74話「決死の抗い」
まず謝ります。今回でツカサ視点に戻りますと言っておきながら、ダメでした。
「……っ!!?」
目が覚めた。
身体はダルくて動き難い。
しかも、両手両足を縛られていた。
な、何が起こっているの!!?
た、確か意識がなくなる前は……。
私は記憶を辿る。
最後に覚えている記憶を思い出す。
おじさん冒険者に助けられた私は、なんやかんやで休憩所までご一緒することになったはず。
それで、辿り着いて眠くなってから……。
おじさんたちの会話が聞こえて………。
段々と思い出していく。
最後に聞こえた会話は確か……。
『お、やっと眠ったか』
『やっとかよ。ったくどんだけ耐性が強いんだよな。この小娘』
『静かにしろよな。もう動けないと思うが、万が一ってことがある。慎重にだ』
『分かってるって。何時ものように売る……んだが、ちょっとくらい楽しんでも問題ないだろ』
まるで、これだろまるで、私が眠るのを待っていたかのよう。
売る?私を?
まさか、人攫い!!?
冷静に考えやっと、私はあの二人に騙されていたんだと気付く。
あの状況を作り出したのも全部演技だった?
そういえば、冒険者だって言ってたけど、戦ったとこなんて一度しか見てないし、冒険者カードも見てない。
元から冒険者じゃなかったんだと考えたら、冒険者カードを見せなかった理由としては合っている。
でも、どうしてダンジョンに入って来れたのか?
いや、それは後回し。
どうしてここに居るかはどうでもいい。
これから私はどうなるか?が重要。
あの二人は私を売るって言ってた。
それに、楽しむって……。
はっとして私は、自分の身体を確かめた。
防具は着たまま。
服も乱れてない。
身体に違和感は全く感じない。
良かった~~。貞操はまだ失っていなかったよ……。
貞操の紛失は免れた私だけど、手足はきっちりと縛られている。
声を出さないようにって、口に布らしきものも詰め込まれている。
大声を出して助けが呼べない。
ピンチ。ピンチ過ぎる!!!
この世界に転生した時の様なパニックが私を襲う。
あの時はツカサ君が目の間に居て助かったけど、今は居ない。
しかも、何処かに売られるかもしれなくて、あの時以上の危機。
怖くなった私は、声が出せないと分かっていても、何かを呻かずにはいられなかった。
「―――――――――――――ッ!!?」
うめき声すら出せない!!
それどころか、身体が怠くて力が入らない。
何で!!?
私には、もう正常な思考を考える隙を持ち合わせていなかった。
「おっ!起きたのか」
知らない人が視界内に入ってきた。
誰?私は働かない頭で、懸命に記憶を探るけど、全く見覚えがない。
知らない男はしゃがんで、私の頬を撫でながら言った。
「もう少し待ってな。今までで味わったことが無い快楽を味合わせてやるぜ」
「――――ッ!!!」
ひぃっ!!気持ち悪い!!!
声には出なかったけど、背中を嫌な感覚が襲った。
楽しい事&快楽……言葉に出すのが途轍もなく恥ずかしい事を、私に対して行うのだろう。
ハッキリと言えばレ〇プ。
箱入り娘でもない限り、そういった言葉も知ってるよ。
女の子だって性欲はあるから……。
でも、知らないおじさんに犯されるのが、好きなわけがない。
というか、そういうことが好きな人って創作物だけじゃないの!!?
現実に居る訳がないよ!!
と、現実逃避を行おうが、この状況が変わる訳もない。
知らない男は、ニヤニヤした表情で私の頬を撫でた後、去っていった。
好きでもない男に頬を撫でられるなんて、普通の女の子の感覚からしたら、気持ち悪いったらありゃしない!!
余計に嫌悪感が溢れて、早くこの場から逃げたいという気持ちで溢れかえった。
でも、何故か身体は動いてくれない。
時間が経った。
眠っていた時間がどの位なのか分からないけど、それを込みでもかなりの時間が経った気がした。
気がしたのは、正確な時間を知る方法がないせい。
時計なんて便利な物は持ってないし、持っていても縛られているこの状況では見れない。
視覚情報はあるのだから、窓の外から太陽や影の位置を確かめればいいって思った人。それは甘い考えだよ!!
ここはダンジョンの中。窓などあるはずもないし、ましてや太陽など絶対にない。
影はあるけど、光源の位置で変わるから意味ない。
怖くて怖くて仕方が無い。
仕方が無いけど、ずっと待っているだけで助けが来るのは物語の中だけ。
長い時間が私は冷静に……はならなかったけど、今後の未来におびえながら状況を整理する事ができるだけの時間は経った。
まず、初めから順を追って整理してみた。
ダンジョンを攻略中の私。
十九階層で骸骨の攻撃を受けそうになったのを、颯爽と助けてくれたのが冒険者と名乗るおじさん二人組。
この二人が私の意識を奪ってこの場所まで誘導した実行犯。
意識を失う直前に「やっと眠った」といって所から、この後に貰った飲み物に薬が入っていたんじゃないかな?
骸骨までもが計画の内なのかは分からない。
で、その後も私が意識を失うまで一緒に居る必要がある。
だから、すり抜けられる壁の奥まで一緒に行動し、そこで貰ったもう一杯で私の耐性?を上回ったらしい。
あの壁は二人のどちらかが魔法で作ったものなのかな?
ツカサ君だった分かると思うけど、魔法はからっきしな私は想像しかできない。
振り返ってみると、もう一つ気づいた事がある。
道中の戦闘。
全部私が引き受けたんだけど、その前の説教が本心だとすれば、戦闘を全部を私に任せるはずがない。
冒険者じゃないから、戦闘能力はそこまで高くない?
でも、早々に私が意識を失った時は、片方が私を背負って(ここでまた寒気)もう片方が戦闘を行ったはず。
いくら何でも、遭遇するモンスター全てから逃げ切れる訳がない。
私の体力を削って、薬を効き易くする為だと思う。
意識を失って再び目を覚ました私だけど、ここでようやくあの二人に嵌められた事を理解した。
目的は身代金要求とかではなく、単なる人身売買。
ツカサ君は言っていた。
『この世界はよくある中世ヨーロッパ風の世界』だと。
歴史で習った中世ヨーロッパと言えば、主に色々の国の王朝を習った。
………いや、それだけじゃ分かんないよ!!
美術品とか建造物、文学、音楽なんかは少し中学校の時に触っただけ。
高校の授業はそこまで進んで無かったし……。
第一、庶民の詳しい暮らしとか習わないよ!!
あ、ギルド!!!
冒険者ギルドではないけど、組合って意味だと習った記憶がある!!
って、これは今は役に立たない。
でも、人身売買がある世界だと分かった。
元の世界だと、アメリカの黒人奴隷が一番近いのかな?
ナチスによるユダヤ人の迫害……は違う。
とにかく、奴隷という言葉は聞きなれないけど、いい感じを抱くことは無い。
まだある。
多分、奴隷として売られるよりも一大事かもしれない。
売る前に、私の貞操を奪うつもりならしい。
ツカサ君の為に取っていた処女を奪われる。
一番の一大事なのは確かだよね!!
身体に違和感や、縛られているものの、外されていない防具を見るに、まだ無事になのは分かった。
目が覚めてからこの場所を観察した結果。
この場所は意識を失う前と違う場所のようだ。
偽休憩所付近なのか、それとも階層すら違う場所なのか………それも分からない。
意識を取り戻して唯一分かった情報は、三人目の仲間がいるということ。
まだまだ仲間がいるかもしれない。
最低三人。
この状況をどうやって打破するか?
意識を取り戻して、三人目の仲間が出ていってからかなり時間が経っている。
何も、怖くて震えているだけではない。
状況整理とともに、手足を縛っている縄をほぼけないか?と手足を動かそうとしてみた。
でも、身体が思うように動かない。
意識は段々とハッキリとしていっているけど、身体だけは一向に良くならない。
熱を出して寝ている時のように身体が怠くて、思うように動かせない。
心なしか、段々と酷くなっているようにも思える。
もしかして、毒なのかな?このままだとヤバい?
売られるのだから、毒で殺される事はないだろうが、今の私にはそんな余裕なかった。
体感時間で一日ほど経った。
心なしとは言えないほど、私の体力は減っていた。
ダンジョンに入った日の朝ごはん以降、まともな食事をしていない。
それが原因で衰弱し、栄養が入ってこないから免疫力も出せずにどんどんと衰えていく。
売られる人って、皆こんな扱いを受けるのかな?
そう思っていると、急に騒がしくなっていることに気が付いた。
悲鳴やら怒声やらが聞こえてくる。
内容までは聞き取れない。
焦っているようにも聞こえる。
もしかして、想定外の事が起こったのかな?
……助けが来たとか……。
淡い期待が芽生えた。
私を捕まえて人たちの想定外の事態。
真っ先に思いついたのは、助けが来たということ。
だけど、この時の私は忘れていた。
ここがダンジョン内だということを。
部屋のドアが勢いよく開かれた。
そこに立っていたのは、初めに私を捕まえたおじさん。
おじさんは私を見るなり、勢い良く近づけてきながら、緊迫した表情でこう言った。
「くそっ!!お前も来い!!」
「――――ん!!」
「いいか、手足を自由にしてやるが、変な気は起こすんじゃねぇぞ」
「―――ゲホッ。ハァ……ゴホッゴホッ」
急に抜き取られた布。
私の口は解放されたが、急に状況が変わった事にせき込んでしまう。
せき込んでいると、私の体調など知ったことではない様子のおじさんが、私を引っ張り上げて立たせる。
「お前、大分強かったからな。死にたくなかったら戦え!!」
「ゴホッ……な、何で……」
「見たら分からぁ!!」
ふらふらと立ち上がることすら難しい。
それでも、おじさんに背中を押されて前のめりになる。
反射的に足が動いて、前に進んだ。
長いこと同じ体制でいたのと、謎の衰弱があって、歩くのもままならない。
こんな状態の私に、一体何をさせようしているのだろうか?
戦えって言われても何と?
その答えは、私が捕まっていた部屋の外に出た時に、ハッキリと分かった。
モンスターだ。
そこは私が意識を失った部屋で、その部屋には大量の骸骨がいた。
「あのくそアマ!!絶対に許さねぇ!!」
「口開く暇があったら一体でも倒せ!!」
「くそっ!!ここは安全地帯じゃなかったのかよ!!」
三人のおじさんが骸骨と戦っている。
何で骸骨がこんな場所にいるのだろか?
よく部屋を観察すると、知らない女の人が裸で死んでいる。
見るも無残な姿に、私は一瞬吐きそうになった。
「ほらぁ!!戦え!!」
「でも、でも剣が……」
戦えって言われた理由は分かった。
どうしここに、こんなにも骸骨が押し寄せてきているのかは分からない。
あの死んでいる女の人が関係しているのかもしれない。
でも、今はどうだっていい。
ひっきりなしに増え続ける骸骨に、戦わなくては全滅確定だろう。
懸命に戦っているおじさん達も、少なからず攻撃を受けたダメージが所々見られる。
戦うには剣が必要だ。
剣がないと、私を連れだしたおじさんに私は剣を求める。
防具は着たままだけど、武器は没収されているからだ。
「ちっ!ほら。!!さささっと戦え。言っておくが、俺たちを切ったらお前はお終いだからな」
「お終い……?」
「お前の体の中に毒を仕込んである。俺たちしか持ってない解毒薬を飲まないと、じわじわと毒がお前を蝕んでいくだろう。ひっひっひっひ。死にたくなければ俺たちを助けろ!!」
何と!!私の体調不良の原因は、身体に毒が仕込まれていたからならしい。
私は衝撃を受けるも、心のどこかでは「やっぱり」と謎の体調不良の原因が分かってほっとしていた。
ど、毒って……。
死んじゃうのかな?
でも、解毒薬はあるって言ってた。
逃げるチャンスだけど、この人たちを死なさなかったら助かる。
おじさんが私に投げよこしたのは、特徴のない剣。
直剣っていうのかな?
とにかく、私の剣ではない。
だけど、この状況で四の五の言っている場合じゃないっ!!
力の入らない身体に、精一杯力を入れて剣を持って構える。
それを見たらおじさんは、またもや私の背中を押して、大量の骸骨の前に突き出した。
ふらふらと前に出る私に、一体の骸骨が私に向かって剣を振り下ろしてくる。
「くっ!!」
「ケタケタケタ!!!」
重たい身体を動かして、剣を使って防御。
刃と刃がぶつかって、キンッと金属がぶつかる音が鳴り響く。
一瞬、力負けしそうになるが、力を振り絞って押し返す。
押し返して出来た隙を突いて、胴体に攻撃を叩き込む。
一撃、二撃、三撃と確実に倒れて消えるまで攻撃は辞めない。
「やあぁ~っ!!ハァハァ……」
たったモンスター一体との戦闘だけで、私の息は上がっちゃっう。
でも、モンスターは私を休ませてくれない。
一体目の骸骨消える瞬間には、もう私に攻撃を仕掛けてきている。
私はそれをギリギリで避けたり剣で防御しながら、隙を突いて骸骨を倒していく。
気を抜いたらふらッと倒れそう。
それだけ限界は既に見えている。
でも、解毒薬の為に動き続けなければならない。
全ては生きる為。
死んでしまっては元も子もないんだから。
解毒薬のこととか、売られてしまうこととか、今はどうでもいい。
とにかく今はこの骸骨の集団から生き残ることが最優先。
難しい事は後回し。
今を生き残ってから考えたら良いに決まっている。
………ツカサ君だったら、先の事も全部見据えて、魔法で解決しちゃうんだろうなぁ。
倒れそうになる限界の中、一体何体の骸骨を倒して来ただろうか?
数えるのはとうの昔に辞めた。
というか、そんな余裕ない。
一体、ま一体と骸骨を倒している私の耳に、おじさんの悲鳴が聞こえてくる。
「ぐわぁっ!!ひぃっ!!やめ…止めてくれぇぇ!!」
「おい!大丈夫かぁ!!」
「ちっ、一体いつまで戦い続ければいいんだよ!!」
チラッと声のする方を向くと、一人が倒れていた。
骸骨が群がり、悲鳴も聞こえなくなってしまう。
これで何人目の死亡者かもわからない。
私は出来るだけ考えないようにする。
既に限界はとうに超えている。
いままで戦えていた事が奇跡だと思う。
でも、そんな奇跡は突然途切れた。
骸骨の剣に自分の剣をぶつけて防御。
なんとか振り絞って込めていた力が、段々と入らなくてなって押し切れない。
と、必死になって剣に力を籠めようとしていると、背中に強い衝撃を受けた。
「…ガハッ!!?」
拮抗している間に、別の骸骨からの攻撃を受けてしまったらしい。
防具のお陰でダメージは少ない。
刃は体に届いていなくて、衝撃が私を襲っただけ。
しかし、通常ならほとんど無視できる衝撃でも、今の私には致命傷になった。
衝撃を受けたせいで力が一気に抜けてしまい、剣を取り落としてしまう。
目の前には骸骨が「ケタケタケタ」と笑いながら私に剣を振り下ろしている。
何故かスローモーションで見えた。
あっ!と思った。
後ろからの攻撃は運よく防具に当たったけど、この軌道は生身の肌に当たってしまう。
特に変哲のない剣だけど、血は出るし、痛いと思う。
身体は限界を超えている為、その一撃が致命傷になりかねない。
ここで攻撃を受けたら……絶対に立ち上がれなくなる!!
死んじゃうのは嫌だ!!
まだ死にたくない。
生きて、ツカサ君にまた会いたいんだ!!
振り下ろされる剣がスローモーションに見えている。
痛む背中を無視して、足にグッと力を入れた。
いつも通りに出来ないなら、何時も以上に力を込める。
紙一重。
前転するように身体を無理矢理捻って回避出来た。
ホントにギリギリだったのか、髪の毛の一部が斬られている。
何とか切り抜けられた。
でも、まだ危機は去った訳ではない。
他の骸骨が私を狙う。
「ケタケタケタ!!」
「まだ、負け、負けない!!」
続けざまに回避と同時に剣を使って防御を取る。
が、私の体力は底を突いてしまったらしい。
「あ……」
キンッと音を立てて、あっけなく私の手元から吹き飛ばされる剣。
吹き飛ばされる剣が、目の前に落ちていく。
手を伸ばせば掴めるはずなのに、私の身体は動いてくれない。
足に力が入らなくて、ぺたんと地面に座り込んでしまう。
あの不調の中、あれだけ動けた方が奇跡。
もう諦めても、いいんじゃないかな?
私は頑張った。抗った。出来る事は全部した。
ほら、骸骨が嗤っている。
所詮、私はこんなちっぽけな力しか持ち合わせていないのだ。
私一人では何もできやしない。
誰かが隣に……ツカサ君が隣に居てようやく私は、役に立てるんだよ。
最後に伝えたかったな……。
自分を襲うはずの衝撃と痛みが嫌で、目を閉じた。
瞬間、轟音と誰かの声が聞こえた気がした……。
一秒、二秒、三秒が経過した。
何も起こっていない。
それとも、もう死んじゃったから痛みがないのかな?
何が起こったのか理解できない。
目を開けると、何かに打ち抜かれてバラバラになって倒れている大量の骸骨が映った。
倒れたまま復活することなく消えていく骸骨を見ると、あの一瞬で何体もの骸骨を倒したことになる。
生き残っているおじさん三人も、何が起こったのか分からないと言う表情だ。
一体だれがやったのだろうか?
周囲を見渡すと、見知った人が立っていた。
まだ死んで無いという安堵。
久しぶりに見た安心感。
助けてくれたんだという歓喜。
また、助けられたと言う自分に対する嫌悪感。
色んな感情が一気に押し寄せてきてしまい、頬に涙が零れ落ちた。
やっと呼べるのに、私の喉は空気を吐き出すだけ。
「ぁ……ぁ君」
私の姿に気が付いたのか、彼は私に言った。
「柳瀬さん………遅くなってごめん」
愛しい彼。
ツカサ君が私を助けに来てくれていた。
次回からツカサ視点に戻ります。これは確定。




