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67話「ホントの気持ち」


 今日朝から外に出て買い物をしたからだとは思わない。ましてや、買い物の後にギルドに行ってみたからだとも思わない。

 何故ならばこの世界には必然というものがあり、全ての出来事は運命で繋がっているからだ。この世界は異世界であり、神様という存在が実際に現れる可能性も否定できない世界だ。運命と名の法則が働いていても何の疑問もない。




 夜遅くまで本を読んている時だった。ベットや椅子に座って体制を変えつつ数時間、数冊目の本を読んでいると、ドアをコンコンとノックされた。夜遅くなので控えめだ。

 俺の部屋を訪れる人などほとんどいない。大抵は柳瀬さんだったけど、最近は顔も合わせることすら少ないので有り得ないだろう。というか、マップ機能で廊下に誰が立っているか分かるけど。


「はい、何ですか?」

「良かった。まだ起きていらして……夜分遅くに失礼いたしますね」


 俺の部屋の前に居たのはこの宿のオーナーさんだった。落ち着いているように見えて、それでも慌てている様子を隠せていない。

 何か不味い事でもあったのだろうか?火事とか?あ、だったら俺だけじゃななくて全員たたき起こすよな。だったらなんだろうか?

 とりあえず、オーナーさんを部屋に入れる。廊下で立ちっぱなしも何だろうから。


「えっと……どうぞ」

「ありがとうございます。 少し込み入った話なのですが、ホノカさんは帰ってませんよね?」

「柳瀬さんが?いいえ、今日は見てないですけど………」


 話しぶりからするに、柳瀬さんが宿に帰ってないらしい。どうして俺に?って思ったが、少し前までは一緒に行動をしていたから当然だろう。


「そうですか……冒険職についているので、こう言った事が多々起きるのは覚悟してますが、やっぱり帰って来ないと心配で……」

「確か、今日はダンジョンに潜っているらしいですよ。何かしら問題が起こって帰るのが遅れているのかもしれません」

「そうですよね、そういったこともありますよね。……それれだとしても心配です………」


 宿に帰っていない。それだけなら俺にも確認は可能だ。

 コンビを解消したはずなのに、俺のゲームの様な視界にはまだ柳瀬さんのHPゲージが見える。ということは、仲間判定されており、位置の特定可能である。

 マップ機能を最大限まで縮小させ、大まかな位置を特定。ダンジョンにいることは分かった。これ以上だと俺自身がダンジョンに潜る必要がある。

 柳瀬さんのHPゲージも全快までとはいかないが、八割は残っているので命の別状はないはず。何かしらの要因で帰れないと考えた方がいい。


「とりあえず明日まで待ってみてはどうでしょうか?今日はもう遅いですし……」

「そうですね。付き合って頂きありがとうございます。それではおやすみなさい」


 ひとまずオーナーさんには待つように言った。宿をしているということは、冒険者が依頼に出て帰って来ないということもありうる。その辺の覚悟も持ち合わせているだろし、何度も経験して来たことだろう。

 それでも、宿に泊まているお客様一人一人の帰りを心配しているのは、中々できないことだ。俺にはその考えかたと感情が理解し難いが、宿屋の経営者としては正しい考え方だとは理解できる。


 一度聞いてしまえば、柳瀬さんの事が頭から離れられなくなる。俺は本の続きを読もうとしたが、内容が中々入って来ない。

 もう関係を断ち切ったはずなのに、色々と考えてしまう。例えば、何故戻れないのだろうか?だとか、モンスターとの戦闘が予想外に疲労してしまった?や思い切って深い層に行ってしまったのか?だとかだ。

 そもそも、ダンジョン攻略に行くときは数日間の計画を立てていくはずだ。この宿は仕事に出るときに帰って来るのか?帰って来るとしたら予定は何時なのか?を記帳するノートが存在している。冒険者は出かける前にそれに予定を記帳して、オーナーさんがお客様が帰って来るのかどうかを確認するためのシステムだ。


 オーナーさんが今日俺を訪ねて来たってことは、今日中に帰ってくる予定だったということ。つまり、深い階層には潜らずに、浅い階層でドロップ品を回収する予定だったということだ。

 それなら以前潜った際、低階層だと柳瀬さん一人でも全く問題なく周回出来るはずの敵しか出てこないと確認しているはず。

 やっぱり予想外のトラブル発生か?他の冒険者が苦戦している所を助けて、その冒険者が怪我をしているので同行して遅くなっている。とかが濃厚な線だ。柳瀬さん、人が困っていたら危険を顧みず助けそうな人だからなぁ。


 自分を安心させる様にそう考えると、俺は集中出来きなくて読めない本をしまってベットに転がる。

 本が読めないなら寝た方が時間の有効利用になる。寝れなくても転がっているだけで、疲れを癒せると聞いたことがあるから。眼が冴えているならともかく、普通に眠くなっている時間帯なので数時間もすれば寝れるだろう。


 それでも寝るまでの間、柳瀬さんの事をずっと考えていた。

 結果、同郷人だからと言う理由を付けて明日ダンジョンに潜ることにした。今すぐ行動しないのは楽観視していたから。

 それっぽい理由も付けてダンジョンに探しに行くあたり、やはり柳瀬さんの事が気になって仕方がないのだろう。が、俺はまだその気持ちに気付かずにいた。






 いつの間にか寝ていた俺は、昨日の出来事など忘れていた。が、すぐにでも思い出す情報が目に入る。

 それは、柳瀬さんのHPゲージが微妙に減っていて、異常状態を示すアイコンが付いていたからだ。

 何故?と考えるよりも先に俺はアイコンの内容を確認する。



『飢餓』

 空腹状態の事を指す。時間経過でHPを減らす。


『麻痺』

 体が麻痺して動けない。時間経過で治る。


『毒』

 毒に侵されている。徐々にHPが減って行く。回毒薬を飲まない限り治らない。



 デハブ!!しかも実際に重複してかかるとかなり厄介な異常状態ばかりだ。

 おそらく麻痺されて毒でHPを削られている。飢餓は食べ物を食べていない証拠。時間経過で治るはずの麻痺が一向に治らずに、一晩中この状態だったのだろう。

 HPゲージも半分を切っている。俺が寝る前には何もなかったことから、寝ている間に起こったこと。

 一晩中この状態なら、この先も自力で抜けせる可能性は低い!


 その考えに至った瞬間、俺はすぐさま行動を開始した。幸いアイテムは全てアイテムボックスの中に入っている。

 俺は部屋着を脱いで外へ出る為の格好に着替えた。身だしなみなどは気にしない。服を着ていればそれでいい。

 最後にマントを羽織って駆け出す。部屋の鍵を締めるのさえ焦れったくて、いつも以上に時間がかかった気がする。

 途中で会った宿で働いている女の子に、鍵を投げるようにして渡す。


「ごめん!ちょっと急いでいるからこれお願い!!」

「きゃっ!!へ?部屋の鍵が…ってもういない」


 走る。走る。走る。

 考えるだけに補助魔法で移動速度を上げ、人通りの多い道を縫うようにして走った。


 自分でも、何故見捨てた柳瀬さんの元に向かっているのか分からない。他人の命などどうでも良かったはずだ。

 自分一人が楽をして生きていければ、その他の人間など知ったことではない。冒険職に就いているのだから、死ぬ覚悟は出来ているはず。失敗して死んでも己の責任。

 実際に、フロアマスター戦で死んでしまった冒険者を見ても、俺は残念だという気持ちにはなったが、人の死を悲しむ事は出来なかった。


 なのに!!どうして俺は柳瀬さんを助けたいと思っているのだろう。

 他人は他人。他人なら見捨てる事も出来た。コンビを解消して柳瀬さんは他人になった。なった……はずだ。

 でも、俺が柳瀬さんに抱いている感情は違う。この感情を俺は知らない。知ってるはず。知っていないふりをしているだけ。……そこは今は重要ではない気がする。

 柳瀬さんに向ける感情を知らなくとも、この感情は他人に向けるものではない、ということも理解できた。


 何だよ。自分だけが大切であったらいい。そう思っていた自分は何処に行った?

 結局は他人には出来なった。他人にしたくなかった。

 柳瀬さんは既に、俺の中では他人には出来ないほどの存在になっているようだ。

 俺はようやく気がついた。

 死なせたくない。これからもコンビを組んでいたい。異世界に転生してからの生活を続けたいんだ!という気持ちに気がついたのだ。


 だから、俺は走る。人混みを縫うようにして突っ走る。

 危ないだとか、体力的問題などは無視をする。ひたすら足を動かすことに集中。

 急いだ甲斐があり宿を出て十分後、俺がギルドまでやってきた。ここに寄った理由はただ一つ。

 ギルドのドアをバンっと開くと、勢い良く開けられたドアの音に、中にいた冒険者の視線を浴びる。が、そんな事を気にしている暇など無いとカウンターに急行する。

 目的地は、今日も今日とてダラ〜っとしてカウンターに突っ伏してるメリーさんだ。


「メリーさん!!柳瀬さんの目撃情報とか入って無いですか!?」

「ふぇ〜??急にどうしたんですかツカサさん?」

「ごめん、急いでるから早くしてくれ!!」

「い、いつに増してや気迫が出ている…!」


 メリーさんがビクつくほど、俺は気迫という奴が出てたらしい。

 焦っているからだろう。そうこうしている間も、柳瀬さんのHPゲージは減り続ける。

 俺が何処から焦っているのも感じたのだろう。メリーさんはダラ〜としていた態度をシャキンとさせた。


「焦っているのも分かります。が、ここは一旦落ち着いて下さい。焦りは失敗を生みますよ。まず深呼吸!!」

「え! わ、分かりました」


 何時ものメリーさんとは態度が全然違う。その様子に驚いた。いつものおふざけメリーさんじゃない!!?

 と、それだけ事態は深刻なものだろう。俺は焦っている気持ちを切り替えるために、メリーさんの言う通り深呼吸をする。


「落ち着きましたか?それでは、経緯を話して下さい。教えられない事は教えなくても大丈夫です」

「あ、ありがとうございます。えっと、ちょっとしたスキルで詳しくは話せないんですが、柳瀬さんはダンジョンから帰ってないんです。さらに、このままではピンチということが分かるんです。だから、ダンジョン内での柳瀬さんの目撃情報などがあったら………と思いまして」


 視界に映る仲間のHPゲームや、マップ機能で柳瀬さんの居場所が分かるなどは個人情報としてごり押した。

 俺には、柳瀬さんの正確な居場所や体力は知ることが出来る。だけど、それ以外に有力な情報が入って来てないか?を調べる為にここにやってきた。

 いつも、普通の受付嬢が知ってるはずの無い情報を、何故か持っているメリーさんにかけた。

そしてやはり、メリーさんは謎の情報ソースを持っていた。


「……やっぱり宿にも帰って来てなかったのですね。実は昨日、帰って来ない事を心配しまして、勝手に情報を集めておいたんですよ!」

「た、助かります」

「いえいえい私はツカサさんとホノカさんのファン第1号ですから!これくらい当然です!!」


 なにそれ、初めて聞いたんだけど…。しがない冒険者の俺たちのファンって何処を見たら……って意外とやらかしてたわ。

 初日から高い魔力量を持っていたり、滅多に診ないはずのカードックと言う魔物の討伐。不自然な程早く駆け上がる冒険者ランク。異種のフロアマスター討伐を殆ど無傷に行い、ワイバーンの大群と敵対しても難無くしのげる実力までの急成長。

 それらの報告全てを担当して来たメリーさんが、俺と柳瀬さんを見込んでファンになったとしても不思議ではない。不思議ではない……のだが。どうもこの人、ストーカー素質がある気がしてたまらない。


 と、こんな無駄な考えをしている場合ではなかった。メリーさんも素を出したのはほんの一瞬だけ、直ぐに真剣な表情に戻る。

 そう後、俺の表面だけの情報では得られない情報を教えてくれた。

 どうもメリーさん、受付相手が居ない事を理由にダンジョンに潜った冒険者を洗い出して、見つけられる冒険者全員に『ダンジョン内で柳瀬さんを見なかったか?』と聞き取り調査を行ったらしい。この街に来て早や数ヶ月。冒険者全員までとはいかないが、フロアマスター討伐で一時期注目を浴びていたので大体の冒険者に姿は覚えられている。柳瀬さんの目撃情報と言われても本人の姿を全く知らなかったら意味がない。

 一日だけ潜るなら普通は夕方までには帰ってくるはず。ということは、メリーさんは夕方から夜遅くまで聞き取り調査をしてくれたと考えられる。残業代も出るか分からないのに、本当にありがたい。いつもは文句ばかり言っているのに、こう言った時は真面目だ。


 肝心な結果は、早い段階で柳瀬さんを目撃した者は男数人と居る様子を目撃しているらしい。

 聞くからにして男数人とは怪しい。いや、見てもないのに勝手に怪しいと判断するのは失礼だろう。多分、柳瀬さんの実力に目を付けたパーティーが勧誘して、断り切れなかったと思う。誰にでも優しい柳瀬さんのことだから。

 で、遅い段階にダンジョンに潜っていた者からは、柳瀬さんの目撃情報はなかったらしい。ということは、早くても昼ごろ、遅くても夕方前には消えたということだろう。


「情報はそれだけですか?」

「はい。私が調べている限りの情報はそれだけです。でも……」


 言いにくそうに言葉を詰まらせるメリーさん。何かを伝えようか迷っているようにも見える。

 何に迷っているのかは分からない。でも、例えそれがメリーさんの憶測でも、一つでも情報は欲しいものだ。

 だから俺は、自分からメリーさんに問いただす。


「メリーさん、憶測でも推測でも予想でもなんでも良いから教えて下さい!メリーさんが伝えないといけないと思ったら、早く!!」

「……っ!!た、多分ですよ。もしかしたらホノカさんの失踪事件は、先月から続いている冒険者失踪事件に当てはまるのでは?と……。もちろん、根拠はないです。でも、今回はツカサさんがスキルでホノカさんの居場所を把握しているから良かったものの、下手をしたら冒険者失踪事件と何ら変わりないじゃないですか」

「……確かに」


 確かにそうだ。俺はマップ機能と仲間のHPゲージが見えるお陰で失踪とまでは考え着かなかった。

 でも、俺がそれらのチート能力を持っていなかったら、普通の失踪事件と何も変わらないじゃないか。

 ん?ということは………。


「対人戦があるかも……?」

「その通りです…。ダンジョンの中なので、悪質な罠と言う可能性も捨てきれませんが、ホノカさんほどの人を拘束しています。モンスターでも賊の類でも油断しないでくださいね」

「あ、あぁ。心配してくれてありがとうございます」

「はい!帰って来たら、三人でお食事でも行きましょう!!」


 メリーさんは笑顔で俺を送り出してくれた。俺は他人に迷惑にならない速度で走る。

 ギルドで時間を食っていた間も、柳瀬さんのHPゲージは減り続けていた。勿論、本格的にヤバそうだったら切り上げて向かうつもりだったが。

 出来るだけ急ぐ必要があるのは当然だけど、柳瀬さんがどの階層にいるかによって身体の心配を無視して向かわないと行けないだろう。

 ただ、唯一の心の残りは、俺に対人戦が行えるかどうかだ。ゴブリンやコボルトと言った人型に似ているモンスター相手なら問題ない。でも、完全なる人間なら?感情が狂っている俺でも、人殺しが可能か分からない。

 でも、柳瀬さんの為なら……。そう思える程に柳瀬さんの事が………………。




 俺は走る。走る。

 明日筋肉痛で動けなくなっても構わない。やらなくて後悔するくらいなら、痛みも引き入れる。

 人の間を走る。やがて、ダンジョンの入り口が見えて来る。


 あ、人が並んでいやがる!!

 丁度、出勤中の集団に出くわしたのだろう。ダンジョンの入り口には冒険者がズラリと並んでいた。

 あれに並ばないと中に入れないのだろうか?と嫌な予想を考えた時、受付カウンターから職員が俺を呼んだ。


「ツカサさん!!ツカサさんで合ってますか?」

「はい、俺がそうですけど……」

「一応冒険者カードの提示をお願いしまう。――はい、ありがとうございました。上からの指示により、お先にダンジョンに入って結構です。手続きは後から行いますので」

「……っ!!ありがとうございます!!」


 何故だか分からないが、列に並ぶ必要はなさそうだ。

 今の俺からすればありがたい事この上ない。が、他の並んでいる冒険者からすれば面白くない。

 走り去る俺の背に向かって、俺を先に通した受付嬢に対して抗議の声が上がる。

 俺はそれを無視する。受付嬢の方に説明は任せよう。上からの指示と言う事で上手く収まればいいのだが……。




 俺は『ライト』と言う光属性魔法で光源を作って走る。マップを確認しながら最短ルートで下階層の道を急ぐ。

 進路上で道を塞いでいるモンスターは、全て火力重視の魔法で吹き飛ばす。魔力の無駄遣いとか言っている場合ではない。

 そのまま、二階層、三階層、四階層、五階層…………と俺は最高速度でダンジョンを降りて行った。


 俺は、また柳瀬さんと一緒に仕事をした。この気持ちは噓偽りないのもだ。

 俺がした仕打ちを全て償う。だから、間に合ってくれよな!!




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