分やられちまったもんでよぉ」


 また情報ゲット。

 やはりこのままでは殺されるか奴隷落ちしか未来がないらしい。

 まぁ、こんな奴らの考えることなんて、どんな小説でも同じような考えだからな。

 それにしても、あの『魅惑の香水』が使用された原因は、こいつらのせいならしい。

 チラッとくそアマと呼ばれる存在を確認すると、血塗れになって死んでいる裸の女性だった。

 状況から推測するには、こいつらにレイプされてせめてもの抵抗で、こんなアイテムを使ったと言ったところか。

 もう少し早ければ、助けられたのに……なんて思わない。


 俺からすれば、自分と柳瀬さんが生きていればそれだけで十分だ。

 余裕があったら助ける。他人なんてその程度の感覚だ。

 柳瀬さんには死んでほしくないと思っている時点で、既に柳瀬さんは他人ではないくなっている。

 そのことには、無意識のうちに考えないでいた。


 さて、どうやってこの状況を打破するか。

 俺に出来るのは魔法だけ。

 万が一にも布を口に入れられても、向こうは俺が無詠唱で魔法が発動できるとは知らない。

 だから、何とかなるはず。

 見た感じ、皮の防具は付けているが、盾を持っているようには見えないし、魔法障壁も張っている様にも見えない。

 防御面はほぼザル。

 正直言って攻撃魔法一発で倒せるだろう。


 問題があるとすれば、馬鹿正直に詠唱を唱えるのは不可能ってところ。

 まぁ、無詠唱魔法が使える俺には関係ない話だけどな。

 ただ、魔法を構築する時間が無い事。

 発動してこの世界に構築し、発射するまでに敵に見つかってしまう事だ。

 そうなれば、アイツらは躊躇いもなく柳瀬さんの首元に剣を突き立てるだろう。

 俺の魔法が到達する前に、柳瀬さんは致命傷を与えられる。

 瀕死状態の柳瀬さんには、余りにも大きな一撃。

 場合によっては、それだけで事切れるだろうな。

 それだと、俺がここに来た意味が無くなる。


 考えろ。ない頭を使って考えるんだ。

 何かの小説のパクリでもいい。

 何でもいい。この窮地を脱出出来るならどん魔法だって再現して見せる。


 猛スピード脳内検索を行い、色んな小説の知識を思い出し中な俺。

 そんな俺に、泣きそうな声色が届いた。


「……ツカサ君……。もういいから」

「っ!!!?もういいって………」


 柳瀬さんは静かに泣いていた。

 嬉しきなきじゃないことくらい、俺にも分かる。

 こんな場所まで来て、諦めきれない俺は柳瀬さんに問いかける。

 俺に剣を突きつけいている奴が、声を上げて剣を俺が着ているローブにピッタリと突きつけた。


「おい、動くなって言っただろ!!刺しちまうぞ!!」

「いや、いい。最後の話くらいさせてやろうじゃねぇか。俺は寛大だからな」

「ちっ。余計な真似はすんじゃねーぞ」


 柳瀬さんを拘束している方が上なのか、俺に剣を突きつけている方は押し黙った。

 とりあえず、会話はさせてくれるみたいだ。

 時間を引き延ばせ!!




「ツカサ君はもう頑張らなくてもいいよ」

「頑張るって……」


 柳瀬さんが何を言っているのか分からない。

 なんなんだよ。頑張らなくてもいいって……。


「こんな事になったのも全部私のせい」

「いや、俺があんなこと言ったからで……」


 柳瀬さんのせいじゃない。

 確かに、こんな連中に捕まったのは柳瀬さんの不注意なのかもしれない。

 だけど俺が索敵のほとんどを受け持っていたせいでもあって……。


「ううん、私のせい。ツカサ君は何も悪くないから……」


 柳瀬さんは何が言いたいんだ?

 いいや、そんなことよりも考えろ。


「第一、こんな世界に飛ばされてから、色んなことをツカサ君に迷惑かけちゃった」

「………………………」


 別に迷惑なんかじゃ……。最終的に決めたのは俺だ。

 声にならなかった。


「それに、こんな世界に召喚されたのも、私のせいなんだよ」

「…は?」


 この状況を打破するために色んな小説の内容を思い出している頭が、柳瀬さんの言葉で停止する。


 この世界に召喚されたのは、柳瀬さんのせい?

 ……確かに、今まで俺と柳瀬さんは自分の死因を語らなかった。

 誰が好き好んで自分の死に方を喋るのだろう。

 だから、俺は柳瀬さんが死んだ原因を知らない。

 俺よりも早く死んだのか、それとも大分後になって死んだのか。

 姿や記憶から、余り変わらない時期に死んだと思っているけど、これは召喚転生。

 人間などどうにでもできる女神様が関与している、正しく神が行った行為。

 そもそも、柳瀬さんはどうしてこの世界に召喚、転生したのか。

 

 時系列や記憶など気にしても仕方が無い。

 柳瀬さんがここに居る理由も。

 俺は気にしないでいた。



「召喚?こんな世界?コイツら何を言ってやがる」

「俺に聞かれても知らねぇよ!というか、おい!!!!まだ布は見つからないのか!!!?」


 ヤバい。

 俺と柳瀬さんの会話を聞いていた奴らが、会話の内容を聞いて不思議に思っている。

 敵だから殺したり、無力化して衛兵に引き渡すとしても、余り他人には聞かせたくない内容だな。


 感情に支配されている柳瀬さんは、そんなことお構い無しに言葉を続ける。

 俺にとってとても重要な言葉を言い放った。


「ツカサ君には言ってなかったけど私。……私ね。ツカサ君がトラックに引かれそうになったのを見て、道路に飛び出してちゃったの」

「…………トラックに引かれそうになった俺?」


 いや、待て。俺を見てだと?

 柳瀬さんは何を言っているんだ。

 確かに俺は、トラックに引かれてこの世界に転生する権利を得た。

 あの場所に柳瀬さんがいたのか?

 そういえば、女の子の叫び声が聞えた様な気が………。


 あれが柳瀬さんだったとすれば?

 俺を追って道路に飛び出して、この世界に飛ばされたんだと説明が付く。



 ダメだ。この先は考えるな。


 心の中の醜い自分が自分に言いかけせる様に呟いた。

 その先はお前の未来が過酷になるぞ。

 そう言っている様でもあった。


 だけど、俺はその意味をはっきりと見つけなければならない。

 でないと、柳瀬さんに申し訳ないから。



 俺がトラックに引かれる場面をみて、柳瀬さんが道路に飛び出した。

 ならば………。ならば、


 もう答えは出ている。

 後は、俺自身が認識するだけだ。




 柳瀬さんは、俺のせいで死んだのか?


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