63話「上級魔法」
「そっち行ったよ!!」
「分かった!『ファイヤートルネード』」
「やあああぁぁぁ!!!!!」
俺と柳瀬さんは今、ワイバーンの大群に襲われていた。
初ワイバーンとの戦闘を終えて数分後、どんどん近づいてくる俺と柳瀬さんに危機感を抱いたのか、ワイバーンがこぞって俺と柳瀬さんを襲って来た。
この地に生息するワイバーンが全て集まっているのでは?と思う位の数だ。数体から先は数えるのを辞めた。
今まで大群と呼ばれるレベルの戦闘は四回経験してきた。ゴブリン、ゴロヴァバード、ロックヘッジホク、ゴブリンロード軍。今回で五度目だが、今までとはレベルが違う。
ゴブリンの時はホントに雑魚敵。ゴロヴァバードは別のパーティーが二つもいた。ロックヘッジホクは向こうからよりも俺が襲っていった。ゴブリンロード軍は複数パーティー混合で、俺と柳瀬さんはボスを一点集中していた。
今回は一体一体がゴブリンウォーリア並みで俺と柳瀬さんしかいない。状況は一番最悪だろう。
てか、ワイバーンなら群れで行動するなよ!!小型のドラゴン並みの存在なんだろう!!
今もまた、俺の炎の竜巻が複数体のワイバーンを巻き込んでダメージを与えている。
こう言った大群の時は中級魔法は便利だ。範囲魔法は中級からで、魔力もそれなりに使うので普通の魔法使いなら既に魔力枯渇を引き起こしてもおかしくない程、連続で発動していた。
魔力量Sランクの俺でも、いずれは魔力枯渇を起こしてしまい―――と言っても魔力回復用の魔法薬や魔石を幾つかストックしてあるのだが―――使い物にならなくなる。それに、体力が多そうな柳瀬さんも体力が無尽蔵ではないはず。いつかは体力切れで倒れる。
そうなる前に俺は対策を立てた。
「ツカサ君!!後どのくらいの距離なの!!?」
柳生さんが叫び気味に言った。ワイバーンの鳴き声がうるさくて大声じゃないと聞こえないからだ。
「後少し!!数メートル先の森を抜けたら巣が見える!!」
俺は柳瀬さんに言い返す。
俺が立てた作戦は、ワイバーンを討伐しながら進むというやつだ。
柳瀬さんは持ち前のスピードで目の前のワイバーンを切り付けながら、俺は移動速度上昇をかけて後ろに向けて攻撃魔法を放ちながら。
行動を最優先にしてワイバーンと戦う。
それが俺の立てた作戦だ。
敵を切つけながら物凄いスピードで進んでいく柳瀬さん。俺なら既にバテている。
体力も無限では無いはずだが、一向にスピードが落ちる様子が見れられない。
逆に俺はギリギリだ。移動速度上昇で継続的に魔力を持っていかれ、ワイバーンの牽制ように中級の攻撃魔法も連発している。
今はまだ、魔力の残量は許容範囲だけど、早く終わらせないと魔力切れで終わる。
早く着け!!そう願って足を動かす。
限界まで動かす事でようやく柳瀬さんから離れない程度だ。
柳瀬さんはワイバーンを切り付けて減速しているというのにな。
森を抜けると、ゴツゴツとした岩肌が見える。
ワイバーンの数が今までにないくらいに増える。最終防衛線まで踏み込んだ俺と柳瀬さんは生きて帰れるのか?
いや、帰る。いつもスリルを求めているわけでないが、時々ならこういうのもいいだろう。
「…数が!!」
「俺が上級魔法で隙を作るから、薄くなった場所を一点突破だ!!」
「分かった。ツカサ君は私が守る!!」
守るなんて言われようは男としてどうかと思うが、今更だ。
俺が魔法使いである限り、詠唱やイメージ構築の時間稼ぎは必要になる。
それが、俺もまだ柳瀬さんに依存している証拠なのだが、気付かなかった。目を逸らしていた。
俺はイメージする。熱線がワイバーンを打ち落とす場面を!
細い光線を複数放つ。方位は前を中心に全方位。
いい加減認めろよな。俺には魔法のチート能力があるという事を。
イメージ道り魔法が撃てるなら、俺は何者にも負けない。
過信はしてはいけない。だけど、謙虚すぎるのも毒だ。
俺は元の世界では何も出来なかった。この世界くらい、思った事が起こってもいいではないか。
俺が主人公になって………。
イメージ完了。熱線の範囲、速度、軌道を構成。
ターゲットカーソルは目に入るワイバーンだけでなく、マップに移る全て。
全滅はさせられないだろうが、ある程度数を減らして時間を稼げればそれだけでいい。
最後は魔力を通すだけ。俺はそのトリガーを引いた。
「……はぁ~っ!!『ヒート・ガトリングレーザー』」
オリジナル上級炎属性魔法。熱線が乱れ撃ちのごとく撃ち放たれる攻撃魔法。
熱線の乱れ撃ち。直訳で付けた名前だ。我ながらネーミングセンスが無い。
一発でワイバーンの体力を吹き飛ばす熱線が絶え間なく発動し、一瞬にして数十匹のワイバーンを即死させていく。
我ながらデタラメに強力な魔法をイメージしたものだ。
上級魔法故にごぞって持って行かれた魔力を、アイテムボックスから取り出した魔法薬を飲んで回復させると、柳瀬さんを先頭にして走る。
「柳瀬さん!!!」
「……はっ!!ごめんなさい」
今までにない位の高威力魔法に、一瞬惚けていた柳瀬さん。俺でも柳瀬さんが斬撃とか出したら、目を見張って数秒動けないと思う。
俺が声をかけると、柳瀬さんは現実に戻てくる。そして直ぐに動き出す。
走る俺と柳瀬さん。
辺りはワイバーンの死骸と、それにより発生した血の匂いが充満しいる。
吐き気がするくらい気持ち悪い匂いだ。こればかりは慣れなのだろうが、数年から数十年単位が必要だろう。良かった。そこまで俺は壊れていないのか。
恐らく十匹単位で殺したワイバーンだが、空にはまだまだ飛んでいる。
流石に何十秒もあの魔法を発動するだけの魔力は無いので、『ヒート・ガトリングレーザー』は止めていた。無理をすればもっと発動可能だけど、そこまでしてワイバーンを全滅する理由がない。
生態環境を破壊できる魔法として、見つかれば禁術指定されるだろう。そして、俺はめんどくさい事に巻き込まれると。
そんな事は嫌なので、使用は控えようと決意した。それこそドラゴンの群れにでも遭遇しない限り、使用しないだろう。
「ツカサ君!!とりあえず走ってるけど、何処に向かうの!!?」
「何処に向かうって言われても!!目的はここだから、逃げ帰る訳には行かない。卵を見つけて俺が先導するから、柳瀬さんは俺がアイテムボックスにしまっている時にフォローをお願い!」
「分かった!!」
柳瀬さんに作戦を伝えた俺は、地面に目を凝らす。巣から卵を見つけるためだ。
落ちているアイテムはマップには映らない。そこまでは親切設計ではないらしい。
卵を見つけてそこに向かう。
俺が卵に触れてアイテムボックスにしまっている間、柳瀬さんが一人でワイバーンを引き受けてくれる。
卵を幾つか回収すると、中級魔法を使ってワイバーンを蹴散らして、また別の場所に向かう。
それの繰り返しだ。
依頼にある卵の数は二十個。どうしてそこまで大量な数がいるのか分からないが、俺達冒険者は依頼に書かれている物を規定の数だけ持って帰るだけ。
目標数は二十個だけど上限はないらしく、初めて受けたスライムジェルの時と同じように、納入数が増えるごとに報酬も増えるらしいので、余裕がある限り持って帰る。
普通の冒険者なら二十個という数ですら大変だろうが、俺にはアイテムボックスがある。幾らでも持って帰れるのだ。
でも、それは理想であり、ゲームの中での話だ。現実は辛いもので、卵を盗んでいる俺と柳瀬さんにワイバーンが怒り狂って追っている。ゲームならワイバーン倒すだけで卵がドロップするとか、そこまで疲れないような設定だけど、現実は違う。
俺の魔力には限りがあるし、柳瀬さんの体力も無尽蔵ではない。いずれ限界はやってくる。
片っ端から卵をアイテムボックスにしまっていく俺。片っ端からワイバーンを斬りつけていく柳瀬さん。
柳瀬さんの体力ゲージが半分を切ったのを確認すると、最後にひときわ大きい卵をアイテムボックスにしまった。
「柳瀬さん!!帰るよ!」
「うん!でも、大人しく帰らせてもらえるの!?」
怒り狂って俺たちに急降下しカギ爪を振るってくるワイバーンを見て、柳瀬さんが危惧して俺に聞いてくる。
そんな俺が知るわけない。あの様子を見るからに、簡単に帰してはくれなそうだけど……。
俺はこの場から逃げることを最優先に考える。目的を達成しているにもかかわらず、敵の本拠地に居座る理由など無いからな。逃げかえればワイバーンも諦めてくれるかもしれないし。
「知らない!とりあえず走ろう。俺は『移動速度上昇』をフルで使うから、柳瀬さんは全力で走って!」
「全力ってそれだとツカサ君が……っ!?分かったよ。はぐれちゃった場合は?」
「森を抜けたら一旦止まって待機。ワイバーンが数体追っかけて来ているなら撃退か討伐する。数が多い場合はその時次第。もしはぐれてたら、俺がマップ機能で柳瀬さんを見つけるから」
全力で走れ。そう言った俺に、柳瀬さんが心配してくれる。お言葉を言いかけようとするが、緊急事態も兼ねてグッとこらえてくれた。
そして、冷静になった柳瀬さんははぐれてしまった場合の対処法を質問してくる。慌てるだけじゃなくて、その後の対応も考えれるようになるとは……。
俺はが全てを答えると、柳瀬さんは「行くよ」と一言だけ告げると、本気で走った。
俺もはぐれてしまわないように『移動速度上昇』を発動する。すると、一気に加速した。
柳瀬さんは戦闘に使うような短距離走の加速速度ではなく、マラソンなどで使う持久走の速度で走っている。
とは言え、異世界に来てからステータスが上がった関係もあり、速度はマラソンの比ではない。短距離走でも世界大会を狙えるレベルだ。
恐ろしい。とは言えないのが異世界だ。このくらいの速度を出せる人間は普通にいる。
かというと俺も、ハブをかければついていけれない速度ではない。ハブをかけて全力疾走しないとついていけないのだが………。
走って離脱している俺と柳瀬さんだが、ワイバーンも諦めていない。追ってくる。
俺は柳瀬さんから置いて行かれる事を覚悟で、後ろに向かって魔法を放つ。
「いい加減に諦めろよッ『フローズントルネード』」
数体巻き込まれて落ちていく。倒せれる威力じゃないから、後で復活するだろう。
が、今はそれで十分だった。
俺はスピードを上げて、柳瀬さんについていった。
歩いていた時は時間がかかった道のりも、全力疾走で戻ると半分以下の時間で突破する事が可能だった。
マップ上で森が終わりを見せる。やった、あと少しで足を止められる。
柳瀬さんに伝える気力はない。酸素を求めて口はカラカラで、声を出そうと濡らすと安定していた呼吸に悪影響が出そうだから辞めた。
そして、森を抜けた。
一足先に抜けていた柳瀬さんは、俺の言いつけ通り止まっている。
追ってを警戒してか、剣を抜刀し構えている。
険しい表情だった柳瀬さんだけど、俺を見つけるとほっとした表情に変わる。
「ツカサ君……良かった」
「…っはぁっ。……ハァハァハァ。まだ、安心するのは、早いから……」
数年ぶりの全力疾走に、俺は地面に倒れこむまではいかないが、膝に手をついて息を荒く上げる。
こんな状況でもマップ機能は正常に作動するので、チラッと確認した俺は柳瀬さんに注意を伝えた。
俺の注意を聞いた柳瀬さんが剣を構えると、森の上からワイバーンが確認できた。当然、俺のマップ機能の範囲内だ。
大分撒けたみたいだが、数体は諦めずに追いついて来たのだ。だが、このくらいの数なら問題無く対処可能。
空を旋回し、急降下するワイバーンに向かって柳瀬さんが剣を振るう。
「いい加減に諦めてよねッ!!」
「ぐおぉぉ!!!」
すれ違いざまに、ワイバーンの翼の付け根を斬った。
耐え切れずバランスを崩して地面に激突してしまうワイバーン。
柳瀬さんは既に別個体に意識を持っていっている。
俺は息を整えなら、柳瀬さんの剣裁きに見とれてしまう。
綺麗だ。必死になって行動しているにも関わらず、柳瀬さんの姿は美しかった。
この世界に来てステータスが上がったおかげか、元の世界では到底できないであろう動きでワイバーンの攻撃を回避、又は剣で往なしてチャンスを待つ。
ゲームやアニメで見ていた光景がそこにあった。
俺もこんな風に剣を扱いたかった。そう嘆いても仕方がない。
だって俺には運動能力が平均以下だったのだから。
仕方がない。では済ませれない程の嫉妬と羨望感。それでも扱えない物は扱えない。
でも、俺には魔法がある。イメージだけで発動出来るチートじみた能力が。
嫉妬は終了。見とれるのも終わり。
呼吸を整えた俺は柳瀬さんを援護すべくイメージを高めた。




