表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/129

7話「ゲームのような視点」



 俺が意識を取り戻した時に思ったのは、ゲーム画面を付けたみたいだな、だった。



 どう表せばいいんだろうか?

 まるで、ロード中のような感覚。

 いやそれよりも、何でそう感じたんだ?



 意識はある程度覚醒したが、夢の最後の方みたいに目はまだ閉じたままだ。

 やはり俺の思い違いなのか?とフワフワとした思考の中で俺は何でそう思ったのか考える。

 だけど、直ぐにそんな思いは吹き飛んでしまう。


 柔らかい。

 ベットやソファーなどとは違った感触を感じる。

 初めての様で、でも知っているその感覚を俺は思い出せずにいた。

 しかし、意識が覚醒したにも関わらずこの状態を続けるのは時間の無駄である。

 そこまで考えた所で俺はようやく目を開けた。



「…意識は戻った?」



 驚かなかったのは俺が寝起きだからか、それとも表情筋が死んでいるからか。

 内心、無茶苦茶驚いている。

 何故なら、目を開けると彫刻のような顔をした女性が俺を見下ろしていたんだぜ。

 そして小説の中の知識から導き出されるこの態勢は……。


 見知らぬ人に膝枕されている態勢だった。

 自分がどういう状態に置かされているか分かった俺は、出来るだけ平常心を装いながら起き上がる。



 女性に膝枕されるなんて母さん以外初めてだぞ。

 あ、誤解を招かないで貰いたい。

 小さい時に耳かきをしてもらった事を言っているのだ。

 って誰に説明してんだろ?



 兎に角、名残惜し…くもない俺はサッサと起き上がる。

 すると、タイミングを見計らったかのように今日よく聞いた声が聞こえた。



「膝枕。……良かったね」



 あの、柳瀬さん?

 どうしてそんなにも不機嫌でいらっしゃるのですか?

 まさか、嫉妬しているとか?

 ……無いわ。

 自分で言うのもなんだけど無いわ。

 スクールカースト上位の柳瀬さんが俺の為に嫉妬?

 ありえんだろ。

 というか、俺はどんな反応したらいいのだろうか?



 柳瀬さんの意外な一言に俺はどう返そうかと考えていると、不思議なモノを見つけた。

 それはゲームとかによくあるカーソルだった。

 柳瀬さんの頭上に浮いている。



 あれはなんだ?

 っ!?変化した?



 俺の意識がカーソルを捉えた瞬間、カーソルは変化して『ヤナギセ ホノカ』と表示された。

 何故かゲームのようなモノが見える様になってしまった俺は、柳瀬さんへの返答そっちのけで原因を考える。



 本当にゲームみたいだな。

 これは冒険者登録をした結果か?

 ……だとしたら、柳瀬さんが登録を終了後に驚くはず。

 俺よりも感情豊でこう言った事に不慣れなはずだし。

 俺が倒れたことに何か原因があるのか?

 というか、柳瀬さんは何で顔を赤くしているんだ?

 さっきまであんなにも不機嫌そうだったのに。

 何を考えているんだろう?



 そこまで考えた所で、又しても俺に元気の良い声がかかった。



「あっ!えーっと『エキバ ツカサ』さん?お体の方は大丈夫ですか!?」



 声の方を向くとメリーさんがお盆を持って部屋のドアを開けていた。

 ここで俺は、ちょっと豪華っぽい応接室に移動している事に気が付く。

 俺はそんな部屋にいくつかある一つのソファー上に寝転がされていたらしい。



 そうか、倒れて運ばれて来たのか。

 って何で俺の名前を知ってるんだ。

 柳瀬さんが教えたのか?



 そう考えつつ、どうなったか聞いてみる。

 勿論、メリーさんの頭上にもカーソルがあって、今では『メリー』と表示されていた。

 家名はないらしいことに少しだけほっとする。



「俺はどうなったんですか?」


「冒険者登録中に倒れたものですから、ビックリしましたよ!こんな事、前例にないので困り果てていた所をこちらの方に助けて頂いたのです!!」



 メリーさんが俺と同じソファーに座っている女性に向かって手の平を向けた。

 俺も隣を向くと視線の先には、起きてから真っ先に聞こえた声の女性が座っている。

 柳瀬さんに声をかけられたり、視界にカーソルが見える様になったり、と色々と起こり過ぎててんぱっていたからか、完全にこの人の存在を忘れていた。

 座っている位置や意識が覚醒した時に覗き込んできた顔が同じ、といったことから俺に膝を提供していたのは彼女で間違いない。

 俺はお礼を申し上げようと、体を女性に向けて頭を下げる。



「助けて頂いてありがとうございます。もしよろしければお礼をしたいのですが」


「……礼には及ばないわ。必要だったことだから助けただけ」



 俺が言った言葉に彼女は何処か機械的な声で返してくる。

 礼儀に則って社交例じみた声でお礼を…、と申し上げるが、その女性は言葉だけ受け取ってくれた。

 必要だったからと言う言葉は疑問に思うところもあるが、俺としては手持ちがなかったので断ってくれたことに安堵する。



 良かったぁ。

 最後にお礼をしたいって言ったけど、文無しだったんだよな。

 断ってくれてありがとうございます。



 お礼の為に下げていた頭を上げると、俺は初めて助けて頂いた女性の顔以外初めて注目することが出来た。

 フード付きの白いマントを羽織っている。

 異世界だから驚かないが、マントが透けて下に着ている服が見えていた。

 そういう仕様なのか?俺の目がおかしいのか?

 どちらにせよ、明らかにただ者じゃないってことだけが分かる。

 貴族のお嬢様とか、凄腕魔法使いとかそういうテンプレだろう。

 改めて見る顔はロングの白髪に綺麗な肌、恐ろしく整っているのが美観要素皆無な俺でも分かる。



 ……どこかで見たことのある雰囲気なんだよな。

 何処でだっけなぁ?

 最近だった気がするんだけど、思い出せないや。

 ……よし、考えるのは後にしようか。



 気がかりになった部分があったが、めんどくさいから後回しにすると、俺は名前の知らない彼女の頭上に注目した。

 これまで経験上カーソルがあるはずで、そこから名前を知ろうと考えたからだ。

 と言っても前例は二回しかないし、やってることは犯罪寄りの行動。

 俺の視線が彼女の頭上に移動すると例外なくカーソルがあり、俺が彼女のカーソルを捉えた途端、カーソルは変化する。



 取り敢えず、名前は分かるぞ。

 聞いてもいないのに名前はが分かるとか、相手からしたら不気味だが、仕方が無い。

 ゲームだって聞いてもいないのに名前が表示されていたりしているのと同じことだ。



 そう考えた俺だったが、変化したカーソルを見て俺は唖然とした。

 なぜなら、『???』と表示されていたからだ。



 は!?

 名前が表示されないだと。

 名前がない、隠蔽している、二つの可能性が思い浮かぶがどれもしっくりこない。

 まさか、インテロゲーションマーク×3さん……なわけないよなぁ。



 俺はそこで思い出した。

 そうか俺は彼女の名前を聞いてないんだった。

 初対面だけに当たり前だけどね。

 このゲームのような視点も、完全にゲームではなかったという事か。



 しかし、俺の頭の中をある可能性が過った。

 主人公が名前を知っていなければ表示されない、もしくはゲームの初期に会った終盤に重要な人物は名前が『???』と表示されるあれだ。


 恐らくだが、俺の視界に映っているカーソルはゲームの性能に基づいているものなんだと思う。

 どうして俺だけそういう風に見える様になったのか?は今は置いておこう。

 後で、一人になった時にでも時間つぶしに考えてみよう。



「また、見とれてるっ……!!」


「確かに美人さんですが、私たちもいるんですよ~!!」



 長々と無言でいた俺に柳瀬さんが服の裾を引っ張り、メリーさんは手を目の前で振ってくる。

 脳内独り言を繰り返していた俺には何を言っていたのかは分からなかったが、裾を引っ張られ目の前で手を振られていると無視できなかった。

 というか、無視したら後が怖そうだったから。

 それほど、柳瀬さんの手から何かを感じた。



「な、何?」


「…ふんっ!」



 何か話があるのか柳瀬さんに聞き返すが、柳瀬さんは頬を膨らませてそっぽを向いた。

 何の用事だったんだろう?と疑問に思うが、隣にいるメリーさんのニヤけ面に少しだけイラつく。

 気持ち悪いんで止めてもらえないですか。


 俺の思考が完全に現実へと戻った時、名前の知らない恩人がソファから立ち上がった。

 そしてそのままドアへと向かい部屋を出ていこうとして、ドアノブに触れるとこちらに振り返り別れの挨拶を述べてくる。


「貴方が無事に目を覚ましたみたいだから、もう行くわ」


「あの、ホントにありがとうございました」



 立ち去ろうとする恩人に俺はもう一度頭を下げた。

 すると、恩人は意味深な目で俺、次に柳瀬さん、最後にメリーさんを見ると静かに部屋を出て行ってしまう。

 彼女は何者だったのだろうか?

 俺は何となく、彼女にまた会える様な気がしてたまらなかった。






 そんな何気ない思いが実現したのは、俺が彼女の事を忘れる程時間が経った未来の事だった。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ