65話「残酷な告白」
ギルドを出て宿に戻る途中。
俺は柳瀬さんに話を切り出す。……為の土台を用意する。
「えっと、ちょっといい?」
「いいけど、どうしたの?」
振り返って柳瀬さんの顔を見る。こてっ、と首を傾げるしぐさにドキッとしてしまう。
いざは、話を切り出そうとすると、言葉が詰まる。い、言い辛い。
「は、話しがあるんだけど………。後で、俺の部屋に来てもらえる。ここで言うのはちょっと……」
「っ!!!わ、わわわ分かった。うん………」
何故かうつむく柳瀬さん。
何がダメだったのだろうか?まさか俺が話そうとしている事に気づいているとか!?
柳瀬さんの行動に疑問が残るが、要件は伝えた。後は柳瀬さんが何処に寄り道しようが、バラバラに行動しようが個人の勝手。
俺は疲れた身体に鞭を叩いて、せっせと宿に帰る道を歩く。時間も遅く、露天や店は食べ物系のみで、食事処や酒場からは楽しい喧騒が聞こえてくる。
大金が入ったばかりなので、偶には発散していいお食事でも……。と考えたが、お金が入ったからと言って一回発散してしまうと、その後もズルズルとムダ金を使ってしまうので辞めた。
宿で料金込みの食事が出来るから節約だ。柳瀬さんは露店で何か買っているけど、人それぞれです。
宿に帰ると、キープしていた部屋の料金を払う。キープはサービスで、一日分の料金だけだ。
部屋の鍵を受け取ると、そのまま突っ切って進む。部屋には戻らずにお風呂に入るためだ。
流石に4日も入らずにいると、日本人としては気持ち的に入りたくなる。
念入りに体を洗って、お湯につかりながらアイテムボックスを確認した。
アイテムボックス内に何が入っているのか、確認していた方がいい。倒したモンスターは距離構わずにアイテムボックスにドロップするからだ。
ダンジョンと違ってアイテムがドロップする訳じゃないから、死骸がそのまま入っているな。
ワイバーン、ワイバーン、ワイバーン、ワイバーン…………っと。半分ギルドに売り更に柳瀬さんの分と別けても、かなりの数だ。
と言っても、無傷な死骸じゃない。羽がもげていたり、顔が潰れていたり、尻尾が斬られていたりと、ボロボロな状態から、運よく綺麗な状態まで。
ゲームじゃなから、この辺はリアルに忠実だ。
と、下にスクロールするようにして、アイテムボックスに入っている物を確認していると。
初めて見る文字列があった。
『竜種の卵』
分かるのは竜種の卵と言うだけだ。どんな種類かは分からない。孵すなら注意してください。
は?ワイバーンの卵じゃない?
そう言えば、最後に一際デカイのがあったな。それか?
というか、竜種の卵って……。絶対ワイバーンの卵じゃないことだけは確定している。
こういう時ゲームなら、後々詳細が分かったり、物語のキーになるアイテムは違和感だらけな説明文になる。
絶対にヤバいフラグアイテムだよなぁ。売るか?いや駄目だ。物凄く高価だった場合、それを持ち帰った俺が注目を集める。それだけは嫌だ。
何かいい案は………。
悩んでもいい案が出るわけではない。
長時間水に浸かっていると肌がふやけてくる。そうなる前に俺は風呂場を出た。
『竜種の卵』については放置する事にした。アイテムボックス内では時間の概念がないらしいので、中に入れていけば孵る事も、存在がバレる事もないからな。
タオルで身体を拭いて、魔法で水滴を吹き飛ばす。オリジナルの使い方だ。
この世界の季節がどうなっているのか知らないが、お風呂から出ても肌寒くない。熱くもないので、春初めと言ったところだろう。
普通なら着替えやらを部屋に仕舞いに行くのだが、俺は全てアイテムボックスでオッケー。そのまま手ぶらで食堂に行く。
「あっ!ツカサ君」
柳瀬さん発見。この後する話を考えると、出来れば同じ席には座りたくなかったが、手招きをされては断る事は出来ない。
断れない性格は大変ですなぁ。あれ?俺って基本的に断ってばっかりで自分優先じゃなかったっけ?
可笑しい矛盾点に首を傾げながら、とりあえず柳瀬さんに頷き返す。ここまで来れば、そのまま同じ席に座るのは当然。だけど、ここはレストランではない。厨房に食事を取りに行かなければ食事は出されないのだ。
今日の晩御飯はっと。
例にもれず、パンにスープ。ここまではお決まりのパターンだ。異世界だとホント料理のバリエーションがないな。いや、本格的なレストランに行けば違うのだろうけど。
大きな依頼の後ということもあり、今日はもう一品おかずを増やす事にした。俺だって食べ物を食べれないわけじゃないんだ。食べようと思えば食べる。それも平均よりも少ないと思うけどな。
お盆を持って柳瀬さんの前の席に座る。心の中で「いただきます」と言ってから食べ始める。
柳瀬さんもガッツくようにして食べている。女の子ならもっとお淑やかに………と思うが、体育会系の柳瀬さんが急に淑女のようになったらこっちがビックリするし、柳瀬さんは今のままでいい気がする。
黙々と夕飯を食べ続ける時間が続いた。
やがて、ひと段落着いた柳瀬さんが、俺の様子を見て話しかけてきた。
「ねぇ、お風呂入ったの?」
「え?あぁ、流石に入りたかったから………」
何を思ったのか、そんな事を聞いてきた。多分、何でもいいから会話のきっかけが欲しかったのだろう。
話していないと生きられないスクールカースト上位者。そんな評価を三ヶ月前まではしていたかもしれないが、今ではそこまで酷い言いようは思わなくなっている自分がいた。
柳瀬さんと親しくなったからだろうか?これから断ち切ろうとしているのに、何を今更。
そんな事を思っていると、柳瀬さんは自分の匂いを嗅ぎ始めた。
え?何故そんな事をする?匂いなんて密着でもしない限り気づかないし、俺には興味がない。
ただ、女の子がそんな仕草をしてはいけません。不覚にもドキッとしてしまうでしょうが。
「……柳瀬さん」
「ふぇ!?もしかして臭い!?」
「いや、大丈夫だから………。もう少し落ち着いて……」
挙動不審になる柳瀬さんを俺は落ち着かせる。
匂いってそこまで気にするものか?…まぁ、俺は基本的に無関心で男子。一方で柳瀬さんは今をトキメクJKだ。感性の違いも大分違うだろうな。
「――――ろう!」
「何か言った?」
「ううん!!?何も言ってないよ!? あ、そう言えば話ってどんなの?」
何か呟いた気がする。が、柳瀬さんが言ってないならそれでいいだろう。
俺の偶に、聞かれたくない事を口に出していたりするからなぁ。ボッチは一人で会話が可能性なのだ。寂しいから誰に聞いている訳でもなく、自問自答して勝手に納得する。うん、これ結構末期じゃね?
と、そんな考えは置いておいて。聞かれたからには答えないといけない。
ただ、この場で言うのは抵抗がある。誰かに聞かれている様な場所で話ような内容ではないだろう。
「えっと、こんな場所でしたくない。柳瀬さんも色々と困惑するかもしれないし……」
「困惑?それって、私が直ぐに受け止めれられないかも?ってこと?」
「そうなる。だから、また後で」
「そっか……」
柳瀬さんは俯いた。何かを考えているようにも見える。
が、俺に知る必要はない。他人の心の内など知る由も無いし、興味もない。
だから俺は、食べ終わった食器を片付けて、先に部屋に帰っていった。
あと少しで、コンビ解消の話をしなければならないと考えると、緊張する。
冷や汗をかいてしまい、心臓がバクバク言っている。腹痛も発生してきた。
何時もこうだ。何時も通りのとは違う事を行う前、俺の身体は拒否反応を示している様に体調が悪くなる。
ただ伝えればいいだけなのに、どうしても変な方向に考えてが向いてしまう。心臓が締め付けられた様になり、手足がキューっとなる。これが、手足から血の気が引いて行くと言う現象だろう。
予定があっていつもと違う事をするとこうだ。突然起こった事なら、つまりこの世界に召喚された時などだったら、冷静に対処できるのに……。
本番に強くて、本番前に弱い。
ボーっとしていても嫌なことしか考えない。ならば、読書をして気を紛らわすに限る。
本の世界に没頭して、現実を頭の中から叩き出す。
それが、今できる最大の逃避行為だった。
幾ら時間が経っただろうか?正確な時計が何処にでもある訳でも無いこの世界では、正確な時間を知ることは鐘の音しかない。朝や夕方までならそうやって知ることが可能なのだが、夜は月明かりを見て大体の時間を測るしかない。
というわけで、月明かりを見て測る。……のではなく、読んだ本のページ数を計算する。集中しているかどうかで、細かい分数は変わると思うけど、大体は合っている筈。
読んだページ数で時間が測れる特技とか、どんだけ本読んでいるんだよ?自転車で登下校中以外はずっと読んでましたが何か?うわぁ、自分で見ても末期だわ。
と、ひと段落ついた本に栞を挟見ながら独り言を脳内再生していると。
コンコンと、ドアがノックされた。こんな時間に誰だ?と、そういえば柳瀬さんに話しがあるんだった。すっかり忘れてたよ。
急いで返事を返す。
「柳瀬さん?」
「あ!?うん。そうだよ」
俺にはマップ機能があるから必要ないが、こんな時くらいマップ機能ばかりに頼っていられない。声でも確認をとって部屋の鍵を開ける。
ドアを開けると、少し緊張した様子の柳瀬さんが立っていた。当たり前だけどな。これで居なかったらどんなホラーだよ。
「お、お邪魔しま〜す」
俺は黙って柳瀬さんを部屋に招き入れる。
ただの宿屋なので各部屋に応接椅子などある訳もないので、お客様優先ということで備え付けの椅子に座らせた。俺はベットにでも腰かける。椅子よりもベットの方が座り心地良いと思うしな!
数秒間が空く。俺から切り出すべきなのだが、俺には自分から話をするなんてコミュ力がない。
「それで、一体どんな話しなのかな?」
柳瀬さんが切り出してくれた。有難い。
「えっと…この世界に飛ばされて、一人で動こうとした俺を呼び止めた時の事は覚えてる?」
「勿論!覚えているよ。何をすれば良いか分からない私を、ツカサ君は導いてくれたよね」
「導いたってほどじゃないけど……覚えているなら良いよ」
また、間が空いてしまう。
覚えているなら、俺がこの先に何を切り出すのか分かる筈。でも、それに甘えていてはダメだ。
自分の口で伝えて初めて意味を成す。
勇気を振り絞れ。まずは渇いた唇を拭って、深呼吸して脳に酸素を送れ。
ってこれだと俺が柳瀬さんに告白するみたいじゃないか。いや、告白は告白だけど、悪い方の告白だ。
もう前触れは十分だ。時間を伸ばしても良いことは一つもない。だったら、早く終わらせて楽になった方が良い。
さぁ行くぞ、さんはい。
「……柳瀬さんはもう十分にこの世界に慣れて来たと思う」
「………うん。全部ツカサ君のお陰…」
あれ?可笑しいゾ?
シリアスなは話をしている筈なのに、柳瀬さんの様子が何処か違う。
……まぁいいや。俺は伝える事を伝えるだけ。
「…慣れて来た。まだ分からない事もあると思うけど、仲のいい受付嬢もいる事だし。………そろそろ、俺なんかと一緒に行動しなくても大丈夫だと思うんだ」
「……えっ…………!!?」
初めて顔を上げて俺を見る柳瀬さん。その顔は、絶望、ショック、驚き、戸惑い、そんな表情を代わる代わる見せる。
声を出そうにも出せない。心の余裕が無くなった時に、俺もよく起こす現象だ。
これから考えられることは、今の柳瀬さんには心の余裕が無いという事のみ。何故そうなっているかは俺には理解できない。
かという俺も、まさか柳瀬さんがこれ程までに不安定になるなんて思っても見なかった。だから、心が揺らぐ。
ヤバイ。柳瀬さんがこの世界慣れてきたから、この話を切り出したんだけど……。これは失敗だった?
確かに、今まで同郷として色々教えてきたが、元々はお互い交わる事のない人種だったんだ。それが元の形に戻るだけ。
俺は読書三昧で時々仕事をする俺だけの異世界生活が、柳瀬さんには持ち前のコミュ力で華やかしい異世界生活が。それぞれ相応しい生活が待っている。
確かに柳瀬さんと一緒に依頼を受けていた時間は、他人と合同で何かをしていたには楽しかった。でも、もう引けない。
「…な、なん、で?」
擦れた、震えた声で柳瀬さんが絞り出した言葉は、俺がやっと聞き取れるくらいだった。
「何でって聞かれても………元々柳瀬さんがこの世界に慣れるまでって話だっただろ?」
「……………」
返答はない。
だが、柳瀬さんは一度だけこちらを見ると、生気を失ったかのようにトボトボと部屋を出ていく。
そんな後ろ姿を見ながら、俺は………。
これで良かったんだ。そう、良かったんだ………。
元々決まっていたことで、それが今日だっただけ。
一人での異世界生活を求めていたはずなのに………どうして。
……どうして胸が痛むのだろうか?
やっとここまで来ました。一章もラストスパートです。




