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60話「野営」

 メリーさんから頼まれた?押し付けられた?Bランク依頼を受付カウンターで正式に受注すると、ギルドを出た。

 一応依頼を受けに来たわけだし、道具等はアイテムボックスがあるので、大丈夫だ。

 と思ったら大間違い。

 俺だけならふらっと街を出発する事が可能なのだが、生憎相方さんの準備が整っていない。

 俺と違って女性は色々と準備をする事があるそうだ。

 まぁ、後持っている魔法袋の容量の問題もあるかも知れないけど。


 とにかく、直ぐに出発する訳にはいかず、俺は柳瀬さんと別れた。

 待ち合わせ場所を決めて別れた俺は、そのまま来た道を戻る形で宿に帰る。

 宿に戻ると、受付に座っているお手伝いの女の子に数日間宿に帰らない事を伝えて引き返す。

 こうすることで、数日間の料金は取られない。

 しかも、帰って来た時に泊まる宿に困らないようにと、ある程度の日数は部屋をキープしてれる。

 隠れ宿でありながらも、数少ないリピーターのお陰で経営が上手くいっているらしい。

 ゲームなどでも宿屋に行って満室で泊まれないって事は無かったからなぁ。

 やっぱりこの世界はゲームなのではないだろうか?

 と時々思ったりする。


 準備をする必要性がない俺は集合場所に向かう。

 アルケーミの出入口である東門前の広場だ。

 適当な場所を見つけて、アイテムボックスから本を取り出して読み始めた。

 待ち時間など、読書に充てればすぐ終わる。

 ただ、この時間がずっと続けばいいと思います。

 などと考えていながら本を読む。



 読書は時間を忘れさせてくれる。

 活字を追い掛けるだけで、頭の中でその場面が再現されて動く。

 その世界だけが一番の癒し。

 だけど、そんな幸せな時間程早く終わる。


「待たせてごめんね」

「いや、それ程待って無いからいよ。それよりも早く出発しようか」


 柳瀬さんがこちらに向かって来るのを、マップ上で見ていた俺は柳瀬さんが到着すると栞を挟んで本を閉じた。

 そのままアイテムボックスにしまい込まずに手に持つと、歩いて街から出る者達が並んでいる列に並ぶ。

 列に並ぶと、再び本を開いて読み始める。

 時間のかかる商人とは別なので、列は滞りなく進んでいく。

 そんなちょっとした時間も読書は辞めない。

 柳瀬さんが何か言いたそうにしているが、それも無視する。

 だって、こう言った時間は何をしたらいいのか分からないから。

 一般人なら連れや仲間と話に花を咲かせるのだろうと思うが、俺にはそんなスキルない。

 なので本を読む。

 何もしないで待つくらいなら本を読んでいた方が時間の有効活用になる。


 平民やただの旅人でも特に取調べを受ける事はない。

 冒険者も、冒険者カードを提示すれば素通りも同然で終わる。

 直ぐに俺と柳瀬さんの番がやって来る。

 今度こそ栞を挟んだ本をアイテムボックスにしまい込むと、冒険者カードを提示して街の外に出ることが出来た。


「えっと、確か情報では………」

「南東にある山奥だよ」

「あ、ありがと。じゃあとりあえず、いつも通りに索敵しながら進もうか」

「うん!今回も頑張ろうね」


 物覚えの悪い俺に、柳瀬さんからワイバーンの巣がある場所を教えて貰うと、いつも通りに歩いて向かう。

 ワイバーンの巣に向かうのは初めてだが、出現場所はモンスター分布図を調べれば載っているし、ギルドでも最新の情報を教えてくれる。

 今回はメリーさんが教えてくれた情報を、柳瀬さんが覚えていてくれていた。

 助かった。

 分布図をアイテムボックスから取り出して調べないといけなかったから、大助かりだ。

 待ち時間の間に調べておけば良かった。


 反省はするが、今は行動に移す。

 街の外に出ると、流石に読書をしながらの移動は出来ない。

 マップがあるのでモンスターから奇襲を受ける事はないと思うが、一応警戒をしながら歩いて行く。

 俺がマップを確認してモンスターの位置を、柳瀬さんが肉眼で認識出来る範囲を。

 役割分担しながら何時の様に移動する。



 これがゲームならば、クエストの途中にエンカウントするモンスターとの戦闘も、経験値稼ぎとして苦もないのだろう。

 が、これは現実世界であり、肉体的精神的疲労が直に現れるのだ。

 ゲームの様に戦闘ばかりではこちらが苦痛だし、時間もない。

 よって、関係無い敵は出来るだけ避けながら移動する。

 と言っても、街の外には道が存在している。

 そこを通ている限り、モンスターにはあまり出くわすことはない。


 時々進行方向に赤点が合ったので、避けながら進むこと三時間。

 柳瀬さんが昼休憩を取りたいと言ったので、昼休憩を少しだけ取りまた進む。

 午後に入ってもやる事は変わらないものの、数回モンスターと戦闘にはいる。

 元の世界での動物が少し進化したようなモンスターや、全くわけのわからないモンスターなどが出てくるが、今更狩りに臆すような事はないのでサクッと終わらせて進む。

 死骸はアイテムボックスがあるので問題ない。

 アルケーミに帰ってから、メリーさんに報告と引き渡しをして報酬をもらえばいい。

 やはり戦闘に時間を取られてしまい、午後は思ったよりも進めなかった。


 日が沈むと、辺りを見渡して野営地に相応しい場所を探す。

 ここでポイントなのは、誰かが野営した後が残っている場所が最適という事だ。

 誰かが使っていたという事は、焚き火が残っており立地もいい場合があるから。

 後が残るという事は、複数回に渡って使われたという事である。

 そういった場所は比較的安全であると保証されているわけだ。

 今回は見つからなかったので、適当な場所を探してそこを野営地にする。


「先ずはテントを出して……」

「いつ見ても凄いよねこれ。物理法則とかどうなっているのかな?」

「知らないし……。異世界に元の世界の常識を求めるだけ無駄。そういうものだ。って慣れるしかないよ」


 俺のアイテムボックスが特性なのか、テントは組み立てられたまま取り出された。

 最後の仕事として、俺と柳瀬さんで手分けして地面に釘を打って固定する。

 次に暇な時に切って置いた木材を取り出して、設置を柳瀬さんに任せた。

 柳瀬さんが焚き火の木を組み立ている間、俺は鍋やお玉、野菜に食べれるモンスターの肉にパンと言った夕飯の道具と材料をアイテムボックスから取り出して、出来る準備をしておく。


「ツカサ君組み立て終わったよ~」

「分かった。『ファイヤー』っとこれでオッケーだな」

「後は鍋に切った野菜を入れる!!任せて!!」


 柳瀬さん組み立てた木材に向かって炎を放つ。

 火力調整をしているので、一瞬で消し炭になるなんて事はなく、普通の火が灯る。

 この辺は魔力を少しだけ使い、炎を着火させるイメージさえあれば簡単に出来た。

 攻撃魔法並みの炎をここで発動するミスなどしない。


 俺が先に取り出して置いた材料を、柳瀬さんが包丁を使ってカット。

 俺がしても問題はないんだけど、日頃剣を使っているせいか、柳瀬さんの方が包丁捌きが上手く手早いからだ。

 適材適所というやつだ。

 俺だって荷物持ちや魔法で火や水を出しているので、全く役に立たないわけではないのだから。


 材料を切り終えて煮込んでいる間、俺と柳瀬さんは明日の予定を話し合う。

 先ず初めに、マップ機能を持っていて現在地を把握出来ている俺からだ。


「明日には、ワイバーンの巣がある地域付近にはたどり着きたい」

「今日は思ったよりも進めなかった?」

「うん、午前中は順調に進んでいたけど、午後が戦闘多めだったから」

「じゃあ最も早く歩く?私は体力あるから大丈夫だよ。でも、それだとツカサが………」

「問題ない。こう見えて体力はあったから………」


 走るのが遅かっただけですよ!!

 昔から走るのだけは圧倒的に遅かったんだよ!!

 文句あるか!!

 と柳瀬さんに言っても仕方ない。

 走るのではなく、あくまで歩くペースを速めるだけなら問題ないと主張して解決。


 スープが煮えたので、話は一旦区切られた。

 よそったスープにパンを浸しながら食べる。

 合間を縫って、話の続きだ。


「で、明日にワイバーンの付近に到着するのが目標なんだね」

「そうなるな。多少暗くなっても移動はしたいと思ってるけど……」


 俺は意見を言って柳瀬さんの反応を見る。

 柳瀬さんは口に入っている物を飲み込むと、少しだけ考えた後答えた。


「暗くなるってどの位?私ならツカサ君が魔法で灯りを灯せるし、マップ機能でモンスターの奇襲を防げるから他の冒険者よりも行動時間は伸びるけど……。私は夜は出来るだけゆっくり休みたいよ?」

「あー………、日が完全に落ちてから何時間も移動はしないよ。俺だって一日中移動するのは勘弁だ」

「良かった……。じゃあ明日の予定は歩く!!以上だね」


 柳瀬さんがそう言って締めると、器に入っていたスープを飲み干した。

 そして、お玉を動かして鍋からスープをよそい始める。

 如何やらお変わりするみたいだ。


 と、柳瀬さんが手を止めた。

 頬を赤らめて俺の方を向いて来る。

 視線に気づいた俺は、マップ機能に行っていた視線を柳瀬さんに向けた。


「…何?」

「えーっと……全部食べてもいいかな?」

「全部食べれるなら、食べたらいいけど……」


 別に俺に聞く必要はないと思うが?

 一応二人分を目安に作っているけど、正確な分量を図っているわけでなはいので、多くなる場合もある。

 俺の食が細いのもあるが、残ったらアイテムボックスに放り込んでおけばいいだけの話。

 アイテムボックスの中は時間劣化が無いテンプレ設定なので、生ものを入れておいても腐らない。

 作り立ての食べ物を入れておけば、旅先でも出来立ての食事が楽しめるというわけだ。

 最も、露店などで買うよりも自分達で作った方が安上がりなので、俺はそちらを選んでいるが。


 柳瀬さんがまだ何か言いたそうだった。


「ほら、ツカサ君はもう要らないのかな~?って思ったの。ツカサ君今日動いて疲れてるでしょ?」

「確かに疲れているけど、歩いただけだから。それを言うなら、柳瀬さんの方が戦闘で俺よりも動いているから食べた方がいいんじゃない?俺は遠くから魔法打っているだけだし、充分食べたから残りはどうぞ」


「むぅ~、普通の男子高校生が食べる量じゃないよ……。それよりも、私が食いしん坊なだけ!?」


 柳瀬さんが最後に何か言っていたが、俺には聞こえなかった。

 俺に小言を言いたそうな顔だったので、聞こえなくて正解だったかのしれない。



 黙って夕飯を片付ける音だけが辺りをこだまする。

 魔法で適度に水を発射させながら、俺は鍋やお皿、お玉に包丁といった物を洗っていく。

 洗剤は無いので、水で漱ぐだけ。

 バブル光線!!的な感じで洗剤が出せないだろうか?

 まぁ、幾ら何でもそれはやりすぎか………。

 イメージが大切と言えど、そこまではできないか。

 と俺は自ら出来ないと思い込んで試さなかった。

 火属性と風属性の混合魔法で、微弱な熱風を起こして水分を乾きとるとアイテムボックスにしまう。


 まだ眠く無いので、本を取り出しで読む。

 焚き火が燃えるパチパチと言う音と、虫が鳴く音。

 元の世界でも山奥に行かないと出来ないBGMだ。

 夜でも自動車の音などが多々聞こえるからな。

 シーンッとした静寂な夜はいい気分になる。

 俺は、この時間が好きだった。

 野営の一番いい所だと思う。





 幾ら時間が経っただろうか?

 正確な時計が無いこの世界では、街に取り付けられた鐘の音だけが時間を知らせる概念となっている。

 異世界らしく、二時間置きになる鐘の音は、鳴り響く回数で時間が分かる仕組みだ。

 とは言え夜は鳴らないし、ここは街中出ないのでそもそも鐘がない。

 が、読み終えたページ数で大体分かる。

 146か………一時間弱だな。


 そろそろ眠くなってきた。

 本から顔を上げて辺りを見渡すと、柳瀬さんの姿が見当たらない。

 マップを最大限まで大きくすると、テントの中に反応があった。


 中を覗くと……寝ていた。

 まぁ、どっちが先に見張りをするかどうかを決めて無かったからな。

 俺が無言で本を読み続けていたんだから、俺が見張りを引き受けたと勘違いしても仕方が無いか。

 スヤァと寝ている柳瀬さんの寝顔を見つめそうになりながら、俺は呟いた。


「これで、最後にするんだよな。……………名残惜しいなんか思うなよ、俺」


 誰にも聞こえないと思って、自分に言い聞かせるように呟いた声に返事はない。

 俺はテントから離れて読書の続きを再開する。


 

 返事の代わりか、寝ているはずの柳瀬さんが寝返りを打ったのを俺は知らない。



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