表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
64/129

64話「帰り道」

 パチパチと火が燃える音が聞こえた。虫のせせらぎも聞こえた。

 目を開けると、月明かりが照らす満天の星空が見える。


 え?夜?

 なんで?ていうか、今まで寝てたのか?


 疑問が頭を駆け巡る。が、何時まで経っても状況把握が追いつかない。

 なので体を起こす事にした。もっと辺りを見渡せば、状況を把握出来るかもと思ったからだ。


「あ!!良かった~!!」

「……柳瀬さん?」


 俺が身を起こすと、近場に座っていた柳瀬さんから安堵の声が上がった。

 安堵?いや待てよ。

 安心するような声ってことは、俺の記憶が途切れる寸前に柳瀬さんが心配するような状況だったってことか?


「えっと……俺はどうなってたの?」

「倒れちゃったんだよ。多分魔力枯渇だと思うけど……覚えてない?」


 柳瀬さんに聞いて見ると、まさかの返答。

 俺は魔力枯渇で倒れてしまったみたいだ。

 と、柳瀬さんに言われてやっと思い出した。

 確か、森を抜けた俺と柳瀬さんは追って来たワイバーンを討伐すると、出来るだけこの場から遠くに行こうと再び走った。

 あいにく追加の追手は来なかったみたいだけど、上級魔法に中級魔法の連発、更に長時間のハブ執行が続き、魔力枯渇で倒れてしまったらしい。

 うん。最後の方は疲労と魔力枯渇のピークで殆ど覚えていないけど………。


 反省点だらけだ。

 まだいけると思って、連続でハブをかけて移動は危険なのが分かった。

 ハブで速く走れているけど、本来の俺の力ではないし、疲労も軽減されているだろうが、それでも『走っている』と言う感覚があるかぎり精神的な疲労は溜まっているのだろう。

 やはり長時間連続使用は危険と。使うなら大事な場面で瞬間的にだな。


 と、俺が一人で反省会を開いている場合ではない。

 俺が倒れてから、柳瀬さんには随分と心配をかけたみたいだし。よく考えれば、俺の意識がないからアイテムボックスにしまってある物は取り出せない。焚き火は柳瀬さんが一人で焚いたのだろう。

 テントも無いし、料理の材料や器具もない。あるのは焚き火だけ。

 俺が言えたことではないが、柳瀬さんは俺のアイテムボックスに頼りすぎている。明日にでもそれと無く注意しておこう。

 ひとまず、俺が倒れてしまった為、野営の準備を何も出来なかった事を謝ろう。


「ごめん。柳瀬さんも疲れているだろうに、俺だけ休む様な感じになって……」

「ううん。私は大丈夫だよ。体力あるし、ただ目の前の敵を倒していただけだから……。ツカサ君の方が色々と考えてくれたり、高威力な魔法で敵を蹴散らしてくれたりしてくれたもん」


 謝る俺に、柳瀬さんは一言も責めない。それどころか、俺の仕事量では倒れても当然とでも言っている。

 何故そう言う。俺はただ、やるべきことをできる範囲でやっているだけのことなのに。

 そんな風に言われると、まるで………まるで俺が常人以上の才能を持って人間のようではないか。

 魔法のチート能力があると認めたのは良いが、俺がそれを持って使っているだけで俺自身には何ら才能もない。未だにそう思っている俺は柳瀬さんの言葉に、只々、「どうして?」と繰り返すばかりであった。




 頭では「どうして?」と繰り替えているが、無意識化で作業は行う。

 テントを出して調理器具と材料を取り出す。殆ど作業化された繰り返し行って来た行動は、頭の別の事に費やしたながらも出来る。


 テントを建てて、柳瀬さんが夕食を作り終える。

 寝起きや、柳瀬さんの言葉。色んな事が重なって食べる気にはならない。が、食べないと柳瀬さんからまた何かを言われてしまう。

 それが嫌だった俺は、少しだけスープをよそって飲んだ。


 いつもなら、「それだけで足りるの?」などと声を掛けて来そうな柳瀬さんの声がない。

 それはそれで、話しかけて欲しくてホッとするような、寂しいような気持ちになった。


 ボーっとしていると、柳瀬さんはいつの間にか寝ていた。

 やはり無理をしていたのだろう。テントに行かずに寝落ちしている。

 その姿を見て、俺は又しても心苦しくなる。



 こんな状況なのに、明日で街に戻る予定だ。街に戻ると………。逃げ。そうとも取れる選択を俺は選ぶ。

 前々から決めていた事だと、方ない様に思うこともできる。

 だけど、それでホントにいいのだろうか?

 優柔不断なのは悪い癖。どうでもいいことやとて重要なことは即決出来る癖して、微妙な問題は決めつけられない。

 後からこうすれば良かった。こっちの選択を選んだらこうなるだろう。それもいいが、こっちの方が良かったのでは?変わりたいと思う癖して、自分の決めたパターンを壊すのは嫌だ。

 矛盾、矛盾矛盾、矛盾矛盾矛盾、矛盾矛盾矛盾矛盾矛盾矛盾矛盾矛盾矛盾矛盾矛盾矛盾矛盾矛盾。

 矛盾点だらけの性格、思考、行動だ。




 …………………本当に、消えて無くなりたいほど――――自分が嫌になる。




 何時もなら読書にはびこって時間を潰すべき時間だが、今日はいささかその気分にはなれなかった。

 ベットに就いても、ごちゃごちゃと考えて寝れない時がある。そういう時何時も数時間寝れない。そして、ネガティブな思考ばかり考える。

 今がそうだ。ベットに就いているわけでも、就寝しようとしているわけでもない。


 それでも、今はそれが一番時間を潰せた。

 考えに浸って、ボーっとマップを眺める。そうやって、数時間時間を潰す。






 やがて柳瀬さんが起きるが、今日は交代を辞退させて貰った。

 俺が気絶してその間心配をかけて礼も兼ねて、柳瀬さんには完全回復させてあげよう。そんな珍しい気遣いだ。

 体感で四、五時くらいになると眠くなってしまう。が、『移動速度上昇』をかけた時と同じようにして、法則を無視して言葉のイメージ。概念だけを再現させるオリジナルの補助魔法を自身にかけた。


 その効果は『睡眠無効化』ゲームなどでも睡眠魔法などを無効化させる事が可能なハブだ。

 効果は絶大。起きて二、三時間経ったかのように頭がスッキリとしている。目が冴えて、寝ようにも寝れないだろう。

 自身が解かないか、それとも時効があるのか分からないが、効果が発揮している間は寝落ちの心配はない。


 思い付くだけで効果はが発動出来る。我ながらチート能力だな。

 副作用なんかが無いようだったら、休日はこれで一日中ゲームができるぞ。

 あとは、じっくりと何がハブに出来るのか出来ないのか検証しないと。いざという時に知っていた方がいい。

 多分、この世界がゲームに基づいていると考えるなら、俺自身の成長と経験で種類も増えて行くんだろうな。

 成長と経験か…………。俺が女神様に選ばれた勇者なら、嫌でも経験するんだろうなぁ。


 逃げないと。最後にそう締めくくった俺は、後日検証する予定の補助魔法をピックアップし始める。

 攻撃力上昇に物理的な防御ハブ、異常状態の耐性この辺はゲームでもポピュラーな補助魔法から概念だけでイメージでは再現できないようなハブまで。

 様々な効果を思い浮辺る。そんな俺は端から見れば只の厨二。

 冷静に考えると自身の状態を正確に判断出来る分だけ、悲しいかな。自分を客観的に見れるというわけだ。(俺自身が思うには)


 そんな感じで、柳瀬さんが再び起きるまでの数時間厨二をこじらせていた俺だった。

 後から振り返って恥ずかしいと思う。だが、後悔はしていない!






 その後、柳瀬さんが起きてから朝食を食べ、テントや焚き火を片付けてからまた歩く。

 走らないのは、俺を考えてとの柳瀬さんの気遣いだった。

 俺としてはありがたいので、柳瀬さんに甘えさせてもらう。移動速度上昇を付けて歩いているが、走ってまで街に戻りたいとは思わない。

 自分のペースは大事だからな。焦るくらいなら、元から余裕を持って計画を立てるのが俺の性格だ。学校行事での集合時間にも数十分前には付いている。


 ひたすら歩くというものは、案外楽しいものだ。

 元の世界に居た時は、如何にして早く家に帰るか?と切羽詰まった状況まではいかないが、気持ち的に余裕がなかった。

 だが今は違う。休める時に休めるし、動く時には動く。

 俺に魔法チートなんてものがあるおかげで、依頼は比較的楽に達成出来る。努力しないで成長、もしくは努力が絶対成長に繋がるこの世界は俺に合っている。


 余裕が出来ると言うことは、周りに目線を向けれる様になるということ。

 歩きながら、ただひたすら前に進む事に集中するのではなく、周りに目線を向けてみる

 綺麗な景色に見惚れて眺めるのではなく、至って平凡な景色をぼーっと眺める。

 例えばそれが、足元だったり、遠くに見える木々だったり、流れる雲だったりと、意味のない風景。

 小学生が校庭での集合時に、足元の石粒を拾って絵を描いたり、他の人にぶつけて遊ぶ様なもの。


 本を読んでいないと、何をすればいいのか分からなかった俺。それ以外の行動に意味を見出せなかった頃は、本を読んでいる作業に没頭する事に囚われていたのではないだろうか?

 勿論、今でも本を読みたい気持ちは変わらずにある。だがそれは、読んでいないといけないという謎の緊迫感はなく、読んでいない時間もいいなぁと思う様になった。

 やはりこの変化は、異世界に飛んで別の世界に変わった。

 元の世界の様にこれから仕事につかないと生きていけない。やりたくもない仕事で本を読む時間を減らさざる得ない。

 そういった悩みから解放させたからだと思う。


 誤解しないで欲しいのは、元の世界でも異世界でも、仕事をしなければ行きていく事は基本的には不可能だと言うこと。

 異世界と元の世界で違うのは、俺が楽しいと思える仕事があるかどうかだ。元の世界ではそんな職業は無かった。でも、この世界では冒険者と言う職業がある。

 安定はしていない。明日の命も分からない。そんな元の世界なら八割型の人が就きたくない仕事。

 初めは、元の世界になく、華々しい主人公たちの英雄譚を読んで憧れただけ。数年が経って華々しい部分だけでなく、成功していない場合の者の末路も知った。

 誰もがそうなれない。上手くいくのは主人公だからだ。

 それでも冒険者が良いと思った。


 全ては魔法チートがあり、なんの挫折もなく進んでいる結果論だと自分でも思う。

 でも、上手くいっているならそれで良いではないか。

 魔法チートのおかげで楽してお金を稼げる。中堅レベルま成長も出来た。

 だから、将来的な心配がなくなった。それにより、心の余裕が出来るのは当然のことだ。




 俺が風景を楽しんでいるのを知ってか、それとも話す気分ではないのか。柳瀬さんは全く話しかけてこない。

 いや、話しかけて欲しいとか、話したいとは思わないけど。いつも元気で話しかけて来る柳瀬さんを見ていたから、なんだか不思議な感じだ。

 もっともそんな時があっても問題は無いし、俺としても有難い。



 この後、街に帰って伝える事。

 それをなんとなく気づいている雰囲気でもあった。






 帰りは順調に進んだ。

 初めから『移動速度上昇』をつけていたのもあり、行きよりも時間は短縮出来た。

 日が落ちる頃にはアルケーミに辿り着く。いつも通りギルドに報告に行くと、メリーさんが驚いた顔で待ち構えていた。

 驚いた顔でっていうのは合っているけど、待ち構えていたのは違う。暇を持て余していた。と言う方が正しい。


「お、お帰りなさ〜い!イヤ〜早かったですね」

「え!?まぁ色々あって……」

「そうですか?明日かなぁ~って考えてたら、今日のお昼頃ピンッと電波を受信してしまいまして。それでここでお菓子を食べながら待ち構えていたのです!」


 なにそれこわい。

 電波受信とか……。携帯電話かよ!?というか、何で電波という概念知ってるんだよ。

 お菓子を食べてる事にはもう慣れた。ここにはアルケーミにいた先輩受付嬢みたいな人は居ないので、余計に好き勝手しているメリーさん。


 と、いつも通りメリーさんが初っ端から横道に突っ込んでいく。

 柳瀬さんがメリーさんの話を聞いているのもいつも通り。

 一段落したところで、メリーさんは満足して仕事に戻ってくれる。


「それでは今回の成果をお聞きいたしましょう!何が飛び出してくるのでしょうか?ワクワクです!」

「そ、そんなにワクワクする様なものじゃないよ?はい、冒険者カードと……」

「……ワイバーンの卵二十三個、追加でワイバーンの死体が数えるのが面倒なくらい」


 柳瀬さんが冒険者カードをメリーさんに渡すと、続いて俺も冒険者カードを渡す。更に依頼品であるワイバーンの卵を全部と死体を全数の半分くらい。

 この場で出すのはスペースが足りないので後で取り出すが、メリーさんに口頭で伝える。討伐数を見れば分かるので、噓は言っていない。言う必要もない。


「わぁ~~!!今回も成果モリモリじゃないですか!!Bランク冒険者でも、収納持ちパーティーがやっとクリア出来る依頼を、通常よりも速い日数で達成して来るとは……」

「え?そうなの?……ってそんな依頼を私とツカサ君に進めないでよ!」


 やはりメリーさんは俺と柳瀬さんに、無理難題レベルの依頼を持ってきたようだ。

 俺が魔法チートを思っていたから良いものの、普通なら積んでる状況だったんだぞ。

 柳瀬さんが声を上げて怒るのも理解できる。むすっと膨らんだほっぺが可愛らしい……って何考えているんだよ。


「コホンっ。まぁまぁ、無事に戻って来れていいじゃないですか。 そ・れ・よ・り・も!報酬の方のお話に移らせていただきますね」

「あ、逃げた」

「報酬ですが!!先ずは、依頼達成報酬として金貨一枚です!!更に追加報酬で銀貨600枚になります!!」

「き、金貨一枚!!!それに銀貨600枚まで!!」

「た、大金だ……」


 危ないハズレ依頼を受けさせた事による怒りを、報酬によって受け流すメリーさん。

 だけど、報酬額を聞いた途端に怒りは吹き飛んだ。


 金貨一枚。銀貨の一つ上の硬貨だ。

 確か、銀貨一枚で一万円の価値と考えると………。銅貨から銀貨へは100倍、銀貨から金貨は100倍じゃなくて1000倍とややこしい倍率。

 そう考えると、銀貨1000枚。追加報酬も合わせると銀貨1600枚。元の世界に直すと1600万………。


 あ、元の世界での、平均年収を超えてますやん。たった一回の依頼で。

 これだから冒険者は良い。まぁ、命賭けている訳だし、通常の冒険者でも苦戦する依頼なら当然と言えば当然の報酬額なんだけどさ。

 この額を柳瀬さんと半分で割っても一人頭800万。遊んで暮らせる。

 年金やら所得税やらいろいろな税金がかかる元の世界では心もとない金額だが、ここは人頭税や街に入る時にかかる税金のみ。

 一生にかかる税金は元の世界よりも格段に低い。つまり、800万でも充分暮らしていける。豪遊しなければ。


「おぉ!!私も金額にビックリです!!まだまだ行っちゃいましょう!!!ワイバーンの死体をギルドに売却と討伐報酬で………。更に銀貨476枚プラスですよ!!!」

「おぉ!!!」

「合計金額………金貨2枚と銀貨76枚です!!」


 更に討伐報酬とギルドに売り渡す分も含めて2076万円。一人辺り1038万。

 一回の依頼にしては多くない?と思うが、命を以下略


「ホントにお二人はすごい勢いで成長していますね!!Aランク冒険者にもすぐなれますよ!!」

「その前にBランクだけどね」

「はい!実力的にもなってもおかしくはないのですが、流石にBランク以上となると審査や経歴、活動年月も重要となってきますので、直ぐにと言う訳には行きません」

「そうだよね。そんなにすぐすぐ上がっちゃったら、他の冒険者たちに申し訳ないもん」


 報告と報酬の話し合いが終わったら、後はギルドの倉庫にワイバーンの死骸を取り出して終了。

 今日はもう、帰るだけだ。




 今日ももう終わり。

 だけど、まだやることが残っている。

 この世界に転生してもう直ぐ四か月。そろそろ、初めの約束を守る時が来た。






 柳瀬さんに別れを告げよう。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ