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71話「ホノカの異世界生活――後半②」



 ツカサ君も起きて軽い食事を取った後、私とツカサ君はエドさんとエーゼさんに別れを告げてダンジョン攻略に戻った。

 十階層に入ると節目の階層ということもあって、今までと雰囲気がガラッと変わったのが分かる。

 警戒しながら進むと、前方から冒険者パーティーとすれ違った。

 何かから逃げている雰囲気を出していたけど、ツカサ君と相談してダンジョン攻略を続行。

 そして、フロアマスターと出会った。


 戦闘中の出来事はあまり覚えていない。

 ただ、戦闘前のことは憶えている。

 フロアマスター、中ボス。ゲームをあまりしない私でもその存在は分かる。

 難しい敵。現実世界に置き換えると、命がけで挑まないといけない場面。

 そんな死ぬかもしれない戦いに、ツカサ君は挑むと言った。


 なんで!!?ゲームじゃないから逃げようと思えば逃げれるんだよね!!?

 それなのに……。「こんなイベントを逃すわけにはいかない」だって!!?

 おかしい。いくら何でもその考えは理解できない。


 私が答えに詰まっていると、ツカサ君は帰っても良いと言った。

 俺の我儘には突合せられない、と。

 そう言ってツカサ君は歩き去っていく。


 何で?心の中でツカサ君に問い詰める。答えは帰って来るはずもない。

 遠く離れて行くツカサ君を見ると、ここでついて行かなかったら二度と会えない様な気がして、堪らなくなった。

 だから、私は……!!


「ツカサ君!!!待って、私も戦う!!」


 気がつけば走り出して、声を上げていた。


 私は怖い。折角一緒になれたツカサ君から置いてけぼりにされるのは。

 だから、命なんて捨ててる様なもの!!

 でも、私とツカサ君なら、何物にも負けはしない。


「私も一緒に戦うから!!ツカサ君は魔法使いなんだから前衛は苦手でしょ?私がツカサ君の前を守るから、ツカサ君が私の後ろをお願い!!」

「………えっと」


 置いて行って欲しくない。

 そんな気持ちで口から出た言葉は、どこかプロポーズじみた言葉だった。

 わっ!!そんなつもりじゃなかったのに~!!

 と、とにかく弁解しないと!!


「わっ!?え、えっとこれはそのプロポーズとかじゃなくて……。でも、似たような感じでもいいと言いますか」


 うん。自分でも何を口走っているのか分からなくなってきた!!

 吹っ切れて全部言っちゃう?

 とか考えてあたふたしていると、ツカサ君は「何時も通りよろしく」と私の言動を見なかったことにして答えてくれた。




 戦闘の現場は酷いものだっと憶えている。

 モンスターの集団が冒険者を襲っていて、辺りには倒れている人間、無残な姿になった死体が幾つもの積み重なっていた。

 先行していた私はその光景を目にすると、吐きそうになるのを我慢してモンスターの群れに突っ込んで行った。


「やあぁぁぁぁぁ!!!」


 ツカサ君が後で教えてくれたが、このモンスター集団はボブゴブリンとゴブリンウォーリアで形成されていた。

 私が戦った感想としては「ちょっと大きなゴブリン」だっと思って戦っていた。


 ツカサ君も追いついて、ようやく本番。

 私は現場の現状に目を背けるようにして、ただただ剣を振り回してモンスターを倒して行ったことしか覚えていない。


 がむしゃらだった。

 何度か死にそうな場面があったと記憶している。

 その度にツカサ君が助けてくれた事も。

 人間が焼ける匂いも。

 最後に連撃を浴びせた感触も。

 全部がぼんやりとした感覚として記憶に残った。

 多分、鮮明に思い出したら立ち直る事が出来ないと、勝手に判断して脳が封じ込んだんだと思う。

 私にはまだ早すぎる。とでも言うように。



 フロアマスターを倒したら、外からギルドの援軍がやって来た。

 正直遅いよぉ~って思ったけど、後処理も全てやってくれるらしい。

 ぼんやりとその様子を眺めていると、多分一緒に戦った冒険者の一人が私の元にやって来た。


「あの、ギルドセイバーが呼んでいるので、来て貰ってもよろしいでしょうか?」

「えっ?私をですか?」

「えぇ。フロアマスターを倒した者と会いたいと言っているので…」


 援軍改め後処理班のリーダーが私を呼んでいるらしい。

 フロアマスターを倒した者って、ツカサ君もだよね?

 そう思ったけど、この場にツカサ君は居ないので先にギルドセイバー?って人と会うことにした。


「疲れているところ済まないな。貴殿がフロアマスターの討伐者で間違いないか?まぁ、冒険者カードを見せて貰えれば分かる事だがな」

「は、はい」


 カッコいい女騎士。それが第一印象だった。

 重たそうな鎧を着込んでいて、最近分かるようになった雰囲気が只者ではない。

私はギルドセイバーさんに言われるがまま、冒険者カードを提示する。


「ふむ。討伐欄にゴブリンロード一体か…。これで間違いはない。被害が広がる前の討伐、感謝している。ありがとう」

「は、はい。でも、私一人の力じゃないんです!」

「ん?あぁ、それは勿論承知しているよ。でなければ、君は英雄と同じ強さだ」


 ギルドセイバーさんは私一人の功績でないとこを分かっているみたいだった。

 なんでも、あのレベルのモンスターはボスモンスターと呼ばれ、一人での討伐は想定してないとの事。

 だから私にもう一人仲間がいると言っても、すんなりと信じてくれたらしい。


 私はギルドセイバーさんにツカサ君の事を教えて、ツカサ君の下に向かった。

 初めはとぼけていたツカサ君だったけど、冒険者カードに全部表記されている事を知ると、自分がフロアマスターの討伐に関与している事を認めた。

 もう!!自分がやったことなんだから、自信を持ってくれたらいいのに!!


 私とツカサ君がフロアマスターも討伐者だと確認が取れると、ギルドセイバーさん――レインさんは私達にギルドまでの動向を求めてきた。

 ドラマの事件とかでもよくあるように、現場説明を聞きたいらしい。

 なんか非日常っぽい。

 この世界に召喚されてから全部が非日常だけど、今では日常になりつつある。

 このままツカサ君とゴールイン出来ないかな!?


 私とツカサ君はレインさんに連れられて転移魔法陣がある部屋に入って地上に帰って来た。

 もともと、この魔法陣で帰る予定だったけど、こんな帰還は想定していなかったよ。

 転移魔法陣は人と慣れによって感覚が違うらしく、私は数秒間目の焦点が合わなかった。

 レインさんも初めの頃は酔いが激しかったらしいが、ツカサ君は初めてなのに何事も無かった様に立っている。

 レインさんが言うには、本人の魔力量が関係しているらしい。

 ツカサ君の魔力量は、解明されていない転移魔法陣よりも多いとのこと。

 未知の物よりも強大だなんて!!ツカサ君の魔力は多いんだと改めて知る機会になった。

 私も多い方だとレインさんは言ってくれたけど、ツカサ君に比べたらまだまだだよ。


 如何やらレインさんは私とツカサ君の魔力量に興味を持ったそうだ。

 そこで、ギルドに帰ったら測って貰えることになった。

 初めに測った奴は中型機で、今度は大型機。

 要するに、もっと正確に図れるらしい。


 ギルドに帰って来ると、ギルドの応接室に通された。

 レインさんは少し何処かに行くと、体力の回復を促進する茶葉を使った飲み物を用意して帰って来る。

 まず初めにレインさんが同じティーポットから注がれた物を飲んで見せ、「毒は入っていない」と言った時、私は「毒ゅ!!?」って慌ててしまった。

 そっか、世界が違うから毒殺って非日常も起こりうるんだね……。なんか、物語の貴族みたい。

 でも、安全は確かめられている。私は一口飲んでみると、苦みがなくてスッキリとした味で美味しかった。

 何となくだけど、疲労が和らいだ気もする。これが体力の回復を促進する効果なのかな?ツカサ君に聞きたいけど、今はレインさんの前だから自重しないと……。


 飲み物も飲んで一息着いた所で、早速フロアマスターの話をする事になった。

 ツカサ君が私に任せる様に見てきたから、私が主に説明してツカサ君が時々補足を入れる。がむしゃらに行動していたけど、いざ振り返ってみるとあの行動は正しかったのか?ホントにそれで良かったの?と曖昧な記憶に疑問が出て来る。

 でも、私とツカサ君のお陰で助かった命があったのも現実だ。


 話聞きお終わったレインさんから、お礼を述べられて頭を下げられた時、私はもしもを捨てた。

 終わった事を悔やんでも仕方ない。それに、助かった命もあって良かった。その安堵が巡る。

 それに、小さく考えてみえると私は何もしていない。ただツカサ君に見捨てられたくなくて、後を追いかけていっただけのエゴ。

 そうレインさんに伝えると、ツカサ君の株が上がちゃった!!なんか嬉しい。

 更に、ツカサ君が時々使っている魔法の大半がオリジナル魔法だったとか……。自分で考えて魔法を作るのがいまいち分からなかったけど、レインさんから説明を受けてどの位凄い事なのか分かった気がする。

 滅多に扱えるはずもないのに、簡単に扱えるツカサ君って、もしかしてヒーローなのかな?

 ううん。もう、私の中ではヒーローだよ。白馬の王子様なんだ。


 フロアマスターの説明が終わると、続いては魔力量測定の時間。測定器を持ってきたメリーちゃんを加えて行った。

 まずは私から。本名なのはツカサ君だから、私が先の方がいいでしょ?

 二回目なのでやり方は知っているし、前の時の様に不安になることはない。前に見た時よりも一段と大きい水晶玉に手を置いて、身体から吸われて行く魔力を押し出して行く。

 結果、私はAランク+。Sランクまでは行かなかったけど、これでもかなりレアなランクだそうです。

 レインさんたちからは驚愕といった表情で私を羨ましがって来る。でも、魔力量が多くても魔法が使えなきゃ意味が無いんだよね……。


 自分でこの魔力の運用方でも調べてみようかな?なんて考えていると、メリーちゃんとレインさんの話しは終わった。

 今度はツカサ君の番!!だけど、ツカサ君はこんな短時間でも本を読んでいた。こんな時なのに、よく本を読めるね……。

 レインさんがツカサ君に興味を持っている!!ツカサ君は私のだからあげないからね!!何を思っているのだろうか?レインさんは単に魔力量がSランクに近いツカサ君に興味を持っているだけなのに……。

 それでも、好きな人が他の女の人の興味を惹いているのはいい顔は出来ない。嫉妬だ。


 ツカサ君の魔力測定も終わった。案の定Sランクだ。

 私なんかよりも遥かに凄い力を持っている。驚いて口が閉まらないレインさんを見ると、私まで誇らしくなった。

 更に、今回のフロアマスター討伐の功績から、冒険者ランクがCランクにランクアップするらしい。上から四番目。早いようであっという間感覚だ。

 そう言えば、冒険者ランクが上がるのは嬉しいけど、ツカサ君は最終的に何処まで上を目指すつもりなのかな?

 こうして、初めてのダンジョン攻略は終わった。色々起こってとても大変な二日間だったよ。




 ダンジョンでフロアマスターを倒してからというもの、なんか他の冒険者に注目されるようになった。

 ツカサ君ち一緒にギルドに顔を出すと、ギルド内にいる人から視線を受ける。ひそひそと私達の話をしているのも聞こえた。


「なぁ聞いたか。あの二人が最近噂のコンビだぜ」

「あんなちっこいのがか?嘘だろ」

「それが本当なんだって。知り合いに当事者が居てよ、確かにあの二人がフロアマスターを討伐したらしいぞ」

「フロアマスターの討伐って言っても、十階層だろ?ある程度の奴なら誰でも倒せるレベルじゃねぇか」

「いやいや。じゃあお前はゴブリンロードを二人で倒せって言われたら倒せるのかよ?」

「ゴブリンロードを立った二人で?バカ言え!!Bランク冒険者でもギリギリだぞ!!」

「しかも、ただのゴブリンロードじゃなかったらしいぞ。通常のゴブリンロードよりも強かったらしく、魔法使いが放った魔法を槍で跳ね返してきたとか。死者も数名出たらしい」

「そんなバケモノをあのチビが………」


 と言った感じな内容が、もうそこら中から!!

 私は陸上で目立つ事が多かったから多少慣れているものの、ツカサ君は物凄く居心地が悪そう。

 ギルドでもさっさと依頼を選んで出るようにしているし……。ホントに嫌そうな顔をしていた。

 ようやく注目が治まって来たのは二週間が経った頃。あの後特に目立った功績を立てなかったから、人の目が離れて行ったのかな?






 ある日のことだ。

 何時ものようにギルドに仕事を探しに行くと、受付カウンターに座っているはずのメリーちゃんが出迎えてくれる。

 私はメリーちゃんに挨拶を返して、ちょっとしたおしゃべりに夢中になった。

 私からじゃなくて、メリーちゃんが話題を提供してくれて、私は返すって感じだからね!!

 私は別に、メリーちゃんの仕事の邪魔をしている訳じゃない!!


 私もついつい夢中になってしまい、辞め時が見つからなかった時、ツカサ君が横から会話に参加してきた。

 と言っても、待つのが面倒になったんだと思う。

 内容も良さそうな依頼が無いか?って事だったし。

 メリーちゃんは即座に頭を切り替えてツカサ君の質問に対して答える。

 仕事に関しては優秀なんだけどね。普段の態度からポンコツに見えちゃうけどね。


 仕事は優秀なメリーちゃんは直ぐに依頼をピックアップして教えてくれる。

 色々あったけど、『ワイバーンの卵を取って来て!!」というものになった。

 メリーちゃんが言うには、Bランク依頼。今まででも一番危険な依頼を私が無理を言って受けた。

 ここまで来たら、何処まで上に行けるかどうか確かめたいって気持ちと、皆が受けない様な依頼を受けて、ツカサ君は凄いんだぞ!!と知らしめたい気持ちが混ざり合っている。

 


 だから、この依頼受けたツカサ君がまた注目されるんだ!!

 私が好きな人はこんなにも強いんだ!!って自分のエゴをツカサ君に押しつけていたとは知らなかった。

 それがあんなことになった原因。

 もっと早く気づけば良かったのにね。






 なんとか無事に依頼を完遂した後、私はツカサ君に振られてしまった。



ここまで長くなるつもりはなかったんです。次回でホノカ視点は終了。と一章完結まで数話。予定!!

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