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68話「柳瀬穂香の想い」

遅くなって申し訳ありません。筆が乗って長くなりました。


 初めに彼を認識したのは何時だっただろうか?


 中学に入学してから二年。三年生ともなれば、自分と同学年の顔くらい覚えるものだ。

 陸上の練習に忙しい日々を送っていたあの頃。確か、三年生のクラス替えで初めて同じクラスになったのが初めての認識。


「易波司。趣味は読書です」


 三年生になっても毎年恒例の自己紹介をしていた時、私は初めて名前を知った。

 今まで顔を見た事はあったけど、名前は聞いたことがなかったから。


 他の人みたいにつらつらと喋らない。名前と趣味だけの簡単でありきたりな自己紹介。

 この時の私の第一印象は「暗そうな人だなぁ」だった。でも、何処か普通の人とは雰囲気が違った。



 彼は――易波君は読書が趣味と言った通り、休み時間も読書しかしていない。

 時おり話しかけるクラスメイトがいるが、質問や話しかけられた事に受け答えするだけで、全然仲良くしようとも思わない様子だった。


 ずっと読書。活字が苦手な私は、あんなにも分厚い本は読めない。

 そんな本をただただ読みふける。読むスピードも早い。

 チラッと耳にした話では数回も同じ本を読んでいるらしい。その読書に対する思いだけは、尊敬できた。

 あれだと国語のテストとかも点数が良いんだろうな~。




 初めて言葉を交わしたのは、新学期が始まって二、三日経った頃だった。

 友達であり、同じ部活動の仲間である愛ちゃんの勧めで、学級委員に立候補した。

 私は票を集める為に積極的に行動をした。その中にも易波君もいる。


「ねぇ、易波。ちょっといい?」

「――何?」


 愛ちゃんがきっかけを作ってくれた。

 何時も一人でいる易波君は、同年代の女の子にも慣れていないのか、愛ちゃんと私に囲まれているのを驚いている。

 情けない……と思ってしまう。私と正反対で仲良くはなれそうにないなぁ。

 それでも票を得るためにアピールする。


「穂香が学級委員に立候補するから、票貰ってもいい?」

「あ、あの。お願い……します……」


 愛ちゃんに任せっぱなしではダメだ!私も言わなくては……って思ったんだけど、やっぱりダメだった。

 愛ちゃんみたいに初対面の人でもグイグイ行けないや。


 それでも、私は出来るだけ笑顔を作って精一杯のお願いする。

 私も一応女子中学生だ。男の子にこんな態度を見せれば、落ちてくれることくらい知っている。

 でもなんなの!!!?頬を赤らめて反応するどころか無表情!!視線は本に行っていて、早く読書の続きが見たいことで頭が一杯なのが丸わかりなの!!


 自慢するつもりはないけど、私は同学年の中でも可愛い方だと自覚している。

 そんな私がお願いしているのに、無表情はちょっと傷つくよ……。


 それでも、「……分かった」と返事してもらえただけマシだっただろうか。

 話しかけたら反応はしてくれると分かった、初めての会話だった。向こうは覚えているか分からないけど、私は一生忘れない出来事だ。



 初めての会話の成果も虚しく、学級委員の選挙には負けしまった。

 負けたのは悔しいけど、元々愛ちゃんの勧めで立候補しただけだからそれほどダメージはなかった。

 ただ、愛ちゃんがこっそり見てくれた事だが、易波君は約束通り私に票を入れてくれたみたいだった。

 約束は守れる人なのかな?そう思った。






 あれから二ヶ月程経った。クラスにも馴染んで来て、愛ちゃん以外にもクラスの友達は出来た。

 そんな頃のお話し。


 何時も通り登校していると、偶々今日は朝練が無い事に気が付いた。

 うぅ~。急に先生が休み入れるからドジちゃったよ~。早く来すぎて教室開いてるかな?


 この学校は来た人が教室を開ける制度だ。みんな面倒がって誰も職員室に取りにいかず、よく廊下が混雑している様子を見た事があった。

 そう言えば、私のクラスはそんなこと一度も見た事が無いような……。



 朝練が始まる前の時間だからか、学校には人が少ない。

 朝練が無いのは陸上部だけなので、ほかの部活動の人たちがチラホラ見えるくらいだ。

 こんな早い時間、教室は絶対開いてないだろうな。と思いつつ、私は下駄箱で履きに履き替えて近くの教室を覗いてみる。

 シーンとしていて、学校としては珍しい廊下。すれ違う教室は全部しまっていて、誰もいない。よ、夜じゃないだけマシだから!


 朝のホームルームが始まるまでまだ一時間もあるこの時間帯。一旦家に帰っても良かったけど、それだとまたすぐに家を出ないとダメ。

 だから、今日は私が教室の鍵を開けるつもりでいたんだけど………。


「失礼します。教室の鍵を取りに来ました………ってあれ?ない?」

「あ、柳瀬さんおはよう。どうかしたのかい?」


 職員室で教室の鍵を探していると、他のクラスの鍵はある中で、私のクラスの教室の鍵だけがポツンとなかった。

 偶々居合わせた先生に聞いてみることにする。


「おはようございます。 あの、私のクラスの鍵が無いんですけど………」

「鍵が無い?…あぁ、あそこのクラスは何時も早いんだ。少し前に取りに来た生徒がいるよ。確かに名前は――」

「そ、そうですか!無くなちゃったのか心配しました。では、失礼します」


 私は先生に頭を下げて職員室を退出した。そのまま、トボトボと教室に向かって歩く。

 はぁ~。職員室に行って損した。先に教室を確認すれば良かったよ。でも、誰がこんな早い時間に来てるんだろう?


 閉まっている教室が並ぶ中、私の教室の扉だけが開いていた。来た人が開けて行くのだから、こんな風にポツンと一つだけ開いているのも不思議ではない。

 不思議ではないんだけど………ちょっとホラーっぽいよ!


 恐る恐る近づいて教室内を覗き込む。

 こんな朝早くに毎日登校する人って誰なんだろうか?好奇心だ。


 そこには、一人の男子生徒が本のページをめくっていた。易波君だ。

 誰もいない静かな教室で一人読書に浸る彼の姿は、何故か私の心を上げしく揺さぶる。

 しかも、誰もいないのが気を緩ませているのか、顔は何時もの無表情では無くて、楽しそうに頬を緩ませていた。


 ドキンッと心臓が大きく動いた気がする。

 一度大きく動いた心臓は絶え間なく動き続けている。心臓だから当たり前のことなんだけど、自分でも音が聞こえるくら大きく、そして早鐘を打っている。

 なにこれ。私はどうなっているの?


 当時の私にはその気持ちがよく分からなかった。

 でも、今なら分かる。この時初めて、易波君を意識始めたのだ。




 その後、何時までもドアの前で止まている訳にも行かず、意を決して教室に入った。

 教室に入っても、易波君は本から顔を上げない。でも、一瞬だけ目線がこっちに向いたのは気のせいかな?

 気まずい。早い人でも後三十分は来ないであろう時間帯。この微妙な空間を如何にかして!!?


 というか、挨拶とかした方が良いのかな?でも、毎朝クラス全員に挨拶している訳でもないし……。

 ここで「おはよう」と声をかけたら、変だよね?いや、別にこれが仲のいい人だったらおかしくはないのだろうけど……。

 

 私はカバンから荷物を取り出しながら考える。

 この後どうしよう?いつもなら朝練があって、ホームルームギリギリだから何も考えなくても時間は経つけど……。

 易波君みたいに本を読む?私達の学校には朝読書の時間というものがあって、皆何かしらの本を持ってきているか図書館から借りている。

 私もこの期に読んじゃおうかな?静かだし、集中して読めそう。あ、易波君はこれを狙ってわざわざこんな早い時間から学校に登校しているのかな?それともお家の関係?


 うぅ~~。愛ちゃんでも誰でも良いから早く登校してきてよぉ~。

 結局、朝読書用の本を取り出してみたものの、教室に男の子と二人っきりと言う状況に緊張して一ページも内容が頭に入って来なかった。






 あの日の後、私は朝練がない時は出来るだけ早く登校して、一人で読書を楽しんでいる易波君を眺めると言う、自分でも何をしているか分からない日が週に一回ほど追加された。

 勿論それ以外の時でも、何かと易波君に視線が向いてしまう。

 モヤモヤする。部活で振り切る様に走るけど、タイムも伸びないし、気持ちも晴れない。



「ほ~のかっ!」

「はっ!?ど、どうしたの愛ちゃん?」

「お~?最近誰かを視すぎなきがするけど……一体だ~れを見ていたのかな?」


 こんな事をしていたら、学校では何時も一緒にいる愛ちゃんに感付かれるのは当然。

 部活が終わった帰り道にいきなり話を振られた。

 自分の気持ちが分からない私は挙動不審になってしまった。


「だ、誰でもないよ?それよりも修学旅行の班なんだけど……」

「ほうほう、その人と一緒になりたいから協力しろと……」

「うんそうだよ……って違うよ!!」


 何か誘導された気がする。

 愛ちゃんにはめられるようにして、私の気持ちは暴露されてしまった。

 バレたなら仕方ない。私は愛ちゃんに相談する。最近、目線で追ってしまう。視界に入るだけで胸がドキドキしてしまう等のことを。


「それは、恋だね!!」

「こ、恋!?」

「うん。絶対恋しているって。まさか陸上一筋だった穂香に、気になる人が現れるなんて……何が起きるか分からないものだねぇ~。で、誰なの?その人」

「えっ!?あぅぅ~~」


 こ、恋だなんて………でも確かにこの気持ちは「好き」という気持ちが大きくなったものだと思う。

 私は愛ちゃんに言われて初めて気が付いた。

 愛ちゃんは私にニヤニヤとした表情で問い詰めてくる。私は恥ずかしくて答えられない。多分、顔が真っ赤だ。


「ほらほら~、恥ずかしがってないで教えなさいよ」

「あぁ~、―――君……」

「何々??聞こえないからも一回!今度は耳を傾けてあげるからさ」


 恥ずかし過ぎて、どうやらいつもよりも声が小さかったらしい。

 愛ちゃんは私を気遣ってか、今度は近寄って耳を向けてくれる。それでも恥ずかしいものは恥ずかしい。

 ここで逃げる事もできる。自慢する気はないけど、愛ちゃんよりも私の方が走るのが速い。荷物を持っているけど逃げ切れるはず。

 でも、明日も明後日も今後ず~っと私が教えるまで聞いてくるに違いない!愛ちゃんはこんな事で私が怒らないと分かっているからか、絶対に諦めない。ずっと一緒だった親友だもんね……。

 私は意を決して愛ちゃんに耳打ちする。


「――――易波司君……」

「……まじで!!?あんな奴とは言わないけど意外!!何で好きになったの?」

「あんな奴って言わないで!!!易波君は毎日教室の鍵を開けてくれるし、一人で本を読んでいる時の普段見せない表情が最高なの!!私と違って知的だもん。成績は良くないみたいだけど、テストに出ないような豆知識はすごいんだよ!!」


 はっ!と気が付いた時には遅かった。

 愛ちゃんに易波君を侮辱されていると思ったら私は、易波君のいいところを声を上げて語っていた。

 こ、こんな帰り道で大声出して好きな人の話なんて……うぅ~~恥ずかしい。


「分かった!分かったから落ち着いて。別に穂香の好きな人をどうこう言うつもりはないよ。でも、そんなに知ってるなんて……」

「知ってるだなんてそんな……。まだよく知らないよ。私が知っているのは学校でのことだけで、家ではどんな感じなのか知らないし、話したことだってほとんどないから本当の性格だって分かんないよ。とりあえず、易波君の学校での行動パターンだけしか知らないよ?」

「だけしかってあんた……。それかなりストーカーじみているからね?」


 ひ、酷い言われようだ!!

 私はストーカーなんかしてないからね!?ただちょっと易波君の事を知りたかっただけだよ!!

 さっきまで気づいてなかったけど、好きな人の事を知りたいと思うのは当然のことだよね!

 え!?愛ちゃん?その様な目を辞めて!!




 それから進展は一向に無かった。


 六月には修学旅行があったけど、漫画の様に告白されたり運良く二人っきりになったりなどは起こらない。

 ただ、席替えで班行動で一緒になっただけでも良しとする。

 漫画のご当地キーホルダーに目がないってことや、初めて見る私服姿が眼福でした!


 夏休みも部活動で忙しかったし、出かけ先で出会うなんて事もない。

 易波君は帰宅部なので、多分家に引きこもっているんだと思う。


 体育祭も私は楽しめたけど、易波君は運動が苦手で楽しくはなさそう。

 自分が出る競技以外は寝てたし……。


 文化祭。これもウチの学校は、基本的に体育館で他のクラスの劇か合唱を眺めるだけ。

 一日中出し物を見て回るなんて事はない。あっても昼休憩を利用した一時間だけとかだ。

 うん。恋する乙女には少しばかり残酷な現実世界だね。


 クリスマス。これも一大イベントなんだけど、引退試合の駅伝があるので殆ど何も出来なかった。

 バレンタインデー。受験で忙しくてそれどころじゃなかった。せめて去年だったなら渡せたのに。

 こうして、結局何もできずに一年間が終わってしまったのだ。


 卒業式の日。クラスの集合写真を撮った後、愛ちゃんに勇気付けられるように話していると、易波君はさっさと帰ってしまった。

 待っていてはダメだと言うことが分かり切っていたので、こっちから告白しようとしていたのにこれもダメ。

 私はなんてタイミングが悪いのだろうか。神様という存在がないのなら、私は易波君と付き合ってはダメだと言ってるのだろうか?

 もっと早く決心がついて、自分からグイグイ言いよっておけば良かった。






 高校入学してもう少しで一年が経つ。

 私はまだ易波君を諦めきれなった。


 高校では私に告白してくる人も出て来た。

 でも、易波君をみたいな人は現れない。どうしてか、私に告白して来るのはクラスでも目立つ人ばかりだ。

 もっとこう、文学青年っていうような人はやっぱり近寄ってこない。クラスにも似たような人はいるけど、オタクで正直言って気持ち悪い。

 易波君のようにクールじゃない!!もしかしたら別側面もあるかもしれないと、少し観察してみたけど、易波君のようなギャップはなかった。


 でも!!こんな私に朗報が入り込んだ!!

 高校生になってから出かける可動範囲が増えたお陰か、たまたま入ったお店で易波君を見つけたのだ!!

 コンビニの制服を着ているので、ここで働いているのかな?

 家からちょっと遠いけど、大丈夫だ!!全然通える距離だね!!


 はぁ~学校の制服以外の姿もカッコイイ!!

 というか、普通に大きな声出せるんだ。

 初めて知った。

 一緒に入っている女の子とは普通に話しているし………。

 うぅ~~妬けちゃうよ~!!




 で、時間が経ってバレンタインデーの前日。

 今年こそは!!と意気込んでいたのがバレた。


「ね、穂香。最近ソワソワし過ぎじゃない?」

「そ、そんなことない、よ?」

「あ~言葉がぎこちない~!!」

「まさか男!!」

「いやいや、万年陸上一筋の穂香に限ってそんなこと……」

「これは中学の時と同じ言動……やっと易波を忘れたか穂香よ」

「あ、愛ちゃん!!!??」


 また愛ちゃんにバレた。

 しかも今回は沢山の友達の前で………。

 愛ちゃん面白がってないよね!?


「愛、それはどういう事よ!!」

「私達彼氏が出来ない同盟はどうしたの!!」

「中学の時なんだけど……」

「ま、待って!!勝手に話さないでよぉ!!」


 全部愛ちゃんに話された。

 は、恥ずかしくて死にそう。

 でも、こんな事に負けない!!!

 今年こそ私は易波君と…………。






「駄目だった………」


 と思っていた時期が私にもありました。運命の神様はホントにひどいと思う。


 時間は夜遅く。家に帰ってきた私は、服も着替えずにベットにダイブ。

 そのまま、声を出さずに泣いた。


 何があったかというと、バレンタインデー当日である今日。手作りは時間が無かったし、うまく作れないので、いいところで買ったチョコを持って易波君が働いているコンビニで待ち伏せしていた。

 易波君が今日働いている事は既に確認済み、部活が終わって家に帰らずに直行。そのまま易波君の勤務が終わるまで待つ。

 待つつもりだった。

 後30分で運命の時間がやって来るという時、スマートフォンが鳴った。お父さんからだ。

 内容は、夜遅くまで何をやっている。早く家に帰って来なさい。とのこと。

 あ、後30分なのに!!如何にかして、もう少し待ってもらえる様に説得しようとしたが、逆効果でお迎えが来てしまった。

 そのまま連行されたのは、後20分の時間だった。


 悔しくて涙が溢れて止まらない。

 折角準備してきたのに。恥ずかしいけど、お母さんに話しておけば良かった。

 毛布を易波君だと思って抱きしめる。顔を押しつけて声を押し殺す。


 でも、くよくよしていては駄目だ。と、私は気持ちを切り替える。

 イベントに格好付けて告白しようとしていたけど、このまま一生チャンスが訪れないよりは、普通の日でも良いから告白する。

 私はそう決意した。


 でも、今は泣いてもいいよね。




 朝が来た。昨日はあのまま寝てしまったらしい。

 制服がしわくちゃだ。せめて着替えて寝れば良かったと後悔する。

 時計を見るとまだ五時前。朝練に行く前にシャワーを浴びることが出来るギリギリの時間だ。

 私は急いでベットから起き上がった。



「穂香今日はどうする?」

「ん~?今日は休みだから歩いて帰るつもりだけど……」

「じゃあ一緒に帰ろ」

「あ!私も!!」

「うん。良いよ」


 学校が終わって帰りの支度をしていると、愛ちゃんともう一人の友達――泉ちゃんに帰りを誘われた。

 多分、このままどこかに連れて行かれる。ショッピングモールやカラオケ店などに。


「で、昨日はどうだったわけよ?」

「おっ!やっぱり告白したわけ?」


 歩いている途中、やっぱりこの話題に行きついてしまう。

 朝一で聞いてこなかったのは、他の人の話題が沢山あったお陰だと思う。

 いいよね。私の耳にも沢山聞こえてきたよ!!付き合えた人おめでとう!!!


「えーっと、告白しようとしたんだけど、門限が来ちゃってお父さんに強制連行させられちゃった」

「………えっと、それは………」

「アハハハハ!!ホノカまた駄目だったの?ホント運がないよね」


 告白すら出来なかったと告げると、泉ちゃんが歯切れが割るそうにするものの、わたしの事をよく知る愛ちゃんが笑った。

 うん。泉ちゃんの様に微妙な反応をされるよりも、愛ちゃんの様に笑われた方がムカつく。当然だ。


「酷いよ!!愛ちゃん!!」

「あはは、ごめんごめん。………ごめんって言ってるでしょう!!あんた地味に力強いんだから!!」

「あーはいはい。二人とも注目集めているからやめようね~。――――そのまま結婚しちまえばいいのに」


 愛ちゃんが酷すぎて突っかかってしまった。だけどね、地味に力強いって女の子にどうよ!?自覚してるけど………。

 で、泉ちゃん?私と愛ちゃんが結婚ってどういう意味なのかな?


 という感じで、私は愛ちゃんと泉ちゃんと楽しく下校していた。

 愛ちゃんは当然として、泉ちゃんも方向が一緒だからね。



 で、その途中の事だ。

 何と無くピンと来る後ろ姿を見つけた。あれは易波君だ!!


「ん?ホノカ何処見てるの?」

「…………………………」

「駄目だこりゃ。聞こえてないや。えーと、穂香の視線の先はっと……あれは……易波?」

「え?誰それ?私の知らない人。もしかして穂香の好きな人!!?」

「そだねー。お~い!帰って来い穂香~」


 愛ちゃんが何か言っている気がするけど、私の耳には届かない。

 易波君を見つけた瞬間から、私の五感は全て易波君に全力を捧げている。


 ヤバい。こんな日に限って会うなんて。

 というか、易波君の下校姿なんて初めて見たかも。

 やっぱり歩きながら本を読むんだ。危ないよ。



 信号待ち時間も反対車線にいる易波君を見てしまう。

 見入ってしまうから、真っ先に気がついてしまった。そう、信号待ちの易波君に、トラックが突っ込んでることに………ッ!!


「逃げて~~~ッ!!!」

「ちょっ!!穂香!!!?

「あんたまでそっちに行ったら!!?」


 咄嗟のことだった。本を読んでいて、周囲の状況を把握していない易波君に向かって叫ぶと同時に車道に飛び出してしまったのは。

 愛ちゃんと泉ちゃんが私を引き留めようとしてくれているが、もう遅い。私は車道に飛び出してしまっている。



 そして私の視界に、易波君がトラックに轢かれる光景が目に入った。

 と同時に、強い衝撃が私を襲った。




 覚えているのはここまで。

 無意識のうちに願ったのは、


 易波君と一緒に居たいという場違いな願い。



もう少しホノカ視点が続きます。

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