72話「一人でダンジョン攻略」
更新遅くなって申し訳ありません。止め時がわからず長くなってしまったので、二話連続投稿です。
その日、ツカサ君が珍しく私を部屋に呼んでくれた。
だから、私は告白してくれるのかと勘違いして、勝手に舞い上がっていたのだ。
「柳瀬さんはもう一人でもこの世界を生きていけるから」
と、ツカサ君は簡単に告げてきた。
告げられた時は、ショックが大きすぎて、理由を尋ねるのが精一杯だった。
その答えも、私がここの生活に慣れるまでという話だったと、私が目を背けていた言葉を思い出させる物。
この時、感情的になって言い返せば良かったものの、私は何も言い返せずにいることしか出来なかった。
呼吸が上手く出来ず、喉も枯れて言葉が出せない。
現実を受け止めきれない私は、気がついたら自分の部屋に戻っていた。
ベットに倒れこんで天井を見つめる。
数秒経って私はようやく現実を受け止めた。
涙があふれてきて、顔はぐちゃぐちゃ。でも、そんなこと気にならない。
ただただ、声を押し殺して嗚咽を上げるだけだった。
私はツカサ君の足手まといだったのかな?
何も知らなかった私に、この世界を教えてくれたツカサ君。
思えば、私一人の我儘だ。
私とツカサ君の繋がりはただ一つ。
元の世界で同じクラスだったということのみ。
私はツカサ君の事を色々知っている………知っていると思いこんでいただけ。
本と独りが好きなツカサ君。
周りに流されるのではなく、自分の思っている事だけを信じて行動する人。
私と正反対。
でも、この世界に来てから今まで見たことのない内面も知れた。
めんどくさがりで、生活を削るレベルで読書をする人。
他人には無口だけど、心の中では色々思っていて爆発する時もあるということ。
私はツカサ君の事を知りたい。
だから、この世界に来てからより一層ツカサ君の事を見てきた。
それでも、今のツカサ君が何を考えているのか分からない。
分からないと言えば、私の気持ちもツカサ君は分からないはず。
見知らぬ世界に飛ばされてツカサ君を頼ったもの、ツカサ君しか頼れる人が居なかったから。
ツカサ君はそう思っているはず。
確かに、ツカサ君しか頼れる人が居なかったから……と言う現実もある。
それでも、私はツカサ君が一緒で良かったとも思っているもは本当の事だ。
ツカサ君は何も私の事を知らない。
三年前からずっと好きだった事。
二回も想いを伝えられなかった事。
この世界で頑張ろうと思っているはツカサ君に見捨てられない為だという事。
全部、私が勝手に思っているだけで、ツカサ君は一個も知らない。
私の独り善がりで、気持の押し付けだ。
でも、でも、と私はツカサ君に捨てられた現実を否定しようとする。
初めの約束は、私がこの世界に慣れるまでだった?
でも、世界に慣れたら離れないといけない決まりはないよ?
私がツカサ君の足手まとい?
でも、ツカサ君は私が魔法の発動までの時間を稼いでくれてありがとうって言ってくれたよ?
なら、どうしてツカサ君は私から離れようとしているの?
答えは見えている。知っている。
私の気持ちを知らないツカサ君は一人で居たいだけ。
なら、どうやってツカサ君に、一緒にいたいと思わせるのか……。
まず、ツカサ君と肩を並べる実力を身に付ける。
次に、私が周りに流されているのではなく、自分の気持ちでツカサ君と一緒に居たいのだと分からせる。
この二点さえツカサ君に知らしめる事ができれば、ツカサ君もコンビを組む事を拒否しないだろう!!
翌日から私は動き出した。
まず、朝早くからギルドに行って、依頼を受けて一人でも出来るだって事を確認する。
日帰りの依頼から受けてみる。
ツカサ君から学んだように、索敵は怠らない。
マップ機能?みたいに上手くいかないせいもあって、何回か奇襲を受けたけど、モンスター自体は問題なく倒せた。
複数同時に来られた時は、びっくりしちゃった。
でも、何とか切り抜ける事ができた。ツカサ君の援護が普通だと思っている。その考え方はダメ!!もっと周りを見ないと……。
少し遠くに行って、お泊まりする依頼も受けてみた。
こういう依頼は一人で受けるじゃないってメリーちゃんにも言われたけど、一人で受けなきゃいけない!!
やり遂げなきゃダメなんだ!!
少し索敵に問題があると思うけど、戦闘に関しては問題なく対処出来ていると思う。
避けて斬る!!!これだけで十分だ!!
しかし、問題が起きた。
晩ご飯の準備が出来ない!!?
水筒は持ってきているけど、料理に必要な程の大量な水を持ってない……。
ツカサ君なら魔法で出せるけど、私の魔法では水が少し出せる程度。
仕方なく、乾燥肉やドライフルーツを齧った。
戦闘面以外でもツカサ君にどれだけ頼っていたのか、知らされた気分。
今度から水も用意しなくては……。
ご飯以外にも見張り番が交代でできないせいもあって、中々寝付けなかった。
小さな物音にも反応してしまい、剣を握ったまま転がるしかない。
結論、お泊まりで依頼をする場合は、他の冒険者と合同でしたほうが戦闘面以外での効率が良いことが分かった。
その後も、一人で依頼をこなしたり、どこかのパーティーに臨時で入ったりしたけど、やっぱりしっくり来ない。
やっぱりツカサ君と一緒じゃなきゃダメだ。
私はツカサ君と一緒に居たい。
私が突撃して頼み込んだら案外何とかなるのでは?とか思っちゃったりする。
でも、これからも一緒にコンビを組みたいと頼み込むのは、もう少しだけ頑張ってから。
ツカサ君が驚くような功績を立ててからでも、遅くはないと思う。
それに頼み込んだら何とかなるような気がするのも、ちゃんと理由があった。
私とコンビ解消してから、ツカサ君は殆ど宿に引きこもっていて、冒険者ギルドに顔を出していないらしい。
お金があるから、やる気が起きないんじゃなかな?
それに、私が一緒じゃないって事もあったら嬉しいな!
一つデカイ事をクリアしてツカサ君に「もう一度コンビを組もう!!」と伝えると決めて、私は直ぐに動き出した。
まず、何を行うかを決める。
メリーちゃんから聞き出した話では、この近くにはボスモンスターは生息していないらしく、功績を立てるならダンジョンだと言われた。
ダンジョンなら一定期間のうちにフロアマスターが出現するので、深い階層のフロアマスターなら功績も立てやすいらしい。
私はその情報を聞いてからダンジョンに潜る事を決めた。
一番深い場所じゃなくても、ある程度の場所を一人でクリアしらなら、ツカサ君も私の事を認めてくれると思ったから。
でもそれは、結局のところきっかけに過ぎないと分かっていても。
元々は自分が勇気を出さなければならない事も分かっている。
それでも、何かを達成したから。と言う言い訳が必要なのだ。
「じゃあメリーちゃん。私はダンジョンに向けて出発します」
「はい!!是非とも頑張ってくださいな!!それをクリアしたらツカサさんとのコンビを再開するのですね」
「う、うん。頑張って一緒に居たいことを伝えるの………。でも、許して貰える確証は無いんだけどね」
「なにぉう!!ホノカさんがこんなにも頑張っているのです!!絶対に伝わりますから!!」
「そうかな?」
「絶対に絶対に大丈夫です!!!このメリーのお墨付きです!!」
メリーちゃんのお墨付きはそれで怖いけど、元気が出たのは本当だ。
私はメリーちゃんに「行ってきます」と言うと、ギルドを出て南に向かった。
ダンジョン。一回しか行ったことなくても、その時の出来事は覚えている。
入り口に並んでギルドカードを提示。
その時に「転移魔法陣を使いますか?」って聞かれたけど、今回は使わないことにした。
十階層まで進めれたのは、ツカサ君が居たからこそ。
私だけでクリアしなきゃいけない今は、転移魔法陣に頼ってショートカットするわけにはいかない。
ダンジョンの構造は変わらない。
入る度に構造が変わっていたらそれはそれで攻略が大変になるし、ダンジョン内で得られるドロップ品を売却して生計を立てている専門冒険者がここまで増えない。
構造が変わらないからこそ、準備も出来る。
ツカサ君はマップ機能があるから要らないと言っていたけど「低階層なら地図が売ってあるはず」とツカサ君が言っていた通り、商業区で見つけた地図を頼りに私はダンジョンを進む。
地図を片手に、もう片手には剣を握りしめて。
慣れない地図に苦戦しながらも、何とかモンスターを倒しながら進んでいく。
この辺は強くない。なので、態勢が悪いアドバンテージがあっても何とかなる。
地図は二十階層までしか手に入らなかったけど、先ずは十階層が目標。
以前潜った記憶と地図を照らし合わせながら進んでいく。
途中ですれ違った親切な冒険者パーティーが一人でいる私を見て「一緒にどうか?」と誘って貰ったが、これは私一人でやらないとダメなことなので丁重に断った。
他の冒険者パーティーと上手く行っても、ツカサ君は「自分以外と上手く良くなら、そっちの方が良い」って言うに決まている。そのくらい予想できる。
だから私は一人でこなさなければならない。
一人でこなして、足で纏いなんかじゃないってツカサ君に分からせて、それでもツカサ君と一緒に居たいんだって伝えるんだ。
黙々とダンジョンを攻略していく。
ツカサ君と一緒なら「休みたい」と言う所も、私は我慢してダンジョン攻略。
すぐすぐ休憩を挟むのは自分に対する甘え。甘えを無くして自分に厳しくする。
そして、一秒でも早く下層のフロアマスターを見つけて倒す。
本当にバカな考え。
ツカサ君が一緒なら「視野が狭まっている」とか注意を促してくれたり、私が気づかない内にフォローしてくれるんだろ。
でも、そのツカサ君が此処には居ない。
だから無理をして、切羽詰まった状態で、視野が狭まった状況でダンジョン攻略を黙々と続けていた私には、後方に注意を全く向けて居なかった。
どの位時間が経ったのかは分からない。
それでも、前回よりも速いペースで私はダンジョンを潜っていた。
小休憩を数回取っただけで後はずっと進む。
そんな無理な攻略をしているのだから、十階層を超えているのは当たり前。
今は十三階層を攻略していた。
「……ハァッ!!」
飛んできたコウモリみたいなモンスターを斬る。
と同時に、他の個体からの攻撃を避ける為に地面を転がった。
無茶苦茶な速度で攻略しているせいか、起き上がりにフラっとしてしまい更に別個体の攻撃を受けてしまう。
「……ッ!!!絶対に負けないんだからっ!!!」
良かった。
ちょうど防具の部分だったから、対してダメージは無い。
ちょっとチクりとしただけ。まだやれる。
「いい加減に居なくなってよね!!」
気合で起ちあがった私は剣を握りしめて走る。
瞬間、世界が遅く感じる感覚が私を襲う。
まただ。またこれ。
何が起こっているのか分からない。
元の世界で聞いた話では、極限状態で集中すればこの様な事が起こるのだとか。
スポーツ選手が稀に入るゾーンのようなもの。
でも、今はそんなのどうだって良い。
とにかく、この状況から脱出出来ればなんだって……。
線が見えた。
宙を飛んでいる複数のコウモリに続いている。
何をすればいいのか感覚で分かった。体が勝手に動く。
この感覚にももう慣れた。
勝手に動く身体に身をゆだねて、線を引き裂く様に剣を滑らす。
すると、気が付いたときには連撃が完成していた。
ツカサ君にも話したことのない秘密。多分、これが剣の適性何だと思う。
不思議な異世界なんだ、このくらいあっても何の疑問にも思わない。
これのお陰で私は今まで戦ってこれたと言っても過言ではないはず!
コウモリみたいなモンスターを全滅させると、死骸が消えてアイテムがドロップする。
私が買った魔法袋は、ツカサ君のアイテムボックスみたいに容量が無限ではないから、何と無く「これはレア!!」って思う物だけを拾って先を急ぐ。




